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クロスSEED第08話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 23:20:46

第八話「我ら全てが栄光へ」

 オーブ議会は混乱の極みに達していた。国の長が突然拉致されたのだから、それも無理もなかろう。
 そして反連合派の巻き返しもまた、議会混乱の一因と言えた。
 軽傷ではあるが、デュランダル議長負傷の報が入ったのである。
 確かに死亡でない以上、ザフトの自作自演の可能性は残る。
 が、ザフトがミネルバ襲撃事件の犯人だというのは元から無理があったこじつけである。
 ならば犯人として一番可能性が高いのは、連合に他ならない。少なくとも彼らの常識では。
 友好を結ぶにあたり、自国領内でそんなことをする連中を信頼できるか。まして片方のMSは、首長たるカガリを拉致しているのだ。
 それが反連合派の主張。
「ならば、諸君は国を焼けと言うのかね。かつてのウズミ様のように」
 いらだちを隠さずに、ウナトが言った。
 反連合派の意見はもっともである。拉致犯が連合のパイロットだとすれば、ここで同盟を結ぶのは、国の面子に関わる。
 しかし、それで戦争になれば、二年前の再現ではないか。
「ザフトと結ぶのは論外だ。先にオーブが潰されるからな。駐留ザフトを、連合とともに叩き、宣戦布告。これがオーブのためになる。なにか代わりの意見はあるのか?」
「ザフトを利用すればいいのですよ」
 ウナトの言葉に答えたのは、そこにいる誰でもなかった。
 開け放たれた扉の向こう。声の主に、視線が集まる。
 ウナトが信じらんないものを見るかのような顔でそちらを向く。
「ユウナ……?」
「結ぶのではありません。ザフトに兵を出させ、奇襲を以て連合の出鼻をくじく。連合とて爆弾は抱えてます。それを爆発させればよいのです」
 結婚式以来ふさぎ込んでいた息子。頼りない、信念もなかった息子。その息子が、自信満々にそう言い放っている。
 驚くウナトを余所に、ユウナがつかつかと部屋の中央へ歩を進める。
「国はあなたたちの玩具ではない。戦争が始まればそれで終わりでもない。戦後、国の立場は?その時、国民の立場はどうなります?」
 実を言えば、親連合派も反連合派も、戦後のビジョンを持つものはいなかった。
 ただ、己の感感情を優先させた意見をぶつけあっていただけだ。
 それを見透かしたように、ユウナが部屋を一瞥する。
「我々の歩むべき道は二つある。このまま永久に連合の犬となるか。我ら全てが栄光へと進むか」
 言うユウナの顔に、優柔不断なウナトの息子の面影はなかった。

「ならば、我々に協力していただけると?」
「ええ。ただし……」
「道を分かつべきとあなたがたが感じた時、ザフトから離れる。いいでしょう。私としても、異邦人のあなたたちを縛り付けるつもりはない」
 言うデュランダルの口調は、どこかうわずっていた。
 ベラ・ロナ。
 宇宙海賊クロスボーンバンガードを束ねる"女王"
 初めて話し合った日、そうとは信じられないほどに無気力な姿を晒していた。
 しかし、今日は違う。凛とした雰囲気、気高さ、見る者を引き込まんばかりのその瞳。
 なるほど、ともすれば空中分解しかねない、宇宙海賊という組織を率いていられた理由がそれだけでわかる。
 人はカリスマについてゆく。あのラクス・クラインを思い出せば、それは否定できない事実。
 まして、それに確固たる信念と、確かな指導力があれば、その組織は強大な力を持つ。
 ベラはそれを全て持ち合わせている。デュランダルの目には、そう映った。
「……協力しましょう。この世界の戦争を早く終わらせるために」
 ほうと息を吐き、言い放つベラは、やはりどこまでも気高かった。

「あなたがトビア?ねえ、地球のこと聞かせてちょうだい!」
「うわあっ!?」
 MSデッキに出てきた瞬間、かけられた声にトビアは飛び上がった。
 トビアの前には、一人の少女が立っている。赤いパイロットスーツを着た、トビアと年齢がさほど変わらぬ少女だ。
 前髪が跳ねていて、パイロットスーツと同じく、髪も赤い。そして顔から少し下に目をやると……
「ベルナデットより……大きい?」
「え?」
「い、いやなんでもないよ。と、ところで君は?」
 パイロットスーツに抑圧された胸に目をやり、ベルナデット本人が聞いていたら、顔を真っ赤にしながら怒りそうな言葉が出る。
 少女には聞こえていないようなのだけが幸いであった。
「わたし、ルナマリア・ホーク。見ての通り、"赤"よ」
「あ、赤?」
 ルナマリアの言葉に、トビアが素っ頓狂な声をあげる。
 確かに、ルナマリアのパイロットスーツは赤い。髪も赤い。しかし、"赤"と自己紹介されても意味がわからない。
 一方、ルナマリアはこれで通じるつもりだったのだろう。怪訝な表情でトビアを見ている。
「ああ、そうだった!すごいねルナマリア!」
 ベラから聞いた"ザフト"のことを思い出し、ほとんど棒読みで答えるトビア。
「なんか馬鹿にされてるみたいに聞こえるんだけど……」
 ルナマリアは納得のいかぬ表情をトビアに向けている。
「エリートらしくないってことだろ。少しは大人しくしてろよ、ルナ」
 苛立つように、ルナマリアへと向けられた言葉。声の方向には、ルナマリアと同じ赤いパイロットスーツの少年が立っていた。
「なによシン、自分がフリーダムの足止めもできなかったからって、わたしに八つ当たりしないでよ」
「っ!」
 その一言で、シンと呼ばれた少年の顔に、怒りの色が浮かぶ。
 どん、と音がした。シンが壁を蹴った音である。
「いや……えっと……とにかく落ち着いて」
 トビアがシンをなだめるが、当然シンは収まらない。
「だいたい、アスハの結婚式の護衛なんてやりたくなかったんだ!それに加えてフリーダム!あいつに……あいつに!くそおおおっ!」
 言うが早いか、通路へとシンは駆け出した。後に残されたトビアは、ただぽかん、とするしかなった。

 飛び立ったアビスは、息をつく間もなく海へと沈んだ。
「アウルで大丈夫でしょうか」
「ガイアは海で役立たず、カオスは空から侵入するしかないし、しょうがないさ。わざわざこれだけのためにOSを書き換えるのも、ちょっとな」
 レーダーから光点が消えるのを確認し、仮面の男がやれやれと肩を竦める。
 地球連合オーブ方面派遣軍旗艦・JPジョーンズ。そのブリッジに、ネオは居た。
 オーブと同盟を結べば、そのままオーブ艦隊を組み込んで地球のザフトを攻撃するための旗艦として機能する戦艦である。
 もちろん、それだけのためだけの存在ではない。率いた艦隊を含め、そのままオーブに対する言外の脅しとしての役目もある。
 この大艦隊を見たオーブの反連合派は、逆らおうという気を無くすであろう。
「しかし、注意深すぎではありませんかな。アビスを先行させて、オーブの動向を探るなどと」
「ザフトの部隊がいくつかオーブ国内に入った形跡がある。それに、代表が拉致されたという噂もあるしな。気を使うだけ使うのは悪くないぜ。戦争も、女もな」
 心配する副官のイアンを茶化すように、ネオが言う。
 確かに、ここ数日のオーブの動きはおかしい。先日入ったユウナ・ロマ・セイランからの通信も、あまりに下手に出すぎていた。
 JPジョーンズが大海原を進む。
 先に待つのは、ねぎらいか、血の歓迎か。
 ネオの視線は、遙か遠くへ消えたアビスを追っていた。