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ライオン氏_ガンダムSEED外伝 〜南国の竜神伝説〜_第00話

Last-modified: 2009-11-26 (木) 00:45:41

「よーし、そのビルの瓦礫はB倉庫に回せ! 端から二番目のハンガーだよ!」
「新入りのレイスタは崩壊した道路の撤去に向かってくれ! こっちの住宅街は充分だ!」
「ドリルもっとよこしてくれ! 無理ならジャンク屋にでも借りて来い」
「せーの、でレバーを引き上げるんだぞ? いいな? ……せーのっ!」

 

照りつけるような日差しの中、荒っぽい叫び声が瓦礫の山と化した街並みに飛び交う。
蜃気楼が揺らぐ廃墟の海を人々の指示に従って全高二十メートル近いモビルスーツが歩き回り、
様々な重機を使って人間の手では負えないくらい巨大な倒壊した建築物を突き崩すその姿は、
まさに圧巻だ。

 

――まるで童話に出てくる巨人の国に迷いこんだみたいだなぁ……。

 

黒髪の少年シン・アスカは、汗をぬぐっていたタオルを首にかけ、
いつのまにかさまよっていた視線を前に戻し、目の前の瓦礫めがけてつるはしを振るった。
そのたびに瓦礫が砕ける感触が手に伝わって、心地よい。

 

ここは、南半球の赤道付近に位置するオーブ連合首長国の島の一つ、オノゴロ島。
かつて大規模な火山を利用した発電所、他にもモルゲンレーテをはじめとする軍事施設を擁していた
オノゴロ島は、オーブに侵攻しようとする連合にとって、まさに宝の山であった。
マスドライバーのあるカグヤ島と同じく連合軍艦隊や新型MSの熾烈な攻撃を受け、
オーブ軍が市街地に布陣したこともあり、オノゴロ島全体は流れ弾や爆発による甚大な被害を受け、
間をおかずに壊滅してしまった。
そして少年がいるこの街こそが、かつてオノゴロ島で一番の繁華街だったと言われると
誰もが驚きを隠せないだろう。
それほどまでにこの場所は、瓦礫に埋もれ、砂埃が舞い、凄惨な光景が広がっていた。

 
 

シンはこの街並みを見わたすたびに、胸のあたりが締め付けられるような気分になる。

 

――(オノゴロ島全域に、避難命令が下されました! 繰り返します! オノゴロ島に――)

 

今でも耳に染みついている。
ミサイルのかん高い音、着弾した際の爆音、鳴りやまないサイレンの音。
そしてすべてが終わった後、帰る家をなくした人々のすすり泣く姿が、いまだに網膜に焼きついて離れない。

 

「……ッ!」
冷たくて暗い思いを振り払うかのように、シンは思い切りつるはしを振り下ろす。
この場所は、以前はシンと家族の家が立っていたところだ。
だが、そこに温かい我が家の姿は面影すら残していない。
なぜなら屋根から下がぺしゃんこに潰れているのだ。
聞いたところによるとオーブ軍のMSが敵の攻撃を受け倒れこんだらしい。
強化コンクリートと振り下ろしたつるはしの刃がガチンと音を立てぶつかり、小さい火花が散る。

 

――あの時の自分はたった一人で、何もできずにただ茫然とするだけの子供だった。
   でも、今は――

 

『やぁ、シン! 今日も頑張っているんだね』
『こちらにおられましたか、シン君』

 

急にここ最近で聞きなじんだ声をかけられ、シンは思わず手を止めて後ろを振り返った。
そこには赤と青の車両が声に合わせてヘッドランプを点滅させている。

 

『僕たちに手伝えることはあるかい? 僕たちはさっきメンテナンスを受けたばかりだから元気爆発さ!』
ブォォォンという雄叫びのような唸りとともに赤いハシゴ車の車体のランプが力強く発光する。
「ううん、ありがとう。でもちょっとした探しものだから。
 そんなことでもお前たちに頼ってばかりじゃダメだからな。せめてこれだけは、俺が」
そう言って再びシンは手元のつるはしやスコップを見る。

 

――この家は、マユと父さん母さんといっしょに住んでいた大切な場所だ。
戦争で勝手にバラバラにされて、誰かの手で勝手にどこかに捨てられてしまうのだけは、
どうしても許せなかった。

 

『私の計算では崩落の危険はありませんが、だからといってシン君一人だけでは危険です。
 今から私が長官にMSと工具を借りれるかどうか進言してきましょう』
青いクレーン車がカーランプを数度点滅させた。
その多くの物事に目を配らせ、時には相手を心配してくれる、
まさに頼れる兄のようなその声がシンは好きだった。
「えぇっ、やめてくれ! あのバカ長官に言ったら
 『私が全部片付けてやる~!』って言うにきまってるから……!」
『ハハハッ、あの長官さんならそれは間違いない!』

 
 

かつて戦闘で破壊されたにもかかわらず、この“街”は活気に満ちていた。
いや、活気なのは街ではない。
人だ。復興に勤しむ作業員の一人ひとりが、それぞれ明日への希望や膨らむ期待に目を輝かせていた。
これほどの人やMSが集まり賑わいをみせているのは地球上でもそうそうあるまい。
それもひとえにとある機体――いや、"人物"たちのおかげだった。

 

「あっ」
『どうしましたか? シン君』
シンは積み重なった土砂や木材の向こうに小さな物体を見つけて声を上げた。
ちょうどリビングのあった場所で、チカチカと何かが光るのが見えたのだ。
まるで自分を今まで待っていたように感じられ、彼は頭から瓦礫に突っ込み、
その隙間から必死に手を伸ばす。

 

――あれは、マユの……!

 

しかし暗闇の中で光る灯に、あと数センチというところで届かない。
掴もうとする手は空を掻き、体の奥から脱力感が滲みでてきたとき――

 

システムチェェェェンジ!

 

刹那、シンの上に覆いかぶさっていた瓦礫が持ち上がった。
シンは驚いて上を見上げると、両手に瓦礫の山を抱えた青と赤の巨人がこちらに向かって
口の端をニィッと吊りあげた得意げな笑みを浮かべている。

 

『こういうことなら僕たちに任せてくれ!』
『私たちでも、この程度のお手伝いならかまわないでしょう?』

 

つい嬉しさがこみ上げて、シンの顔にも笑顔が宿る。
そこでようやく我に返ったシンは、自分が液晶が点滅する携帯電話を掴んでいたことに気付いた。
愛らしいストラップがついたそれを、シンはなじみがかった仕草で操作する。
すると、軽やかな電子音とともに携帯電話から幼い少女の声が流れ出した。

 

『探しものとはその携帯電話のことでしたか。これほどの無茶をさせるとは、大事な物なのですか?』
「うん。これはとても、大切な――」

 

〈ハーイ、マユでーすっ! でもごめんなさい、今マユはお話しできません。
 あとで連絡しますのでお名前を――〉

 

その声を聞いていたシンは、ふと無意識に天を仰いでいることに気付いた。
手にした携帯電話を胸に強く抱きしめ、目を閉じる。
脳内から何もかもが消え去り、やがてシンは、平和だったころの自分を思い出していた。

 

――オーブには、竜の守り神がいる――
――地球も、プラントも、大人たちは誰も信じてはくれないけど。

 

『泣いているのかい、シン? ……大丈夫、シンには僕らがいる!』
『……静かにしていろ。お前のメモリーの中にデリカシーという文字はないのか?』

 
 

――15歳、夏。荒れ果てたオノゴロの街並みの中。
  俺たちはただ、そこで――伝説と巡り合った。

 

ガンダムSEED外伝 ~南国の竜神伝説~

 
 
 

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