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アム種_134_060話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:53:35

第六十話 スタンド・プレー



「探査……制圧任務?」



 ミネルバのブリッジに、三人の指揮官が集まっていた。

 艦隊の補給、整備も順調に進んでいたところに舞い込んだ出撃要請について、検討するためである。



「ええ、ロドニアに連合軍のものと思しき研究施設が発見されたのだけれど……アーサー」

「はい。こちらがその航空写真らしいのですが」



 アーサーが差し出した写真に、マリューとバルドフェルドが見入る。



「たしかにこりゃ、単なる研究施設みたいだが……本当に連合の?」

「ええ、らしいわ」

「けれど、なぜ私たちに?」



 マリューの質問はもっともだった。

 ただの研究施設にかまけておける戦力の余裕は、ないはずだ。

 おまけにミネルバもアークエンジェルも艦体を修理中。

 MS隊を先行させようにもこの距離を迅速に行き来できる機体は、インパルス以外整備・補修が終わっていない状況だ。



「さきほど、この施設で爆発が確認されたそうよ」

「爆発……ほう」



 それに、といってタリアは続ける。



「施設に、連合のMSが数機迫っているとの報告があったの。……あの、フリーダムたちの部隊よ」

「あの……!!」



 フリーダム。その言葉にバルドフェルドもマリューも口を噤む。



 あの部隊が、爆発のあった施設に向かっている。

 連合のMSが、連合の研究所へ。とすればその目的は───……、



「なにかの隠滅、処理ってとこか」

「でしょうね」



 つまりは、処理せねばならぬほどのなにかがそこにはあるということ。

 向かっているのがあの部隊であるというところからも、それは示されている。



「しかし、上層部は消極的でして……専門チームの派遣は、とても連中の到着に間に合わず───」

「俺たちにお鉢がまわってきた、ってわけか」



 言われてみれば、まわされてきたのが出撃「要請」である時点で上のやる気のなさが窺える。

 別に、拒否してもいい。「命令」でなくあくまで「要請」。

 上層部は戦力が削がれるのを、嫌っている。



「それで、二人の意見を聞きたいの。ロドニアに向かうべきか、どうか」



 最も近く、最も早く到着することのできるのは自分達。

 あるいは艦載されたインパルスをはじめとする航空戦力だ。

 だがその大半は未だ出撃可能な状況に無い。

 戦力の安定を優先させるか、出撃しその価値が不確かな施設を確保するか。



「ふぅむ」



 タリアは、マリューたちに意見を求めた。艦隊を預かる者として。



 一方、彼らの後方で,交代要員のアビー・ウィンザーと入れ替わりにブリッジを出て行くメイリンの姿があった。







『ステラ、もっとスピードでないのかよっ!!』

『ごめん……アウル……無理……』

『アウル、慌てんな。アビスのスピードよりははやいんだ』



 ジャスティスの胸に位置するコックピットで、ダークは三人のやりとりを耳にしていた。



『ほら、お前ら無駄口叩くな。任務なんだぞ?』

『わかってるよ!!なんでみんなそんなに落ち着いてんだよ!?あそこには母さんが……っ!!』



 そこに指揮官の諌める声が加わるにつけ、ブロックワードが発動してしまったようだと、彼は心中で一人ごちる。

 以前部屋に忍び込んできた、親しくなった少年に対しても、コックピットに座るとひどく冷徹な自分がいる。



 ブロックワード。恐怖心を封じ込めるための、心的なロック。

 技術者たちは自分とタフトには設定していない、必要ないと言っていたが、実際のところどうなのだろう。



 ダークとしては人を実験材料程度にしか見ていないあの連中を信用する気は、毛頭無かったが。



「しかし、妙に馴染むな」



 ジャスティスが、ではない。

 彼の愛機は今までと特に変更点はなく、目的地であるロドニアへと順調に飛行を続けている。

 エクステンデッドの研究所、そこで起こった動乱を処理するために。



 違うのは、むしろ彼自身。彼の身に着けているパイロットスーツだ。



「ディグラーズの旦那は、一体どういうつもりでこいつを持ってきたんだ?」



 白を基調とし、紫のラインが入ったそれは、通常のものより硬質な素材で組まれており、ヘルメットも一目で特注であるとわかるものであった。

 その装着感は、はじめてとは思えぬほど、実に馴染む。



<<……ク>>

「?」



 不意に誰か、聞き覚えのある若い男の声が聞こえたような気がして、顔をあげる。

 しかしそこにはモニターと計器が、当然のごとく並んでいるだけだ。



<<ダー……ク、……ト>>



 二度目の呼びかけは、彼の意識には入らなかった。



(……悪い、シーン)



 入らずとも、彼は己でも知らず知らず、内面の深層において謝っていた。

 自分に呼びかけた今は亡き男の幻影に。







 インパルスの整備、調整は終わっただろうか?

 上陸許可を得たシンは、その確認に向かうべくミネルバの通路を歩いていた。



「──で、例の部隊が向かってきてるんだって」

「?」



 例の部隊?

 聞き覚えのある単語が聞こえてきて、レクルームの前にさしかかったところで足を止める。



「なんでも、ロドニアに研究施設があるとかで──」



 話しているのは食事を終えたばかりだろうメイリンで,聞き手はジェナスとニルギースだ。



 だが、聞いてしまったシンにとってそのようなこと、どうでもよかった。



「MSだけで、破壊しに向かってるとか───……」



 奴らが、動いている。



 ルナに大怪我を負わせ。



 ハイネを殺し。



 自分にトダカを殺させた、あの連中が。

 そのことしか、耳に入らない。



「おー、シン。インパルスの調整、注文どおり終わったぜー?」

「っておい?シン!?」



 通路の向こうから曲がってきたヨウランたちの言葉を聞くと同時に、シンは弾かれたように飛び出していた。



 二人を押しのけ、突き当りへ。見えてきたタラップを降り、ひたすらに駆ける。

 向かう先は、まだ基地内ドックにあるであろう愛機のところ。



 すべきことは、決まっている。

 やつらは、倒す。

 なにがなんでも、この手で。



 息も切れるかというところで、インパルスのあるドックが見えてくる。

 ロドニア、そこに奴らがのこのことやってくるのだ。

 この機を逃す手はない。







 基地内と停泊するミネルバ艦隊の二艦に、警報が鳴り響く。

 一瞬、ブリッジがざわつき。

 慌てて確認作業をはじめる通信のバートにタリアは問いただした。



「何事?」

「は…少々、お待ちを……は!?なんだって!?」

「「「?」」」



 タリア、マリュー、バルドフェルド。

 三人とも彼の狼狽ぶりに首を傾げる。

 だがしかし、通信機のヘッドフォンを置いた彼の発した言葉に一同の顔色は急変する。



「シンが……インパルスで無断出撃を……基地ドックから」

「なんですって!?」



 モニターに、艦のカメラに捉えられた映像が映る。

 確かにそこには、ジェット噴射の煙をたなびかせて飛翔するフォースインパルスと、二機のシルエットフライヤーの後姿があった。



「基地の部隊に、攻撃はしないように言って!!あれでは……!!」

「はっ」

「……あいつ、まさか」



 即座に指示を出すタリアの横で、バルドフェルドが厳しい顔をインパルスへと向けていた。



「バルドフェルド隊長?」

「……あいつのあの方向……例のロドニアの方向だ」

「「!?」」



 二人の女艦長が、驚愕に顔を凍らせる。

 彼女達二人とも、このところシンの様子がおかしかったことはクルーたちから聞いている。



「まさか」

「シンのやつ、一人でやつらと戦う気かもしれんぞ」

「そんな、無茶です!!」



 マリューが叫ぶ。バルドフェルドは彼女の肩を叩いて頷いた。

 同時に、バートがインパルスのコンピューターがミネルバのデータベースから、

 先程更新されたばかりのロドニア近辺の地図データがダウンロードされた旨報告する。



 もう、間違いない。彼の目的地は決まった。



「ああ、無茶だ。……グラディス艦長」

「ええ」

「どっちみち、出撃するしかなさそうだ。それも大急ぎで、な」



 悠長なことはしていられない。

 シンを連れ戻すか、ともにあの部隊を迎撃するか。

 どちらにせよ。



「うちの部隊の馬鹿息子を、叱ってやらにゃな?」



 言われるよりもはやく、タリアの腕は艦内放送の通話機を、掴み上げていた。


 
 

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