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アム種_134_077話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:59:38

第七十七話 ベルリン・デイ



「フラガ少佐……あなたはっ!!」



 アスランの脳裏で、種が弾ける。

 彼はやり場のない憤りと、理不尽に身を焦がしながらも機体を駆っていた。



「あなたは、アークエンジェルに……ラミアス艦長の前に立ってはならない人なんだ!!」



 ビームライフルが、撃ち抜かれる。

 いや。撃ち抜かせた。肩の装甲が吹き飛ぶが、気にもしない。



 こちらはバルドフェルドの専用機として徹底したチューンのなされたムラサメだ。

 ただ色を変えただけのウインダム、しかも腕がいいとはいえナチュラルの乗る機体に、負けはしない。

 無論、ドラグーンやガンバレルでも装備していたなら話は別だろうが。



「俺達の前から……立ち去ってください!!」



 変形し、ミサイルを発射。

 一基は相手のビームの射線上に、もう一基を片翼へと浴びせて。



 煙を吹いて体勢を崩すウインダムのバックパックを切り裂き、飛行を不可能にする。

 仕上げとばかりにサーベルを投げ、ライフルを保持した右腕を潰した。



「あなたには、バルドフェルド隊長を撃って欲しくなかった」



 墜落していくマゼンタ色の機体を、アスランは苦々しげに見下ろした。



「頼む……シン。あとは……」







 聞えるはずのない声が、聞えた。



『ステラ!!俺だ!!聞えるだろ!?俺、シン・アスカだよ!!ステラ!!』



 怖かった。



「死ぬ」「殺される」、その恐怖をどうにかして消してしまいたくて。

 怯えきった心のまま、ステラはただ無我夢中でデストロイを動かしていたというのに。



 その声だけで、怯えが嘘のように和らいでいく。

 この忘れもしない声は、やさしい。怖くない声だ。



「シ……ン……?」

『そうだよ、ステラ!!俺だよ!!』



 自分の口から出た彼の名前が、何故だか暖かい気持ちにさせてくれる。

 二枚の翼から柔らかな光を輝かせている機体。そこに、シンがいる。



『迎えに、来たんだ』



 彼女の暴れるような操縦が止まったことで砲撃が止み、その機体も巨大な剣をその背へと収納する。



『死ぬのが怖くないやつなんて、いないよ。きみだけじゃない。ステラ』

「シン……?」

『当たり前なんだ、戦争をやってようと。コーディネーターだろうと、人間なら誰だって』



 滞空するMSのコックピットハッチが開く。

 そこには、シート後ろに収まる赤毛の少女と、包帯を巻いたシンがいた。



「シン!!」

『聞くんだ。君も、みんなと同じ人間なんだ、だから』



 デストロイに両腕が戻っていき、白い機体も突然のことに二機の様子を見守る。

 漆黒とブルー、二機のMSは、徐々にその距離を縮めていく。

 鮮やかな、ミラージュコロイドの噴射とともに。



『だから、そんな君が、みんなに「死」を与えちゃいけない』



───誰よりも死のことを怖がるきみが。同じように死を恐れる人たちに。



『そんなことする必要ないんだ。君は、俺が』



 そして、二機は遂に目と鼻の先の距離までやってくる。

 もうモニターを拡大せずとも、彼の顔ははっきりと見えていた。



『俺が、守るから』







 黒い機体──デストロイが、脱力したように両手をだらりと下げた。



「よくもまー、そんな恥かしい台詞吐けるわね、あんた」



 安堵するシンへと、シートの後ろから、ルナが言った。



「そう、かな?」

「そーよ。聞いてるこっちが恥かしくなるくらい!!」



 何故だか、ルナの調子は怒っているようであった。

 でも逆に、どこか嬉しそうでもある。



「で?あんたにとってあのコ……ステラだっけ?なんなの?」

「ルナ……」

「今説明しろとは言わないけど、あとできちっと説明しなさいよ。みんなにも」

「ああ」



 彼女の気遣いに感謝しながら、シンはミネルバへと回線を開く。

 メイリンが出るかと思ったが、応対に出たのは、呆れた表情のタリアであった。



 後ろのルナマリアともども、一瞬どきりとする。



「艦長」

『まったく……無断出撃とは、いただけないわね?』

「……はい。処分は覚悟してます」

『ルナマリアもね?』

「はい。無茶は承知でしたが……」



 ルナマリアを巻き込んでしまったことには、シンもすまなく思う。

 自分の無茶に付き合ってくれた彼女に、申し訳ない。



 これが自分一人なら、喜んで懲罰だろうとなんだろうと受けるのだが。



『それで?あの機体は無力化できたのね?』

「え?ぁっ、はい。それは。もうあの機体に敵対の意志はありません」

『……そう。なら早く終わらせなさいな』

「はっ?」



───終わらせる?



『さっさと終わらせて帰ってきなさい。それまでにどんな処分にするか考えておくわ』

「あ、ちょ、艦長?」

『“機体は”破壊するのよ。いいわね』



 通信回線は、一方的に切れた。

 シンとルナマリアは、タリアのどこかひっかかる言い回しに顔を見合わせる。



 そしてそこに含まれる意を理解し、表情を輝かせていく。

 二人は頷き合い、デスティニーをデストロイへと接触させた。

 

 刹那、ミサイルの雨がデストロイの機体へと降り注いだのだった。







「あれは!?ザフトが!?」



 背面のウイングでバイザーバグを両断したジェナスは、異変に気付いた。



 センサーに反応する、友軍の識別コード。

 後詰めで到着したザフトのバクゥ部隊が、活動を停止した黒い機体へと

 一方的にミサイルの雨を浴びせている。



「やめろっ!!もう、意味なんてないはずだ!!」

『正式に停戦しているわけではない!!いつまたこの化け物が街を焼くとも……』

「戦う意志がないのが、見てわかんないのかよっ!!」



 ジェナスには、シンとステラのやりとりが聞えていたわけではない。

 聞えていたのはシンの声だけだ。だがそれでも、シンの説得のおかげであのMAが破壊活動をやめたというのはわかる。



 だが、街を壊滅させられて逆上した彼らには、それが見えていない。



 こいつらは、シンのやったことを無駄にする気か。

 憤る彼のもとに、装備を終えた戦友が舞い戻る。



「ジェナ!!行け!!」

「ラグ!!」



 脚部を覆っていたパーツが分離し、ラグナの駆るホバーバイクへと合体する。

 ジェナスのほうも、バイザーを変形させた。



「ここは俺が……引き受けるゼェッ!!」



 大型のマシンガンにチャージングチューブが伸びる。

 可変した銃に、更にハンドガンをセットする。

 装甲さえもが、ひとつの銃を形成していく。



 エネルギーが充填された巨大な合体銃──マルチジョイントガンが、

 指揮官を失ってなお未だ抵抗をやめぬバイザーバグたちに向けられる。



「ラグ、そいつらは……!!」

「わーってるよ!!でも俺達が来たせいなら、こいつらのことは俺達が責任とるのが筋ってもんダローが!!いけ、ジェナ!!」

「……たのむ!!」



 ビークルモードのライトバイザーを、発進させる。

 シンの苦労を、水泡とさせはしない。



「よっし!!チャージ完了!!Allons-y!!」



 火を噴いた銃口が、次々とバイザーバグたちを砕き、貫いていった。


 
 

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