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アム種_134_063話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:54:37

第六十三話 フル・ウエポン



 やられた、と思った。

 ハイネの仇もとれず、トダカの復讐もできず。



 圧倒的な力の前に、死を覚悟した。



 その時、声が聞えた。

 血染めで朦朧とした意識の中にも、はっきりと。

 聞き覚えのある少女の声が、聞き違えようのないほど、耳の奥底を貫いていった。



『ダメえええぇぇっ!!シン撃っちゃ、ダメっ!!』

「───え」



 一瞬、自分の耳が信じられなかった。

 けれど、それは確かに、間違いなく。



『シン、逃げる!!ステラ、シン守る!!』

「ステ……ラ……?」



 自分が、守ると約束した少女の声。

 殆どが死んだコックピットの計器が辛うじて拾った、敵機からの最大音量での叫び。



「うそ……だ、ろ……」



 黒い機体が、紫の機体を遮り立ちはだかっている。



 ステラが、あの機体のパイロット。

 ガイアの、強奪犯。

 幾度となく殺しあった相手だったなんて。



 大量の出血に消えゆく意識は、その事実を認めようとはしなかった。

 だが、このような極限状態だからこそ、より深く刻み込まれてしまう。



 ステラが、敵だった。

 あのか弱い少女が、敵。

 守るべき存在は、殺しあう相手。



「ステ…………」



 嘘だと、言ってくれ。

 叫びたくても、声なんてもう出やしなかった。



 守るべき者と敵の逆転。その残酷な現実に、シンは絶望を抱きながら、真っ暗な意識の深層へと埋没していった。



 その黒い色は、血の色にも似て、ほんのり赤みを帯びていた。







『おいおい、嬢ちゃん一体、どういうつもりだ?』



 ダーク、だっただろうか。野太い男の声が尋ねてきた。



「ステラ、シン守る。死ぬのはダメ、シン殺して、死ぬのダメ」

『ああん?……おいおい、そいつは敵、なんだぜっ!!』

「っ!!」



 返事が、気に食わなかったのだろう。紫色の機体はビームライフルを一発、発射し、ガイアの右肩へと直撃する。



 避けるわけにはいかない。後ろには、シンを乗せた半壊状態の機体がその機能を停止しているのだから。

 ステラは耐える。



『そこをどきな。あと一発ぶちこみゃ終わるんだから』

「いやっ!!」

『おい、ステラ!!何をやって……』



 ネオが言い終わる前に、今度は右膝に一撃。

 片膝をつくガイアに、それでも彼女は盾を構えさせ続ける。



『ダークのおっさん!!待ってくれ!!ステラは、あいつは……!!』



 スティングも、シンのことに気付いたらしい。

 だがガイアのだらりと垂れ下がっていた右腕が、ビームによって完全にふっとぶ。

 コックピットの計器にスパークが走り、小さな爆発と衝撃にステラは身をすくめた。



『もう一度言うぜ。さっさとどきな。敵をかばうなんざ、裏切り者のすることだ』

『D!!ステラ!!よせ!!俺たちの任務は……』

『ザフトぶっつぶすことだろうが、最終的には。裏切り者も同じだ』



 二門のビームキャノンを受け、シールドが爆散する。

 頭部へと、ビームライフルが撃ち込まれる。



 あっという間に、インパルス同様ガイアが無力化される。

 それでもステラは退かなかった。



『さあ、どきな』

「やだっ!!ステラ、シン守る!!守らなきゃ死ぬの!!死ぬはダメ!!」

『ステラっ!!』

『……てめえ』



 ネオの声に、はじめてステラは従わなかった。

 死ぬのは嫌、死ぬのは怖い。

 シンが死ぬのは、ダメ。



『ステラ、よせ!!おっさんも!!これには事情があって……』

『お前ら、俺たちの任務はだなァ……』



 スティングのカオスが降りてきて、ダークをなだめるように言う。

 ネオも、なんとかステラから彼の矛先を外そうとしているのがわかる。



 今のステラは、彼らの説得のおかげで生かされているようなものだ。

 シンも。



『くくっ……反応、反応ッ!!敵!!敵!!戦艦戦艦戦艦んーっ!!』



 揉める彼らを静観するように、じっと滞空していたフリーダムから歓喜のごとき叫びがあがる。



 同時に、ステラを含む他のパイロットたちも表情を一変させる。



『戦闘!!戦闘撃つぞ撃つぞ撃つぞあおおおおおおおんんっ!!!!!』



 スクラップと化した、インパルスを目指し。

 また、ロドニアの彼らが目前に見据える研究施設を目指し。

 白亜とダークグレー、二色の戦艦、旧敵たる艦隊が、近づいていた。



 結果的にその遭遇戦ともいえる状況が、シンとステラの命をこの場において救ったのだった。







『ジェナスたちはシンの救助!!急げよ!!』

『了解』

『レイは俺と一緒に基地の確保を最優先だ。いいな』

『はっ』



 バルドフェルドの指示を聞きながら、キラは機体を立ち上げていく。



『キラ、アスラン。お前らは少々きついかもしれんが……あ───』

「フリーダムとジャスティス。あの二機を施設に近づけないように」

『そうだ。頼むぞ』

「はい。アスランも」

『ああ……やつらは俺たちで』



 ノワールの機体がアームに持ち上げられ、カタパルトへと移動していく。

 だがしかし、その装備は、普段のそれとはいささか異なるものとなっていた。

 どこか、見慣れた者が見れば違和感がある。そんな感じだ。



「うん、やろう。アスラン」

『ああ』



 肩の鋭角的な突起状のパーツが、取り外されているのだ。それだけで大分イメージが変わる。



「……シン」



 待っていてくれ。

 思う彼を乗せたストライクノワールが発進位置へと就き、左右のハッチが開いて装備すべき武装がせり出してくる。



 本来装着されるべきパーツを外された両肩に装備されるのは、それぞれ右はモスグリーンの重機関銃、左は水色のビームブーメラン。

 左腕に、アンカー兼用の小型盾。後ろ腰には、慣れ親しんだ形状の57mm高エネルギービームライフルがマウント。



 そして、右手にはMSの身の丈ほどはあろうかという、対艦刀を。

 左手には、強大な火力を持つ超射程のビーム砲、アグニをしっかりと保持する。



 もちろん、機体の機動力と戦闘力の要たる、ノワールストライカーパックが背中にはある。



「フリーダム。昔の僕……」



 蘇った幻影。

 それは、自らの手で倒さなくては。

 同じように、アスランもセイバーのコックピット内で思っていることだろう。



 かつて、キラが使用した事のあるストライクの武装のほぼ全てが、そこにあった。

 己の過ちを体現するあの機体。その幻影を、拭い去るために。



「キラ・ヤマト。ストライクノワール・フルストライカー。いきます!!」



 黒ではなく。

 純白に染まった機体が、空に舞った。


 
 

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