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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第9話

Last-modified: 2012-06-04 (月) 20:23:28

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第9話「サイレントラン」

 
 

 沢山の民間人が集められた一室で、アークエンジェルのクルーが呼びかける。

 

「避難者の皆さんの中に、お医者様はいらっしゃいませんか?
 ……あ!、お医者様ですか?」

 

 クルーの呼びかけに一人の男性が彼の方へ振り向いた。

 

「はい、そうです」
「お手数ですが負傷者が居るんです。後で診て頂けませんか?」
「良いですよ。今すぐ伺いましょう」

 

 クルーの呼びかけに応え、一人の医師が立ち上がった。

 
 

 艦長日誌補足
 我々は崩壊するヘリオポリスから救出した『ポッド』の人員の扱いを検討した。
 避難民の収容場所として充てられたのは比較的広めのスペースのあるブリーフィングルームだ。
 多人数を収容するには十分とは言えないが、この艦でこれ以上の広さを持った部屋となるとそう多くない。
 彼らには悪いが自由に動かれても問題がある。
 予め設備を撤去してフラットにした室内に、簡単な区割りをしてブースを設営した。
 設備の設営に当たったのは、普段は整備をしている整備チームだが、さすが工作の腕は一流だ。
 何を作らせても安心といったところだろうか。だが、それでも全ての人数が満足に眠れるわけではない。
 しかも、彼らの監視役にも人材を割く必要があるが、この艦は深刻な人員不足にある。
 そこで私はバジルール少尉に、予備的に協力してもらえる人員がいないか募集する様提案した。
 何も全てをクルーに任せる必要は無いのだ。彼らも生き残る為ならば協力するだろう。
 また、艦内の必要任務に協力する者や、積極的に協力する者には個室を設定する事で、彼ら自身の向上心にも訴え、狭いブリーフィングルームの過密化を回避した。
 この提案をした当初は少尉も難色を示したが、彼女も背に腹は代えられない現実を受け入れる。
 募集はこの艦が喪失している医者やエンジニアといった必要不可欠な人員を中心に集め、その他女性等には厨房を交代で任せ、男性にはこれら市民のいる「市民区」の保安員として編成し、彼らにこの区域の保安や人員管理は勿論、掃除等の身の回りの管理も任せる事にした。
 これにより不足人員を満たすと同時に移動導線を確定し、避難所の人員を無闇に分散し野方図に動かれる心配が無くなった。
 こうした采配については、私は既に一度経験していることもあり問題無く進める事ができた。
 それを見てバジルール少尉も安心した様で、滞り無く艦内整備は進んでいった。

 

 余談だが、この艦での私の役割は彼等の要請で『アドバイザー』という役職がつき、階級上の便宜も彼らと同等ということになった。
 トゥヴォックも設定上は空軍時代の私の直属の部下で副官という設定なので、階級上も当時の階級は少佐に設定されていることから本来は『彼らの上官』だが、私と同じ扱いとして民間保安員の育成を請負っている。
 セブンは技師として整備チームに協力……というより、彼らのトップとして君臨している。
 ……彼女の美貌に整備陣も骨抜きの様で、マードック軍曹を中心に見事な忠誠っぷりだ。
 残るイチェブは既にパイロットとしてキラ少年と共に少尉の階級が与えられている。
 そんな我々の部屋は4人で同じ部屋を寝室として宛てがわれる事になった。
 トゥヴォックはせめてもう一室要求すべきだと進言していたが、私は民間人である身分を理解して行動するべきだと、彼の善意の提案ではあったが却下した。

 

 サイレントランから5時間が経過したが、アークエンジェルは非常消灯を継続し慣性航行を続けていた。
 予想通りザフトは我々のもとへは来なかったが、ラミアス大尉は倒れ、艦の状態も万全とは言えない。
 私達はその間にこの艦で未完成な部分の補完や調整をする事にした。
 セブンは丁度機関が停止状態にあることから機関部を再調整し、上手く行けば以前の出力効率より70%は向上するだろう。
 技術を刷新するわけにはいかないが、最適化することは可能だ。
 要は地球人が現状の技術で理解出来て、自分で整備出来る範囲に留まるならば何をやっても良いと言える。
 彼女の話によると、この艦には巨大なレーザー核融合パルス推進装置があるそうだ。
 原始的ではあるが核融合炉の原型が既にここにあるということは興味深い。
 彼らがニュートロンジャマーから立ち直るために、何故核融合炉へ進もうとしないのかはわからないが、推測するに燃料の重水の問題だろう。
 月は現状で連合の支配下にあるが、全世界を賄う程の量には達しないだろう。
 そうなると火星や木星への航路が開けなくてはならないが、宇宙の制空権はザフトにあると言っても良い現状を鑑みるに、彼らは強行に対抗せざるを得ないのだろう。
 しかし、そこはザフトも譲れない一線か。

 

 食堂では加藤ゼミの学生達が休憩時間を楽しんでいた。
 私とトゥヴォックも離れた窓側の席に座り、ゆっくりと珈琲を飲んでいた。
 カズイ少年が好奇心をもって発言する。

 

「どこに行くのかな、この船」
「あぁ、一度、進路変えたよね。まだザフト、居るのかな」

 

 彼の問い掛けに答えたサイ少年の発言は、5時間経過後に行われた針路修正の事を言っている。
 サイレントランが終了してからも、安全を取って最大24時間の慣性航行を行っている。
 通常航行で走る選択肢もあるが、周辺宙域にザフト艦が居る可能性を考え慎重に行動しているのだ。

 

「この艦と、あのモビルスーツを追ってんだろ。じゃあ、まだ追われてんのかもなぁ」
「えー、じゃあ何?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの。やだぁ、ちょっとぉ」

 

 トール少年が言っている割に楽しそうに話すのに対し、アルスター嬢は露骨に嫌がっている。
 それを聴いてキラ少年の顔が曇った。
 彼を気遣う様にミリアリアさんはアルスター嬢を嗜める。

 

「壊された救命ポッドの方がマシだった?」
「そ、そうじゃないけど……」

 

 彼女はばつが悪そうに答える。だが、発言を修正した所で、放たれた言葉が作り出した雰囲気は変わらない。
 皆落ち込み沈黙する。

 

「……親父達も無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし大丈夫だよ」

 

 カズイ少年の言葉は、その場の全ての者が共通に感じていることだろう。
 そして、サイ少年の言う通り、確かに避難は速やかに行われていた。
 だが、果たしてあの崩壊で全員が無事でいられるだろうか。
 少なくとも我々が戦闘したエリア周辺に避難した住民の安否は定かじゃないだろう。
 仮に戦闘で損傷を受けずとも、運が悪ければフレイ・アルスターの乗っていたポッドの様に取り残されたり、
瓦礫と衝突して破壊される危険性はある。
 その時、廊下から一人の男がカリカリとして入ってきた。
 その表情は随分とストレスが堪っている様に伺える。

 

「キラ・ヤマト!」
「は、はい。」
「マードック軍曹が、怒ってるぞぉ。人手が足りないんだ。
 自分の機体ぐらい自分で整備しろと」

 

 フラガ大尉は腕組みをして彼らの前に立ち、キラ少年の方を見る。
 振られた側は唐突な話に驚いていた。

 

「僕の機体……?え、ちょっと僕の機体って……」
「今はそういうことになってるってことだよ。
 実際、あれには君しか乗れないんだから、しょうがないだろ」
「それは…しょうがないと思って2度目も乗りましたよ。
 でも、僕は軍人でもなんでもないんですから!」
「いずれまた戦闘が始まった時、今度は乗らずにそう言いながら死んでくか?」
「……」
「今、この艦を守れるのは、俺とイチェブ、そしてお前だけなんだぜ?」
「……でも……僕は」
「君は、出来るだけの力を持っているだろ?
 なら、出来ることをやれよ。そう時間はないぞ。悩んでる時間もな」

 

 キラ少年の顔は困惑の表情を隠せなかった。無理も無い。
 年端の行かない少年に、それも数時間前までは普通の学生だった彼に、いわばいつでも戦地へ行ける様に整備しろと言っているのだ。
 どちらがおかしいと言われれば命じる側だろう。とはいえ、フラガ大尉の言う事もまた正しい。
 何もしなければ射たれる可能性があるならば、何とかしてそのリスクを取り除く方がずっと正しい選択だろう。
 ただし、理屈の上では分かったとしても、果たしてこの少年は耐えられるのか。
 そこにサイ少年が大尉に尋ねた。

 

「あの!……俺も戦うことは出来ませんか?」
「へ?君が?」

 

 唐突な提案に、今度はフラガ大尉の方が戸惑った。
 一方、そう発言した少年の顔は真剣そのものだ。

 

「はい、キラ1人に背負わせるのは忍びないです。
 出来る事なら代わってやれる体制は、作れないんですか?
 キラが出来ないなら、俺が……」

 

 その眼差しに嘘偽りは無く、心からキラを守りたいという意志が見てとれた。
 大尉としても出来る事ならその提案は受け入れてやりたいところだが、意志が有る事と出来る事は違う。現実とは理想通りには行かない。

 

「ん、あーーー、気持ちは嬉しいがなぁ、ストライクは彼にしか動かせないんだ」

 

 彼の発言に、真っ先に反応したのはサイ少年ではなくアルスター嬢だった。

 

「え!?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの……」
「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。
 あれを操縦してたの、キラなんだ。」
「えー!あの子……?」
「ああ。」
「でもあの……あの子……なんでモビルスーツなんて……」

 

 アルスター嬢は困惑していた。
 まさか自分を助けた人物がキラ少年だったと聴いて、尚更先程の発言に恐縮する思いだった。
 でも、疑問も湧く。フラガ大尉は彼にしかMSは操縦出来ないと言った。
 そして、MSはザフトのコーディネイターが作ったもの。
 大尉はMAに乗っているという話であるから、余計に彼女の腑に落ちない。
 そこにカズイ少年が呟く。

 

「キラは……コーディネイターだからね」
「カズイ!!!」

 

 カズイ少年の言葉にその場の全員が驚き、思わずトール少年が彼の名を呼び制す。
 しかし、もはや修正はきかない。
 目を伏せるキラ少年を見て、サイ少年はその痛々しい程に沈んだ彼を何とかしたかった。
 でも、気の利いた言葉は浮かばない。
 それでも、彼の代わりに言ってやらなくて何が友達だろうか。
 彼はそう考え、自分自身で言える出来る限りの言葉を探した。

 

「……うん……キラはコーディネイターだ。でも、ザフトじゃない!
 俺達と同じオーブの普通の学生だ!なのに、命がけで戦場に立ってくれたんだ!」

 

 彼の言葉にアルスター嬢は何も言えなかった。
 だが、そこにあえて発言する者が居た。

 

「……そうか。坊主はコーディネイターだったのか。
 じゃなけりゃ、出来損ないのOSを書き換えるなんて無理だよな。
 あ、俺は言っとくが偏見とかは無いからな。そりゃ、驚いたけどさ。
 まぁ、この艦にはブルーコスモスかぶれも居るかもしれないが、少なくとも俺はそんな奴は許さない。でもな、与えられた運命から逃げようって奴は、俺は軽蔑するぜ?……みんな逃げたくても逃げられないんだ。
 なら、立ち向かうしかないっしょ?」

 

 キラは自分の中でラミアス大尉とのやりとりを思い出していた。
 彼女もまた彼と同じ様に自分の存在を認めてくれた。ならば答えは一つだった。

 

「……僕、整備を手伝いに行きます。」
「おう!行ってこい!」

 

 キラ少年が立ち上がり足早に出て行く。
 フラガ大尉の言葉は彼らにも良い刺激となった様だ。

 

「……うん、あたし達の仲間。キラは大事な友達よ。
 私達も頑張って支えなきゃ!さぁ、仕事に戻りましょう!」

 

 ミリアリアさんもまた、そう話すとキラ少年の分の食器を持って返却口へ返しに立った。
 それを合図とする様に、その場にいる皆が立ち上がってそれぞれの持ち場へと出て行く。
 残されたのはアルスター嬢1人だった。
 彼女は全員がその場から消えた後も、暫くその場に座っていた。

 

「……ちょっと良いかしら?」

 

 私はトゥヴォックを残し、一人彼女のもとへ歩み寄り問い掛けた。
 彼女は唐突な私の呼びかけにワンテンポ遅れた返事を返す。

 

「あ、……はい」

 

 私は彼女の向かい側へ座った。
 俯き加減の彼女の表情は暗く、自分自身でも色々と思うところは有るのだろう。

 

「すまないけど、あなた達のやりとりを向こうで見ていたわ。落ち込んでいる様ね」
「え、あ、……大丈夫です」

 

 口では大丈夫といっても、実際は大丈夫ではないからこうして座っているわけで、彼女の言葉をそのまま受け入れるならば、そもそも私がここに来る事は無い。
 私は彼女の目を見て言った。

 

「そうかしら。……あなた、コーディネイターは嫌い?」

 

 少々唐突では有るが、彼女にストレートに投げてみた。
 案の定、直球に戸惑っている様子だが、素直に返答してくれた。

 

「え!?………わかりません。でも、戦争を始めたのはザフトだってパパが」
「そう。でも、それは連合が核でプラントを焼いたからでしょう?」
「……。で、でも……」
「えぇ、ザフトはそれ以上の報復をしたわ。エイプリルフールクライシス……世界中でエネルギー不足で亡くなった人は数億人を数える。人類への大罪ね」
「……はい」
「でも、それは組織が悪いのであって、人ではないの。
 勿論、人が組織を作るものだけど、人1人では何も出来ないでしょう?
 それはナチュラルもコーディネイターも同じじゃなくて?」
「……」
「傷つけられた人の思いは大きな憎悪になる。
 でも、憎悪は新たな憎悪を生み出す起爆装置でもあるわ。
 ……憎んで戦えば、新しい憎しみを作ってしまうの。
 冷静さを欠いた人類は、これまで幾度となく戦争をして、傷付き、そして懲りたはずだけど、時が過ぎると忘れてしまうのよ」
「……でも、戦わないと殺されちゃいますよ」
「……そうね。だから戦う。それは自然なことよ。私も何も戦うなとは言わないわ。
 なぜなら、人類は戦う知恵を付ける事で進化してきたのですもの。
 最初は環境に打ち勝つ為に、次は同族同士の縄張り争いに勝つ為に。
 そして今は、一体……何と戦っているのかしら?」

 

 彼女は私の問い掛けに真剣に考えていた。
 暫くの間のあと、彼女は思い切って口を開く。

 

「……人種の壁?」
「ふふ、違うわ。……エゴよ。所有欲であったり、商売としてであったり。
 ……始まりはプラントの独立を承認しなかったから。
 それは何故?……プラントは連合国家の所有物だったから。
 コーディネイターが優秀だというなら、そしてナチュラルが彼らに打ち勝つというなら、どうすれば良かったのかしら?」
「……私達が譲るんですか?」
「いいえ。権利を主張するには義務を負わないといけないわよね?
 ……コーディネイターは独立が欲しいなら対価を払う必要があったでしょうし、ナチュラルは彼らが干上がらない常識的な範囲で権利を認めてあげる必要があった。
 そうすれば、連合は傷付かず負債を背負わずに済むし、プラントは自分達の自由と権利を主張出来る。
 ……この戦いの始まりはその縺れ。差別は後付けに過ぎないわ」
「……パパは何も詳しい事は話してくれなかった。でも、薄々は感じていたわ。
 だけど、私にはパパしかいないのに、いつも仕事で……その理由はコーディネイター絡み。
 本当はコーディネイターなんてどうでも良いの。私は……独りになりたくなかったから」
「……そう。寂しいわね」

 

 私は立ち上がり、彼女の元へ歩み寄りしっかりと抱きしめた。
 彼女も私の胸にすがるように顔を埋める。
 戦争は多感な少年少女の心に歪みを作る。
 どんな時代にあっても、それだけは変わらない現実だ。

 
 

 その頃、アークエンジェルを追撃していたはずのヴェサリウスでは……

 

「アスラン・ザラ、出頭致しました!」
「……あぁ、入りたまえ」

 

 クルーゼの執務室に入ったアスランは、中の惨状に驚いた。

 

「……た、隊長?」

 

 クルーゼは一息ついて彼の方を振り向いた。
 相変わらずの仮面姿だが、汗がしたたっているのが見える。
 荷物はスーツケースが7つもあり、彼はその7つめを必死に閉じようとしていた様だ。
 ……一体スーツケースの中身は何が入っているのだろう。

 

「ヘリオポリスの崩壊でバタバタしてしまってね。君と話すのが遅れてしまった」
「はっ!先の戦闘では、申し訳ありませんでした」
「ん?あぁ、その事か。懲罰を科すつもりはないが……まぁ、尤も私にはその権限は無いが、話は聞いておきたいな。
 あまりにも君らしからぬ行動だったからな。アスラン」

 

 クルーゼの問い掛けに、アスランは俯いたまま何も話さなかった。
 いや、話せないでいると言った方が正しいか。
 彼は仕方なく問い掛ける方向を変えてみた。

 

「あの機体が起動した時も、君は傍に居たな?」
「……申し訳ありません。思いもかけぬことに動揺し、報告ができませんでした。
 あの最後の機体、あれに乗っているのは……キラ・ヤマト。
 月の幼年学校で友人だった、コーディネイターです」
「……ほぉ」

 

 クルーゼからすれば、彼の話などはっきり言えばどうでもよいことだった。
 とはいえ、将来を有望視されている部下が思わぬ大ポカを犯した事は気になっていた。
 彼の行動は咎められ様も無い。所詮は新兵のミスとして多めに見られて不問になるだけだ。
 しかも彼らはエリートなのだから尚更だろう。だが、彼の口から出た名前には興味を覚えた。
 アスランはそんな彼の心中など知らず、ただ恐縮して理由を述べている。

 

「まさか、あのような場で再会するとは思わず、どうしても確かめたくて……」
「……そうか。戦争とは皮肉なものだ。君の動揺も仕方あるまい。
 仲の良い友人だったのだろう?」
「……はい」
「分かった。そういうことなら仕方ない。
 だがな、戦場での動揺は命取りになると忠告はさせてもらう。
 君だけじゃない、共に戦う仲間にも危険が及ぶ。
 さて、君を呼んだのはこの話の為じゃない。今日からこの部屋は君の部屋だ。
 ……私はガモフで本国に帰る事になった。笑ってくれたまえ。
 先の戦闘の失態の結果だ」
「ええ”ーーーっ!あぁ、失礼しました」

 

 クルーゼの唐突な話に、アスランは普段の彼からは考えられない大声で驚いた。
 彼が驚くのは無理も無い。ザフトでもトップエースと言えるあの隊長が左遷されるのだ。
 彼じゃなくとも驚かない方がおかしいというものだ。

 

 自分の出した声に慌てて恐縮してみせた所で、出した後では意味が無い。
 クルーゼも彼の驚き振りに苦笑混じりに受け止めつつ話す。

 

「フフ、入れ替わりで本国からナスカ級が一隻加わる。
 君らにはこの後も足付き追撃の任務についてもらう事になった。
 アスラン、いや、ザラ隊長。……後任を頼むぞ。アデスと共に頑張ってくれたまえ」

 

 クルーゼはアスランの肩をしっかりと掴んで引き継がせたことを認識させる。
 掴まれた方は目を白黒させているが、このくらいの反応がなくては彼も面白くないというものだ。

 

「は、はい!……って、それはいつからですか?」
「本日付けだ。本日より正式に君はこの部隊をザラ隊として指揮する。
 明後日にはナスカ級が到着する。艦長はグラディス女史だ。
 ……彼女はやり手と聞く。頼りにする事だ」
「……自分が、隊長……ですか」

 

 アスランは隊長が去ることだけでも驚きだったのに、まさか自分が部隊長になるとは思いもしなかった。
 いや、驚く程度では済まされない。これからは自分が決断して行かなくてはならないのだ。
 新兵として実戦を経験したのはごく僅かの自分に、本国は何を考えているのだろう。
 そもそもこのような指示を出すのは十中八九で自分の父しかいない。親馬鹿ここに極まれりである。
 とはいえ、それ以前に父はその程度で自分を据える程愚かな人物ではないことは理解していた。
 彼が考えているのは自分を手足として利用することである。
 いずれはその様な時も来ようかと思っていたが、まさかこのタイミングでとは……。
 このような重責が担えるだろうか?……などと悩んでいる余裕はない。
 やるしか無いのだ。

 

 クルーゼとてこの件は腑に落ちない面がある。
 クラインは一体何をしているのか。
 ザラにここまで自由にさせて大丈夫かと言いたいところだ。
 だが、あの連合のMS用OSは充分に潮目を変えるだけの材料だったのだろう。
 自分自身でも正直驚かされた「ナチュラル」の本気というものを見たと言うべきか。
 世にコーディネイターが生まれども、所詮は作り物。自然には勝てないのだろう。
 ……そう考えると、どうも可笑しく感じられてしょうがない。
 所詮は砂上の楼閣。……吹けば消える様な危うさは拭えないということか。
 半ば放心状態のアスランに、クルーゼは穏やかに声をかけた。

 

「……急なことで驚くのは無理もない。だが、本国の決定だ。私は従うまでだ。
 さて、すまんが私の荷物を運ぶのを手伝ってくれるかな?」
「はい、お持ちします!」

 

 アスランはクルーゼの大量の荷物を共にガモフに運んだ。
 ガモフに搭載されていた機体はブリッツ以外は全てヴェサリウスに移送し、その後見送りすることもなく静かにクルーゼを乗せて帰って行った。

 
 

――アークエンジェル医療室――

 

「……この怪我もありますが、相当疲労を溜め込んでいる様ですね。
 怪我の処置は問題無く済みました。
 体力の回復のために生食(生理食塩水)を一本射っておきますので、半日程度は安静にさせた方が良いでしょう」

 

 ラミアス大尉は倒れたまま意識が戻らず眠っている。無理も無い。
 彼女はこの艦の艦長として慣れない仕事を精一杯やっていた。
 クルーの安全を守り任務を遂行することは、口で言う程優しい事ではない。
 この場にはフラガ大尉とバジルール少尉、そして私が立ち会っていた。

 

「半日の安静か。その間の指揮は、バジルール少尉。あんたの出番だぜ?」

 

 大尉は腕組みして立ちながら彼女に話しかける。
 振られた少尉の方は、普段通りの生真面目さで応対する。

 

「分かっています。本艦は現状の慣性航行を維持し、ユニウス7を経由して月を目指すのに変わり有りません。
 慣性航行の終了が大尉の復帰の時期と丁度重なるでしょう。
 私はその間までラミアス大尉の分まで頑張る所存です」

 

 この彼女の返答に、フラガ大尉は思わず吹き出した。

「っぷ、くく」
「……何がおかしいんですか?大尉」
「いやぁ、ほんとに真面目だなぁ~って」
「……お言葉ですが、大尉が規格外過ぎるのです。私は至って普通です」
「……そうねぇ。少尉が本来の軍属の有るべき姿よね」
「ジェインウェイさん」

 

 少尉は私の間の手に目を輝かせていた。
 彼女はからすれば、上官が認めてくれるということは何よりの勲章なのだろう。
 大尉の方は私の言葉に面白くない様だ。

 

 確かに彼の言う事は一理ある。
 彼女がこの真面目さでどこまで耐えられるのか。鉄面皮といえど女なのだ。
 どんなに軍人として生真面目に頑張っても、それだけでは続けられないのも現実だ。
 彼もそうした事を理解しての彼流の諭し方なのだろうが、彼女からすれば『彼には言われたくない』と言ったところだろうか。
 ここは私の出番だろう。

 

「でも、大尉の言う様にあまり肩肘張らずに頑張って。
 あなたまで気を張りすぎて倒れたら、今度はそこの規格外の彼が指揮することになるんですから」
「ちょ、ジェインウェイさん!」
「ぷ、ふふふ。はい。気をつけます」

 

 非常照明で暗い艦内だが、ここでは明るい笑いの花が咲いていた。

 
 

 ―つづく―

 
 

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