Top > クルーゼ生存_第60話
HTML convert time to 0.005 sec.


クルーゼ生存_第60話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 03:12:44

「エターナルはミーティアを一機失いながら善戦。ミネルバはモビルスーツ隊にすべてを
任せて、陽電子砲を使いもせずですか。どう思われます、ミズ・テッサオリティス」
 部下の言に少し返答に詰まる。
「エターナルクルーの適性に応じた尽力と、ミネルバを前線に出さない艦隊司令の弱腰は
事実として認識しなければ。ただミネルバのモビルスーツ隊の戦い方はとても利口だった
と思わない?」
 クレオパトラはプラントの軍本部の一室で、真っ赤に塗った唇に皮肉な笑みを浮かべた。
「同意します。ただ、デスティニープランの実験船として、エターナルは最適な船だった
と思うだけです」
「そうね。ミネルバではデュランダル議長は他の実験をしているの。そしてそれもうまく
いっているようだわ。彼はプラント議長としての目的と科学者としての目的と、どちらが
大事なのでしょうね」
 戦線を整える間、デュランダルはフェイス専用回線で入っていたアレッシィからの進言
を読んだ『ミネルバを艦隊前面に出せ』。
 短い文面だったが、ミネルバの陽電子砲を使え、リフレクターを持つデストロイはモビ
ルスーツ隊が片を付けるという意味がこもっている。プラントに移民してきたラウと知り
合った日を思い起こし、自分は親友に甘えているなと唇をかんだ。

 
 

 時間や疲労度の問題もあり、シンとレイはパイロットの着替え室に隣接するシャワー
ルームで、全裸になって、顔と両手足を冷却マッサージ効果のあるシャワーで洗った。そ
れから頭の地肌を清涼成分が入っているペーパータオルで拭く。
「シン、なにかあったのか?」
「いや、ちょっと……。それよりレイのほうは大丈夫か? ドラグーンって相当神経使う
んだろ。疲れなかったか?」
「大丈夫だ、出撃前に薬を飲むことにしているからな」
 勇敢で愚かな親友は、薬に発作の予防効果があると思っていることだろう。あれは頓服
でしかないと知っているのは、この宇宙で三人きりだった。
 同じく一戦闘したあとのリフレッシュをすませたルナマリアと合流する。彼女の髪から
漂う香りに気を惹かれて聞いてみる。
「ああ、ペーパータオルに地球で買ったローズマリーのエッセンシャルオイルを一滴垂ら
したの。天然の香料の効き目って、すごくない?」
「うん、でもそんな趣味があったなんて思わなかった」
 くるりとルナマリアが振り向いて大きい瞳を見開いて言う。
「わたしだって女なの。男と女は違う個性を持っているって、ちゃんと認めなさいよ。赤
服のパイロットだから同等というのはザフトの基準だけど、私は私の個性を持って表現す
るために生きてる。あなたも自分を憐れむことを卒業したのなら、自分に誇りを持つこと
を覚えなさいよ」
「俺だって」
 とは言ってみたものの、プラント人になったとはいえザフトにしか棲みかを見つけられ
ていないのは事実だ。プラント名物エヴィデンス01を見たことがあるくらいで、プラント
の生活はザフトのフィルターをかけられたものだけだった。シンには、プラントのコロ
ニーに守りたいものはなにもないのだ。形でなく精神としてのコーディネーターの自主独
立、そして苦楽を共にしてきたミネルバの面々が生き残ること――艦長の死のあっけなさ
はシンに改めてモビルスーツという兵器の恐ろしさを教えた――が大切だった。
「ルナマリア、言いたいことはわかるが言い方が厳しい。俺もシンと同じく、プラントに
守るべき家族を持たない」
「あ、……ごめんなさい」
 プラントでは両親と子供二人という標準的な家庭が、全所帯数の10%にも満たないこ
とを忘れていた。
「準備はいいかね」
 室温を二度下げるような隊長の声が響いた。ただ、もうシンもルナマリアもこの隊長が
大好きであったが。
「10分後に出撃だ。ミネルバは艦隊前面に出るので、その間はコクピットにて待機」
「「「了解」」」
 アレッシィは要観察者のシン・アスカと分身のレイ・ザ・バレルに少し気をやるような
視線を見せたが、条件がどうあれ贔屓だの特別扱いだのはきらいなので、すぐに忘れた。
一瞬、前大戦の面倒な部下たちの顔が脳裏をよぎったが、そのまますいと脳のゴミ箱に捨
ててしまった。

 
 

 次々とモビルスーツが発艦する中、艦長代理アーサー・トラインは手のひらの汗を隠せ
ずにいた。プラント艦隊最前線へとの命令を受けた時、軽く脳貧血をおこしたと彼は確信
している。これまで一隻で敵と当たることが多かったので、前線で命のやり取りをするの
には慣れているつもりだったが、艦隊戦で前列に出て陽電子砲を撃ちまくれという指令は
アーサーには少々刺激的だった。
「陽電子砲、チャージ始めます」
 艦隊の編成がおこなわわれている間に、初手の一発をチャージする。先ほどの指示の後、
陽電子砲のチャージ時間とその間は通常のビームとミサイルで応戦のプログラムを砲術士
官が書き上げていた。アクシデントがなければ、ミネルバは敵艦隊左翼を壊滅させるシミ
ュレーションが彼のモニターに映し出されていた。
 ミネルバの乗組員は非戦闘員を含めて、軽い興奮状態にあった。地球のヘヴンズベース
戦で議長の御座艦だったとはいえ、プラントの本拠地である宇宙での艦隊戦で切り込み役
をやるというのは、ほとんどが宇宙生まれのクルーにとって特別なことなのだ。
 この会戦で有利に運べなければもうプラントには後がないと、兵士も市民も分かってい
る。最低でも独立を守る、本音は月に連合の人間を入らせたくない。地球人が領土や領海
を意識するようにプラント人は領宙権とでもいうべきものを持っていた。プラントを中心
に月の半分までの全球あたりが、その感覚だろうか。だからアルザッヘル基地は非常に嫌
われ、憎まれていた。
「モビルスーツ隊、発艦します」
 アビーの声が響いた。4機のモビルスーツがミネルバから離れて10秒で陽電子砲発射
だ。それはプログラミングされていて、最初のデスティニーが発艦すると同時に作動し始
めるのだ。
 モニターに主砲発射までの秒数があらわされる。目標は敵の前衛艦だ。
 ミネルバおよびザフト艦隊の皆が見守る中、予定通り主砲から陽電子砲が発射され、敵
前衛艦隊を崩すことに成功した。一隻に命中するとその艦はコントロールを失い、慣性の
法則のまま自軍の艦にぶつかってしまう。それが連鎖反応を起こすと、一回の主砲で10隻
以上の艦を戦闘不能にできる。無重力での戦闘では、戦艦やモビルスーツの破片一つが命
取りになることもある、非常にシビアなものであった。
 その戦闘開始を楽しげに見ているジャンク屋たちと感じているマルキオ導師。
 さきほどアスラン・ザラがシン・アスカに接触した気配が伝わってきた。あの二人を戦
わせる運命にしか導けなかった己を恥じるところもある。アスラン・ザラはオーブで立ち
直ったと思っていたのだ。自然と融和し戦う男の道を選んだと。しかし情報ではすでにヒ
トの姿をとどめぬ生体CPUだという。培養液につけられて、脳と直結した電線を通してモ
ビルスーツを操るだけの存在になったと。それも彼にとっては、自然、人も地球や宇宙も
含めたナチュラルを守るためなのだろうが……。マルキオはSEED因子が人類に革変をもた
らし、デミウルゴスの支配から抜け出せるのではと思ってきたが、アスランは完全に道を
誤った。彼の≪破壊≫というモビルスーツは、本当に破壊するだけだ。敵だけでなくパイ
ロットを。アスランはこの戦いを終えて命があれば、地球のコーディネーターの虐殺を始
めるのだろうとマルキオは思った。
 ミネルバの4機の行く手にはデストロイが漂っていた。電池の消費を攻撃に回したいの
だろう、無駄な加速はしないと見える。
 さきほど隊に合流したプロヴィデンスザクは一機になっていた。破片をよけ損ねてドラ
グーンが使えない状態になったという。
 向かってきた破片を落とせないとは二流のドラグーン使いだなとアレッシィは思ったが、
口では健闘をたたえた。もともとあまり期待していない。アレッシィの他者への評価は氷
山のごとく冷たいのだ。
 艦隊のビームが飛び交い始めると同時に、先行したレイのドラグーンがデストロイを囲
んだ。そこにアレッシィのドラグーンが絶妙なタイミングで中へ入り込む。
 シンはデストロイの四肢を切り刻むこれまでの戦法が有効だと思っていたが、この相手
なら、一か八か頭――メインカメラ――を落としてしまいたいと思った。パイロットが一
番頼るところでもあるし、精神的ダメージも大きい。インパルスの場合だとデュートリオ
ンが受けられなくなるから、ルナマリアならパニックになるだろう。
 その旨を隊長に願い出て、支援を受けることになった。ドラグーンの動きは素早く鋭角
的で非常に読みにくい。もう一機のプロヴィデンスザクのものと全く違う。隊長とレイの
能力に感謝しつつ、全幅の信頼を置いてデスティニーは光の翼をきらめかせた。
(やった!)
 シンはヘルメットの中で声をあげた。相手はいきなり頭を狙われるとは思っていなかっ
たようだ。確かにメインカメラだけであとはバルカンが付いているくらいだから、狙われ
ると思っていなかっただろう。

 
 

(うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎぎゃあ)
 デストロイのコクピットでアスランの脳が電気信号を発した。デストロイと一体化して
いる彼には、機体に与えられたダメージが直接痛みとして伝わるのだ。先ほどの戦いのよ
うなものだと、少し血を流すとそこがより敏感になるという程度のものだったが、このよ
うに頭を持っていかれるとは想像だにしていなかったのだ。
 矛盾する表現だが、アスランの脳内では自分の頭が剣で切り離されているのだ。その痛
みに神経が悲鳴を上げ、する必要のない呼吸ができないとの思いに襲われた。
 しかしブルーコスモスの理想、青き清浄なる世界のためにコーディネーターを鏖にする
という約定のために、空想上のアスランは手で頭を引きもどし、首に付けた。そしてデス
トロイ得意の全方位射撃を行う。この間約0.01秒。
 体中からビームをまき散らすデストロイに、多くの戦艦とモビルスーツが貫かれていっ
た。ミネルバ隊でもシンは右足をレイは左腕、ルナマリアは両足を失って換装する羽目に
なった。ただ隊長だけは白いプロヴィデンスザクを完全に保っていたが。
 ミネルバは直撃はそれたが、かなりの破片を浴び、機体のコントロールにブリッジはか
かりきりになり、陽電子砲発射のプログラムを一時止めなくてはならなかった。
 ザフトの宇宙軍はアーモリーワンに続いて、再びデストロイに恐怖した。

 

【前】 【戻る】 【次】