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クルーゼ生存_第31話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:32:40

 シンはガイアと海岸で取っ組み合っていた。間合いを取るとガイアはモビルアーマーに
形態を変えてしまう。そうなるとガイアのスピードとインパルスの飛行能力の勝負になり、
タイミング次第で市街地を敵の射程に入れてしまう可能性が出る。
(最初から相手がガイアだとわかっていれば、ソードシルエットにしたものを)
 とはいえ今は換装している時間の余裕がない。ビームサーベルで戦っているが、相手パ
イロットよりシンの方が、剣を使う腕は上のようだ。戦っているうちに大きく崖が突き出
た岩場まで来た。先日、ステラと出会った場所だ。そう思ったシンに、一瞬隙ができた。
ガイアは四足に変形し、背中の火力をインパルスに向けてくる。
 何とか飛び上がって避けたが、ビームは岩場を破壊し、シンとステラが短い時を過ごし
た洞窟がふさがれた。
「この野郎ォ!!」
 大切な思い出の地を壊されて、シンは怒った。
 ガイアはそんなことには関係なく、背中のブレードを広げ、勢いをつけて飛び掛ってく
る。あのブレードに刃が付いていることを、シンは知っていた。インパルスの腰をかがめ
てビームサーベルを突き上げ、ガイアのスピードを逆に利用してブレードを切断した。
 そしてまた、街を背にサーベルを構える。飛び掛ってはまた同じことになるとガイアの
パイロットも考えたのか、少し様子見という雰囲気だ。
 シンは自分から打ってかかってガイアを撃破することも考えたが、とにかくインパルス
が抜かれれば、街までなんの防衛のための武器もないので、少し頭を冷やして判断した。
牽制を続けようと。
 そうしたら、いきなりカオスが飛んできた。
(まずい! 2対1じゃ)
 舌打ちしたが、カオスはガイアを抱えるとそのまま飛び去った。
(撤退、したのか、敵は?)
 ずっとガイアとディオキアの町のことしか考えていなかったので、戦況を見る余裕はな
かった。
 敵の艦隊は順次回頭をはじめていた。
 そしてシンにとってショックなのは、ディオキアの街の何箇所かから煙が上がっている
ことであった。ガイアは防げたけれども、艦艇からの流れ弾を防ぐことはできなかったと
いう現実。できるだけ死者が少ないといい、そして家族と死に別れた子供がいなければい
いと己の無力さを噛み締めながら、シンは祈った。

 
 

 ミネルバに帰還したシンは、
「ルナマリア、メイリンが倒れて医務室に運ばれたって」
 というヴィーノの声にびっくりした。戻ってくる時に見たミネルバには、新しい故障箇
所はなかったのに。
「えっ!? ホント?」
「マジだよ」
「失礼します、隊長」
 ルナマリアはザフトでなければ許されないだろう無礼さでアレッシィに声だけかけると、
エレベーターに向かって走り出していた。
「メイリン、だいじょうぶかな。それよりイザークは?」
 虫の好かない奴だが、なぜ彼のザクがないのか気にかかる。
 レイが落ち着いた声で答えた。
「戦死した」
「? だって、ミネルバもルナマリアも無傷なのに、どうしてイザークだけ」
「事情はわからんが、イザークは命令違反を犯してグゥルに乗って空戦に出て、カオスに
撃墜された」
 淡々と自分の知っていることだけを、レイは語る。
 シンは驚いて何も言えなかった。
 そこに伝令からメモを受け取ったアレッシィ隊長から声がかかり、二人は彼の前で敬礼
した。
「敵艦隊は引き上げた。二人は三時間休憩ののち、通常業務に戻るように。それから、残
念なニュースだ。連合軍はディオキアだけでなく、ガルナハンの火力プラントにも攻撃を
しかけ、地元レジスタンスから奪還した。そしてガルナハンの街を破壊したということだ」
「そ、そんな!? 嘘ですよね、隊長。嘘だと言ってください!」
 半日しか一緒にいなかったが、自分たちの街と自由、財産を守るために戦っていた誇り
高いレジスタンスたち。コニールはまだ子供だ。それに羊の丸焼きを振舞ってもらった時
に広場にいた子供たち、彼らがいま、砲撃を受け瓦礫の下に埋もれているというのか。
「マハムール基地からの情報だ。大西洋連邦のテレビ局のニュースで流すだろう。『コー
ディネーターと組んで地球軍に抵抗した街を制圧した』と」
 いつもと変わらぬ隊長の冷静で皮肉まじりの声、シンは希望を打ち砕かれて、床を叩き
ながら涙を流した。

 
 

「報告書は読ませてもらった。今のところ、エターナルは順調といって差し支えない、と
いうことだね」
 念を押すように、デュランダルはクレオパトラ・イッサリオティスに言った。報告書は
メールでもらっていたが、たまには直接会って、顔をつき合わせて話すことが大事だと、
彼は考えている。心理学の専門家の彼女は、彼の表情から沢山の情報を読み取って行くだ
ろう。
「はい。艦の人間関係、運用と戦果、満足のいく結果です。ただ彼らは『選ばれた』メン
バーですから、デスティニープランをプラント全体、ひいては人類世界全体に敷衍するに
は、ほんの小さな箱庭の実験例に過ぎません。人間には、他人より楽をしていい暮らしを
したがる傾向があり、実際5%ほどはそれを実行できる悪知恵があるのですから」
「蜂や蟻なら、さぼる個体はいても、食料が回ってくれば満足するのだがね。古の神話に
ある知恵の実を食べたことが、人間の不幸かもしれない。ただ、このままでは人類は滅び
る。ナチュラルとコーディネーターの戦いに終止符を打って、戦争のない世界を作らない
と。君に数字の話をするのは野暮だが、前大戦、プラントが使ったニュートロンジャマー
の影響で約5億人が死んだ。今度のユニウス7落下では今のところ3億人。天候不順によ
る飢饉や、粉塵による地球寒冷化を考えると、よほど上手く人類社会が運営されて、食料
とエネルギーの配分が行われなければ、死者は更に増える。プラント人には地球のナチュ
ラルが何億人死のうが、それは彼らがユニウス7に核攻撃を仕掛けたからだと主張する者
が多い。しかしプラントの食料自給率は32%。残りは莫大なエネルギーを使って地球から
輸入しているというのに」
 イッサリオティスは大きな黒い目を、ゆっくり瞬いた。
「その代償として、プラントは工業製品を地球に輸出しています。今は戦争で自国兵器の
ために工場はフル回転しています。しかし戦争が終わって、旧プラント理事国との関係が
正常化して輸出の再開がない限り、大洋州や南アメリカとの貿易だけでは、発展は望めま
せん」
 デュランダルは首肯した。
「プラント、工場という名を持ち、労働人口の50%が工場労働者のこの国で、貿易相手を
殲滅しようという思想が絶えないのは困ったものだ」
「匿名――といっても、皆信じていないでしょうけど――のアンケートでは、地球のナチ
ュラルの絶滅を望む国民が10%います。本音は、もっと上になるでしょう」
「そしてアーモリーワンの襲撃事件の手引きをした者たちは、ブルーコスモス思想の影響
を受けていた。彼らが嵌った理由は、コンプレックスだ」
「労働者の国で、学者が賢人政治を行うのが理想とされていることが、まず間違っていま
すからね」
「おいおい、ではわたしは議長失格だ。……でも、君が正しい。ナチュラルより優れた能
力を持って生まれてきたコーディネーターだが、その能力もナチュラルと一緒でこそ引き
立つ。プラントでは誰もが博士号を持っている。しかし、その個々の能力と宇宙の鉱物資
源があって、この工業立国はなりたっている。研究職に就く学者から議員を選ぶコンピュ
ータのプログラムが、間違っているのだよ」
「でも議長はそれを正そうとしておられる」
 彼女は確かめるようにゆっくり口にした。
「正さなければならない、だよ、クレオパトラ。このプラントにはびこるエリート主義を
叩き壊さなければ、我々に未来はない」
「しかしミネルバで運用予定のモビルスーツ二機は、最初からパイロットを想定して設計
されていますね。それはエリート主義ではないのですか?」
「ミネルバは、君も乗員名簿や履歴を見ただろうが、エターナルとは別の実験艦なんだよ。
ある意味、人間の可能性の限界に挑む実験、かな」
 デュランダルの口元がほころぶ。セカンドシリーズのパイロット二名は、彼じきじきの
指名なのだ。そして今また彼らに与えられる最新型の核動力モビルスーツが建造中だ。
「いくら議長が優秀でも、二つの実験を戦場の実地で行うのは、観察力の分散になりかね
ませんね
「だからエターナルには君が、ミネルバには別の人物が付いていてくれる」
 ニノ・ディ・アレッシィというフェイスのことだろう。クレオパトラは話題を戻した。
「プラントでは誰もがエリートになりたがる、自分の子供をエリートにしたがりますから
ね。自分が優秀な遺伝子を持っていると信じている人ばかりで」
「だから、優秀な遺伝子は勉強ができること、運動ができることだけではないと認めさせ
なければならない。多くの遺伝子が影響しあって、向いている職業をいくつか選び出し、
親がそれを理解して子供を育てる世界が必要だ。大体プラントでは、職業によってたいし
て収入が変わるわけではない。私の給料と工場長の給料が同じ程度だ」
 デュランダルは遠い目を天井に向けた。
「私はコーディネーター二世として生まれ非常に頭がよくて、博士号をとったのは14歳だ
った。そして遺伝子研究のメッカだったメンデルに研究職を得た時は、天にも昇る気持ち
だったよ。しかしあそこは――人体実験に何の抵抗も持たない人間でないと、やってはい
けない場所だった。最初はあった倫理観に歯止めが利かなくなる。人間とは弱いものだと、
あそこで学んだ」
「ならば、最初のコーディネーター、ジョージ・グレンを作り出した科学者たちは、一体
どれだけの受精卵を、胎児を犠牲にしたのでしょうね」
「先ほどの古い神話の言葉で言うなら、原罪をコーディネーターはナチュラルより多く負
っているということだ」
「第二世代コーディネーターは子供が非常にできにくく、そして人口の供給源だった地球
ではコーディネートが禁止されている。この人間世界の辺境に住む、偏屈なコーディネー
ター達も、戦争が終われば、自分たちの足場が崩れかけていることに気付くのでしょうね」

 

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