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アム種_134_069話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:56:47

第六十九話 ロゴス



 そこは元々、「国」であった。



 その名前は、「スカンジナビア王国」といった。



 連合側に付きながらも、プラントと細いながらもパイプを持つ、数少ない国であった。



 だが今。

 そこには廃墟しかない。

 街であった場所は、瓦礫の山。累々とした死体の群れ。

 国防に配備されていたMSたちの残骸に埋め尽くされている。



 その中心に、巨大な山の如き、二つの機影があった。



 黒と、白。



 それらは、ここが「国」であった名残りすら、焼き払っていく。

 周囲を飛び交う、一つ目の悪魔たちが禿鷹のように焼き尽くされた大地へと群がっていった。







-ザフト軍・ジブラルタル基地-



『勇猛にして優秀な指揮官であった彼を喪ったのは、我々にとって大きな痛手であった──……』



 大きく、広い基地の敷地内に急造で設けられた斎場に、基地司令の演説が響き渡る。



───ロドニアの研究施設における制圧戦にて戦死した、アンドリュー・バルドフェルドの葬儀。



 彼が死を遂げてから、早くも4日が経っていた。

 敵・味方双方に名前の知れている彼の死は、ザフト上層部にも重く見られ、軍をあげてのこの祭祀を行うことへと相成ったのである。



 彼の死による兵達の士気低下を、派手な演出による戦意高揚式典を利用することで

食い止めようという狙いがそこにはあった。



『しかし!!我々は氏という尊い犠牲を無駄にしてはならん!!』



 そこには、アークエンジェル、ミネルバ両艦からの参列者も多く。



 彼と最も親しかった者の一人であるマリュー・ラミアスは、ある意味では死者をも利用する節操のない行為を打診された際、断らなかった。

 彼ならば、そうするだろう。

 非情に徹して、自分の死さえも役立てようとするだろう。そう思っていたから。



 思っていたからこそ、この葬儀にも参加したのであったが。



 タリアに付き添われ、献花台に花を供えた直後。

 彼女は、泣き崩れた。



 彼女にとって、近しい男を喪うのは、三度目のことであった。







「申し訳ありません、バルドフェルド隊長の葬儀にも参加できず」



 ブリーフケースを置いたレイは、そう言って握手を求めてきた。



「いや。帰還命令なら仕方ないだろう。向こうでも元気でな」

「……はい。しかしなにもこんな時に……」



 プラントからの帰還命令を受けた彼を、アスランは労った。彼の自室を訪ねて。

 無論、彼がいなくなれば艦隊の台所事情はより一層苦しいのはわかっている。



 ハイネに続き、バルドフェルドも喪い。

 ルナマリアとシンが重傷──マルマラ海基地に二人は残してきたが──、未だシンは目覚めないそうだ。

 機体もインパルス、セイバーが大破、ノワールは中破だが、関節部が酷使されすぎとても戦える状態ではない。

 五体満足なのはアムドライバーたちと、アスラン、キラ。

 使えるMSはバルドフェルドの遺したムラサメが一機。



 それを知っているから、レイはすまなそうな顔を向けてくる。

 ならばこちらも何も言わず送り出してやるのが礼儀だと、アスランは思う。



「補給を受けられるそうですが、生半可な機体では──……」

「レイ」

「──はい」

「大丈夫だ。なんとかなるさ」



 だから気にせず、行ってこい。

 こういうのは苦手であったが、精一杯気さくに、彼の胸を小突く。

 バルドフェルドがいない今、こういった役目も自分には求められるのだ。



「……はい」



 レイが頷き、床に置いたブリーフケースに手を伸ばす。



「それと、ジェナスの仲間だったか?回収された二人の敵パイロットだが……」

「はい。プラントの設備の整った病院に───……」



 と、突如。

 彼がブリーフケースを持ち上げた瞬間、電源の落とされていた部屋のモニターに突如灯りが灯る。



「?」

「これは……ギル?」

「ラクスも……これは、なんだ?」







 バルドフェルドさんを、救えなかった。

 シャシャが敵として、自分の前に現れた。

 生きながら機械の一部にされた子供たちを、殺してしまった。



 自分は、だれも助けることができなかった。



「……なんだ、これは?」



 その自責の念に苛まれていたジェナスもまた、突如としてモニターに映された、一組の男女の映像に見入っていた。



『私は、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです』



 長髪の男は、簡単に自己紹介を済ませると本題に移る。



『本日、一つの国が国民ごと喪われたのを、地球の皆さんはご存知でしょうか?』

「!?」

『その国の名は、スカンジナビア王国!!戦争の早期終結に向け動いていた彼の国を、

 地球連合は裏切りだと、連合の敵だとして抹殺したのです!!罪なき人々とともに!!』



 映像が、焼き尽くされる街のものへと変わる。



 その中心に立つ、白と黒の巨大な機体が放つビームの豪雨はあまりにも残虐な暴力であった。



「ひどい……」

『こんなことが本当に、ナチュラルの皆さんの望みなのですか?連合の誇りある兵たちの、すべきことなのでしょうか!!ブルーコスモスに煽動され、なにかを間違ってはいないでしょうか!!』



 デュランダルの演説が、熱を帯びてくる。



『では、ブルーコスモスが悪いのか?否!!彼らはそれだけでは単なる過激な思想集団でしかありません。ならば、何故このようなことを兵たちにさせ得るだけの力を持っているのか?』

「……?」



 おや、と思った。

 なにか、方向が奇妙なことになっている、と思った。



『それは今、彼らを援助し、政治を動かし!!戦争を誘発する勢力があるからです!!』



 デュランダルの拳が、机を叩く。



『全て、己の欲望、利益のために!!その勢力の名は───……「ロゴス」!!』



──ロゴス?あのとき、議長の言っていた?



 だが、やはり妙だ。

 議長は、焦っているようにすら見える。



『彼らがいる限り、ブルーコスモスはなくならず!!ブルーコスモスがいる限り、

 我々コーディネーターと心あるナチュラルの方々は触れ合うことが出来ません!!よって!!』



 それは、嘘だ。そのくらいはジェナスにもわかった。

 ブルーコスモスは思想、先程デュランダルも言っていたではないか。

 どんな手を使おうと、一度生まれた思想が消えることはない。



『私はここに、連合内のブルーコスモス勢力及び、ロゴス!!彼らを打ち倒し滅ぼすことを、ここに宣言します!!』



 デュランダルの叫びに、世界の要人と目される人々の顔写真の数々が重なる。



 その直前にジェナスが目を向けたラクス・クラインの顔は、どこか、優れない表情を浮かべているように見えた。



 彼のもった感想は、けっして間違ってはいなかった。


 
 

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