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クロスSEED第19話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 23:23:05

変態だ。変態に違いない。
 目の前の男を見て、ハリソンは口に出かけた言葉を封じた。
 無機質なパネルが並んでいる、機械的な部屋。部屋にある窓からは海が見える。
 JPジョーンズのブリッジであるそこには、一人の"変態"が居た。
「マディン少尉だったかな」
 仮面を直しながら、変態が口を開いた。
「は、はい。ハリソン・マディン少尉であります」
 慣れぬ階級で呼ばれ、一瞬考えた後に答えるハリソン。
「緊張をするな、というのは無理かな。自称、異世界の戦士君」
 緊張なのか、この上司への絶望なのかよくわからない顔をするハリソンに、苦笑しながら変態が言う
 ジブリールの"紹介"で、ハリソンが異世界から来たと主張していることは変態――ネオ・ロアノークも知っているのだろう。
 ただ、変態に見えても思考は常人のそれである。さすがに異世界云々という話までは信じていないらしい。
「さて、君の機体を見に行くか。ジブリール"様"が仰っていた特別なMSの運用を考えないといけないからな」
 丁寧な言葉で、しかし皮肉を込めて、ネオは言った。

「何度もご迷惑をかけて申し訳ございません。艦長にも自分の仕事があるというのに……」
 やつれた顔で、アスランはベラに頭を下げた。
「気にしないでいいわ。私たちは軍じゃない。"海賊"仲間でしょ?」
 香りのいいハーブティーを手に、ベラはにこりと微笑んだ。
 いつも通りの艦長室。ベラ、アスラン、ベルナデットの三人は、恒例と化したお茶会を開いていた。
 艦長と副艦長による艦内会議。
 そう位置付けられているこの会談だが、実際は違う。ホンコン以来様子のおかしいアスランを、フォローするための話し合いである。
「カガリさんが……ビギナ・ギナというMSに乗っていたって本当?」
 愛する人を討つために乗った、そして愛する人を助けるために乗った機体と同じ名のMS。
 たまたま同じ名のMSなのか、それともF91にに魅かれてこの世界にやってきたのか。あるいは……
 ビギナ・ギナに対する複雑な感情を隠しながら、ベラはあくまでも冷静に問う。
 自分はこの艦の艦長だ。クルーを守ることを第一と考えねばならない。
 そう言い聞かせ、数多の戦いを潜り抜けて来た。
 だから、アスランの悩みにも真正面からぶつからねばならない。
 カガリ・ユラ・アスハがアスランと戦ったのが本当ならば、それは二人にとって望まざることなのだ。
「確証は無いのは確かです……ただ……」
 先ほどまでと同じように、力無くアスランが答える。ただ、一つだけ違うところがあった。
「ただ、私はあれがカガリだと確信しています。カガリを助けねばならないことも」
 カガリの救出。そしてラクスたちの真意
 言い切ったアスランの瞳には、確かな決意の光があった。

 廃墟と化した工場に、月の光が射している。
 薄暗いその中には、カラスのジンと、不完全な補修を受けた"セイバー"の姿が見えた。
「前倒し?」
 干し肉をあぶりながら、トールは言った。
「ええ、そのようですよ。素体と、鉄仮面の持ってきたデータ。存外に相性が良かったようで」
「開発コードはトキサダ……だったか?あれといい、例のデカブツといい、鉄仮面はなにを急ぐ?」
 答えたカラスにではなく、自分に問いかけるように呟くトール。
 貴族主義。かつて鉄仮面が熱弁をふるった思想。
 彼は言った。"今度こそ"貴族主義を世に広めると。
 貴族主義の世界に向け、邁進するのは構わない。
 それでキラやラクスに接触できるなら、鉄仮面を思う存分利用してやれるからだ。
 だが、彼は焦りすぎているとも言えた。
「所詮、彼は小物ということですよ。長期戦になると不安だから短期決戦を望む。この世界ならいくらでも戦略が練られるというのに」
 笑って、しかし冷たい目でカラス。
「だから、無茶をしてでも戦力の拡大を?」
 一人ごち、干し肉を弄ぶ。
 クライン派、キラ。そして。
「キラ・ヤマトを超えるキラ」
 口を突いて出たトールの言葉が、廃工場に響いた。

 昔読んだ旧世紀のマンガで、あんなシーンがあったような気がする。
 怒りで、なにかのレーダーのごとくピクピクと動くルナマリアの前髪を見て、ベルナデットはそう思った。
「シン、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。ってステラ、そんなにくっつくと周りの視線が」
 場の空気を一切読んでいない二人の発言が、食堂に響く。
 声の主は考えるまでもなく、ステラとシン。ルナマリアの怒りの原因となっている二人である。
 この場に居るのはシン、ステラ、ルナマリア、そしてベルナデットとトビアだけ。
 他にも人は居たのだが、レイが「俺は気にしない」と言って退室すると、波が引くようにして退室していったのだ。
「なにあれ。見せつけ?」
 ぼそりと、ルナマリアが言う。
 ベラとアスランの会談直後、トビアに誘われて昼ご飯を食べに来たベルナデットがこの事態に巻き込まれたのはつい十分ほど前だ。
 いわゆるバカップルの放つ甘いオーラと、ルナマリアの放つ怒りのオーラ。
 二つが合わさって、異様な空気を醸し出している。
「る、ルナマリアさん」
 空気に耐え切れず、勇気を振り絞ってルナマリアに声をかけるベルナデット。
「ルナでいいって前に言ったでしょ?それより、私は忙しいの」
 なにが忙しいのかは不明だが、とにかくルナマリアの目がこう語っている。
 ――今は話しかけないで。
「……ベルナデット、行こう?」
 こちらもこの空気に耐えられなかったのだろう。
 ルナマリアに気圧されているベルナデットに、手を差し出してきた。
「トビア。当てつけなら容赦しないわよ」
「まままままさかそんな!」
 ベルナデットの手を離し、1オクターブ上がった声でトビアが弁明をする。
「……ならいいわ。退室を許可します」 ほとんど上官の口振りで言い、食堂の入り口を指し示すルナマリア。
 慌ててトビアが食堂を出る。
 ――トビアは、私があんな風にしたらどう思うんだろう。
 ベルナデットは未だに甘い雰囲気に包まれるシンとステラに目をやり、それからトビアに続いた。

 場末の酒場という言葉がある。
 小説やコミックでよく使われる表現だが、なるほど、ここはそう呼ぶに相応しい場所であった。
「で、兄ちゃんは俺たちの力を貸してほしいと?この変なMSで?」
 リーダーとされる男が顔を上げ、窓の外に立つMSに視線をやる。その先に立つのは、ストライク・ダガーと全く同じ頭部を持つ鋼の巨人たち。
「この……ベルガ・ワロスだかベルガ・バロスなんだかよくわからんMSで戦えと」
「……ベルガ・バルスだ。金なら言い値で払う。無論、これの性能を試してみてからでもかまわん」
 貴族主義が達された暁には、貴様らのような下品な人間は粛正してやる。
 言いかけた言葉を飲み込み、ザビーネは懐から金塊を取り出した。
 地元の人間すら近寄らぬ、荒くれ者の傭兵たちが集う酒場。ザビーネが居るのはそんな場所である。
 扉を出てすぐの場所にはX2が膝をついており、近くの森には数機の、主のいない"ベルガ・バルス"が待機している。
「ふん、貰える物だけ貰えるならいいがな。だが、わざわざそちらで用意してもらった機体がポンコツだった時には……」
「すぐにでも契約破棄で構わん」
 万が一、逃げようものなら"あれ"の最初の被害者になってもらうがな。
 最後に胸中で付け加え、手を差し出した男に金塊を渡す。
 ベルガ・バルス。コスモバビロニアの指揮官機、ベルガシリーズの一つであり、一般的には高性能機とされるMSの名称である。
 そして、この"ベルガ・バルス"
 裏市場に流れていたストライクダガーやゲイツのパーツを使ったため、外見こそは違うが、オリジナルと遜色ない性能の機体に仕上がっている。
 それは高級機に乗った経験のないMS乗りなら、手放したくはないほどの性能である。
「それなら――契約成立だな」
 性能が気に喰わねば契約破棄をして良いという条件に釣られたか、それとも金に目が眩んだか。
 リーダーが契約成立の握手を求めてくる。
 ――この手に触れて良いのはベラ様だけだ。
 そう思いながらも、ザビーネは男の手を握り返した。

「ザラ副艦長、あなたの意見は?」
「できるなら使わずに済ませたいのは確かです。しかし」
 アスランの言葉に、ベラは一つため息を吐く。
 アウル・ニーダと名乗る少年の処遇。
 いや、処遇以前の問題だろう。なにしろ彼は今、死線をさまよっているのだ。
「彼が持っていた薬……あれを製造して投与すれば……でも……」
 歯切れ悪く言って、再びため息。
 僅かながらアウルの所持していた薬。それは、彼の命を長らえさせるための成分が混入していると判断された。
 だが、同時に身体に劇的な負担をかけるという解析も出たのだ。
 健康な状態で接種したとしても命を縮め、今の状態で接種しようものならそれだけで死にかねない。
「迷っている暇は無いのも確かです。このまま放置すれば、あの少年の命は尽きます」
 アスランの言葉に、ベラは三度ため息をついた。
 確かに、迷っている暇はない。今、例の薬を与えねば状況は悪化するばかりなのだ。
「……投薬を許可します。ただし、負担をかけないように」
 額を抑えながら、指示を出すベラ。
 彼女に追い討ちをかける通信が入るのは、きっかり十秒後のことである。

 ――なぜこの僕がこんな状況に。
 苛立ちが抑えられず、ギリはクァバーゼの脚部を叩いた。
 アークエンジェルの格納庫に、今は誰もいない。
 前回の戦闘で、彼はアークエンジェルの護衛を任されたのだ。だが、それを全うすることなく戦闘は終わった。
 ミラージュコロイドなる技術を使って接近してきたMSに、出撃すら封じられてしまったからだ。
 エリートとして生きてきた彼にとって、これは屈辱に他ならない。
 ギリギリまで接近を感知できなかったオペレーターを罵倒したが、それで気が晴れたわけでもない。
 そればかりか、底辺とすら言える逃亡生活。彼が苛立つ理由としては申し分ない。
「ぐっ……」
 強く叩きすぎたのか、鈍い痛みが拳に響く。
 ――ここを逃げ出して、もっと自分の扱いが良い場所に行くか。
 痛みとともに湧き上がる、黒い感情。
 ここを逃げ出すためには――
「ギリさん」
 突然かけられた声に、ギリははっ、として振り返る。
 立っているのはラクス・クライン。
 彼がちょうど、会いたくなったばかりの女。
「ラクスか。ちょうど用が」
「ギリさん、あなた自身の存在意義を見失ってはいないですか?」
「……なんだって?」
 言いかけた言葉を遮られ、ギリは面食らう。
 だが、ラクスはお構いなしに話を続ける。
「欲しいのは栄光?名誉?いえ、あなたは己の存在を示すことを望んでいるはずです」
「っ!僕がそんな小さなことで悩んでいるように見え……」
「あなたならば名誉も栄光も手に入れられるでしょう。そのためにはなにを成します?世界を平和に導く使者。それが最も名誉ある呼称では?」
 怒声を上げるギリに、ラクスは答えず、ただ問うのみ。
「僕の話を……!」
 なぜだか、頭がくらくらする。この女を人質に、さっさとここを逃げ出したいというのに。
「あなたは、わたくしたちに協力してくださっています。だから、わたくしたちもあなたを支えましょう。全てが終わるまで」
 ラクスは言い切り、にこりと笑う。この女を信じているわけではなかった。
 だが、なぜかギリはこう言う気になってしまった。
「……わかった。協力しよう」

「いやあああああっ!」
「ステラ!いきなりどうしたんだよ!ルナ!後ろから抑えてくれ!」
「わ、わかったわ……ぶっ!」
 ステラに後ろから近寄り、鼻に肘うちが直撃したルナマリアは、息つく間もなく沈黙した。
 ステラが暴れ出したのは、トビアたちが立ち去った直後のことであった。
「とにかくステラ、落ち着け!……ぐうっ!」
 なんとか近づき、ステラを抑えにかかるが、コーディネーターの軍人であるシンの力を以てしても抑え切れないほどの力である。
「私は……私はあ!」
 ステラは胸を抑え、シンを振り切ると、そのまま床にうずくまる。
「ステラ!ステラ!」
 状況を理解することを許されず、シンは混乱して叫ぶが、それでこの状況が解決されるわけではない。
「どにがぐ……軍医お呼ぶ……わよ……っ!」
 いつの間に回復したのか、ルナマリアが溢れる鼻血を抑え、連絡用の電話に手をかけた。

 シミュレーター画面に、数十機のMSが浮かび上がる。
 ジェガンと呼ばれるそのMSのことを、彼は知らない。
 ただ本能の、いや、プログラムの命ずるままに、それらを撃ち落としてゆく。
『次』
 シミュレーション用のコックピットに響く、鉄仮面の声。
 かけられた声に、"彼"はブースターを吹かして応える。
 続けて現れたのは、青い翼のMS。
 ビームライフルをコックピットに撃ち込むが、翼のMSは、子供でもあしらうかのようにシールドで防ぐ。
 続けて、シールド裏のハンマーを射出。
 さすがにこれはまずいと判断したのか、翼のMSは上に飛ぶ。
 ――もらった。
 その隙に、ビームサーベルを展開。翼のMSの場所は読んでいる。なぜならそれが、"彼"の能力だから。
 サーベルを振りかぶり、一撃。
「これで終わっ……え?」
 直後、画面に表示されたのは、CLEARの文字ではない。
「アラートっ!?」
 すぐに頭を切り替え、警告音の元を探す。
 それは――
「上!?」
 "彼"がそれに気づくのと――
「うわあっ!」
 "彼"が"死ぬ"のはほぼ同時であった。

「ふむ……やはり"最強のニュータイプ"と言えど、実戦経験が足りないとこんなものか」
 シミュレーションの結果を眺め、鉄仮面が苦笑を漏らす。 これが実戦なら、"彼"はアマクサとともに冷たい骸を晒していただろう。
「とはいえ……設定が甘いとは言っても、二度目でジェガン四十機をあしらうあたりはさすがか」
 続けて呟き、パネルに目をやる。
「キラ・ヤマト、そしてアムロ・レイ」
 世界最強のパイロットと、鉄仮面の世界最強のパイロット。
 手に、"RX78"のデータが入った記録ボックスを手に、鉄仮面はほくそえんだ。

続く