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子連れダイノガイスト_第0話

Last-modified: 2008-09-18 (木) 09:02:55

 C.E.72年3月10日。
 瓦解しかけた地球連合とアイリーン・カナーバを議長とするプラント臨時最高評議会との間で、終戦協定が結ばれた。
 70年2月14日に核ミサイルによって破壊され、今は地球を取り巻くデブリベルトを漂うコロニー『ユニウスセブン』で結ばれたこの条約は、場所にちなみ『ユニウス条約』と呼ばれていた。
 この条約によって、宇宙・地球上の領土はプラントの自衛組織ザフトと地球連合との戦争勃発以前の状態に戻され、大西洋連邦によって占領されていたオーブ連合首長国も再独立と復興の道を歩んでいた。

 

 そしてC.E.73年。第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦より時は流れ、新たな時代の幕が上がった。

 
 

 ――拝啓 父さん、母さん。

 

 シンです。あの戦争からもう一年以上が経ちました。二人が死んでしまってから塞ぎがちだったマユも、今では元気にあちこちぼくと一緒に飛び回っています。
 時には元気がありすぎて、手に負えない位です。めそ……

 

 ――中略

 

 幸い、ぼくらを引き取ってくれる人……まあ、人もいたので、身寄りがないというわけではないので安心してください。
 ただ、マユに関して申し訳ない報告があります。いや、ぼくも含めてかな?
 ぼく達はどういうわけか、

 

『お兄ちゃん! はやくはやく、見つかったよ!!』

 

 キンキンと耳の中で跳ねまわる妹の甲高い声に、シンは閉じていた目を開けて、小さく溜息をついた。それから両親への報告を再開する。

 

「父さん、母さん。ぼく達――おれ達は今日も元気に『宇宙海賊』をやっています……なんて言えないよなぁ」

 

 とびきり大きな溜息をついて、シンはゆっくりと目の前のコンソールを操作し始めた。落されていた火が灯り、鋼の体躯に電流が流れ細胞の目覚めを誘発する。
 右手につけた自分達の所属を唯一明らかにするブレスレットに目をやり、そこから投影された立体スクリーンで、手筈通りこちらに向かって逃げているマユの位置を確認する。

 

「よし」

 

 わが妹ながらどんぴしゃのタイミングだ。シンはそう呟いてから、自分が身を預ける鋼の巨人『ディン』を起動させた。ザフトの開発した空戦能力を持つ旧式MSは、その姿を隠していた薄い絹の様な幕を肩の収納スペースに吸い込んだ。
 この星の如何なる陣営も開発していない、光学迷彩機能及びあらゆる探査機構を無力化する、ほぼ完璧なステルスシートだ。これを保有しているのは、エイリアン・テクノロジーを有するシン達だけである。
 突き出した崖の下に身を潜めていたディンを数歩前へ歩かせ、崖の上にある巨大な屋敷の窓の一つを突き破り、月のさやけき晩に、砕けたガラスを宝石の雨の様に纏って落下する少女――愛妹マユ・アスカをディンの両手で極めて優しく、受け止める。

 

『ナイスキャッチ!』

 

 シンの右手にあるブレスレットから、マユの明るい声が聞こえた。

 

「無事か?」
『うん!』
「よし、逃げるぞ!」

 

 足の爪先から頭のてっぺんまですっぽりと黒いラバー素材に似たスウェットスーツを、ぐいと引き剝がし、マユのちょっぴり成長した顔がのぞく。
 ディンのモノアイのメイン・カメラ越しに確認したシンは、目的のモノを奪取出来たことを確認し、コックピットにマユの小さな体をしまい込むと、一気に背や脚部のバーニアを噴してその場を後にした。
 みるみる内に遠ざかるディンに向かって、その屋敷の主らしきユニークな程に球形の中年男性が、手に持っていた黄金のステッキを振り上げて、唾をまき散らしながら怒鳴った。

 

「おのれ!! 宇宙海賊ガイスターめっ、我が家の家宝をまんまと盗みおって!!」

 
 

となりのダイノガイスト・SEED DESTINY編 『子連れダイノガイスト』 第0話

 
 

 宇宙海賊ガイスター。

 

 ユニウス条約締結前後に活動を始めた極めて小規模の宇宙海賊である。主に窃盗行為を行い、破壊活動を伴う強奪行為が罪状のほとんどを占める。
 これまでに確認できた構成員は、十代半ば頃の少年と十歳前後と思しい少女の二人組。及びそのサポートを行っていると思しき自律型サポートメカ。
 さらに、地球連合のオーブ戦に於いて初めて目撃されたという、恐竜・戦闘機・人型の三段階に分かれて変形する『ダイノガイスト』なる、巨大なロボットだけである。
 上記の二人はおそらく専門の訓練を受けた特殊なコーディネイターと思われ、まだダイノガイストなる現行の地球圏では開発不可能とされるMSを所持している事から、巨大な組織のバックアップを受けていると、無責任なうわさが飛び交っている。

 

 これまでにガイスターが奪ったとされる金品の一部を以下に列挙する。
 ・徳川家康の元で佐渡の金山奉行を務めた大久保石見守長安が隠匿したという、およそ300万両近い小金。
 ・ドイツ第3帝国再建の為、アドルフ・ヒトラーが世界各地に分散秘匿させた300兆円(二十世紀末当時)以上のナチスドイツの遺産、およそ1/10。
 ・メソポタミアの王妃の墓所から出土した、60カラットダイヤ19個、30カラットダイヤ8個、ルビー30個、エメラルドと翡翠を7個ずつ。繋ぐリングはすべて純金の首飾り。
 ・古代ペルシアを祖とする、ゾロアスター教の善神アフラ・マズダを象った銀面。
 ・ギリシャ文明の聖地アテネの山中から掘り起こされた、純金製の1/50サイズのパルテノン神殿。
 ・ヨハネス・グーテンベルグが世界で初めて活版印刷機で印刷したとされる『ラテン語聖書』現存四十八部の内の第三十七部目。
 ・エドガー・アラン・ポー18歳の時の処女詩集『タマレーン、その他の詩』。などなど。

 

 価値が付けられない途方も無い品から、国家が買えるとされる超ド級の品々、はては理解に苦しむ珍品までと手広く海賊行為を行う彼らの噂は、娯楽に飢える人々とジャーナリズムの無責任な尾鰭を付けて、地球圏に知れ渡っていた。
 また彼らの華やかな成果以外にも、プラント、地球諸国家の軍部ではガイスターの保有する機動兵器ダイノガイストへ凄まじいまでの注目が浴びせられていた。
 初めて姿を見せたオーブでの戦闘時、明らかに損傷を負ったと思しき状態で、当時最強のMSとして数えられたフリーダムと、新型GAT-Xナンバーカラミティを瞬殺。
 更に続けてストライクダガー38機、M1アストレイ10機余りを尽く撃墜ないしは戦闘不能に追い込み、たった一度の戦闘で50に昇るMSを粉砕せしめた超異常戦闘能力に、目を付けない勢力はなかった。
 そのダイノガイストを有する宇宙海賊ガイスターが活動を開始してから、各国の諜報部や軍事企業は持てる諜報能力の全てを用いて、ガイスターの捕縛・懐柔に血道を挙げているが、いまだ成果を上げた者達はいない。

 
 

 ――これは、後に宇宙警察の最精鋭チーム『カイザーズ』と飽くなき逮捕劇と闘争劇、宝の奪い合いを演じることになる『新生・宇宙海賊ガイスター』の活動記録の、ごく初期の物語である――