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クルーゼ生存_第61話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 03:13:31

「なんと一機のモビルスーツがあれだけの力を……」
 デュランダルの隣で軍事担当のホワイト議員がうめいた。彼が言いたかったが口をつぐん
でいた言葉を出してくれて、緊張が溶けた。彼は最高司令官である以上、こういうときに
驚いた顔や言葉は出してはいけないのだ。
「被害の報告を」
 いつもと同じ声だったと思う。指令室はキーボードを叩く音と艦隊からの入電で埋め尽
くされた。
「艦隊左翼、損傷率70%、うち40%は戦闘不能」
 連鎖反応に艦隊が弱いとはいえ、ここまでとは。
 デュランダルは首をかける覚悟を固めた。
「ネオ・ジェネシスの照準をあのモビルスーツに」
 指令室の空気が凍りついた。それはあのモビルスーツごと敵艦隊だけでなく、味方の大
部分も焼き払うことだ。
「は……はい。ネオ・ジェネシス、最小出力で敵モビルスーツデストロイに照準固定しま
す」
 首のとれたモビルスーツは宇宙に溶け込んで、一層不気味に見えた。
 パイロットのアスラン・ザラはメインカメラを壊されたことなど、気にしていなかった。
目を閉じていてもSEEDを解放した彼の脳には戦場の一部始終が三次元で浮かび上がる。
 彼の脳の状態はガーティールーに転送されていたが、研究者たちはメインカメラを失った
デストロイがここまで動けるのに驚愕していた。
「これは、分析してみないと理由がわかりません」
「彼のコーディネーターとしての力、エクステンディッドとしての力を超えています。今
の彼は、計算外のモンスターです」
「でも、命令は通じるのでしょう?」
 エルドリッジ少佐が質問する。
「はい、服従関連の脳波には異常ありません」
「なら、コーディネーターの殲滅を」
 地球のブルーコスモス本部では新盟主を決める会議に入っている。それが終われば、ブ
ルーコスモスは青き清浄なる世界を目指す組織としてもう一度再生することができる。今
は頭を押さえる存在がいないから、コープランドはいい気になっているようだが、誰が飼
い主か知らせてやらねばなるまい。
「あいつ、メインカメラがないのに……」
「焦るな。サブカメラに目を配れば同じくらい動ける。お前だってそのくらいできるだろ
う」
「――はい!」
 シンは隊長の言葉に元気を取り戻した。相手のほうが技量が上なら、こちらはチーム
ワークで戦うだけだ。さっきの一撃だって、ドラグーンの強力な援護がないとアロンダイ
トの届く距離まで行けなかった。

 
 

 アレッシィはネオ・ジェネシスが照準を変えつつあるのに気がついた。確かに味方を犠
牲にしても葬らなければならない敵だろう。だが、電池切れまで持っていけばこちらの勝
ちだ。デュランダルにしてもそこまで勝ちを焦らないだろうと、アレッシィは推測した。
 それはみごとに当たっていて、
「これがブラフとして利いてくれるといいのだが」
 とデュランダルはメサイヤの指令室で呟いていた。
 ただ当のアスランはコーディネーターを滅殺ことしか頭にないので、ネオ・ジェネシス
の照準変更はどうでもよかった。あのガンマ線レーザーが撃たれたら、ザフト軍も多くが
道連れになるのだから。
 連合、ザフトの両艦隊司令部は息をのんでいた。
 あれだけの兵器をまだ持っていたプラントにさらに警戒感を強める連合。
 ザフトはプラントとしては一番大事な資源である人間を犠牲にしても、政府はこの会戦
を勝利で終わりたいのだと理解した。
 だが同じ人類であり、コーディネーター二世同士とコーディネーターとナチュラルのカ
ップルを比較するなら、後者のほうが圧倒的に子孫を残せる率が高いというのに、時代遅
れの民族差別に踊り戦うのだろう。アレッシィのような、どちらにも本質的に感情移入で
きないものには異様な光景だった。ただ彼はザフトの軍人であり、その責務は十全に果た
すと決めているが。
『聞こえるか、シン・アスカ』
 シンは大きく深呼吸した。頭で『アスラン・ザラだな』と考えると、また赤い糸がデス
トロイに伸びていった。どうやらこの不思議な緑の糸と赤い糸でアスラン・ザラと会話が
できるらしいと、シンも飲み込んだ。しかし先ほどの思考の奔流はなんだ。レイプされた、
と思う。頭の中に勝手に印を刻みつけられたようで不愉快極まりない。
『お前の力があればオレと一緒にザフトとプラントを全滅させることもできる』
『俺はザフトの軍人だし、お前のようなコーディネーター否定論者じゃない』
 戦いが再開していた。
 シンはアロンダイトで連合の艦隊を切り裂きながら、デストロイの隙を窺っていた。
『コーディネーターは悪魔として作られた生物だ。生きていてはいけないんだ、どうして
わからない、シン!』
『コーディネーターとネチュラルの遺伝子なんて、たいして変わってるもんじゃない。ど
うしてブルーコスモスは、そんなにコーディネーターを憎むんだ。ナチュラルよりちょっ
と宇宙生活向きの体をしてるだけだ!!』
 アスランとの会話方式を不本意ながら飲み込んだシンは、言いたいことをぶつけた。彼
だって好きでナチュラルを殺しているわけではない。彼の初恋はナチュラルの、知的障害
があって、エクステンディッドにされて戦うことしかできない少女だった。
『あんたに俺がどんな気持ちでステラを殺したかわかるか? プラント議長のぼっちゃん
に!』
 シンの何げない言葉は、アスランのコンプレックスを直撃した。
 またデストロイの全方位攻撃が行われたが、今度は位置が悪くさしたる被害は出なかっ
た。
『お前に何がわかる。父の政治的な野心のために、月に捨てられるようにして育ったオレ
の気持ちが!?』
『そんな昔のこと知るか、ボケ! 家族と一緒に暮らしたかったら親に泣きつきゃいいじ
ゃん。うちの親なんて逆に、俺がヘリオポリスの工業カレッジに行きたいっつったら、子
供だから駄目だといいやがった』
 ただ親のわがままもおかげでヘリオポリス崩壊に巻き込まれずにすんだし、最後まで家
族四人でいられた。あのビームで焼け焦げたマユの右腕。蒸発して地面に人型を残した両
親。絶望して涙を流した夜のことはけして忘れない。自分の子供――コーディネーターか
ハーフコーディネーターかわからないが――にも語り継ぐ。無責任な政治は、民間人を殺
すと。
 赤い光の糸を伝って、シンの人生がアスランに流れ込んだ。またその逆も。
『お前ってやつは――父親に認められたいからなんて甘ったれた理由で、戦場に。裏切り
者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
 デスティニーのアロンダイトが、デストロイの首があった場所にめり込んだ。
『ブルーコスモスの啓示を受けて生まれ変わる前のオレはオレじゃない。父も母も悪しき
コーディネーターだ。オレは前大戦で正しいことをした。そしてブルーコスモスの光を見
つけたんだ』
『かまってくれなかった父親へのコンプレックスだろうが。ダッドが可愛がってくれなか
った、ダッドに政治の道具として婚約させられたって、そんなにお前は不幸かよ。プラント
は食っていくのがやっとだし、地球には想像もつかないようなぜいたくな生活もあれば、
一日1アースダラー以下で生きてる人も山ほどいるんだ』
 ずぶずぶとアロンダイトがデストロイに切り込んでくる。
 デスティニーの核分裂がもたらす大出力が利いているのだ。
 カガリのような金持ちがいる一方、オーブにも貧民はいた。しかしそのことをいやしい
コーディネーターに指摘されるほど、不愉快なことはなかった。地球は様々な問題を抱え
ている。その一つで最も大きい問題が『コーディネーター』の存在だと、なぜ気がつかな
いのか?
 コーディネーターの遺伝子が全滅すれば、青き清浄なる地球には貧民などいなくなる。
アスランはそう信じていた。
『その貧富の差すら、オレたちコーディネーターの責任だ!』
『お前は……狂ってる。人間だれだって明日がほしいんだ。でもお前が望む明日は、間違
ってる!!』
 シンは自分の赤い糸をひっこめたが、コクピットに入り込んだアスランの緑の糸を処分
する方法は思いつかなかった。
「いけえぇぇ、デスティニー!!」
 動力炉を最大にあげて、デストロイを縦に真っ二つにする。シンはそのことに集中した。
 コクピットを緑糸の糸が跳ねまわる。頭の中で、アスラン・ザラのごちゃごちゃする声
がしたが、それはきっぱりと遮断した。

 
 

 あの分からず屋は、いったい自分が何様だと思っているのだろうか?
 卑しいコーディネーターの生きる道を教えてやろうとしている先達に向かって、剣を振
り上げて。だからコーディネーターは野蛮だ、汚らわしい。アスランの脳は混乱し、デス
トロイのまだ生きている部分からさまざまな色のビームが飛び出ていく。しかしさっきま
でつながっていたシン・アスカの赤い糸はない。オレとあいつがいれば、全宇宙のコーデ
ィネーターを始末できるのに。アゴストやタニスではダメだ。あの赤い瞳の少年でなけれ
ば……。

 
 

 アロンダイトがコクピットに達した。
 シンは奇妙なものを見た。コンソール型のステラのデストロイのコクピットと違って、
ガラスの大きなカプセル。そこに浮遊する禿頭の人間の形をしたもの。
 ガラスが敗れる瞬間、緑色の双眸がぎろりとデスティニーの中の自分を睨みつけたよう
な気がして、寒くもないのにぞくりとした。
 あれが生体CPUの末路。
 デストロイを切り裂きながら、シンは人間を機械の一部にする強化人間というシステム
への怒りを新たにした。モビルスーツのパーツとしてしか生きられない人間、そんなもの
を作るブルーコスモスと連合への怒りがある。
 戦況はかわり、ザフトが優位に立っていた。
 シンがデストロイを相手にしている間にレジェンドとインパルスが先頭に立って艦隊戦
に持ち込んだのだ。シンは同僚の活躍を見てほっとした。いい悪いは別にして『人間の戦
争』だ。シンは連合が強化人間の研究を中止するよう強く願った。
 爆散するデストロイから逃げるように、ミネルバの親友に合流する。一番効率よく敵艦
を戦闘不能にできるのはレイのドラグーンだ。
 連合軍も対モビルスーツ戦のエースはデスティニーだが、対艦隊戦ならレジェンドだと
見てとったらしく、レジェンドに砲火が集中する。
 隊長のドラグーンが援護に回った。
「援護は必要ありません」
 きっぱりとした冷静な声。
「ならば停戦まで生き延びろ」
 レイと隊長は考え方も声も似ていると、シンはいはっとした。レイの前大戦で死んだ年
の離れた兄とはもしかして……。あれだけの実力のある軍人なのに、隊長の身元は議長し
か知らない。生き延びたが何か理由があって、名前を変えて生きているのだろうか。
「シン、右側がお留守!」
 ルナマリアの声に我に戻った。レイは親友だし、隊長は尊敬する上司だ。今はそれでい
い。
(そろそろかな)
 指令室でデュランダルは平静を装っていた。しかし指令室には熱気が戻り、戦いの趨勢
が決まったとだれもが思っている。彼にしてもこの状況でコープランドがごねるとは思わ
ない。ブルーコスモスより巨大なスポンサー、有権者の存在を思えば大統領の意地で死者
を増やすのは避けねばならぬ。彼の任期はまだ二年あったし、再選も狙うつもりだ。
 こちらは連合軍の旗艦のコープランド。苦虫をかみつぶしたような顔で戦場を見守って
いる。
「――デュランダル議長にホットラインを」
 この屈辱はいつか返して見せる。しかし今日は負けだ。
 二人の首脳が停戦交渉を始めた。

 
 

 そして、レジェンドが敵モビルスーツの直撃を受けた。

 
 

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