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クルーゼ生存_第51話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:59:50

 オーブの戦場の混乱が収まったころ、ミネルバの三人のパイロットは隊長室に呼ばれた。
いつもと同じ表情を隠すサングラス、冷ややかな声。
「オーブから発進したアスハ家のシャトルは、衛星軌道上のザフトの包囲網をすり抜けた」
「えっ!?」
「だって?」
「マスドライバーから射出されたシャトルの起動は確実に計算できますし、衛星軌道上の
艦艇がオートで射撃すれば失敗は万に一つもないと思います」
「ふむ、レイ・ザ・バレルの言うことは正しい。問題は、アスハ家のシャトルが上がって
こなかったということだ」
 シンは気がせいて言った。
「じゃ、それ以前になんらかの擬装工作を?」
「おそらくな。あのあたりにはジャンクを拾うジャンク屋組合とかいう輩が徘徊している。
彼らは自由を旨にしているが、オーブよりなのは否めない」
 三人とも知っていた。戦場でのジャンクはすべて拾ったもののものというむちゃくちゃ
な法案を通させた連中。地球やプラントの政治家にも、よほど顔が利くのだろう。特にこ
の時期にザフトの包囲網をすり抜けるとは、プラントの議員クラスの手が働いているとし
か思えなかった。
「本艦はカーペンタリアに帰頭後、セイバーを下ろし、宇宙へ出発する」
「了解しました!」
 三人はそろって隊長室から出た。ルナマリアは空元気を見せて笑っているが、少し笑顔
が硬い。
「宇宙に出ちゃったのか、ブルーコスモスが」
 ルナマリアの目蓋の裏には、ユニウス7が核攻撃で破壊された姿がある。彼女の父親は
コロニー公社の仕事で、あの血のヴァレンタインの前日、ユニウス7を訪れていたのだ。
「航路を変更したら燃料を使う。普通のシャトルには予備の燃料はあまり積まない。どこ
かで補給がある。バックについているのがジャンク屋組合だとしたら、どういう動きをと
るか予想がつくだろう」
「でも、その情報を流す人間がザフトに・・・・・・」
 シンは氷のように冷たい声で言った。愛する少女を手にかけ、生まれ故郷を焼く覚悟を
して戦いに臨んだ。だがプラントには自分の利益のために敵をかばう人間が存在するのだ。
これではプラントも馬鹿姫のオーブと変わらないではないか。
 部屋に帰ってレイにぶちまけた。
 彼はいつも通り冷静聞いていてくれた。
「適切でない人物が、重要な地位についているからだ。オーブしかり、プラントしかり」
「この戦争の発端にも、汚職政治家が絡んでたよな」
 もう戦争の原因すら忘れてしまった。シンたち兵士は講和という明日に向かって戦うだ
けなのだ。プラントに民間人への死刑はないので、結果といして数十万人の兵士を殺した
議員は刑務所で平穏な日々を送っているはずだ。
「じゃ、レイはどういう人物が重要な地位に就くのがいいと思う?」
「いわゆる重要な地位だけでなく、すべての職業が重要だ。そう思わないか? ミネルバ
だって清掃班や医療班、厨房班といった非戦闘員ががんばっているから強いのだと」
「うん、それは思う。俺色々世話かけちゃったけどみんな良くしてくれた」
「だから、俺が思うには、職業というのは適正と経験だ」
 ものすごく当たり前の答えが返ってきて、シンは逆にびっくりした。
「正確に言えば、遺伝子と経験だな」
「・・・・・・遺伝子」
「たとえばお前の遺伝子はモビルスーツパイロットに向いている。経験を積んでエースパ
イロットになった、ということだ」
「まあ、そういわれると納得かなあ。反射神経とか好戦的な性格とかは遺伝子が決めてる
んだよな」
「性格は後天的要素も大きいが、お前の場合、家族を失ったことが戦う理由になった」
「うん」
 飼い主の説教を聞く犬のようにおとなしくシンが答える。
「でも子供のころから、喧嘩っ早い性格で運動神経は並外れてよかったんじゃないか?」
「まあ、そう」
 喧嘩が元で親に怒られたことは数知れず。コーディネーターの家庭では、子供を大事に
するので喧嘩をする子供は嫌われるのだ。まあ、大学にはいって、そういう悪い癖も治ま
ったところで戦争だった。
「だからお前は遺伝子的にモビルスーツパイロットになって正解だったと思う」
「お前を営倉にみちづれにしたこともあったぞ」
「そんなこともうないだろう。お前は精神的に成長した」
「レイは? モビルスーツパイロットもだけど参謀本部勤務も向いてたと思うけど、あ、
大丈夫か」
 友人がいきなり咳き込み始めたので、シンは狼狽した。いや、前にもあったではないか。
しかし慣れられるものではない。前線の兵士が突然発作を起こすような病を抱えていては
使い物にならない。かといって医務室に事実を告げるのは親友を売るようで嫌だ。
 レイは苦しみながらも錠剤を何錠か嚥下し、苦しげにベッドのシーツを握っていた。
「何かできることないか?」
 背中をさすったシンの手は払いのけられた。レイは周囲から親友といわれているシンに
も、最後の一歩は許さない。
 レイの白い額がびっしょりと汗にぬれていた。シンはバスルームに行ってタオルを絞っ
たのを手渡した。
 素直にレイが受け取ったのに、それほど苦しかったんだろうと思う。人工子宮から生ま
れたことによる卵の発達ミスだとレイは前に言っていたが、それなら自分の遺伝子に従っ
て前線を去るべきではないのか?
 レイの呼吸が穏やかになるのを待って聞く。
「レジェンドに乗ってるとき、発作が起こったらどうする。宇宙戦は360度だぞ。お前
の体が万全でなければ、ドラグーンも反応しまい」
 レイと肩を並べて戦うのが好きだが、彼はもう、前線を退いたほうがいいとシンは思っ
た。後方でだって頭脳を生かした仕事はいくらでもある。
「・・・・・・俺は賭けをしている。前線で生き延びられれば、俺の願いはかなう。死んでしま
えば、未来は見えない」
「無責任だ。レジェンドはザフトの科学技術陣が精魂こめたモビルスーツだし、建造費は
プラントのみんなの税金だ。子供が飴を買うのにかけられた税金が使われてるんだぞ」
 シンは顔を真っ赤にして怒った。
 対するレイは急に険のとれた、子供のような表情になった。
「ああ、確かにそうだな。俺はわがままだ――俺は、俺を作り出した人間の悪意と思い上
がりを叩き潰すために戦う。プラントの愛国者というわけでなくてすまんな」
「まあ、わかっているなら」
 シンはレイに甘い。というかアカデミーに入って見た本当の完璧なコーディネーターだ
ったから、少しながら憧れがあるのだ。それに気づいているから、レイは今日もいつか話
そうと思っていることを話せなかった。誰にも自分の真実を知られずに死ぬのは寂しい、
彼が選んだのはシン・アスカであるのだが。

 
 

「エルドリッジ少佐、『スーパーコーディネーター』の件ですが、お耳に入れたいこと
が」
 元アスラン・ザラであった生物は特定の波長が脳に入ると、反射神経や視覚が数割鋭く
なるとのこと。
「それをこちらでコントロールできるようになるのでしょうね」
「そのように実験しています。といっても脳が消耗しきっては困りますので、少々時間は
かかりますが」
「これの目標はきまっています、ザフトの核動力と思われるモビルスーツの破壊。そのた
めなら少々の負荷は問題ありません。実験を続けてください」
 それが『SEEDを割る』と一部の人に言われている現象だとは、ファントムペインの者は
知らなかった。彼らの盟主は、SEEDの存在を知らされ、否定していたが

 
 

「ねえ、サイ。オーブが降伏していちおう戦争は終わったわけだけど、これからどうす
る?」
「僕は法学部に学士入学する」
「ええっ? 工学の博士号まであとちょっとじゃない」
 ミリアリアは心底驚いた。
「法学の勉強をして、オーブがプラントから独立するときの憲法の起草者の一人になれた
らと思って」
 サイの少しはにかんだような顔に、ミリアリアはまったく優等生はねーと思い、少しま
ぶしい思いをした。
「ミリアリアはジャーナリストを続けるんだろ」
「うん、取材したいことは一杯あるし。でもプラント統治下でどの程度言論の自由が保障
されるか」
「でも、オーブにこれまで言論の自由があったことって?」
「ないわね。首長国時代は、首長の悪口はいえない世界だったから。プラントの総督の悪
口が書けるように祈るわ」
「混乱はあっても、僕たちがいい国にしていかなければね」
「そうね、でも落ちぶれたもんよね。たった二年前は宇宙コロニーまで持ってる先進国だ
ったのに、いまじゃプラントの占領地」
「僕たちが立て直せばいいじゃないか。オーブの国民は勤勉で優秀だ」
「サイ、大人になったわねえ」
「民主化運動を始めたときに、お坊ちゃんとはお別れしたのさ」
 いっぽうオーブの元お姫様といえば、国璽をプラント特使に手渡したのちは、政庁の執
務室に一切手を触れることを許されずに屋敷に返された。屋敷はザフト兵が警備に当たっ
ていたが、生垣に荒らされた跡があったり、門が少し崩れていたり、民衆に襲撃を受けた
のがありありと見て取れた。
 屋敷にはユウナから『セイラン家はスカンジナビア王国に亡命する予定で、プラント執
政部と交渉中』と連絡が入っていた。言外に「君は?」と聞かれているのだが、オーブの
獅子ウズミ・ナラ・アスハの子は何があろうとオーブを守ると誓った以上この地を離れる
ことはない。プラントが自分の首がほしいというならくれてやる。連合とプラントの戦い
に巻き込まれて滅んだオーブという島国があったことを、世界の人が覚えていてくれたら
それでいい。オーブは何があっても、国の大義は曲げなかった。
 無条件降伏の署名は屈辱だったが、民は守ったのだ。カガリは自分が間違ったことをし
たとは思わなかった。父の遺産の暁がやられてしまったところで、オーブへ命運が尽きた
のだ。ただオーブに止めを刺したのが元オーブ人の少年で二年前の大戦の戦災孤児だとい
うのは皮肉だった。アスハのせいで!今度の戦いでもアスハのせいで家族が死んだと思う
子供が出るのだろうか。市街地の被害はほとんどなかったが、ゼロではない。
 テレビをつけると、討論番組をやっていて、カガリが見たこともない政治評論家たちが
これからの『プラント領オーブ』のあり方について語っていた。
 首長制は過去のものなのだ。カガリは始めて実感した。自分がオーブの特別な地位を占
め姫様と呼ばれる身から、ただの金持ちの女になった。そういうことだ。まずはマーナに
姫様でなくお嬢様と呼ばせるように命じなくては。カガリが考えた新しいオーブの第一歩
だった。

 
 

 修復なったアーモリーワンにエターナルは入港した。以前のピンク色ではなくザフトカ
ラーのグリーンに塗られている。地上戦は大西洋連邦の同盟国がロゴスの存在を許さず
次々に離反、残った同盟国のオーブも陥落した。政治ラインでは講和に向けて動いている
はずだが、まだ月の制空権をめぐって一悶着あるというのが、兵士たちの感想だった。
 エターナルの兵士たちは、デュランダルが遺伝子適性によって選んだ兵士たちである。
最新鋭モビルスーツの運用艦に配属されるにしては、パイロットからして場違い感があっ
たが、いまではストライクフリーダムとインフィニットジャスティスの二機がザフト宇宙
軍のスーパーエースであることを認めないものはない。
 現在兵器工場であるアーモリーワンを連合が狙っているという噂まである。
 月に基地を二つ持つ連合はプランと本土と反対にあるこのコロニーを潰せば圧倒的に有
利になる。
 ストライクフリーダムのパイロットはハンガーで整備される愛機を見ながら呟いた。
「これに、俺が乗ってるんだよなあ」
「私も思うわよ」
 インフィニットジャスティスのパイロットだ。
「パイロットとしての腕は上の下くらいだし、ただ、この子とは相性がいいのよ」
「そう、シミュレーションでインフィニットジャスティスやってみたけど、ぜんぜんだし。
まあ、地球から上がってくるスーパーエース君たちは、赤服で16歳でネビュラ勲章もら
ってる超エリートみたいだけど」
「ストライクフリーダムを一番動く動かせるのはあなた。そう思っていればいいのよ」
 クレオパトラ・イッサリオティスが特徴のあるおかっぱを揺らしながら口を開いた。
「今のところエターナルの実験は順調ですが、プラントにデスティニープランを導入する
にしても、データが少なすぎます。あなたにはピアニストは向いてませんとか、プログラ
マに向いていますとかしか結果は出せません」
「エターナルが特殊なことは重々承知だ。ただこの戦争が終わる前に、デスティニープラ
ンの可否を問いたいのだ」
 デュランダル議長はまずい合成コーヒーを口に運んだ。オーブを手に入れたので、地球
の産物の輸入は増えるだろう、ありがたいと正直思った。
「急いでらっしゃると、私には思えてなりませんが」
 デュランダルは一枚のディスクを取り出した。
「これがあれば、職業安定所の人員を5分の1くらいに減らせるはずだ」
「――戦争だけでなく、ご自分の研究もなさってたわけですね。それは私がお預かりして
よろしい?」
「君に渡すために持ってきたんだ。検討してくれたまえ」
「了解しました」
 彼女は有能だが化粧と香水がきついのが欠点だと、デュランダルは思った。遺伝子によ
って職業適性を判断し、社会構造が許す限りその職につかせる。閉鎖空間のプラントでは
自分に向いた仕事をすることでストレスをためないことも大事だ。エリート主義の競争社
会、ピラミッドの頂上だけを目指すような社会では、少子化もあり、50年後にはこの国
は滅びるだろう。優秀な精子を求めて精子バンクに大金を払う女、子供が赤服でないから
ザフトのアカデミーを優秀な成績で出たのに従軍させず大学にやっている議員、戦死した
息子を悼むあまり精神状態が不安定になっている戦争の原因を作った元議員。
 プラントは構造的に狂っている。とげとげしくて、人を見るときに「コーディネートに
いくらかけたのか」という探るような目で見る。
 意外やデュランダルは彼なりに平等主義者であった。遺伝子が与えてくれる能力以上に
無理をする必要はないのだというのが、彼の本音だった。しかし彼の遺伝子検査の結果は、
生物学系の学者に強い適性があり、政治家は適性がある程度だった。だからデスティニー
プランを発想するのはよくても、実行するだけの器が自分にあるか、それは賭けだと思っ
ている。だから戦争で人心が乱れているときに実行しようとしているのだ。
(ずいぶんと気が小さい)
 金髪の友人がいたら、あざ笑われるだろう。皮肉な笑みと同時に宇宙での新機体を頼ま
れていたことを思い出して、指令を出した。ミネルバはカーペンタリアで休暇を取った後、
月軌道上に配属される。

 
 

「わ、隊長の新しいモビルスーツ、来たんだ。プロヴィデンスザクかあ。特殊な空間把握
能力をもった人間にしか扱えない機体、だっけ?」
「そうだ。レジェンドの簡易式ドラグーンとそこが違う。ただ人を選ぶ分、ドラグーンの
精度は高くなるらしい」
「ふーん、隊長って何でもできるんだな」シンは素直に賞賛を表し、話題を変えた。
「PX行かないか? 地球の食べ物も食べ収めだし」
 シンは厨司長に、何をどれくらい積み込むのか、牛肉と子羊と海老をたくさん積んでく
れと直談判したいくらいなのだ。
「悪いが部屋で休む」
「あっ、そうしたほうがいい」
 軍医に言ってしまおうかと思うこともあるのだが、レイはレイの思いを持って戦ってい
る。自分が私怨丸出しで戦ってきて、こないだのオーブ戦でやっと吹っ切れた以上、戦い
に己の感情を持ち込む人間を責めることはできなかった。
 ルナマリアと買い物に出かけたシンは地球のお菓子やドライフルーツ、100%ジュー
スなどを個人の持ち物の限界まで買い込んだ。
「あんたそんなお菓子ばっかり買って。ミネルバのエースなんだから、もっとぱりっとし
なさいよ」
「ぱりっとって、髪の毛とか?」
「ほんと、子供なんだから」
 ちかごろシンとルナマリアは一緒に行動をとることが多くて、ミネルバ内のみならず基
地中ででひそかに噂になっているのだが、二人とも鈍くてそんなことは知らなかった。
 ミネルバは何事もなくカーペンタリアを後にし、月軌道艦隊に合流した。 
 シンはもう二度と地球には降りられないかもしれないと、食料や飲み物を見て悲しく思
った。
 アルザッヘルとダイダロスの二つの基地が健在である以上、月をめぐっての戦いは五分
五分だった。地球戦はロゴスの実態などで民意を連合から離すことができたが、宇宙では
ただ軍人同士が戦うだけだ。月の自由都市はいつどちらにも付けるように画策しているし、
戦況は地球より厳しかった。
「お客さん扱いは疲れるわね。最初はこの艦隊に編入されるはずだったのが、アクシデン
トで地球に下りただけだったのに」
 旗艦に挨拶に行ってきたグラディス艦長が言う。
「でも、地球、長かったですからね」
「その間にこの艦隊の仲間意識は出来上がってしまって、ミネルバは異分子の様子見って
ところかしら」
 トライン副長は暢気に言った。
「いじめがあるわけじゃなし、気にすることないですよ」
 確かにタリアは議長と寝て艦を手に入れた女の噂がついて回るので、いやみや陰口を言
われることが多い。地球での戦果もミネルバより艦載モビルスーツの働きだという見方も
ある。それは決して否定できないが、ミネルバは敵の支配水域を1隻で通り抜けた優秀な
船だと、タリアは自分に言い聞かせた。

 
 

「目標、アーモリーワン、ドック」
「『スーパーコーディネーター』の調子は?」
「カプセルの中で目を覚ましたところです。彼は生体CPUの域を超えていますから、デ
ストロイの指の一本を1ミリまで完璧にコントロールします。これまでのわれわれの研究
の成果として、すばらしい出来だと思います」
「なら、成果を挙げてもらわなければ」
 エルドリッジ少佐は元アスラン・ザラのことを思った。彼の自我は消滅し、命令に従い
もビルスーツを動かすことだけ考えるように再構成された。モビルスーツのパイロットと
して理想的ではないか? その素体になったのがコーディネーターだというのは、不満だ
ったが。『スーパーコーディネーター』というあだ名はもちろん皮肉だ。エクステンディ
ッド(強化人間)というのはあくまでナチュラルであるという、ブルーコスモスの信念だ。
しかしそれに値する結果を出したら――捕虜のパイロットの生体CPU化を上申するべき
なのだろう。
 JPジョーンズから宇宙仕様のデストロイが発進する。0Gから1/6Gで戦うことを考
慮し、地上よりさらに強く重い装甲を使っている。あのミネルバのモビルスーツの対艦刀
でも傷がつく程度の強力さだ。
 強烈に加速し目標に向かうデストロイは、彼女の目にも頼もしく映った。
 対するアーモリーワンでは、地球で恐怖を巻き散らした巨大モビルスーツの接近にあわ
てて対処していた。この天秤型コロニーの欠点は中央の無重力の港部分を破壊されると、
コロニーが左右に分かれ飛んでいくという点であり、つまり住民の死を意味した。迎撃用
のモビルスーツが緊急発進する。対艦刀を装備できる機体はあわてて装備した。今のとこ
ろあのデストロイの攻略法はスピードで飛び込んで切り刻むしかない。ビーム勝負では相
手にならないし、対陽電子砲シールドまで装備しているので戦艦を出しても意味がない。
地球では負担だった重量も宇宙では気にする必要がない。動きは地球よりよくなっている
だろうと、出撃を命じられたストライクフリーダムのパイロットは思った。
「ストライクフリーダム、発進します」
「インフィニットジャスティス、発進します」
 アーモリーワンの上層部としては、この核動力機二機があのでか物を倒してくれないと、
コロニーが失われるという事態だ。ここはその名の通り、軍事工廠であり、ここで兵器を
生産できるからプラントは戦争を続けられるのだ。
 発進した二機は、デストロイのビームを交わしながらビームブーメランやレールガンで
応戦したが、あちらは一度に高エネルギー砲4門、プラズマ複合砲20門を撃ってくるか
ら、ほとんど隙がない。パイロットは宇宙戦にもなれているらしく、360度にビームの
幕を張る。
「二機でビームサーベルで接近戦を仕掛ける」
「了解」
 最大戦速で接近するストライクフリーダムとインフィニットジャスティスに、デストロ
イは両手にビームサーベルを構えることで答えた。
「あの火器管制をしながら、ビームサーベルを両手だなんて」
 接近戦が器用なパイロットで、ビームサーベルを両手に持つパイロットはごくまれにい
るが、その場合はサーベルのみに集中する。

 
 

 とにかくビームサーベルに切りかかり、相手の腕にサーベルを当てたが、表面に傷がつ
いた様子もない。近距離からのビームジャベリンやビームブーメランも、全部はじかれて
しまう。ストライクフリーダムはドラグーンを出して、相手のコクピットを狙わせたが、
それもうまく行かず、逆にドラグーンの数が減らされていく。
(装甲を強化したのか? これでは手も足も出ない)
 パイロットが弱気になるのをかぎつけたかのように、直撃が来た。ストライクフリーダ
ムは両足を持っていかれた。
「大丈夫?」
「足なんて宇宙じゃおまけだろ」
 インフィニットジャスティスがリフターをコクピットに投げつけたら、一瞬反応が止ま
ったので、その隙に二機は腕の関節部分にビームサーベルをつきたてた。
 これは効果があったが、デストロイのパイロットを怒らせたのか、急に動きがよくなっ
た。インフィニットジャスティスが巨大な手につかまれて、手足をもがれて、胴体を握り
つぶされた。
 一緒に戦ってきた戦友だから残念だが、特に敵討ちをしなければならない理由もないの
で、ストライクフリーダムのパイロットは本部に撤退の意思を伝えた。しかし返ってきた
答えは否。徹底抗戦せよ。ここを突破されれば、アーモリーワン自体が破壊されかねない
のだから、特別なモビルスーツだといって、贔屓はできない。その代わりにミーティアが
射出された。これで火力では対抗できるが、そのかわり小回りが利かなくなる。
 先ほど傷つけた肩を狙うが、ことごとく外される。そしてこちらが大きくなった分、
ビームがかすったり、ミーティアの端に直撃を受けてしまう。
 そうこうしているうちに、デストロイのスーパースキュラがストライクフリーダムを直
撃し、宇宙最強と呼ばれたモビルスーツはジャンクになった。
 アーモリーワンの港では、出港する船がラッシュとなっていた。あの恐ろしいモビル
スーツを止めるためもあるし、機密事項を載せてプラント本土へ向かう船もある。
しかし迎撃に出たモビルスーツや戦艦を蚊トンボのごとく落として、デストロイは火力を
アーモリーワンの港に集中した。コロニーの弱点である。
 バランスを少しでも崩すだけで、慣性の法則にしたがって、砂時計は折れていく。
 その光景を見ながら、こんなコロニーを作ったジョージ・グレンは馬鹿だとエルドリッ
ジ少佐は思った。従来のシリンダー型より住みやすいのが売りだが、堅牢性がない。フ
ァーストコーディネーターからして、コーディネーターは見かけにこだわる馬鹿だったと
いうわけだ。
 デストロイに引き上げ命令を出し、折れ曲がったアーモリーワンがゆっくり――実際は
すごいスピードで――円錐ごとぶつかっていくのを見守った。これでザフトは兵器製造の
拠点をひとつとかなりの人員を失った。ブルーコスモスと連合軍にとって喜ばしいことだ。
「デストロイが戻ったら、『スーパーコーディネーター』の戦闘中の分析を急いでほしい」
「はい。脳に刺激を与えたら戦闘力が上がりましたから、そのあたりをじっくりと」
 元アスラン・ザラの生体CPUとしての初戦は上出来だった。

 

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