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クロスSEED第11話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 23:21:59

『あなたたちは何様のつもりなのですか!拳を下ろせと言って、自らは刃を振り下ろす!それでは……』

 怒りとともに、吐き出す言葉。
 美しいと思った。愚者どもが感服しきるまで聞いていたいと思った。
 しかしベラの言葉を、最後まで聞いている暇はない。

「そう、ベラ・ロナの、貴族主義の邪魔となる者には死を」
『え……?』

 MSたちの舞う空域を、一条の光が貫く。
 それはMSたちの間を縫うように疾り、白い戦艦の左足に突き立てられた。
 犯人は、言うまでもない。F91がこちらへと振り向く。理想の世界を作り上げてくれる、己の"主"が振り向く。

『ザビー……ネ?』

 "己の姫"に誇示するように大きな砲を構え、X2がそこにはいる。

「見ていてくださいベラ様。今より奴らに罰を与えます」

 冷静な、それ故に狂気を孕んだ言葉。再び砲、バスターランチャーを艦に向け、照準を合わせ。

「……ちっ!やはり出てきたか!」

 艦後方から赤いMAが飛び出し、X2が慌てて放り出したバスターランチャーが破壊された。

『はははっ!やっぱり出てきたね、ザビーネ!』

 赤いMA、クァバーゼの頭部から強力なビームが放たれる。

「やはりカラスの言う通りか……」

 いけ好かない工作員の言ったことを思い出しながら機体を急降下。
 ギリ。カラスの"教え子"の中でも最も優秀な"ニュータイプ"
 X2と同型機であるクロスボーンガンダムX1を封じるために結成された特殊部隊、"デスゲイルズ"の隊長を務める少年。
 乗機であるクァバーゼは攻撃に特化した機体であり、その火力は、下手な戦艦なら一撃で沈めるほどである。

「キラ・ヤマトの前座としては最適か」

 くくく、と笑いながらビームサーベルを抜く。
 そう、宴は始まったばかりだ。
 オーブの海中は美しかった。
 時折、撃墜されたウィンダムやムラサメ、ザクが落下してくる以外は平和だった。

「これが地球の海か……」

 トトゥガのコックピットでバーンズが呟く。
 木星の過酷な環境にいた彼にとって、この光景は羨ましく、そして妬ましい物だった。

「まあそれはともかく、だ」

 ふと上を見つめる。アークエンジェルに搭載されていた、一機の作業用が降りてくる。

「……すまん、バルドフェルド」

 出撃したはいいが、海中で身動きのとれなくなったトトゥガの中で、バーンズは恥ずかしそうに謝罪した。
 恥ずかしさで、レーダーに映る光点に気づかなくとも、それはバーンズのせいではないだろう。
 多分。
 地球連合軍は壊滅状態であった。
 オーブ軍の奇襲に始まり、前大戦の"戦犯"アークエンジェルの乱入。
 さらには、以前オーブ近郊でウィンダム隊を壊滅させたMSの片割れの乱入。
 これで指揮系統がズタズタにならないほうがどうかしている。
 指揮官であるネオが乗った、パーソナルカラーのウィンダムが白いザクと交戦している。
 スティングの乗ったカオスが、ムラサメ隊に追い回されている。
 ステラの乗ったガイアが、艦上でビームライフルを乱射している。
 全滅は時間の問題であり、苦労して手に入れた"セカンドシリーズ"を奪取、または破壊されるのももう間もなくだろう。
 だから、自分がやらねばならない。なにしろ、"騙された"のはアウルの責任であるから。
 アビスをMS形態に変形させ、急浮上。両肩の砲を開く。ロックしているのは、フリーダム。

「お待たせ……ってねえ!」

 ビームの雨がフリーダムを襲う。存在すら感知していないMSの、広範囲の一斉砲撃。
 避けられないはずだった。よしんば避けらても、ダメージを負うのは確定していたはずだった。
 そして、フリーダムが視界から消えた。

「なっ!?くそおっ!」

 再びフリーダムが視界に入った時、アラートが鳴っていた。
 左のバラエーナ改にビームサーベルが直撃。同時に左腕が吹き飛ばされる。
 とっさにビームランスで牽制しなければ、右も同じようにやられていただろう。

『もう戦いをやめるんだ!』

 フリーダムから通信が入る。
 "騙され"、怒るアウルには逆撫でにしかなっていない通信が入る。

「くそおっ!」

 怒りに任せて胸部のカリドゥスを放つ。

「ぐああっ!」

 当たり前のように避けられ、無事だった右腕も破壊された。

「畜生……こんな……」

 飛び去るフリーダムをアウルは、推力を失って海上に浮くアビスの中で見送るしかできなかった。 意識が遠のいてゆく。
 被弾し、戦域を離れゆく母艦を守るようにフリーダムが遠のいてゆく。
 赤いMAが視界に入った。黒いMSとやりあいながら、その距離をとってゆく。
 やがて、大天使が視界から消えた。

「……撤退だ」

 次々と撃墜されるMS部隊を見ながら、ネオは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
 やっとのことで回復したJPジョーンズのレーダーには、味方機を示す識別信号がほとんど表示されていない。
 完敗だった。圧倒的な戦力を投入しながら負けた。
 確かに、オーブの離反は計算外だった。ザフトの物ともオーブの物とも知れぬ最新鋭機の存在も計算外だった。
 そして、アークエンジェルと、謎の黒いMSの乱入。
 ここまで計算外が重なっては、勝てと言うほうが難しい。戦争なんてそんなものだ。

「アウル……すまん。必ず迎えに行く」

 視界に、オーブ艦に曳航されるアビスが入る。今から回収に向かうのは自殺行為だろう。
 JPジョーンズから撤退の信号弾が上がった。残ったウィンダムが、ムラサメ部隊に追い回されていたカオスが戻ってくる。
 オーブとザフトは、フリーダムと赤いMA、黒いMSに目が行っている。
 連合艦隊が逃走するのに、そう時間はかからなかった。
 ザビーネが誘い出されたと気付いた時は、もう遅かったのかもしれない。

『ちょうどよかったよザビーネ!カラスが僕たちを襲撃したことの真意を聞こうか!』

 言葉と同時に、後退しかけていたクァバーゼがMS形態に変形。スネークハンドを伸ばしてX2の両腕を狙ってくる。
 カラスがザビーネと共に行動していると踏んでのカマかけか、或いはカラスと合流したところを見られていたのか。
 どちらにしても、ギリはザビーネを殺すつもりはないようだ。
 なにしろ重要な情報源である。無力化させたうえで聞き出すつもりだろう。
 機体性能はX2に圧倒的なアドバンテージがあるが、X2は木星帝国によって丸裸にされている。
 そして自分は遙か後方のF91、フリント、フリーダムやザフト、オーブ軍にも攻撃されて文句を言えない立場なのだ。

「……くっ!」

 機体を反転させ、一気に戦場を離脱する。
 X2の機動力は、F91やフリーダムすら上回る。クァバーゼが追撃をかけてくるが、無駄なあがきだった。

「これでは……トールやカラスになにを言われるかわからんな」

 みるみるうちに遠ざかる"ターゲット"を尻目に、ザビーネは歯ぎしりしていた。
 ミネルバの格納庫は、次々と帰還してくるMS部隊の"歓迎"に、大騒ぎであった。

「ちくしょう!なんなんだあいつらは!」

 中破したインパルスをミネルバに収容し、コックピットから降りたシンは、それと同時に叫んだ。
 ザフト、オーブ連合軍の勝利は目前だった。
 大混乱に陥った連合軍は、牛刀に斬られるバターのごとく、その戦力を減らして行った。
 そう、勝利は掴めていたはずなのだ。
 だが、現実は違った。乱入してきたフリーダムたちに、ザフトオーブ連合軍までもが大混乱に陥った。
 確かに負けてはいない。だが、敗北感だけが体を支配する。

「シン……」

 救護班に混ざっていたベルナデットが心配そうに声をかけるが、返事はない。
 今のシンの耳には、慰めの言葉など届かないのだ。
 俯き、嗚咽を漏らす。

「おい、強奪されたアビスとパイロットが回収されたってよ」

 ふと、救護班の一人の言葉がシンの耳に入った。

「なんでも青い髪のガキらしいな。やだやだ、連合までガキをパイロットにするご時世かよ」

 救護班長が、わざとらしく手を広げて言う。

「アウル……?」

 理由があったわけではない。ただ、シンの頭の中に、オーブで出会った生意気な少年の顔が浮かんでいた。

「それでは、二日後には」
『ああ、さすがにオーブばかりに負担をかけるわけにはいかないからね』
「ご協力、感謝します」

 狸が。
 胸中で吐き捨てながらユウナは、画面に映ったデュランダルに敬礼した。
 モニターがぶつりと切れる。ユウナが、露骨に嫌悪感を示す顔になる。
 少し間を置いて、部屋のドアがノックされる。

「……入れ」
「アレックス……いえアスラン・ザラ、ただいま参りました」

 扉が開き、そこには深々と敬礼しているアスランが立っていた。
「前置きはいい。死に損ないに伝えることがあってな」
 遅々として進まないカガリ捜索、伝え聞く連合第二波の準備という情報。
 眼前の男に怒りをぶつけたいが、それをしたところで、なにかが解決するわけではない。

「まずは、デュランダル議長より貴様にプレゼントだ」

 努めて冷静に話しながら、机の上に置かれたなにかをアスランに投げつける。

「……っ!これは……?FAITH?」

 "F"のかたどられた白いバッヂ。それは、現場指揮官としてはザフト最高の権限を持つ者の証。

「前大戦の英雄の名は欲しいようだよ、デュランダルも。愛しい女を守れなかった男であっても」
「どういう意味ですか……?」

 眉間に皺を寄せ、アスランが問う。
 今のアスランはザフトはなく、オーブ所属である。FAITHに任命されるような覚えはない。

「ザフトに所属する必要はないが、ザフトの一部を自由にしろということらしい。パトリック・ザラの心奉者に対する牽制だな」

 苦笑し、ユウナが答える。パトリック・ザラは、ナチュラル憎しに凝り固まった今のプラントには重い名である。
 裏切り者とわかっていながらも、アスランをデュランダルの後がまに据えようという動きは確かにあるのだ。

「つまり、自分の下に俺を置くことでそういった連中への牽制に……」
「そういうことだな。それと」

 呟くアスランを遮るように、ユウナは椅子に座る。

「ミネルバを宇宙に上げるらしい。そして代わりに副艦長が決まっていないふざけた最新鋭艦を一隻、こちらに寄越すらしいな」

 そこまで言って、ユウナは一枚の紙を取り出した。なにか細かい字で埋まっており、下には大きくユウナのサインが書かれている。

「あと、忘れていたがお前はクビだ。FAITHの証だけ抱えて野盗でもなんでもしてろ」
「え?」

 一瞬、アスランはその言葉が理解できなかった。
 狐に化かされたような顔をして立っている。

「それは……どういう意味ですか?」

 やっと絞り出したのは、疑問の言葉。

「オーブの理念は知っているな?他国を侵略せず、また侵略も許さず。カガリを追って、ついでに他国を攻撃しかねない男は置いておけない」

 なにが可笑しいのか、ユウナはくくく、と笑い、立ち尽くすアスランに一枚の資料を渡す。

「これはザフトから同盟の証に贈られたMSの資料だ。パイロットのいないMSのな。もう必要はないがな」

 そしてアスランは、ユウナの言わんとすることを理解した。

「どうした?もう一度言う。海賊でもなんでもやって、無様に野垂れ死んでこい」

 今度はその言葉が、アスランの耳には福音に聞こえた。
 薄暗い廃棄コロニーである。そこにはせわしなく働く整備兵と、物言わぬ三機の巨人がいた。
 一つは"セイバー"であり、もう一つはジンハイマニューバ二型である。
 さらにその横には、どこか優美さを持ったMSが立っている。

「洗脳にクローンか……なかなかに歪んだ技術だけは発展しているな、この世界は」
「自分も歪んでいるのに言えた義理ではありませんよ、鉄仮面殿」

 皮肉たっぷりのトールの言葉に、鉄仮面の肩がぴくりと動く。怒りではない、むしろ喜びと言っていいような感情の現れである。

「歪んでいる?歪んでいない人間がどこにいる。私も、お前も例外ではない」
「……否定はしないがな。それより、イージス……いや、セイバーでの出撃許可はいつ降りるんで?」

 皮肉たっぷりの物言いをやめぬトールに、鉄仮面は仮面越しに笑顔を浮かべた。歪んだ笑顔を浮かべた。

「"姫"のデビュー戦の付き添いだ。"剣"のデビュー戦には相応しいと思わないか?」

 言って、鉄仮面は"姫"に目を向けた。
 "姫"は、ビギナ・ギナは、闇の中にあっても輝いていた。