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デカルト漂流記 in Cosmic Era 71_10話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 20:00:07
 

―天空より来る、紅いガンダム
高高度から降りてくるその機体に、殆どの将兵の目が釘付けになっていた。
本来なら射撃に入っている筈の高角砲も、その照準を合わせる指揮装置も、先程から動いていない。
「…あの…ガンダムは…」
そんな中、デカルトは自身の記憶の海から一つの記憶を探そうとしていた。
(―あの機体…あれに似た機体を…一度見た事がある筈だ…)
自身の放つ脳量子波、その流れをも利用し、自身の記憶を呼び覚まそうとする。
(…直接じゃない…報告書か何かで…駄目だ、思い出せない!)
思考を一旦止め、その機体をもう一度凝視する。
(やっぱりだ…見た目は似ている…でも何に…。…ん?)
ふと、感覚が変化してきた。どこか懐かしい、感覚が研ぎ澄まされるような…
(…何だ…これは…?…他人の…脳量子波?…脳量子波だと!?)
脳量子波が、普段に比べて伝わり易くなっている。ということは…
「艦長!!すぐ射撃を開始しろ!!あいつはヤバい機体だ!!急げ!!!」
『…い…いきなり何なんだ君は!?それが上官に対する態度か!?』
「今はそんな些細な事などどうでもいい!!あいつは…あいつは…!!」
再び見上げると、奴の姿勢が変化している。右に保持した火器を、こちらに向けている。
少しずつ、その先端が紅い光を帯びてきた。その光が強くなっていくと同時に、感じ取れる脳量子波も強くなっていく。
(…やはり間違いない!!あいつは…GNドライヴ搭載型MS!!)
この世界に無い筈のテクノロジー、GNドライヴ。それが、何故、どうして此処に?
そんな些細な事情を考える余裕は無い、奴は今その力を振るおうとしている。
その力がもたらす破壊を、少しでも和らげようとデカルトが叫ぶ。
「…艦長!!全艦に回避・対衝撃姿勢の指示を!!ッ!?」
言い終わる前に、その閃光が海面に突き刺さる。毒々しいまでに紅い、初期型GNドライヴの粒子を用いたビームの、破滅の光が。

 

直後、海面が爆ぜる。水蒸気爆発によるものだけではない。爆炎と破片が混じった、赤い光も見られる。
同時に、即死したであろう乗組員の断末魔の脳量子波が、デカルトの脳を直撃する。
「…ッ!潜水艦を!?この距離からか!?」
レーザー測距で計測しても、奴はまだ高度13000を超える高高度だ。
GN粒子を利用したビームでもこの距離を経由して、尚も潜水中の潜水艦を撃沈するのは生半可な出力・収束率では到底不可能の筈だ。
少しして、紅い光の柱が、ゆっくりと動き始める。また一つ、また一つ水柱が立つ。途中で数隻の水上艦も巻き込まれている。中には戦艦や航空母艦まで含まれている。
『潜水艦バルフィッシュ、シーライオン、シャーク・テイル轟沈!戦艦サウスカロライナ、ニューアイアンサイズ、山城大破!畜生!空母ラングレーもやられた!』
『ハウンズと綾波が煽られて転覆した!外周の護衛艦を呼び戻せ!!』
奴のビームは既に数十秒は照射されている。僚艦が高角砲での迎撃を始めているが、ビームの余波で焼き尽くされている。なされるがままの状態だ。
『…馬鹿な…たかがMS一機だぞ!?こんな兵器を単機で運用出来る筈が…!!』
『…こんな…こんなの…夢だろ…?』
僚機の面々が口々に絶望的な感想を口にする中、やっと奴のビームが途切れる。
僅か2分足らずで、USの周囲に展開していた27隻の直衛艦が一撃で沈められていた。
『…奴が来たか…化け物め…!』
そんな中、ハイネマンが気になる言葉を口にする。
「…っ!…ハイネマン、アレを知ってるのか?」
『…因縁浅からぬ相手、ってもんさ…今説明してる暇はないかけどな…』
話している間にも、赤い機体は急速に接近しつつあった。対空砲火を上げる、僚艦の火器を次々と潰しながら。
「…そうかい。お前も対空砲火を上げたらどうなんだ?」
『この距離で当てられる程腕は上げてないさ。全機、奴の出方が分からん。十分に警戒しろ』
「…了解」

 

暫くして、赤い機体がUSの甲板上に降りて来た。圧倒的な力を誇示するかのように、堂々と。
そして、着地する。そのまま動かない。まるでこちらを値踏みするかのように。
その隙にハイネマンから、接触回線で通信が入る。
『…隙を見て撃ち込む、斬り込めるか?』
「…OK」
『お前の所のビームサーベルはどうか知らんが、こっちじゃ切り結べん。気を付けろ』
「そんな余裕は無い…かなりヤバい相手みたいだ…だから…」
目の前の機体から溢れ出す脳量子波、それはかなり研ぎ澄まされたものだ。こういった相手は、心で反応するよりも身体が先に反応する。パターンを読むのも同様。
正直言って、勝てる見込みは無い。
だからこそ、パターンや癖を読まれる前に…
「速攻で決める!!」
レバーを一杯に押し込み、デュエルを全速力で走らせる。メインブースターが使えない以上、これが今のデュエルの全力だ。
赤い機体もこちらに突っ込んで来る。こちらはまだ全力、若干浮遊しながらとんでもないスピードで肉迫する。
(獲物は右の銃剣…いや、それだけじゃないな…)
頭を全力回転させながら機体を動かす。
向こうは逆袈裟に斬り上げにくる。ならば…
「…ふんッ!」
斬られる寸前に、相手の右に飛びかかる。相手の太刀筋の僅かに上。左爪先が斬り飛ばされたが、問題無い。
右に保持したビームサーベルで斬り掛かる。この状況なら直撃する、そう思った。だが…
「…ぐっ!?」
相手が一枚上手だった。
赤い機体は振り切った勢いそのまま、右足を軸にデュエルを蹴り飛ばす。そのまま銃剣を甲板に突き刺し新たな軸に回転し、今度は右足からビームサーベルを発振させ切り払う。
シールドで何とか防ぐものの、出力が高くそのままシールド上部を切り捨てられた。
『頂いた…』
だが、その隙にハイネマンはしっかり狙いを絞っていた。距離はせいぜい200はせいぜい200m、外しはしない。
『墜ちろよ!』
ハイネマンの叫ぶ声とともに、大型ライフルから高出力のビームが放たれた。

 

その光は、赤い機体に一直線に向かっていった。赤い機体が左腕を翳すが、細い腕では防げる筈も無い
―筈だった
『―な!?』
「―何!?」
その光は、左腕にもう少しで届こうという距離で
―まるで煙が風に吹かれるかのように消えてしまった。
「…こ…のぉッ!!」
デュエルの姿勢を立て直し、再び斬り掛かる。今度は外さない。
だが、そのサーベルのビームも、先程と同じように消えてしまった。先程よりは左腕に近付いているが、ダメージは全く与えられていない。
「…ば…馬鹿な…!?」
威圧されながらも、デカルトはデュエルを全速力で後ずらせる。何か、嫌な何かが背後を突き抜けていくような感覚に迫られて。
いきなり、赤い機体が左腕を振り上げる。
何も保持していない、保持していない筈だ。だが、デカルトの脳量子波がその左腕に恐ろしい何かを感じている。
その恐怖に駆られ、デカルトはシールドで機体を庇う。
だが、そのシールドで遮られた死界が無ければ見えたかも知れない。左腕の周りの後方の景色が歪んでいることが。
そして、少しの間を空けて、左腕が振り下ろされる。
何も無い筈の左腕。それは確かに、シールドを掠めただけで通り過ぎていった。
だが―

 

(―な―にぃ―!?)
急にコックピットの照明が消え、真っ暗になった。その直後、左腕に尋常ではない痛みが襲う。
モニターは一瞬ではあるが、照明が切れた直後も作動していた。そして、その様子も一瞬ではあるが、十分な量の情報を映し出した。
砕け散るシールド、霞む景色、弾け飛ぶ関節と装甲。
それだけで、何が起こったのか察しがついた。
(―超…振動…兵器!!)
それしか考えられない。それも接触せずにこの威力、尋常な出力ではない。
その思考は一瞬だったのだろう。自分でも驚きが隠せない程、視界がスローになっていた。
それはつまり、自分がそれだけ危険な状況にあるということ。

 

少しずつ、砕けたモニターや内装の破片がこちらに向かってくる。
左腕は―既に砕けたフレームか何かに包まれて見えない。
それらは、ほんの一瞬の後、デカルトの命を奪い去りに来るだろう。

 

(―畜生が!!)

 

声を出す暇も無い、刹那の刻。

 

その直後、デカルトの意識は吹き飛んでいた。

 
 

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