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クルーゼ生存_第48話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:57:03

『ヘヴンズベースの連合軍の諸君、われわれザフトザフトとロゴス討伐同盟軍の最高司令
官として、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、貴基への攻撃の意図を
明らかにするとともに、8時間の攻撃猶予を与えることを宣言する。貴軍が無駄に血を流
さず、和平への道を選んでくれることを切に願う』

 
 

 ミネルバの艦橋で宣言を発したギルバートは、まあ、形式だがねといった。
「どうもこちらの作戦を上回るものをあちらは持っている気がしてならん。降下部隊に気
をつけととしかいえんが」
 アレッシィが議長の耳元で囁く。こういうやりとりとみるのはグラディス艦長にとって
不愉快だった。
「君のカンが外れた事はない。だから司令官を受けてくれなかったのかね?」
「そうかもしれんし、うちのモビルスーツ隊の働きが雌雄を決するような気がしたのも事
実だ」
 珍しくアレッシィが殊勝なことを言う。
「ハイネは作戦上君の下に?」
「いや、彼の仕事は君を守ることが最優先だから、うちのフォーメーションに入れない、
遊軍扱いだ」
 それはアレッシィがデュランダルの選んだフェイスに最大限の敬意を払っているという
ことに等しい。
 待ちの体制に入ったザフト軍と違い、ヘヴンズベースではロゴスの幹部を中心に話し合
いが行われていた。
「このヘヴンズベースを落とすのはあの戦力では不可能。宇宙での戦いは、核ミサイルの
誤射によって、プラント壊滅ということに」
 上品そうな老人が恐ろしいことを口にする。
「そうですね、そして、青く美しい地球を守るために、研究機関としての宇宙コロニーを
作って、ノアの箱舟のように生命のプールを作らなければ」
 ジブリールはいっそう柔らかく、猫の毛をなでた。
「で、デュランダルの回答期限まで待ってやるのかね?」
「いいえ、私は紳士ですが、それはナチュラルに対してだけです。汚らわしいコーディ
ネーターと約束などする気はありません。ニーベルングにエネルギー注入開始、めどが立っ
たら、ミサイル攻撃開始だ、よいな、司令官」
「はっ」
 この基地の最高司令官が立ったままジブリールの横で敬礼した。彼はロゴスとつながり
のない、珍しい高級士官だったが、自分たち軍人は将軍と呼ばれる地位になっても、命令
に動かされる兵だ。しかしこういう命令は、出来ればコープランド大統領から受けたかっ
た。

 
 

「やあ、タニス。食事、一緒にどうだい」
「ありがとう、アスラン」
 柔らかく微笑むタニスは、ふっくらとして女性らしく、より美しくなったと思う。いま
はアスランが上官ということになっているので、誘いやすい。彼はみかけによらず不器用
なメカオタクで、人と付き合おうと思ったときには相手を亡くしてしまったこともあった。
 彼はもともと端正な顔立ちだったし、今は男性ホルモンが減少したおかげで、丸坊主さ
えなければ女と見まごう美形である。
 目立って美しい二人は、ナチュラルの配膳係に大きく頭を下げて感謝を示し、「サンキ
ューヴェリィマッチ、サー!」とよく響く美しい声で唱和した。
 食堂の隅が彼らの定席になっている。
 汚らわしいコーディネーターの座った席に座りたいと思うナチュラルは、ここにはいな
い。
「今度の作戦、僕たちの部隊も参加することになったそうだ」
「それは素晴らしいわ。私たち二人は機体もパワーアップしたし、十分に働ける。大佐が
落とされてから、どこか寂しげな部隊にも活気が戻ってくる」
 その通りだった。ネオ・ロアノーク隊長はまめに部下に姿を見せるタイプではなかった
が、この第81機甲師団を象徴する男だったと、アスランは思う。何よりあの完璧な男ぶ
りと頭脳、厳しいがそのまま放置することはしない優しさもあり、熱狂的に支持されてい
た。アスランは、最上級の遺伝子を持つナチュラルとはああいうものかと思ったことがあ
る。なるほど彼なら遺伝子改造の必要を認めないだろうと。
 その大佐に心酔している代理指揮官のエルドリッジ少佐は、タニスの憧れの的である。
彼女いわく、少佐にはナチュラルの美しさがすべて詰まっているという。漆黒の皮膚は大
地との一体感を、張り出した長頭と小さすぎるくらいの顔は人間の縦横比の限界を、大き
な目と横に張り出した鼻、分厚い唇は自然によるデフォルメだし、きつい体臭は人間が雑
食動物であるしるしだという。彼女のプロポーションが素晴らしいのは、アスランも完全
に同意するところだったが、それ以外のところは理解しかねた。素晴らしい金髪と青い目
を隠している彼女が、少佐は自分より美女だと思っていると知ったときは、おもわずカト
ラリーを取り落としてしまったほどだ。
 アスランは宇宙生まれ宇宙育ちだから、狭い宇宙船で作業するのに体臭の強い人間は向
かない、だからジョージ・グレンは白人の見掛けを持ちながら腋臭ではなかったと聞いて
いた。基本的に宇宙用の人類として作られたコーディネーターだから、それは当たり前だ
し、月にもプラントにも肌の黒い人は少数派だった。いても他人種との混血を感じさせる
髪や目の色をしていて、エルドリッジ少佐が、アスランが始めて目の当たりにした純血種
の黒人だった。コーディネーターとまったく違う価値観に基づく美しさにタニスが惹かれ
るのはわかるし、どうにも自分には受け入れられないのも理解できた。以前好きな女性の
タイプをタニスに聞かれたとき、『うーん、白い肌、目は青がいいな・・・・・・ピンクの髪』
ここでビンタガ飛んできた。『あなたとの友情にかけて、このことは口外しない。でも私
はあなたが許せないわ。あなたはまだ、いまだにプラントのお坊ちゃんなのよ』
 あれから時間がたったが、今度の作戦であのデストロイを破ったモビルスーツを倒すこ
とができれば、ザフトの英雄アスラン・ザラと決別できるように思うのだった。
 そのための出撃の時間が迫ってきている。

 
 

「あと五時間か。連合が降伏勧告に応じるなんてありえない。また多くの命が・・・・・・」
 カガリがつぶやいた。彼女の夫が応えて言う。
「ただここで勝った方が膠着した宇宙も押さえるだろうね」
「連合は敗北したとしても有利な講和条約を結べるだろうが、プラントは、独立をうばわ
れてしまうのか」
 前対戦でオーブも独立のともし火が消えかかったことがあった。それは彼らの親の世代
――富めるオーブを作った者たち――の働きで、種火は保管され、連合の同盟国という名
の属国であっても自主独立は保っている。
「連合はプラントの独立自体認めていない。東アジアは手を引いた感じだし、ヨーロッパ
は実質的にプラントを認めた。プラント理事国は一国になり、連合は生き残ったコーディ
ネーターを奴隷のようにこき使って、宇宙開発、兵器開発をして、宇宙から自分たちに従
わない国に制裁を与えるシステムでも作るのかな」
「プラントの市民の人権はどうなる!?」
 カガリは思わず叫んだ。
「ナチュラルとは区別された人権が与えられるんじゃないのかな」
「差別を区別と言い換えるな!」
「そこは政治的配慮。あれだけのオーブ国民の血を流して、今回の出兵は免れたんだから、
僕たちは戦後、連合が勝とうが、プラントが優位に立とうが、この国の平和を、国民を守
っていかなければならない。市民運動家には、プラントに協力してロゴスを倒せとかもい
て、けっこう大変なんだよ」
 ユウナはげんなりしたように頬をなでた。
「でも、オーブはそれが言える自由な国だ、そうだな、ユウナ」
「んー、言論の自由は君が思っているほどないけどね。君にはあるが、一般大衆には制限
されているって感じなんだろうなあ。でも近は民主化運動が盛ん。オーブの政治も変わる
時期が来てるのかも」
「あとお義父さまだが、個人的な連合のつながりに引きずられることはないのか?」
 カガリが猫のような顔に心配そうな色を浮かべた。セイラン家はオーブの外政を司り、
なかでもワシントンには長期間全権大使として赴任していて、あちらの政財界に顔が広い。
カガリは以前連合に行ったとき、コープランド大統領夫妻とブルーコスモスの盟主だとい
う男には反感を持ったが、セイランの義父母の友人だという人たちは社交に不慣れなカガ
リを受け入れてくれた。
「父は情に引きずられるには政治家すぎると思うけどねえ・・・・・・ん、ヘヴンズベースに動
きが!?」
 カガリがモニターに目をやると、アイスランドを丸ごと軍事基地化した地球最大の要塞、
内部で武器を製造し戦いに出すことが可能だという難攻不落の基地のミサイルランチャー
が角度を変えていた。
「ああっ!!!!」

 
 

「回答はなしか!」
 ミネルバの艦橋でデュランダルは叫んだ。
「なんてこと、応戦しますか?」
 あまりに多すぎて冗談ではないかと思うほどのミサイルと魚雷が、ザフト連合軍に浴び
せられた。戦闘待機状態であっても、先にミサイルを撃たれては対空砲火が間に合うはず
もない。この先制攻撃で、全軍の2割が戦闘不能になった。
「全軍攻撃態勢、モビルスーツを発進させろ」
 新型のグフは空を飛べるから対ミサイルには効果を発揮する。
 モビルスーツが空に、海に散っていったが、連合は二の手を用意していた。
 山腹から姿を現した巨大な灰色の殺戮マシン、デストロイ。モスクワからベルリンまで
死の行進で数千万の民間人が殺された。最後はミネルバ隊の活躍でなんとか倒したものの、
あれが、五機。ここの工場で量産していたのだ。
 シンは奇襲の報にあわててデスティニーに乗り込みながら、あれにはステラやジブラル
タルにいるのと同じエクステンディッドが乗っているのだと思った。ステラを迎えに来た
かわいい顔の少年、アウルといったか、彼とあと4人。あの強化人間たちを救いたい、し
かしデストロイの強さとこの巨大な戦場で彼らを助けるなんて、馬鹿なヒロイズムに酔っ
た奴だけだ。自分はデストロイがこれ以上人間を殺さないために、デストロイを倒す。シ
ンはそう心に誓った。
 デストロイの強大なビームと複列位相エネルギー砲、熱プラズマ複合砲は一騎で100機
のモビルスーツを相手に出来そうだった。ミネルバから陽電子砲を撃つにしても、相手は
シールドを備えている。
 ミネルバの艦橋では宇宙からの降下部隊との時間のすりあわせにオペレーターがかかり
きりだった。一刻も早く降下させたいが、ザフトの計画の最後のほうのパターンに当たっ
たので、モビルスーツを降下ポイントまで持っていくのに時間がかかってしまう。
 ザフト連合軍は何とか体勢を立て直しながら、宇宙からの降下部隊を待っていた。
「出撃命令はまだか!」
 デストロイに紙のように燃やされていく友軍を見ながら、シンが叫ぶ。
 レイの相変わらず冷静な声が戻ってくる。
「ミネルバは議長の御座艦だ。そのモビルスーツ隊が戦闘のはじめから出撃するのはあり
えない」
「レイ・ザ・バレルの判断が正しい。しかし戦況がいつ動くかわからん。デストロイを倒せ
るのはミネルバのモビルスーツだけだからな」
 ルナマリアは隊長が艦橋にいかず、ずっと彼らと行動しているのに少々驚いた。やはり
グラディス艦長が好きじゃないからかなと思う。
「ミネルバ隊じゃないけど、敵はとらせてもらいますよ」
 ハイネの声に、若いパイロットたちは彼がベルリンで祖父母を亡くしたことを思い出し
た。
 長い時間がすぎたように思えたが、降下部隊は一時間でずれを修正した。
 宇宙からモビルスーツ降下ポットが降ってくる。いきなり上陸できるのがとりえなので、
飛行能力はなくとも重火器を備えたモビルスーツがメインだ。

 
 

「ふん、能無しのコーディネーターが。ニーベルング、発射!」
 山が動いた。死火山であろう山がぱっくりと二つにに割れて、そこには巨大な噴火口な
らぬ、砲台が上を向いていた。
 空に向けて放たれた直径数キロはあろうという陽電子砲、ザフトの降下部隊は何が起こ
ったのかもわからず消滅していった。
「な、なんなの?」
「なんてことだ」
 ミネルバの艦橋からは光の柱が島の中央から立ち上ったように見えた。あれだけの陽電
子を作るエネルギー、アイスランドの地下のマグマから発電したの違いない。
 そんなことより・・・・・・。
「降下部隊、全滅」
 オペレーターの声がむなしくブリッジに響く。
「こんなことって! 出撃させてください!!」
 シン・アスカの若い顔と血気に満ちた表情が映った。
「そうだな、どうだい、アレッシィ隊長」
「今がチャンスだ。行ってあのデストロイ五機を倒せば、戦力は逆転する」
「では、そうしてくれ。ハイネ、君はどうする」
「行動をミネルバ隊とともにするかはわかりませんが、出撃します」
「武運を祈る」
 フェイスと言っても、ギルバートは甘やかしすぎではないかしらとタリアは思う。
 そんな思いをよそに発進シークエンスが行われ、ミネルバもビルスーツ隊とハイネの髪
と同じオレンジ色のグフが発進していった。世界中で戦況を見つめている100億の瞳が、
デストロイを倒したモビルスーツが発進したのを確認した。
 子供たちは無邪気に剣で相手を切りつけるまねをして、デスティニーを応援した。
 戦場は思ったより乱れていた。
 彼らはデストロイと反対側にイージス改とやけに動きのいい銀色のウィンダムを見つけ
た。
「あっちは俺が相手するから、デストロイは必ず倒せよ」
 ハイネはこういい捨てて、進路を変えた。
「アスラン・ザラか。会ったことはないが、優秀だという評判だったな」
 裏切ったからと言ってなめる気はない。ただこの少年の生き方の迷走する理由が、心が
まっすぐなハイネには理解できない。ナチュラルとコーディネーターが共存できる世界が
一番いいに決まってるのに、たぶん自分を含めてコーディネーターを皆殺しにしようとし
ている。
「ま、なんか虫が好かないね」
 二機が上手くパートナーを組んで戦っているので、まずは弱いほうを狙う。ザフトの僚
機には組んで戦えるほどの手練れはいなかったので、イージス改を足止めして置くように
命じた。
 一対一でグフとウィンダムならグフが有利だが、このウィンダムは改造済みのようで、
普通の機体より反応がいい。パイロットはコーディネーターだ。ハイネが知るところ、こ
のコーディネーター部隊とエクステンディッド部隊は同じ所属になっているそうだ。ベル
リンで捕虜にしたのがこの部隊の指揮官である大佐で、彼の脳から情報が搾り出されたよ
うだ。
 ビームサーベルでやりあううちに、やっと隙を見つけスレイヤーウィップで相手のサー
ベルを叩き落した。
 ライフルを出されたが、迷わず間合いに入る。腕を一本切り落としたところで、背後か
らイージス改のスキュラが飛んできた。牽制に出た連中はもうやられてしまったと見える。
「裏切り者だが、腕は確かだな」
 さて、二機相手にするのは正直荷が重い。早くウィンダムは片付けてしまおう。普段の
明るくて飄々としたハイネを知る人は、驚くかもしれない。闘志をあからさまにし、黄緑
の瞳は狩をする山猫のように光っている。
 グフの動きはますますすばやくなり、イージス改の攻撃を避けながら、ウィンダムにヒ
ットアンドウェイで攻撃を仕掛ける。破損部分が増えれば動きも悪くなる。すいとすれ違
ったとき、ハイネのビームサーベルがウィンダムを二つに切り裂いた。
「さて、次はあいつか」
 山猫が舌なめずりした。

 
 

「タニスーーー!!」
 アスランは声を限りに叫んでいた。あのオレンジのグフは強い、でもタニスなら相手に
できないことはないと思ったし、自分は敵の相手に追われていた。
 でも、自分なら彼女を守ってやることができたのでは・・・・・・傲慢といわれようとこの思
いは二度目だ。
 タニスとの思い出が頭をめぐる。初対面で一喝されたこと、アゴストを中心に友人にな
れたころ、彼を亡くして互いに殻にこもっていたころ、やっとアスラン・ザラとタニス・
ヴァーチャーの友情ができてきたところで、失ってしまったのか、彼女を。
 ファントムペインの中で腹を割って話が出来る唯一のコーディネーターの同僚、いつも
彼女の美貌を隠れて賞賛していたが、一度でいいから、傷も青あざもない白い肌で、生ま
れながらの金髪と青い目の彼女に会いたかった。
 モビルアーマー形態をとって、オレンジのグフを撃ちまくる。簡単に交わされてアスラ
ンはショックを受けた。確かにスーパーエース級のパイロットなければ、タニスを落とせ
はしなかっただろう。
 オレンジ――確かハイネ・ヴェステンフルスとかいう赤服のパーソナルカラーだ。アス
ランたちより年上で、議員の息子でないので、クルーゼ隊では話に上ったことはほとんど
なかった。自分がもっとザフトにいたとき情報を収集していれば、こちらが有利に戦えた
かもしれないのに、子供特有の傲慢さでアスランは誰もライバルと思わなかったし、誰の
ことを知りたいとも思わなかった。この幼稚な性格!
 対して、いける、とハイネは思った。アスランは予想以上に動揺している。ここで接近
戦に持ち込んでモビルスーツ形態で戦えば、あとは腕次第だ。
「いくぜーーー!」

 
 

 一方のミネルバ隊は、防衛網を縫って戦略兵器デストロイへと向かっていた。モビル
アーマー形態のアレッシィ機が殿をとり、あとの三機が突入しやすいように後ろを守って
いる。ルナマリアもずいぶんとインパルスを扱えるようになってきた。丁度三人とも伸び
盛りの年齢に、最高の機体を与えられているのだ。伸びてもらわなければ困ると、アレッ
シィは思う。またレイの寿命がいつどういうかたちで来たとしても、それは彼自身の責任
だ。
 射程内にすばやくもぐりこんで剣で戦うのが、デストロイへの戦術だ。ただ高速であの
ビームの強襲を交わしつつ懐に飛び込めるのがあの三機くらいなもので。
 アレッシィは戦場に目を配り、ハイネのグフがイージス改と対しているのに気がついた。
ギルバートのお気に入りだけあってモビルスーツ戦の腕も確かと見える。
 自分の部下に目を戻す。まっしぐらに向かっていくデスティニー、周囲を警戒している
レジェンド、そして機体にまだ振り回されている感のあるインパルス。
 アロンダイトがはやくもデストロイの片腕を切り落とした。今日のシンは冴えている。
隣ではレジェンドがビームサーベルで奮戦していた。
「ルナマリア! ソードに換装しろ。こいつには実剣が利く、レイにも」
 なかなか言うようになったなと思う。彼のセイバーではモビルアーマー形態での一撃離
脱法になるので、あまり大きな効果は挙げられない。シンの言葉通り、デストロイの欠点
はあの大きな体を切り刻まれることだ。連合の開発陣はザフトの対艦刀の威力とモビル
スーツの機動性を甘く見ていたようだ。対艦刀を持つのは特別なモビルスーツだけだが、
それ一機で戦艦や空母を落とす力を持っているから装備できるのだ。
 シンとレイが一機ずつ倒し、三機目にルナマリアがかかっている。レイも実剣を受け取
ったし、もう連合のデストロイ部隊の行く末は決まったと、アレッシィは思った。
 同時刻に先頭の行方を見切った人物がいた。ロード・ジブリールそのひとである。愛猫
を抱いて、崩れ落ちるデストロイに悲嘆の声を上げるロゴスの老人たちを背に、用意して
おいた潜水艦に乗り込んだのだ。
 ルナマリアが三機目を倒した。
「やるじゃないか、ルナマリア」
「わたしだって、インパルスのパイロットなのよ!」
 こういう軽口がレイから出るほどだった。シンは自分が切り殺すエクステンディッドた
ちが天国で幸せになれるように願いながら、戦った。彼らは自分が何者でなぜ戦うのかも
わかっていないか、刷り込まれただけなのだ。死ぬのが怖かったステラ、自分が殺してし
まったステラ・・・・・・。
 だからこうして、戦場に出てきたエクステンディッドは殺すしかないじゃないか、すで
に兵器としかみなされない人間なら。
 ハイネはイージス改の周囲のモビルスーツが簡単に落とされるのに、どうしようかと悩
んだ。確かに強力だが戦場のバランスを変えるほどの力はない、だからほおって置くのも
手。フェイス権限で近くの部隊を寄せ集めて落とすのも手。一対一の勝負を仕掛けるのも
手。
(話が早いのはサシで勝負か、アスラン・ザラ!?)
 ハイネが決めるより早く、スキュラの一撃が見舞われた。
(あれをくらったら、一発でお釈迦だな)
「それなら接近戦だってね」
 ビームサーベルを抜いて接近していく。イージス改は明らかに前のデータより性能が強
化されているが、グフに勝るものではない。ただ以前の状態でもグフを落としているし、
こちらの機体性能は読まれているだろう。
 すかすかとビームサーベルが干渉しあう光がおこり、二機がくんずほぐれつするように
動き回る。連合軍はもちろん、ザフトも手は出せなかった。
 ふと、視界にインパルスがデストロイに一撃受けているのが見えた。あとのミネルバ
チームには援助に回る暇はなさそうだ。
「レディには優しいんだぜ、俺はな」
 イージス改をほおって、ハイネのグフはインパルスに向かった。
「無事か? ルナマリア、今から援護する」
「ハイネ! いえ、その必要は」
「もう向かってるんだから、そのデストロイ、二人で倒そう」
 その言葉通り、インパルスに立ち直る隙を与えたハイネは、デストロイの片腕を切り取
った。そしてコクピットにルナマリアがエクスカリバーを突き立てる。
「後は任せたぜ」
「はい!」
 戻ろうとするハイネにスキュラが浴びせられる。よけながら連合のウィンダム編隊のに
対した。これはありがたい壁だ。対デストロイ戦をはじめとして戦いはザフトに有利に進
んでいる。連合は最初に巨大兵器を出したが、今では蟻に食い荒らされる砂糖の山だ。地
上部隊が上陸しているから、あと戦闘が続くのは知れた時間だ。あのイージス改を倒して
おきたかったが、それはまた別のパイロットに譲ろう。
 ハイネが適当に前方のウィンダムの相手をしていたとき、グフの右手が持っていかれた。
(あいつ、友軍ごと?)
 落ちていくウィンダムがいる。アスラン・ザラは友軍に向けてスキュラを発射したのだ。
なんと非道なことを。ハイネが怒りを燃え立たせるまもなく第二射が来て、ハイネ・ヴェ
ステンフルスのグフは破壊された。
「アスカ機、デストロイ撃墜。デストロイ隊5機全滅させました」
「ヴェステンフルス機、シグナルロスト、撃墜されたものと思われます」
 ギルバートは一瞬頬を紅潮させ、次の瞬間に青白い骨色の肌に戻った。
 まだ、白旗は揚がっていないのだ。

 
 

「降伏勧告を出しましょうか?」
 参謀の声に、デュランダルは首を横に振った。最初の奇襲攻撃、巨大陽電子砲、5体の
デストロイ部隊、次の矢がないとは限らない。非道なようだが、相手が根を上げるまで殲
滅戦を続けるというのが、プラントトップとしての判断だった。
 ザフトの圧倒的な攻勢が続き、連合軍は数を減らし、島中央部の建物にまで爆撃が及ん
だ。
 デュランダルは苛立つ気持ちを出さないように努力したが、白旗と降伏勧告の放送が流
れたときには、心底ほっとした。地球まで下りてきて勝てなかったら議長引責辞任、次の
議長が立って方針を打ち出すまで、ザフトは対処療法しか取れない。これで一気に和平に
持って生きたい、しかし和平の条件には連合の月からの撤退が譲れないとなると、宇宙で
ももうひとつ戦いが必要になるか。とにかくこの基地にどの程度の実力者がいるか、捕虜
の質にかかっている。捕虜といえば、レイのボディ用の士官、情報はすべて脳から吸い出
した。強化人間の研究など、いまでは映像で伝わっているもの、デストロイの全容など、
もう情報が古い。今回の捕虜交換でザフト兵と交換してしまおう。プラントにはとにかく
マンパワーが大事なのだから。
 連合の兵器が封印され、捕虜にされた上級将校の名前がモニターを流れる。
 そこにはっきり兵器産業界の大物の名前を見たとき、デュランダルの目が光った。彼ら
を手に入れるための戦争でもあったのだ。しかし、捕獲の最優先であるブルーコスモスの
ロード・ジブリールがいない。卑しいコーディネーターに触れられることを拒んで自害で
もしたのかと思ったが、特殊部隊はそんなことを許すほど間抜けではない。では――いな
かったのか、それとも、脱出したのか? 一番可能性があるのは本国。とにかく連合に潜
入している諜報員にはこれまで以上にジブリールの所在を洗わせなければ。あとは、連合
の同盟国に逃げ失せていないか、たとえば、海に囲まれ宇宙に出やすいオーブなど。
 白旗を確認して母艦からの指令を受け、シンたちはミネルバに戻った。デストロイ五機
破壊、連合の戦意をくじく結果を挙げたのだ。三人はハンガーでハイタッチしあった。
そこに、ヴィーノが、
「ハイネさんが、撃墜されたらしい」
「「「!?」」」
 三人ともに驚愕した。
「ハイネが!?」
「余裕を持っているように見えたが、戦場は運も左右するからな」
「あ、あたしのこと助けてくれたりしたから?・・・・・・」
 ルナマリアはびっくりしてぺたんと座り込んでしまった。
 そこにレイの厳しい声が降る。
「ヒロイン気取りをしても、死んだ人間は帰ってこない」
「わかってるわよぉ、そんなこと!!」
「とにかく立て、ルナ。で、相手は誰だ、ハイネを落とせる奴がまだ連合にいたとは」
 立派な先輩だと尊敬していたから、悲しいのはシンも一緒だったが、ほのかな恋愛感情
を感じていたのかもしれないルナマリアには負けるから、自然と大人しくなる。
「イージス改、アスラン・ザラだ。友軍機ともども、スキュラ一発だった」
「卑怯よ、ザフトを裏切って、連合も裏切るの、あの男!」
「そういう下種な奴なんだ、な、ルナ、お茶でも飲もう」
 パイロットルームにはレイが待っていてくれる。シンは信じていた。
 そのとおりさっさと着替えた礼が、癒される地球の海のディスクを流して待っていてく
れた。
「ルナマリア、飲みのもは?」
「・・・・・・ココア」
「あ、おれも」
「シンは自分でいれろ」
 レディファーストという古い習慣が、今のルナマリアには心地よい。
「これで講和できるの?」
「早く戦争が終わればいいのに」
「連合にとってプラントは勝手に独立宣言をした植民地に過ぎない。プライドから講和は
ないだろう」
 レイの予想にルナマリアが言う。
「じゃ、次は宇宙で?」
「ああ、連合の月勢力は強力だからな」
「プラントの目と鼻の先だからな。連合はなんでもする。一般人だってコロニーごと殺す
のはユニウスセブンでわかっている」
「連合にとってはプラントを奴隷化するまで戦争は終わらないだろう。そしてそれだけの
物量が、彼らにはある」
 シンとルナマリアは落ち込んでしまった。
 事務的なことは官僚に任せて、ミネルバはジブラルタルに帰港した。タリアはギルバー
トがレイをハイネの後釜に連れて行くつもりかと思ったが、普通にミネルバの三人のパイ
ロットにネビュラ勲章が与えられた。シンには二つ目になる、ザフト最高の勲章であった。
同時に戦死したハイネ・ヴェステンフルスの二階級特進とネビュ勲章受賞も称えられた。
ただ、ハイネの両親は自分の両親に続いて息子まで失ってしまったのだと、シンは思った。
どれだけ自慢の息子だったろう。自分が死んでも悼んでくれる親族はいない――ひどく空
虚な思いに駆られたが、それに飲み込まれてはいけないのだ。家族がいないなら、結婚し
て子供を作って、小さいマユを幸せに育ててやらねば。そのためには、プラントが独立を
誰もが認めるものにし、月の制空権を取ることが大事だった。

 
 

 大きな、大人用のカプセルに一人の男らしきものが入っている。体中をチューブでつな
がれ、特徴的なのは首に巻かれた首輪から伸びる多くのチューブだった。
「これで、彼はコーディネーターでありながらエクステンディッドという、初めての存在
になるわけですね」
 エルドリッジ少佐が冷ややかな声で言った(ごみ屑がっ)。
「ロボトミー手術は必要ない?」
「薬でコントロールできます。実際彼の前頭葉は現在活動を停止しています。作戦時にの
み、意思や言語などの機能を戻しますが、彼は一生このカプセルの中で薬でコントロール
されて暮らします。生体CPUとして。簡単な実験をしましたが、非常に上手くいきまし
た。彼のパイロットとしての反射神経は保存されているようです」
「そう。ナチュラルの兵士を殺して生き延びた極悪コーディネーターですから、死刑より
一生自分の同胞を殺し続けるのが似合うでしょう」
「法的には?」
「死刑が執行されたことになっています。これは生きている死体。性能を上げるためなら、
何をしてもよろしい。コーディネーターのエクステンディッド、スーパーコーディネータ
ーとでも呼ぶべきかしら」
 エルドリッジ少佐は、カプセルの中の肉の塊を見て嘲笑った。

 
 

 ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールの行方は依然として定かではなかった。ヘヴン
ズベースにいたのは事実だが、ひっそりと潜水艦で逃げ出したらしい。戦闘時の水中音の
データをザフト連合の各潜水艦と照らし合わせた結果、4台目のデストロイが落ちたころ
に発進して沈降した潜水艦があったとのこと。おそらく三機目がやられるのを見て、勝負
は決したと考えたのだろう。逃げ足の速い男だ。
 連合のコープランド大統領には、ジブリールの身柄の引渡しをヘヴンズベース降伏の条
件に入れてあるが、ロゴスやブルーコスモスに押されて今の地位についた彼が、パトロン
を売るとは考えにくかった。
 今回の敗北のせいで、北米ではコーディネーター差別がいっそうひどくなっているのだ。
宇宙に行かず地球しか知らない老人たちが、コーディネーターだという理由でリンチにあ
い、西部劇時代のように町の入り口には処刑台が立てられた。
 ジブリールの野望がコーディネーターの全滅なら、いまさら連合などでなく宇宙へ向か
うだろう。
 そう思っていたら、やはり、というニュースがもたらされた。
『ロード・ジブリール、オーブ入港』

 
 

 裏でも戦争は進むもので、捕虜交換も行われ、両軍多数の兵士が自軍に戻った。もとも
と人数の少ないザフトでは、本当に一兵とて大切だ。今回は同数を連合に返したが、ヘヴ
ンズベースの大勝からいけばもっと数を絞って当然だったろうが、プラントには膨大な捕
虜に食わせる金はなかった。
 ネオ・ロアノーク大佐も高級士官は待遇画が面倒という表向きの理由で、捕虜交換に出
された。実際の理由は自分の頭のなかをすべてコピーされたから、肉体はいらないのだと
悟っている。今時拷問だの自白剤だのははやらない。脳から記憶を抽出する薬、それを発
展させて強化人間を作ることに成功したのだから。
 とりあえず連合の基地の高級士官用の部屋に入れられた。どうやら食事などはすべて運
んでくるらしい。自分と他の人間の接触を避けているのか?
 危険な情報を持っていた元捕虜など、表に出したいものでもない。彼の指揮下でさまざ
まな違法行為が行われてきたのだから。
 ブルーコスモスの誓いは血の誓いだ。失敗を犯したものにはそれなりの厳罰を・・・・・・。
 夕食を終え、バーボンウィスキーを飲みながら待っていると、こつこつと扉を叩く音で
わかった。
「入りたまえ、スウェン中尉」
「失礼します、ロアノーク大佐」
 後手にドアを閉めて、銀髪の表情のない青年が入ってきて、二人は敬礼を交わした。
「待っていたよ」
「この時間帯での連合ニュースが終わるのを待っておりましたので」
 いつもはネオも見ていたが、さすがに今日は見る気になれなかった。生まれ故郷のうま
い酒のほうがいいじゃないか。
「なにか引き継ぎ事項はおありでしょうか」
「いや、エルドリッジ少佐は優秀だ。ファントムペインがどういう形になろうとも、彼女
なら上手く指揮を取るだろう」
「では、そのように少佐にお伝えします」
 エルドリッジ少佐がロアノーク大佐に片恋しているというのは有名な話なので、この氷
のような青年も聞き及んでいるはずだが。
 まあ、現世のことはもういい。死んで自然に返るのが楽しみだ。
 スウェンがコンバットナイフを取り出した。頚動脈にぴたりと当てられるのがわかる。
するりとナイフが滑り込む、驚いたことに、自分の頚椎を切られている間もネオは意識が
あった。もちろん意識を失いたいほどの激痛に襲われたが。対拷問訓練などが利いたのだ
ろう。ぐるりと金髪の頭が切り取られ、テーブルに載せられた。
 青い両目はまだ澄んでいた。スウェンが閉じようとすると反発してあいたが、2,3分
のうちに自然に目蓋がおりた。
 スウェンは入って来たときと同じように、敬礼をして去っていった。

 

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