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クロスSEED第13話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 23:22:16

「後方よりムラサメ部隊接近!本艦に照準を定めています!」
「回避行動を……いえ、マザーバンガード全速前進!これより本艦はオーブを離脱!後にホンコンシティへ向かいます!」

 メイリンという、ザフトのオペレーターの報告に、ベラが指示を飛ばす。
 あくまで出来レースの撤退戦である。
 素早くオーブを離脱するのが目的であるから、当然ながら迎撃にMSを発進させるわけにはいかない。
 だが、出来レースとわかってても、ライフルの銃口がこちらを向くと怖いものだ。
 もし自分たちがはめられていたら、もしムラサメのパイロットが裏切ったら。
 そう考えると体が震えてしまう。
 当たるはずのないビームの雨の中を、一直線に突っ切りながら、マザーバンガードがこの世界の船出を向かえる。

「艦長、ホンコンシティまではあと三時間ほどです。我々にもパンを振る舞っていただきたい」

 副艦長席から、状況に似合わぬことをアスランが言ってくる。安心しろ、という意味だろう。

「わかったわ……ザラ副艦長のリクエストは……海藻パンだったかしら」

 そう言って、少し慌てたような表情を見せたアスランに、ベラは一つウインクをした。
 東シナ海は激戦のさなかにあった。

「くそ!見張りの連中はなにをしてた!」

 ダガーLが、ダークダガーが屍を晒す中、ウィンダムに乗ったネオは叫んでいた。
 連合艦隊が襲撃を受けたのは、東アジア領海に入らんとしたその瞬間のことである。
 敵はわずかに三機であった。赤いMSに、ジンハイマニューバ二型。そして見たこともない、薄紅のMS。
 オーブ攻略戦で惨敗したとはいえ、今の連合艦隊は、並の軍隊ならば戦う気も失せるような大戦力である。
 だが、わずか三機に、連合艦隊は壊滅しかけていた。

「なんとしてもデストロイは守り抜け!粘れば、東アジアからの援軍も来る!」

ネオは、力の限り絶叫した。
一方的な殺戮は続いていた。
盾を構えたウィンダムの前で、トールは"セイバー"をMSへと変形させた。
瞬間、腰部に取り付けられたV.S.B.Rが、盾ごとウィンダムを貫く。

「機動性は悪くない。変形時間も短縮。火力もなかなか良い」

 続いて、艦上からビームライフルを撃ってくる黒いGタイプに牽制射撃をしつつ、ウィンダムを切り捨てる。

「ただ、ビームシールドの信頼性は今ひとつか……カラス、なんの用だ?」

 "セイバー"の中で、呟くトール。そのセイバーに、一機のジンが近づいてくる。

「トール様、そろそろ……」
「様はやめろ。そろそろ時間か。それに、ここで連合に壊滅してもらっては困るしな」

 "部下"の言葉に、トールは後方へと目をやった。そこでは、ぎこちない動きのビギナ・ギナが、ダガーLの群に囲まれて苦戦している。

「囚われのお姫様も限界だな。離脱するぞ」

 再びセイバーをMA形態に変形させると、トールはジンハイマニューバ二型とビギナ・ギナを引き連れ、戦場を離脱した。

『少しは抵抗があるかと思ったけど……』
「ホンコンシティは親プラント。ザラ副艦長の話、聞いてなかったのか?」

 待機中のフリントのコックピットで呟くトビアに、インパルスに乗ったシンが答えた。

 「そ、そういえばそうですよね」

 少し慌てたようにして、トビアが言う。
 どこか違和感を感じる受け答えではある。地球における親プラント勢力は、貴重な存在なのだ。
 地球に居て、なぜ親プラント勢力を知らないのだろうか。
 疑問に思いながらも、出撃の必要が無さそうなインパルスの計器をチェック。
 いつもとは違い、インパルスは合体状態である。
 ミネルバと違って換装システムの無いマザーバンガードで、コアスプレンダー形態でいる意味はほとんど無いのだ。

「……と、耐ショック体勢。全く、なんでこんな形の艦にしたんだか」

 シンがぼやくと同時にマザーバンガードがドッグへと入ってゆく。
 形状のせいか、時々壁や天井とぶつかる音が聞こえる。
 換装システムの有無はともかく、海賊船を思わせる形状にしたのはなぜだろう。
 今回のような用途に使うにしても、作り上げるだけの時間がない。
 小さな疑問がシンに芽生える。

『しかし、オーブっていうのもなかなかややこしい国ね』
「オーブは綺麗事で塗り固められた国だからな……」

 アビスのコックピットでぼやいたのはルナマリア。
 それに、シンは吐き捨てるように答えた。
 他国に侵略せず、他国に侵略させず。そんな理念を守り抜くために、こんな子供騙し以下のことをする。

「そして、綺麗事のために国民を切り捨てる……」

 思い出すのは、二年前。両親と妹の、吹き飛んだ四肢。
 アスハが、当時のオーブ上層部が綺麗事にこだわりさえしなければ、今も笑顔溢れるアスカ家は失われていなかったはずだ。

『お疲れ様でした。着地完了です。コンディショングリーンに移行。ただいまより外出を許可します』

 インパルスのコックピットにその放送が流れたのは、シンが唇を噛んだその時であった。
 ホンコンシティは暖かかった。
 いや、暖かいのではない。少し小走りで歩けばじんわりと汗をかきそうな気候だった。
 ブレイクザワールドから立ち直りの気配を見せる東アジア共和国。
 臨時政府のあるナンキンシティ以上に賑わっているのが、このホンコンシティであった。
 なるほど、その通り、家族たちが、恋人たちが、友人たちが談笑しながら歩いている。
 戦争カメラマンであるミリアリア・ハウにとって、久しぶりに見る平和な光景である。

「さてと、そろそろ行かなきゃ」

 手に持った大きなカメラをバッグに収め、肩にかつぐ。
 ザフトの艦が、ホンコンシティに入港したという情報が入った。
 ホンコンシティが戦場になることはなくとも、この近くで大きな戦いが起こる。
 ここ二年の経験から得た、第六感。カメラを武器に戦うミリアリアにとっても、そこは戦いの場となる。
 足早に、予約したホテルに向かう。

「さすがに一番安い部屋ばっかりじゃ嫌だから、今日は思いっきり贅沢を……え?」

 ふと、一人の男が目に入った。気候に似合わぬ、分厚いコートを纏ったサングラスの男。
 どこかで見たような気がした。
 なぜだか声をかける気になった。
 大切な、大切な人。
 そして彼女が走り出そうとしたその時。
 男は雑踏に消えていた。

「ふん、未練がましい」

 皮肉げな笑みを浮かべ、ザビーネが鼻で笑って言う。

「"お姫様"につきまとう貴様には言われたくないな。"ベラ姫"の件、鉄仮面にはどう言うつもりだ?」
「たかがカメラマンとベラ様を一緒くたにするな……鉄仮面など、ベラ様を担ぐための踏み台に過ぎん」

 鉄仮面に報告をすれば許さん。それは言外の脅しであろう。

「"薬"が無ければなにもできない奴がよくやる……」

 変装用のサングラスを外しながら、トール。

「貴様とて"整備士"がいないとまともに動くこともできないだろうに」

 ザビーネの嫌みに対し、トールは一瞬だけ顔を強ばらせた。

「どうした、図星を突かれて反論もできないか」
「……いや、違う」

 呟いて、右腕に触れる。本来ならば、右腕のある場所に。

「今の俺は、普通の人間じゃないってことは否定しないさ」

機械的な"右腕"に触れ、トールは悲しげな表情を浮かべた。

「ステラを遊びに行かせたのは間違いだったかな、それともこれが正しかったのかな?」
「ロアノーク艦長……いかがなさいますか?」

 苦笑するネオに、イアン・リーが問いかける。
"ザフト艦、入港ス"
 JPジョーンズを停泊させ、偵察に放った兵士の報告は、予想の範囲内であり、また予想外でもあった。

「親プラントが多い都市とは聞いてたけど、まさか戦艦の停泊許可を出すとはねえ……やるしかないだろ。デストロイのOSをスティング用に書き換えてくれ」
「しかし、ホンコンシティは特別中立区に指定されており……」
「中立は中立なりに責任があるさ。だから、ザフト艦を入港させたオーブも攻撃した。それに……」

 一拍間を置いて、ネオが搾り出すように口を開く。

「ジブリール"様"にも報告は行くんだろ?出撃準備は無駄にならないさ」

 皮肉げに、ネオは呟いた。その目が悲しげだったことは、イアンさえ気づかなかった。

「けっ」

 独房の中で、アウルは毒づいていた。
 それは"発作"ごときで大声をあげてしまった自分への怒りか、あるいは"薬"を限界まで我慢してしまった自分への怒りか。

「……」

 ちらりと、自分に話しかける男に目を向ける。
 目の前の男は、額がやけに眩しかった。憎しみの感情が、眩しさを際立たせているような気もした。

「私はアスラン・ザラ。この艦の副艦長だ。さて、まず所属と、本艦に侵入した目的を聞こうか」
「黙れよ禿」

 お決まりの尋問を始めたアスランなる副艦長に、先制パンチを浴びせた。
 強がり以外の何物でもない。
 が、やけに沈んだ表情になっているところを見ると、効いているようにも見える。

「……も、もし口を割らないなら当方としても多少強引な手段をとらざるを得ないが」
「いいから、やるなら早くやれよ誰かの命令でここに来たわけじゃねえんだし」

 尋問を始めた瞬間、何人か殺して逃げ切ってやるよ。胸中で呟き、アスランを睨む。
 二人の間に緊張が走る。そして。
 次の瞬間、艦内に警報が鳴り響いていた。
 なんの冗談だよこれは!
 絶叫したい気持ちを抑え、シンは金髪の少女を抱きかかえていた。
 崖の上で踊っていた少女に見取れて、危ないと止めなかったシンも確かに悪い。

「でも、ふつ……ぶわっ、普通は落ちるなんて思わねえよ!」

 叫ぶと水を飲みそうになる。今はとにかく、岸までたどり着かねば。
 あと一メートル、あと三十センチ。
 岩に手がかかる。すぐに自分と、少女を岩場に上げる。

「はあはあ……大丈夫か?」

 肩で息を整え、横の少女に声をかける。が、返事が無い。

「……おい!?ただのしかばね、とか洒落にならないぞ!?」

 慌てて少女の肩を揺さぶる。相当の水を飲んでいるように見える。このまま放っておけば命に関わるだろう。

「こういう時はキ……じゃない!マウストゥマウス……を……」

 冷静に、少なくともシン本人は冷静なつもりで、アカデミーで習った手順を思い出す。
 迷ってる暇はない。が、シンとて年頃の少年だ。
 動揺するな、というほうが無理である。

「……くそっ!……んっ……ぐっ……ふぅっ……」

 少女と唇を重ね、息を吹き入れる。
 柔らかい、という感想が脳裏に浮かぶが、すぐに否定。今はそんな場合ではない。
 シンにとっては永遠に思える何秒かの時間が過ぎる。

「わたし……なんでこんなところに……?」

 目が覚めた少女の第一声はそれだった。
 体の発育はいいが、話し方が彼女をひどく幼く見せている。

「崖から落ちて溺れてたんだよ。危うく死ぬとこだったんだぜ」
「死……ぬ……?」
「そう、この辺は水深があるから溺れれたら死……え?」
「死ぬのはいや……死ぬのはいや……死ぬのはいやああああああ!」
「ちょっ……どうしたんだよ!」

 何気なく言ったシンの言葉だが、少女の怯えかたが尋常ではない。
 今にも暴れ出しそうで、再び海に落ちても不思議ではないだろう状態である。

「おい!」

 震える少女を、とっさに抱きしめる。

「わたし…死にたくない……死ぬの怖い……」
「大丈夫だから。俺が守るから」

 思わずそんな言葉が出ていた。震えが少しずつ止まってゆく。

「守る……」
「そう、俺が守るから。俺はシン。シン・アスカ。君は?」
「わたし……ステラ……」
「ステラは俺が守るから大丈夫。だからなにも怖がることはないよ」

 再びそう言って、目を見つめる。
 遠くで、小さく爆発音が聞こえたのは、その時だった。