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アム種_134_079話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 16:00:17

第七十九話 変革のはじまり



「……ててっ。くそ、ステラまでやられたか?」



 半壊した機体から這い出す男の顔は、傷だらけだった。



「ザフトの連中、すぐわんさかくるんだろうナァ?ったく」



 無論それらの傷は、この撃墜によって受けたものではない。

 男の顔に残るそれらは、もっと以前から彼の皮膚に存在し、彼が彼であることを証明しているもの。



 勝ち馬には、逃げられたか。男はひとりごちる。



「!?」



 ジャリ、という地面を踏む音に男は金髪を靡かせて振り返り、拳銃を向ける。



「っと。そいつを下ろしてはもらえませんかね」



 両手をあげたのは、トレンチコートに身を包んだ一人の男。

 見も知らぬ男のいうことなど、聞く気はない。

 銃をつきつけたまま問い質す。



「何者だ」

「なぁに。別にとって食おうってわけじゃないさ。地球連合軍『ファントムペイン』、ネオ・ロアノーク大佐」



 こちらの名を知っている。ネオは更に、男への警戒を強める。



「俺ァ、あんたをスカウトにきたんですよ」

「何?」

「既に、あんたの部下──エクステンデッドの連中や、あの白い化け物は確保してある」



 アウルたちが?

 拳銃を持つ手に、力が篭った。こいつは一体、何者なのだ。



「俺の名はヘルベルト。あんたの力、貸しちゃくれませんかね?ロアノーク大佐。いや」

「?」

「ムウ・ラ・フラガ少佐」







 デュランダルの声が、人で埋め尽くされた会見場に響く。

 カメラのフラッシュがあちこちからたかれ、数多くの報道陣が彼の言葉を記事にすべくメモを取り、録音していくのがわかる。



「ご覧下さい、この光景を」



 彼の背後には、巨大な電光掲示板。

 そこに映るのは、ベルリンの出来事、そして爆発に消えていくロゴスメンバーたちの住居。

 二つの異なる光景が、交互に上映されていく。



「我々は、忘れてはなりません!!ロゴスのやったことを!!そして、彼らがいなくなった今、誰もが彼らと同じく、私利に、自分の弱さに負ければ第二第三のロゴスとなりえんことを!!」



 熱を帯びていく彼の演説。だが対照的に、彼の心は叫び訴えるほどに冷え切っていって。



(……タリア。見ていたら私を嗤ってくれ)



 これから、心にもないことを宣言せねばならぬ私を。

 きみとの別れが教えてくれた、空虚な計画を実行せねばならぬ私を。



「私達はつい先年にも大きな戦争を経験しました。愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しはたしかに、一つには先にも申し上げたとおり、間違いなくロゴスの存在があったからこそ。再び彼らを生み出してはならない」



 彼は、これから自分の発表する計画が無意味であると、身を以って知っていた。

 子が成せぬ、遺伝子が適合せぬ。ただそれだけで、愛する者との別離を余儀なくされたその経験によって。



「我等自身の無知と欲望。それがあるが故、人は求める。ロゴスとなる危険性をもつ。

 ですがそれももう終わりにする時が来ました。克服するときが!!

 なぜなら全ての答えは、皆が自身の中に既に、持っているのですから!!」



 そう。答えは、否。このようなものが、うまく行くはずもない。

 できるとしたら神のように、全ての人類をひとつにまとめることができる者だけだろう。

 わかっていながら、彼は演説をやめるわけにはいかなかった。



「私は人類存亡を賭けた最後の防衛策としてデスティニープランの導入実行を、宣言いたします!!」







 砂浜など望むべくもない、無機質な軍港ではあったけれど。



 空は晴れ、海は穏やかに凪ぎ。

 二人の男女の鼻腔に、潮の匂いを届けてくれる。



「きれい……」



 車椅子に乗った少女は、ぽつりと呟いた。

 肩に置かれた少年の手に触れながら。



「……ああ。きれいな海だな、ステラ」



 入院着の彼女の隣には、赤い軍服の少年がいた。

 海は、大好きだ。そして、シンのこともステラは大好きだった。



「……シン?」



 ステラは、彼の手が微かに震えているのに気付く。

 顔を向けると、何故だかシンは今にも泣きそうな表情だった。



「悲しい、の?」

「……あ。い、いや」



 どうしてだろう。

 ステラは、こんなに嬉しいのに。

 海がきれいで、シンがいて。



 なのに、どうしてシンはこんな顔をしているのだろう。







「んじゃ、宇宙にあがるの?俺達」



 缶ジュース片手に、ヴィーノが言った。



 レクルームには、ヨウラン。

 ジェナスをはじめとするアムドライバーチーム、それにMSのパイロットたちが集まっている。



「近いうちにはそうなるだろうな。ロゴスがいなくなってから連合は瓦解しつつあるからな」



 アスランが、頷いた。



 正確には、連合の結んだ、安全保障条約機構が、である。

 ロゴスの存在発表から殆ど間を置かずして脱退を表明したオーブをはじめ、彼らの壊滅の報が伝わるにつれ、各国もまた恐れるものはないとばかりにそれに続いた。

 そもそもの同盟提案国である大西洋連邦までもが大統領の名において破棄を発表したほどだ。



「でも……それじゃシン、あの子と……」



 あの様々なことの起こったベルリンの日から、一週間以上が経とうとしていた。

 ようやく傷も治りつつあり退院したシンは、ベルリンで助け出したあの子のところに、ちょくちょく通っている。



「あとは月に終結しつつある連合……ブルーコスモス派くらいだからね、警戒が必要なのは主に」



 ルナマリアの背中をぽんと叩き、キラも言葉をつづけた。



「んでそこに、デュ……ナントカ議長のナントカプランってわけか」

「デュランダル議長の」

「デスティニープランだ」



 あの日以来ミネルバに居候することになったラグナが、缶を口にくわえたまま呟く。

 セラとニルギースが、彼のいい加減な言葉につっこみを入れた。



「……そのデスティニープランだが、妙だとは思わないか」

「え?」



 空き缶をゴミかごに捨て、アスランが一同に問う。

 妙、とは?



「先日の説明によれば、遺伝子による職業適性判断を行い適職に就ける、一種の管理型社会だということだったな?」



 その言葉は、この中で唯一ブリッジクルーのメイリンに向けられたものだ。

 彼女はその時丁度当直で、デュランダルの放送を録音していた。



「は、はい。もっとオブラートに包んだ言い回しでしたけど、大体は」

「……それが、おかしいんだ」



 彼が、管理型社会を目指そうということが。



「ロゴスが裏から手を引いていたのも、一種の管理型社会になるだろう。彼はそれを嫌っていた」

「……あっ」

「それに、だ。議長はジェナス達の世界のことを聞いているだろう?

 ならば権力者によって管理された社会が長くは続かないということも、既に知っているはずだ」



 そのような彼が目指す施策とは、到底思えない。

 まして、地球圏全体に導入できるとはとても。

 彼が元は遺伝子工学者であったとしても。



「そうね。アスランの想像は多分、正しいわ」

「グラディス艦長?」



 話を聞いていたのだろうか。

 タリアとマリューが、レクルームへと入ってくる。

 とはいっても入り口のところで壁に背を預けて、淡々と語るだけだが。



「艦長は、なにかご存知なんですか?」

「ええ。これでもあの人とは、長い付き合いでね」



 腕組みして、苦笑する。



「あの計画───デスティニー・プランも以前、彼から聞いたわ」



 タリアの横に立つマリューも、バルドフェルドを失った直後よりは

 顔に色が戻ってきているようだった。彼女もまた、タリアの話に耳を傾ける。



「そしてそれが、欠陥品だってこともね。……だからありえないのよ。彼があのプランを導入しようなんて」

「艦長……」



 完璧主義者の部分があれで、意外にあるのよ。

 懐かしそうに、タリアは天を見上げる。



「でもそれはそれ。私達は軍人よ。任務に従うしかない」

「あ、次の任務、きたんですか?」



 自分が席を空けている間に、ということで気になるのであろう。通信士のメイリンがいの一番に声をあげる。



「……ええ。『ミネルバ、アークエンジェルの両艦は宇宙へあがり友軍と合流せよ』だそうよ」

「やっぱり、宇宙か……」

「それで、ジェナス」

「はい?」



 唐突に自分の名を呼ばれ、身を強張らせる。

 タリアは問う。



「あなたたちは、どうするの?セラも、ニルギースも。そこの彼……」

「ラグナでっす!!」

「ラグナも」



 どうする、と言われても。

 当然自分たちもついていくものだとばかり思っていたジェナスは、返答に困る。



「あなたたちは本来、もとの世界に帰る手がかりと、仲間を探すためにこの艦隊で地球をまわっていた。

 けれどこれから先、戦場はなにもない宇宙よ。どうするかはあなたたちで決めなさい」



 宇宙。

 そう言われて、ジェナスの思考は一瞬、ぴたりと止まった。

 ブルーコスモス……あの部隊の残党がいるというのなら、ディグラーズもそこにいる。

 奴をこのまま放置しておくわけにはいかない。もう自分たちはこの戦争の部外者ではないのだ。



(……それに)



 シャシャもおそらく、そこにいる。

 あのウインダムの指揮官に連れて行かれた以上は。

 パフたちとは、またあとで合流できる。なら。



「いきま───」

「か、かかかか艦長!!大変です!!」



 わずかな時間で決意は決まった。

 しかし彼の言葉を遮り、副長のアーサーが転がり込んできて。



「どうしたの、アーサー」

「大変なんです!!プラントに行ったレイが……」

「レイが?」



 どもりながら彼の言った一言が、その場の空気を変えた。



「レイが、デュランダル議長をしゃ、射殺、い、いや、暗殺したと!!」



 レクルームに設置されていたテレビは、流していた穏やかな熱帯魚の映像から切り替わり。

 兵士達に連行される金髪の少年を移す、緊急報道へと変化した。


 
 

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