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クルーゼ生存_第09話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:13:12

「なかなか勝手なことを押し付けてくれるな、議長様は」
 アレッシィは自室でメールを読みながら呟く。議長直属の特務隊フェイス所属の彼に、
司令部を通さず議長から直接命令が来るのはおかしなことではない。暗号技術ではコーデ
ィネーターがナチュラルの上を行っているので、まず暗号メールが解読されることはない
し、暗号自体、毎日変更されていた。
 ミネルバの乗組員は修理と補給が終わり次第、宇宙に戻るものと思っている。実際ミネ
ルバは一応地球でも使える宇宙戦艦であり、海では喫水下に武器を持たぬので、魚雷や水
中用モビルスーツの攻撃に弱いのだ。
 しかしデュランダル議長の指令は違った。可愛い子には旅をさせよということか、最新
鋭艦ミネルバであれば、地球で連合の戦力を減らすのに使えるということか。とにかく指
令は「カーペンタリア基地からジブラルタル基地へ向かい、スエズ攻防戦に参加せよ」と
いうことだった。また先日の戦闘のことはアレッシィから密な報告を送っておいたので、
それについては、「要観察者の日常および戦闘時の感情を更に細かく報告してほしい」と
いうことだった。それにくわえて、あるパイロットをミネルバに配属するかもしれないと。
「あいつは私を保育士だとでも思っているのか。しかし、もしそうなったら艦長は不愉快
な思いをするだろうな」
 そして次の画面に見入る。ザフト情報部に依頼して入手した、先日の海戦でアレッシィ
の神経を逆撫でした、紫色のウィンダムに乗った男の情報だった。
『ネオ・ノアローク大佐、C.E.40.3.23,大西洋連合ロス・アンゼルス市生まれ』
 育成暦、写真の数々。子供のころから色の変わらない金髪と青い目、長身の逞しい骨格、
整った顔。母親は映画スターを夢見て映画の都ハリウッドに出てきて、娼婦に身を落とし
たという女だった。ただ女優業にはそうそうに見切りをつけて高級娼婦になり、ネオとい
う私生児を一人生み、今は高級売買春斡旋でハリウッドの夜の世界の大物と呼ばれる存在
だという。
「アル・ダ・フラガはこの私生児の存在を見逃していたのか? 士官学校の成績を見る限
り、ムウ・ラ・フラガよりできはよさそうだが」
 ブルーコスモス直下の部隊と言われる、第81独立機甲師団通称ファントムペインの隊
長。先日のアーモリーワンを強襲してザフトのセカンドシリーズのモビルスーツ三機を強
奪した時の指揮をとったとされる。
 情報戦ではザフトが一歩先んじているはずだった。連合軍にブルーコスモス主義者が多
いとはいえ、金のためなら情報を売る輩はいくらでもいる。対してザフトは、連合に負け
るイコール自分たちコーディネーターの滅亡と考えるものがほとんどなので、金で情報を
漏らす人間は滅多にいない。そして前カナーバ議長が戦後処理の一環として、ザフト、議
会、官僚にはびこっていたラクス・クラインのテロリズム支持者たちを一掃したので、情
報漏洩の可能性は低くなった。
 しかし人間世界を構成しているのは地球とプラント、いくつかの自由都市だけではない。
怪しい盲目の宗教家と組んで、宇宙を我が物顔に飛び回るジャンク屋組合という連中がい
る。彼らは戦争で出たジャンクだけでなく、情報をも金に買えて売り買いする。そして、
彼らは戦争がおればあるだけ潤うのだ。
「まあいい、考え、駒を動かすのはギルバートの仕事だ。この男と遊ぶ機会が早くくれば
いい。ゆっくりと時間をかけて嬲り殺してやりたいものだ」
 彼は喉の奥で猫のような笑い声を立てた。
$br

 

 自由時間、シンとレイは部屋で連合軍が流したアスラン・ザラの戦闘の様子を見ていた。
アスラン・ザラの機体が前大戦で彼が使用したイージスの改良版であるのは見て取れたの
で、二人の間では「イージス改」という名前で呼んでいた。
 ザフトのモビルスーツ隊を僚機のウィンダム二機に任せ、MA形態を取って、戦艦の射線
を潜り抜けながら、更に変形し、スキュラといわれる複列位相エネルギー砲で艦橋を撃ち
抜く。そして巡洋艦の甲板上で砲台役を務めているグーン二機に対しては、モビルスーツ
形態でビームサーベルで仕留めていた。そしてまたスキュラで艦橋を射抜く。その頃には
二機のウインダムは踊るような連携を見せて、五機のディンを葬っていた。
「二年前のイージスより、ずいぶん機動性や火力があがっているんだろうな」
「イージスの戦闘データは自爆のため、ザフトにも完全な形では残らなかったが、連合は
それを手に入れたのか、それとも対戦時のデータをもとにヴァージョンアップしたのか。」
 レイは考えてから、さらに口を開いた。
「この二隻に乗っていた乗組員たち、画像を見ると、艦橋がやられたあと救命ボートを出
しているが、カーペンタリアに帰還したものはいない」
「……救命ボートをイージス改とウィンダム二機で沈めたってことか?」
「おそらくな」
 シンはつい声を荒げた。
「それって、国際法違反じゃないか。いくら敵の軍人でも救命ボートを襲ったら、虐殺だ
ろ」
「アスラン・ザラはブルーコスモス思想に染まって、連合軍入りしたのではないかと、前
に言ったろう。それなら生き残ったザフトの兵士を虐殺してもおかしなことではない」
 シンは地球育ちなので、ブルーコスモスのことはそれなりに知っていた。オーブでの活
動は自然保護だったようだが、両親からブルーコスモスと関係のある自然保護区には、た
とえコーディネーターの友人家族とでも行ってはいけないと教えられて育った。オーブに
もコーディネーターへの差別は有形無形にあったが、ブルーコスモスに捕まれば殺される。
実際、ひどいリンチを受けて殺されるコーディネーターが年に何人かいた。そしてニュー
スになるころには、犯人は大西洋連邦に向かう飛行機の中なのだと、コーディネーターの
間では言われていた。
「連合軍のブルーコスモス部隊ってことか」
「そう考えるのが妥当だろう。アスラン・ザラはザフト有数といわれたパイロット能力を、
同胞たるコーディネーターを殺すために使うと決めた、ということだ」
「ブルーコスモスがコーディネーターを全滅させたら、最後は猟犬の自分が始末されると
か、考えないんだろうか」
「そこまで含めてのブルーコスモス思想盲信だろう。ザフトのエリートからテロリスト、
次はブルーコスモスとはな。節操も理念もない行動だが、本人は真面目なつもりなのだろう」
「そんな奴、俺がインパルスでぶっ殺してやる」
 アスラン・ザラ少尉が目を覚ましたのは、エリア81の医務室のベッドの上だった。
「目を覚ましたかね。体は打撲で、骨折はしとらん。ここの連中はコーディネーターの痛
めつけ方には長けているからな」
 60がらみの白衣の医者だった。
「申し訳ありません。コーディネーターの分際で医務室のベッドを使わせていただくなど、
本当にありがとうございました」
 基地に戻って、祝砲だといわれてたくさんの連中に殴られた。顔はあまり殴られなかっ
たので、喋るのに不便はないが、体のほうはコーディネーターの強靭な肉体でなければ、
内臓破裂で死んでいただろう。
「まあ、気にせず動けるようになるまで寝ていなさい」
「本当にありがとうございます、ドクター」
「私はナチュラルだが、元コーディネーターの作成を手がけていた遺伝学者でもあるので、
コーディネーターの世話も見ることが出来る。君の遺伝子配列もすでに解読済みだ。私に
仮病は利かないので、そのつもりで」
「了解しました、ドクター」
 こういってアスランは、またとろとろとした眠りに落ちた。
 目が覚めたときには、もう耳慣れたスティーブンとタニスの声がした。
「御気分はいかが? 祝砲はけっこう利いたみたいね」
 こう言うタニスは、目の周りに大きなあざを作っている。
「その、あざ……」
「ああ、見えるところに祝砲を浴びせたがる人もいるのよ。コンタクトがずれちゃうから、
もう少し別のところにしてほしいんだけど」
 そういう問題じゃなくて、女性の顔に--と思ったが、アスランは口を閉じた。その考
えは昔のアスラン・ザラの考えだ。連合軍のアスラン・ザラ少尉は、タニス・ヴァーチャー
少尉の意見に同意すべきだと。
「お前さんも、個性的な髪型になったじゃないか」
 スティーブンに言われて、あわてて頭に手をやる。長めだった髪が、適当に鋏を入れら
れたのかざんぎり頭になっていた。
「あなたのナチュラルじゃない髪を切ってくれる人がいたなんて、感謝なさい」
「あ、ああ」
 不恰好だろうが、穢れたコーディネーターの頭に手を掛け、髪を切ってくれたナチュラ
ルに感謝しなければ。アスランは髪をなでながら、やっとファントムペインの一員として
認められたのだという感慨にひたった。

 

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