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クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第029話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:31:18

第二十九話 『どうでもいいんですよ』
 
 
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ロドニアのラボをそれからもくまなく捜索したが、
これといったものは見つからなかった
せいぜいが、強化人間の資料ぐらいだろうか

(こんなものを持ち帰るのは、気が進まないが・・・・)

アスランはラボの前に組まれたキャンプで、報告書をまとめていた

強化人間の資料は、確かに見ていてあまり気持ちのいいものではない
しかしこの非人道的な実験の数々は、ある意味では貴重な医療の資料である
また、この実験を暴露することで、ロゴスやブルーコスモスといった勢力を糾弾することもできる

「レイ、体のほうはもう大丈夫なのか?」

ふと、目の前を通った金髪の美少年に、アスランは語りかける

「大丈夫です。心配をかけて申し訳ありませんでした、艦長」

レイが敬礼してくる。確かに、体調はよさそうだった

「あんな気分の悪いものを見せられてはな。体調を崩すのも無理はない
  まぁ、連戦続きだった。もう少し休んでいてもいいんだぞ?」
「いえ。今がこの戦争の正念場でしょう。休んでなどいられません」
「そうか・・・・・。しかしそろそろ終戦も見えてきたかな」

アスランはつぶやき、黒海での戦いを思い出す。ニコルはともかく、
連合艦隊の一個師団をほとんどまるまる降伏させたのは大きい
これでロゴスの強硬派はともかく、地球連合の政治家は和平を考えるようになるだろう

「この戦争、終わるのでしょうか」

レイがふと、そんなことを言ってくる

「終わるだろう。いくらコーディネイターが憎いと言っても、このまま戦争が続けば、
  どうなるかわからないほど地球の政治家も馬鹿じゃないさ」
「いえ、確かに一時的な和平は結ばれるでしょう。しかしそれではまた繰り返しではありませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「戦争を起こさないように、この世界を作り変える。それほどの荒療治も必要かと思います」
「それは政治家が考えればいいことだ。軍人の問題じゃない。それともレイ、おまえこの戦いが終わったら。
  政治家にでも立候補する気か?」
「・・・・・・それも悪くありません」

レイはそう言い残し、去って行った。その話題が冗談だったのかどうか、アスランにはわからない

(参政か・・・・・)

アスランの父は、いまなおプラントに影響力を持つコーディネイター過激派の首領、パトリック・ザラである
本来ならばアスランは、政治家になるべきだった

終戦後、自分はどうするのか。考えたことなどなかった
ただ、ニコルは殺すべきだと心に思い定めている。例え軍人でなくなっても、
ただの恋人を守れなかった一人の男として、ニコルだけは殺すべきだった

決まっている予定が、復讐だけというのは、いくらか馬鹿げていたが、どうしようもないことだった

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目の前で一人、女が死んだ。腕の中で死なせた
軽い気持ちで口説いた女の面影が、まだ心の奥でわだかまっている

エスタルドが降伏し、フリーデンは逃亡した。その前からガロードは行方不明になった
テクスが行方不明になったのも、そんな頃だ
それから新連邦の追撃をかわすため、レオパルドは戦い、大破した
それをキッドが修復し、ガンダムレオパルドは生まれ変わった

しかし、エスタルドから北へ進路を向けた時、フリーデンは月から奇妙な光を受けた
気がつくと奇妙な世界にいた。他のクルーも見当たらず、ここがどこなのかはよくわからない

(にしてもガロード、派手にやってくれちゃって・・・・)

ロアビィ・ロイは、ガンダムレオパルドデストロイのコクピットで、のんびり寝転んでいた
手には雑誌がある。オーブの出版社が発行している週刊誌である

そこのメイン記事に、ヤタガラスクルーの紹介があった
艦長のアスラン・ザラを筆頭に、シン・アスカやルナマリア・ホークといったパイロットがいる
それはいい。問題なのは、見知った顔がいることだった

ガロード、テクス、シンゴ、トニヤ、キッド・・・・。特にガロードは、大きく誌面が割かれて紹介されている
オーブ防衛戦で大活躍したことや、そのほかの驚異的な戦果ももらさず紹介していた

「見知らぬ世界で戦争やってどうすんのかね・・・・・ふぅ・・・」

ロアビィは雑誌をコクピットのホルダに放り込むと、コクピットハッチを開けて空を見た
青い空が一面に広がっている。眼下には森があり、地中海が陽光を反射してきらきら光っていた

レオパルドで運び屋や雑用なんかをやって、適当に食いつないでいた
ガロードと合流しようかと思ったが、どうにも戦争をやろうという気にはなれない

ただ、時間だけが過ぎていっていると、ロアビィは思った

(・・・・・あなたって子供ね。カッコつけてるけど、結局答えを出さずに逃げてばっかりいるのね)

女の声がよみがえる。ロアビィは苦笑した

「仰せの通りで。ふぁぁぁ・・・・」

大あくびをして起き上がり、周囲を見回す。平和なものだった。黒海や地中海ではかなりの激戦があったようだが、
それが嘘みたいな静けさだった

(・・・・・ん?)

ロアビィは気配を感じた。長きにわたって傭兵として、疾駆してきた男である
並の軍人よりはるかに優秀な能力を持っている。そのセンサーが、異常をとらえた

「レオパルドになにか用かい! そこのお二人さん!」

コクピットハッチから、レオパルドの足元を見つめる。そこには一組の男女がいた
どちらもロアビィと同じ年頃と思われる男女で、男の方はどちらかというと軟弱っぽい優男
女の方はピンク色の髪が派手だが、凛とした雰囲気を持っていた

「申し訳ありません。あなたはここでなにをしてらっしゃるのですか?」

女の方が聞いてくる。ひどく聞き心地のいい声だと、ロアビィは思った

「別に・・・・。暇だから昼寝してただけだよ。そういうあんたらこそ、怪しいぜ?
  まさかとは思うが、MS泥棒じゃないだろうな?」
「それはありませんわ。・・・・・もしもお暇なら、わたくしたちを手伝ってくださいませんか?」
「手伝い? 別にいいけど、俺は金取っちゃうよ。フリーのMS乗りなんでね」
「構いません。お金ならあります」
「オッケ。で、なんの仕事だ? ・・・・・ラクス・クラインさん?」

言うと、男の方が女の前へ出て、いきなり銃を構えてきた

「ラクス、下がって」
「おだやかじゃないねぇ・・・・。英雄ってのは、そんなにつんけんしてんのかい、キラ・ヤマト?」
「・・・・・・・・・・・。」
「別にザフトに突き出そうとか、そういうことは考えてないさ。ただ、
  あんたらは絶賛指名手配中の有名人だからな。警戒して当然だろ?」

どんな形であれ、フリーのMS乗りは情報が命である。見知らぬ世界とあらばなおさらだ
ロアビィはこの世界に来ると同時にすぐ情報収集を行い、大方の理解をすませていた

キラ・ヤマト、ラクス・クラインはプラント、オーブ両国から指名手配を受けている犯罪者である
だが前大戦の英雄でもあった。そこが事情の複雑なところだ

「濡れ衣だ・・・僕たちは・・・・・!」
「おおっと、キラさん、まずは銃をしまおうか。銃を突きつける話し合いなんか、俺はごめんだかんね」
「・・・・・・・・・・・・。」

キラはしぶしぶといった様子で、銃をしまう。ロアビィはそれを見届けると、にやりと笑った

「ま、俺はあんたたちの事情なんてしったこっちゃない。払うもん払ってくれりゃ、
  ちゃーんと仕事はしますよ。相手が誰だろうがね」
「・・・・・お願いしますわ。あなたのお名前、聞かせていただけませんか?」
「ロアビィ・ロイ。で、こいつはガンダムレオパルドデストロイだ」

ラクスが頼んだ仕事とは、MSのサルベージだった
両手両足を失ったMSが、地中海の浜辺で無残に横たわっている
これを近くにある艦まで運んで欲しいらしい

「へぇ・・・・うわさのフリーダムじゃない、これ。派手にやられたんだねぇ・・・・」
「・・・・・・・・。」
レオパルドから降りてロアビィが言うと、キラはうつむいた
彼は前大戦では凶悪なまでの強さを誇ったと言われるパイロットである
敗北を許せないぐらいのプライドは、持っているだろう

(ま、こっちの世界のことなんか、どうでもいいけどね)

ロアビィはキラを尻目に、レオパルドに乗り込んだ

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ベートーベン、1808年作曲。元は『テレーゼのために』というタイトルだったが、
作曲家の悪筆により、『エリーゼのために』と誤解された曲

今なお世界に愛される名曲である。どれだけの人がこの調べにあこがれ、ピアノ弾きになったのだろう

懐かしい感触と共に、ピアノをはじく。旋律が流れる。いいぞ・・・もう少し

・・・・・・・ジャン!

「うっ・・・・!」

ピアノを弾いていた指が、目標を間違える。優しい旋律が途切れ、無様な音を立てる

ニコルはぼんやりと自分の指を見つめた。包帯を巻かれ、焼けただれた自分の手
醜くなった自分の手。かつてしみ一つなかったこの手が、どれほど優しい旋律を奏でていたのか

「へっ、ピアノかよ? 似合わないんじゃねぇ、その趣味」
「アウルか・・・・あまりくだらないこと言うと、殺しちゃいますよ?」

ニコルは部屋の扉付近で立っている少年に、包帯まみれの顔を向けた
さぞ、他人には自分の姿が異様に映っているだろう

かつてデュランダルが隠れ家として使っていたプラントにある、屋敷である
しかしすでに主はいない

「はん! あんたが言うと冗談に聞こえねぇのが嫌だな」
「で・・・・・・どうしました、なにかあったのですか?」

ニコルはピアノを閉じて、松葉杖を手に立ち上がる。キラ・ヤマトにやられた傷は、
今もなおまともな歩行すら許してくれない

「俺たちはザフト正規軍に参加せず、裏方に回れとさ。デュランダルからの通達だよ」
「・・・・・・・・・・なるほど」

デュランダルの入れ替えはうまく終わった。ただ、ニコルはすでに死人であり、
アウルにいたってはザフトからMSを強奪した犯人である
それにユニウスセブンを落としたり、ヤタガラスを襲撃したり、カガリを殺したりしていた

新しいデュランダルのそばに自分たちがいれば、不都合だろう
それに、正規軍で動くより、今までのように裏方で動くことにもうニコルは慣れていた

「で、新しい命令だよ。ラクス・クラインとキラ・ヤマトを殺せってさ
  位置のデータは後で送るって」
「・・・・フフフ、なかなかわかってますね、あの男も」

ニコルはにやりと笑い、ピアノを閉じた

松葉杖をつき、屋敷の外に出る。外ではティファが、熱心に花壇へ水をやっていた

「ティファ、出ますよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ティファが冷たい視線をこちらに向けてくる。自分を恐れないのは、たいした度胸だとニコルは思った

ティファに対する洗脳は、はっきり言って弱いものだ
むしろ催眠術に近い。どういうわけか彼女は、洗脳とかそういうものに対して強力な耐性を持っている
一応、命令されたことはこなすが、自我ははっきりと持っていた
そしてデュランダルに対して、明確な反発も持っている

「別に死ねと命令してるわけじゃないんですから、もっと愛想良くしてくれませんかねぇ・・・・? ヒヒヒ・・・・」

ニコルが嘲笑すると、ティファは屋敷の方を見た

「ピアノが・・・・好きなんですね・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
思わぬ言葉に、ニコルは口をつぐむ
「憎しみに心をつぶされてるけど、あなたは本当は、優しい人・・・・・」
「黙れ」

ひどく不愉快なことを言われたと、ニコルは思った。見透かされるようなティファの目つきが、
心をいらだたせてくれる。松葉杖でなければ手をあげていた

「ククク・・・・昔のことなんかね、どうでもいいんですよ。僕は世界に八つ当たりをするだけです」

嘲笑して、ニコルはふと考える。キラ・ヤマトやラクス・クラインと戦った後のことを

できれば、二人とも生け捕りにするのがいい
キラを拘束した目の前で、ラクスを裸にひん剥く。
それからラクスのツメを一枚一枚はがしていき、歯も一本ずつ抜いていく

そんな拷問を行うのだ。そうすればキラ・ヤマトは、ラクス・クラインは、どんな声で鳴くのだろうか
どんな叫び声をあげてくれるのだろうか。考えただけでたまらなくなる

ラクスの拷問の後は、キラ・ヤマトの心を壊してやりたい。
心を壊して、小便を垂れ流しても気づかないような男にしてやりたい
ニコルはそう考え、にやりと笑った