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クルーゼ生存_第04話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:10:05

 作戦開始日が近づくにつれて、元々感情の起伏が激しいシン・アスカが怒りっぽくなっ
ているのは、彼の周囲の人には容易に見て取れた。ミネルバにはザフトアカデミー時代か
ら彼と親しい者が5人いて、非番の時間に各部署で話されることなど、情報交換していた。
彼らはみな、シンが前大戦の連合軍によるオーブ攻撃で家族を失ったのを知っていた。プ
ラント生まれの彼らにも、シンがオーブの理念のために家族を失ったことは分かっていた。
そしてそのオーブは、大戦の最後にテロリストと組んで参戦した。結果戦争の終結は早く
なったと政治学者たちは考えているが、テロは許される行為ではない。結果、オーブは連
合に圧力をかけられれば拒否できない立場に落ちぶれた。
 シンだけでなく、大戦で家族を失いプラントに移住したコーディネーター達は、連合と
同盟を組むなら、なぜあのとき強情を張ってオーブ国民の財産たるマスドライバーまで破
壊して、為政者たちは自決したのかと憤怒の思いを込めて呪った。オーブという国はアス
ハの玩具でしかなかったと、厭世観に浸るものもいる。しかし若いシンは、理想を掲げる
母国を麗しいものと思って育ったし、その分裏切られたショックも強い。
 新任の隊長アレッシィから、「キミはオーブの出身だが、今回、オーブを含めた連合軍
と海戦することになるが、未練はないかね? 戦場での感傷はキミを殺すものだ」と問わ
れたが、「自分はザフト軍人として、命令に従い連合軍と戦う所存です」とシンは答えた。
「ふむ。ではミネルバがオーブ艦隊と直接交戦するとしても、キミはその気持ちを持ち続
けられるかね? オーブで同級生だった友人が、その艦に乗っているかもしれないが」
 サングラス越しに冷たい眼差しが向けられた。
 正直、シンはそこまで考えていなかった。
「……オーブは敵国です。オレは、自分は軍人として、任務に従い、敵国と戦います」
 シンの一人称が乱れたのを、アレッシィは記憶に留めた。ギルバートが気にする「要観
察者」シン・アスカ、アカデミーでの成績は秀でているし、とりあえず初陣も生き残った。
ただ兵士として化けるかはいかに最新鋭機のインパルスが与えられていようと、これから
の戦い次第だ。感情の起伏が激しいのは、初対面で見て取れた。この気性の激しさが戦場
で吉と出るか、またギルバート御執心のSEED因子がどういう働きをするのか、楽しみであった。

 
 

 レクルームでヨウランとケントがディスクを見ているところに、シンとレイがやったき
た。画面に映し出されているのは、黒髪の少女が激しく踊り歌う姿だった。ミーア・キャ
ンベル、今プラントで一番人気のアイドルである。
「たまんねーなー、な、そう思うだろ、シン」
「ブスじゃん。そりゃ、グラマーだとは思うけど」
 缶コーヒーを買いながら答える。
「このアグリキュートなミーアの魅力がわからんとは、不幸な奴。レイはどう思う?」
「歌の音程があっていない」
 冷ややかな声で切り捨てた。
「……そりゃ、オペラ歌手とかじゃなくて、所詮アイドルだから。ラクス・クラインだっ
てこの程度の歌だったしさあ」
 ミーアと比べたら、以下にテロリストとはいえラクスのほうがずっと可愛いと思ったシ
ンだが、これは口に出さなかった。コーディネーターはほとんどが容姿をいじられており、
ナチュラルから見ると標準以上の見た目の持ち主があらかたである。ここにいる四人の少
年にしても、地球の町を歩けば、女の子達が振り向く美少年揃いだ。そういうプラントで
育つと、不細工な遺伝子をそのまま残しているというのは、十分な個性になる。ミーア・
キャンベルの「アグリキュート」人気の裏には、そういう事情があった。
「なに、ミーア・キャンベル? まったくあんたたちは、ちょっと胸がおっきい女の子だ
からって」
 つかつかとルナマリア、そのあとを控えめにメイリンが入ってくる。
 この六人でこうして喋るのも、海戦が終わるまではお預けだなあとシンがセンチメンタ
ルな気分になったとき、
「あの、アレッシィ隊長って、絶対にハードゲイよ。制服改造して、腕の筋肉見せ付けて、
気持ち悪いったりゃないわ」
「……ルナ、お前のスカートだって」
 シンは呟いた。
「私は好きでミニはいてるんだから、いいじゃない」
「それなら隊長も同じだし」
「とにかく、シンとレイは襲われないように気をつけなさい。あの人と二人っきりで更衣
室やシャワールームに入らないように」
 確信したように、ルナマリアが指示する。
「シフトの関係で、そのシチュエーションは避けられない。あまり勝手な思い入れで喋る
な、ルナマリア」
 レイはアレッシィ隊長に微妙な思いを抱いているが、それは誰にも相談できるような生
易しいものではなかった。
「いま、艦長や隊長たちは基地本部の会議に出てるわ。連合軍の陣容もわかってきたし、
こちらの作戦も決定するんだって」
 メイリンが真面目なことをいう。
「隊長と艦長は同じ白服で、隊長はフェイスだよな。俺たち、いざというとき、どっちの
命令聞けばいいんだ?」
「MS隊のオレたち三人は隊長に従うのが筋だろう。命令系統が混乱するような乱戦になら
ないことを祈ろう」
 このあとは自由時間が終わるまで、たわいもないおしゃべりを続けた。

 
 

「何なんだよ! この数は!!」
 連合のモビルスーツを打ち落としながら、シンが一人ごちる。
 『圧倒的な物量』というものを実感する。カーペンタリア基地を守るために扇形に展開
するザフト艦隊、それを押し包む勢いの連合軍艦隊。
 作戦会議で全モビルスーツの指揮をアレッシィ隊長がとることになり、シンたちは少し
驚いた。しかし彼が一晩で、稼動可能なザフトMS全ての配置と戦況による配置変更のパタ
ーンをコンピュータに入力して指示をだしたのには舌を巻いた。いくら暗号化通信してい
ては、敵に傍受される可能性が高い。戦闘中の通信は少なければ少ないほど、暗号解読の
可能性は下がる。
 シンのインパルスに任された任務は、敵中央からくるモビルスーツの撃破という単純だ
が大変なものだった。だが、最新鋭機のインパルスのパイロットである以上、まだ新米兵
士であっても、エースとして戦えということだ。
 ブラストインパルスで敵機を撃ち落す。シンたち空中の包囲網を潜り抜けた運のいいMS
は、艦上で待ち構えるルナマリアたちの標的となる。元々宇宙戦を得意とするザフトであ
る。ユニウス条約でのMS数保有制限もあり、大気圏飛行型のバビはまだ数が足りなかった。
 そして海中では水中用MSによる鬩ぎ合いが行われ、時折大きな水柱が立つ。ミネルバの
ような宇宙船が本業の船にとって、敵の水中用MSに取り付かれることは死を意味する。だ
がザフトの最新鋭艦として、前面に出て勝利を収めないことには、グラディス艦長への風
聞、議長と寝て船を手に入れた女、が消えることもない。
 強奪されたセカンドシリーズのアビスが海中からビームを発射し、水による減衰がある
とはいえ、空中のディンを落とす。レイのセイバーは連合のウインダムをあしらいながら、
カオスと互角に戦っているようだった。
 戦況が膠着状態に陥ったころ、連邦の空母から巨大な、そして醜い形のモビルアーマー
が発進した。データはない。新型だ。
「インパルス、シン・アスカ。あのモビルアーマーを仕留めろ」
 簡潔な命令がアレッシィ隊長の白銀のバビから流れた。
 その間にもMAは強力な火力でザフトのモビルスーツ隊に損害を与えていく。これは搭乗
者が一人ではないと、ザフトの誰にも判断がついた。操縦者、砲手、昔の戦車をモビルア
ーマー化したものといえよう。
 シンが放ったビームには直撃もあったが、ダメージを与えたようには思えない。
「なんて装甲だっ」
「ミネルバ、タンホイザー起動。目標敵モビルアーマー、射線からモビルスーツは離脱」
 グラディス艦長の声。大気圏内で陽電子砲?シンは己の耳を疑った。今戦っている海で
すらブレイク・ザ・ワールドの津波の影響で茶色いというのに、さらに放射線を撒き散らす
と?
 ただシンにしても、自分の命が大事だ。インパルスが被爆からは守ってくれるが、あの
モビルアーマーに接近していては自分の身が危ない。
 ミネルバの誇る主砲、タンホイザーが発射された。
 敵モビルアーマーに直撃、したが、それだけだった。
「陽電子リフレクター?」
 戦場のザフト兵全てがまじまじと鍵爪の生えたモビルアーマーを見詰める。
 常識的に考えて、地上兵器に必要な機能だとは思えないが、連合はつけてきた。一機だ
け投入されているからには、まだ試作機であろう。ここでザフトに対してこのMAが多大な
戦果を上げれば量産化、そして宇宙の戦線にばら撒かれることになる。
 近距離に迫って集中的に砲撃したものの、インパルスの足を鋏に取られた。
 舌打ちするシン。このままパワーの差で引きちぎられるかも知れない。それに、パワー
ゲージが下がっている。
 片足は捨てることに決めた。
「しまった」
 そう思ったら、頭の中が急にクリアになって、視界がモニター越しでなく、360度見
えているような感覚に襲われた。
 バーニアをふかしてレッグを捨てる。
「ミネルバ、レッグとソードシルエットを。あとデュートリオンビーム!!」
 シンの声にメイリンから承諾の返事があった。
 エネルギーを補給し、インパルスの換装システムを使って、シンは新たな武器を手に入
れた。そしてエクスカリバーを抜くと、連合の巨大モビルアーマーに突進する。今は相手
の動きがスローモーションのように見えた。ざっくりと、真ん中からMAを切り裂く。
 そしてその最期を見届ける暇も惜しいとばかり、前進してきていた連合軍艦隊に襲い掛
かった。対艦刀を二本使い、ブリッジを、機関部を攻撃していく。
 バーサーカーと化したインパルスを、ニノ・ディ・アレッシィは興味深げに見守りつつ、
戦場の片隅に感じる、因縁ある敵パイロットの存在を気にかけ、更に焦ってタンホイザー
を発射したグラディス艦長にどんないやみを言ってやろうかと考えていた。

 
 

 タケミカズチ所属のキラ・ヤマト三尉はムラサメで敵機と交戦中であった。できるだけ
人を殺したくないという気持ちは昔と変わらず、ザフト機の武装を狙って戦闘能力を奪い、
海に落とす戦法だ。
 コクピットを狙ったほうが効率がいいのはわかっている。でも、志願しておいて言うの
もなんだが、やはり人殺しは好きになれなかった。
「このぉ、ムラサメの反応速度がフリーダム並みなら」
 呟きながら、ディンと戦うキラである。フリーダムであれば、今頃オーブ艦隊に向かっ
てくるザフトMSは全て叩き落していた自信はある。だがいくらコーディネーター用のOSを
入れたとはいえムラサメでは、一機一機確実に倒していくより方法はない。
 そこに後退信号が入った。戦場全てを把握しきれていないキラだったが、命令に従おう
とタケミカズチに戻りかけたところを、ディンとバビ5機に囲まれてしまった。なんとか
防戦しているところに、「ヤマト三尉、援護する」とヤマモト二尉の声。
 二機で交戦したが、キラは自分の戦法を変えなかった。そしてそれを見抜いたザフト機
がヤマモト機に集中攻撃をかけたのは、戦術上当たり前のことであった。ビームとレール
ガンで蜂の巣にされ落ちていくヤマモト機。それを見て、キラのSEEDが割れた。
「ヤマモト二尉ーーーー!!!」
 叫びながら、キラはザフト機の手足を全てビームサーベルで切り落とし、海に没させた。

 
 

「4時間後に夜間戦闘を仕掛け、連合軍をこの海域から敗走させる。パイロット三名、ま
ず生き残ったことを褒めておこう。食事を取って仮眠のあと、乗機で待機すること。それ
まで解散」
 ミネルバに戻ったシン、レイ、ルナマリアの三人にアレッシィが告げる。夜間戦闘、こ
れは宇宙で訓練をつんでいる分、ザフト兵に分がある。
 敬礼の後立ち去ろうとする三人、しかし隊長がパイロットルームに残るのを感じて、レ
イが言った。
「隊長は休息は取られないのですか?」
「私には私の仕事がある。敵艦隊とザフト艦隊の勢力関係が変わってきたので、シミュレ
ーションと指示を出しなおす。乗機に乗ったら必ず新しい命令を読んでから行動に移るよ
うに」
「はい!」
 三人は声をそろえて答えた。
 隣の更衣室に入るまでの間、「隊長ってすごい人じゃない、ね、そう思うでしょ」ルナ
マリアがつい先日までの暴言をすっかり忘れて興奮して言う。
「うん、冷静で有能だよな」
「きょうのシンもすごかったわよ。インパルスがあのモビルアーマーを撃破してから、ザ
フトは敵艦隊に直接攻撃をかけられるようになったんだから」
「確かに、膠着状態を打ち破ったのはシンだな」
 同僚二人に褒められて、シンは少し頬を染めた。
「なんかさあ、いきなり、全てが見えたっていうか、敵の動きが手に取るように分かった
し、遅くみえたんだ。で、自分がインパルスを動かしてるっていうより、インパルスの部
品になった感じだったかなあ。よくわかんないけど、オレ、普通じゃなかった」
「戦場で強くなれるなら、いいことだ」
 レイが言ったところで、更衣室の前だった。

 

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