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子連れダイノガイスト_第11話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 03:42:34
 

子連れダイノガイスト
第十一話 ユニウスブレイク

 
 

 新たに出現したアーモリーワン襲撃部隊――ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールの私兵ファントムペイン――は、ユニウスセブンを舞台に交戦状態にあるザフトやテロリスト達をまとめて敵と認定したらしく、出撃した部隊は誰かれ構わず襲い掛かってきた。
 カオス、ガイア、アビスと運用次第で戦局にも影響を与えうるだけの性能を与えられたセカンドステージに類するMS達は、搭乗したパイロット達の能力をあいまってザフトのザクや、テロリストのジンHM2型とも互角以上に渡り合っている。
 三機の新型G以外に、ダガーLなどの量産型や母艦から艦砲射撃が無いのを見てとって、ダイノガイストは、牙を剥かぬ限りは放置と決めた。すでにメテオブレイカーの設置と起動は大部分が始まっており、作業が終わるまでそれを守ればいい。
 流石に、ファントムペインも起動しているメテオブレイカーを破壊して地球を危機に陥れる様な真似はすまい。そう考えればわりと余裕ができた状況と言えなくもない。
 無論、地球滅亡かそれに準ずるだけの危機状況下ではあるのだが、ユニウスセブン落下阻止の切り札を数枚保持しているダイノガイストが、多少楽観的な判断を下すのも無理からん事ではあった。

 

『む』

 

 メカニズム化したボディのセンサーと、エネルギー生命体としての宇宙規模の知覚能力が、ファントムペインにやや遅れた形でユニウスセブンに到着したミネルバの船影を捉えた。
 ジュール隊が既に交戦状態である事は伝わっているようで、ダイノガイストの視覚に相当するセンサーには、ミネルバの搭乗員達の緊張や戦闘意識といったものがはっきりと見えた。
 さてどうするか。あのミネルバの部隊まで来たと言う事はもはや手を下さずともテロリストの部隊は壊滅するだろうし、というか自分とマイトガインやヒリュウとの戦闘で既に残りは数えるほどだ。
 あとは適当のメテオブレイカーに注意を払いながら、マイトガインらにちょっかいを掛けるだけの余裕もできたのではないだろうか。さて、どうしたものかとダイノガイストは珍しく思案した。
 その活動範囲と寿命から惑星単位の危機というものに慣れのあるダイノガイストに比べて、他のガイスターのメンバーやザフトの面々ら、というよりもダイノガイスト以外の全て人間は、この上ない緊張の糸の上を歩いているままだ。
 それはそうだ。今だユニウスセブンは着実に地球へと向かって落下し続けているし、メテオブレイカーは数基が破壊されて、予定数よりも少ない数が起動しているのみで、まだ作業だって終わっていない。
 落とさんと望むテロリスト側にしても、なんとしても阻止したいザフトやファントムペインの側にしても、所属不明のガオーMSやヒリュウ、マイトガイン、宇宙海賊ガイスターがいるわで、心中が穏やかな筈もない。
 とりあえず落下阻止に動いている事と、詮索を後回しにしなければならないと言う状況だからこそ、なかば放置しているのであって、なぜ彼らが、あるいは、あいつらは何者だ、という疑問は目に見えぬストレスを与えている。
 そして、ガイスターの側にも今回の事態に計り知れぬ心理的ストレスを与えられている者はいた。シン・アスカだ。
強奪したザフトの最新鋭機インパルスに、改造したエールストライカーを装備したエールインパルスで、残り少なくなったテロリストと交戦していたシンは、今はファントムペインに強奪されたガイアと交戦していた。

 
 

 漆黒の装甲に、MSと四足獣のMA形態を併せ持つガイアは、ユニウスセブンの岩肌を蹴りながら変則的な動きで、インパルスを追いたて、ビームライフルやビームキャノンで装甲を舐めるように削り取っている。
 インパルスが運用するシルエットと違い、ストライカーそのものにはバッテリーが装備されており、またガイスターロボによって強化されたストライカーは規格品を大きく上回るスペックを獲得している。
 わずか一度きり操縦したインパルスに対しても、シンが生来持つMSへの適正と、同中でのシミュレーター訓練でそれなりに慣れてはいた。同じセカンドステージに属するガイア相手に、性能だけて言えば既にエールインパルスは一歩先んじているのだ。
 実戦経験の有無などを考慮して、若干シンがガイアを操るステラ・ルーシェに劣るにしても、十分に覆しうるだけのモノがエールインパルスにはある。
 しかしユニウスセブン落下阻止に逸るシンと、目の前の敵を倒すと言う目的のみに邁進するステラとでは、戦闘に対する集中の度合いが違っていた。

 

「くそ、こいつが落ちてもいいと思ってんのかよ、お前ら!!」

 

 唾を飛ばす勢いで怒声を吐いたシンは、立て続けにインパルスのビームライフルでガイアを狙い撃つ。いずれも直撃コース。相手を殺害する事も厭わぬ狙いは、シンの苛立ちが表出したせいだろう。
 襲い来る翡翠の矢を、漆黒の獣は軽やかに跳躍して交わし、背から横に倒したビームブレイドで、インパルスを斬り伏せんと加速する。

 

「そんな直線的な動きで!」

 

 一気に加速するガイアの動きは並はずれた速度を有していたが、伊達に機動力に優れたエールストライカー装備ではない。それにMS操縦の師匠であるアルダ・ジャ・ネーヨからは防御・回避を重点的に叩きこまれている。

 

「これくらい、ダイノガイストに追いかけ回された時に比べれば!!」

 

 かつて、『チキチキ二十四時間耐久鬼ごっこ』(アルダ命名)という名目で、生身で、ダイノガイスト相手に無人の孤島で二十四時間追いかけ回されると言う特訓という名の拷問を受けた事がシンにはあった。
 サバイバルパック片手に、ジャングルの中へと逃げ込み、恐竜形態のダイノガイストに追いかけ回された日の記憶は、シンの精神の奥深くに極めて深いトラウマとして根付いている。
 日の出から翌日の日の出まで、遥か遠方からも聞こえる地鳴りの様なダイノガイストの足音と尾を引きずる音は、鼓膜を破ってしまいたい衝動に駆られるほど恐怖を駆り立てた。
 もはや現代には生息していない古代の王者の姿を借りた鋼の恐竜が、時に火を噴き、MSを紙人形のように切り裂く爪を振るい、牙を剥き、追いかけてくる恐怖。
 シンは一睡も出来ず、特訓を終えてからまる三日は碌に眠れなかった。
 これは、極度の恐怖体験を先に与えておくことで、MS戦などで感じる生命の恐怖に対する耐性を手っ取り早く身に付けさせると言うアルダの狙いがあった。
 最も、アルダが逃げ回るシンの姿を終始、ニヨニヨといやな笑みを浮かべながら見ていたというから、面白がっていただけだろう。
 とにもかくにもダイノガイストに二十四時間追いかけ回された訓練のお陰で、シンの恐怖に対する耐性というものは、歴戦の戦士並みに高い。
 逆に恐怖に慣れてしまった所為で、躊躇なく危険に飛びこむ事もあって裏目に出る事もあるが、思い切りのよさと防御・回避行動に関しては新旧ガイスターでもピカイチと呼べるものがある。
 フットペダルとレバーの操作で、スラスターの噴射角度を操作し、エールインパルスを前方宙返りをさせる要領で、ガイアの光刃をかわしてみせる。
 目まぐるしく変わる視界の中で、ガイアの背を捉えたと同時に、エールインパルスの右足で蹴り上げ、機体を揺さぶる衝撃が直撃した事を教える。
 宙を舞うガイアの横っ腹に狙いを定め、姿勢の整のわぬままビームライフルを撃つ。低重力かではあるが、難度の高い跳躍射撃の精度は見事との一言に尽きた。
 しかし、ガイアはおそらくは視界にとらえられなかったであろうエールインパルスの射撃を、第六感的なものか、あるいは偶然か、MS形態への変形によって回避して見せた。
 四足の獣から人型へと変わったガイアの左肩をかすめた光に、シンは舌打ちを、ガイアの中のステラは眦を険しくした。
 互いに強敵と認めた瞬間であった。

 

 標準的なライフルとサーベルだけのエールインパルスではいま一つ決定打に欠けると思いながら、シンはセンチ単位でガイアとの距離を測った。
 ガイスターの上位陣、といってもアルダとダイノガイストの二人なのだが、このレベルの強者ともなると細か過ぎると言いたくなる範囲で、戦闘の動作が行われる。
 機体の装甲越しにも相手の殺気や悪意を明確に知覚し、機体の内部から漏れ聞こえるアクチュエーターやフレームの軋み、関節の動きから予測できる一連の動作とそこからの派生動作……そう言ったものを、メートルどころかセンチ、ミリ単位で見抜くのだ。
 洞察力がどうとか、観察力とかもはやそう言った範囲を超えたウルトラエースクラスにしかわからない領域の話だ。が、その二人との訓練が日常化しているシンも、おのずと同程度の観察力が要求され、技量には見合わぬ観察力と繊細な操作技術が根付いている。
 エースクラスの一騎打ちでも無視されるような些細な動作までも見切ろうとしてしまう、身の丈に合わぬ無意識の行為が、今一つシンの実力を発揮しきていない理由でもあった。
 極端に言えば、アマチュアがプロの真似事をしようとしているのだ。目下、ダイノガイストやアルダと、シンの間にはそれだけの壁が厳しく存在している。
 とはいえ、それでもシンの実力はファントムペインが有する強化人間であるステラや、ザフトのエリートであるレイやルナマリアとも互角に戦えるだけ者はあり、それゆえに、今、ガイアとエールインパルスはタイムリミットの押し迫る状況下で睨みあっていた。
 なにがきっかけで動くか分からぬ緊張に、喉がからからと乾いてゆくのを感じていたシンの耳を、甲高いアラーム音が打った。自機に対する攻撃行為を認めての警報ではない。この場におけるガイスターの目的に対する注意を促す音だ。
 すなわち、メテオブレイカーへの攻撃行為が行われている事を察知した際に、なるように設定していたアラーム音。
 くるりと背を向けるエールインパルスの無防備な姿に、一瞬ステラは呆気に囚われたが。眼前の獲物が自分を無視する姿にすぐさま、腹の奥底に怒りを覚え、ガイアに後を追わせる。

 

「逃げるな、臆病もの!」
「っ、おれ達が戦うよりもやらなきゃならない事があるだろうが!」
「なに?」

 

 全周波チャンネルでの罵倒に帰ってきた年若い声に、ステラは思わず疑問の声を上げてしまった。
 エールストライカーの機動性にモノを言わせて、凹凸の激しい岩肌を一気に飛び抜けた先には、メテオブレイカーを守るザフトと襲うテロリストの部隊の姿があった。
 手練らしくジンHM2型を相手にミネルバから出撃したフォースインパルスは、単機ながら奮戦している。ミネルバにはたしかもう一機インパルスとゲイツRかザクが配備されているはずなのに、とシンは思ったが、どうやらカオスやアビスと交戦しているらしい。
 となると自分が援護に入るしかない。ミネルバのインパルスとはアーモリーワン脱出時に戦ったが、どうにも援護に入りづらい。コアスプレンダー強奪時に、インパルスの女性パイロットの胸も揉んでいるし。
 確かルナマリアとか言う女だったか。今も鮮明に思い出せる豊満な肉の感触を、シンは緊急事態緊急事態と呟いて脳裏から追い払った。
 Fインパルスの背後を取り、斬機刀を振り上げたジンHM2型の右腕を三連射で撃ち落とし、背後の敵機に気づいたFインパルスが背のラックからビームサーベルを抜き放って一気にその胴を薙いだ。
 バッテリー駆動の機体は推進剤や弾薬に着火でもしない限りは爆発を起こしにくい。胴体を二つにされたジンHM2型はそのまま慣性に流されて、下半身はユニウスセブンの地表に、上半身は大気圏へと流れて行った。
 サーベルを振り抜いた姿勢のFインパルスに襲いかかる残りのジンHM2型を、シンはライフルで牽制しながら、Fインパルスの背を守る位置に自機を動かした。
 幸い、メテオブレイカーに損傷はないが、起動がまだ行われていないようだ。

 
 

「そこのインパルス、テロリストの相手はおれがするから、メテオブレイカーを動かせ」
「その声、あんた、あの時のドスケベ!!」
「いい!? その声は、あの時の女パイロット」
「こ、ここで会ったが百年目っていう奴よ! そこのジンもろとも私の撃墜スコアに変えてやるわ!!」
「ま、待て! いまはそれどころじゃないだろ? ユニウスセブンの落下を阻止しないとたくさんの人が死んじゃうんだぞ! そりゃ胸を触ったのはおれが悪かったけど、触られた事の方が、ユニウスが落ちるのよりも大事な事なのかよ!?」
「そう言われたら、そりゃユニウスセブンを落とさない方が大事に決まっているでしょ」
「だったら、頼むからメテオブレイカーを動かしてくれ。おれがそれまで時間を稼ぐから」
「宇宙海賊のアンタを信用しろっての? そのインパルスだってアンタが私達から奪ったものじゃないの」
「おれは……地球生まれなんだ」
「……分かったわよ。その代わり、流れ弾一つこっちに流すんじゃないわよ」
「任せとけ!」

 

 地球生まれというフレーズが功を奏したか、ルナマリアはまだ半信半疑という感ではあったが、メテオブレイカーへと機体を向ける。起動させる為のコードは事前か、あるいは今ジュール隊から聞いている所だろう。
 レーダープラス目視で確認した限り、敵は三機。十分にしのぎ切れる……か?

 

「メテオブレイカーを守るっていう条件付きじゃ、厳しい相手かっ」

 

 敵を落とすよりも足止めを狙って、ビームライフルをマニュアル動作で乱射する。大雑把な狙いの連射はそれ故に狙いが判断しづらく、三機は散開して大きく距離を取る動きを見せた。
 そのままビームカービンの一発も撃たせまいと、シンは散らばる三機めがけて短期とは思えぬ速度と密度で弾幕を張った。インパルスに突貫で組み込んだガイスター謹製の超高性能FCSやOSプログラムのサポートありきではあったが、獅子奮迅の働きぶりである。
 雨あられと放たれるビームの一つに、左ひざを撃ち抜かれたジンHM2型に狙いを定め、バランス調整に手間取っている所を狙った一撃を加える。ビームは見事胴を撃ち抜いてそのジンHM2型を仕留めた。
 残り二機。一機がこちらに、残りの一機がメテオブレイカーへと向かう。自分を足止めして、メテオブレイカーを起動中のFインパルスに襲いかかるか、無視してメテオブレイカーを破壊するつもりだろう。
 なら速攻で向かってくる敵を倒す。そう意気込むシンの思いを裏切って、後方から放たれたビームが、向かって来たジンHM2型を背中から貫いて爆散させた。

 

「ガイアか」
「逃がさないっ!」

 

 再びMA形態になったガイアだ。シンがテロリスト達と戦っている間に開いた距離を詰め、律儀にも追いかけて来たらしい。そのまま別の連中と戦っていればいいのに、とシンは心から思った。
 跳躍しざまに、ビームライフルとキャノン合わせて三門の火力を浴びせてくるガイアに辟易しながら、シンはAインパルスを横滑りする様にスラスターで飛翔させて火線を回避しながら、ガイアに通信を繋いだ。
 ここで無駄に戦うよりも戦う意味が無いとルナマリア同様に説得した方が早いと判断したのだ。

 

「待て、話を聞けって。おれ達が戦っている場合じゃないだろ」
「敵と話す事なんかない」
「そりゃ敵と味方だけど、今は目的が一致しているだろう」
「私はお前を斃す」
「だから、そうじゃなくってこのユニウスセブンを落とさないために戦っているんじゃないのか?」
「お前達が落とそうとしている。だからお前達を斃す」
「それが違うって。おれ達はユニウスセブンを落とさないために戦っているんだって。それ位、見れば分かるだろう。ユニウスを落とす為に戦うんだったら、メテオブレイカーを守りなんかしないっての!」

 

 いまいち噛み合わない会話ながら、ガイアのパイロットが頑なにこちらの言葉に耳を閉ざしている事を感じ取ったシンの声音は自然と荒々しさを増して行く。
 襲いかかるガイアからのビームを回避し、後方でルナマリアのFインパルスと通してしまったジンHM2型が戦闘を始めているのを確認した。これは、ルナマリアの舌鋒が火を噴くのは間違いない。

 

「ああもう、なんて言えば分かるんだよ!? いいか、このユニウスセブンが地球に落っこちたら、たくさんの人が『死ぬ』んだぞ! 
人間だけじゃない、地球で生きているありとあらゆる命が『死んじゃうんだ』。こんな時にザフトだ宇宙海賊だって気にしていられるのかよ!?」
「『死ぬ』? 死ぬ、死ぬのは、いや、死ぬのは……」

 

 『死』。その言葉を耳にしたとたん、ステラは体が凍りついたように動かなくなった。思考が破綻し、何をすればいいのか何がしたいのか分からなくなる。
 いや、自分の望みは分かってはいるのだ。『死』から少しでも遠ざかりたい。でもどうすれば死を遠ざける事が出来るのか、自分が死なずに済むのかが分からない。
 呼吸が苦しくなり、四肢の末端、手足の指先から徐々に石に変わった様に感覚が無くなってゆく。がちがちと、自分の歯が打ち合う音が耳障りだったが、それを止める事さえ気でない。
 頭の中でぐるぐると『死』という単語が回り続ける。いやいやいやいや、死ぬのはいや。死ぬのは怖い。いやいやいやいやだいやだいやだ。

 

(スティング、アウル、ネオ、助けて……!!)

 

 通信機の向こうから零れ聞こえるステラの弱々しい声をかき消す様な声で、シンは言った。

 

「だから!」
「あ……!?」
「だから、守るために今戦っているんだろう。死ぬのは誰だっていやだ。だから、死なないように、顔も名前も知らない人たちだけど、そんな人たちでも死なせたくないから戦っているんだろ! 守るんだよ!」
「守る? 守れば、死なない? 死なないの?」
「そうだよ。だから、守るためにもお前と戦っている場合じゃないんだって。分かってくれよ」

 

 『守る』。守れば、死なない? 死ぬのは良くない事。守れば死なないなら、ステラも。

 

「……分かった。守る。ステラも守る。死ぬのは、ダメ」
「あ、ああ。分かってくれたのか」
「死ぬのはいや」
「ああ、誰だってそうさ」
「ステラも、誰かを守れる? 守れたら死なせないで済む?」
「ああ、守れるさ。心から願えば」
「分かった。なら、守る。ネオもアウルもスティングも、みんな、みんな守る」

 

 ガイアのパイロットからの妙に幼げな、掴みどころのない返事にシンは要領を得なかったが、確かアズラエルからの情報では人体に手を入れられた兵士が動いていると言う話だった。
 となると、このシンと同世代くらいらしいガイアのパイロットも、肉体や精神に人類の知恵が生み出した忌わしいメスが入っているのだろう。どこか不可思議な言動も、その所為なのかもしれない。
 そう考えると、シンにはガイアのパイロットがひどく可哀想に思えて仕方が無かった。たとえ本人が自分の事をそう思っていなくても。それは傲慢な考えかもしれなかったが、どうしてもシンは胸の内に湧いた憐れみを消す事は出来なかった。
 シンのAインパルスに先んじてFインパルスの援護に飛んで行ったガイアの後を追い、シンは機体のスロットルを一気に押し上げた。

 

「ちょっと、何でガイアが来てるのよ? しかもなんか援護してくれてるし!?」

 

 ルナマリアはシンが取りこぼしたジンHM2型を、突如撃墜したガイアに驚きの声を挙げる。自分相手に集中していたとはいえ、ベテランの乗っているジンHM2型をいとも容易く撃墜して見せたのは、ガイアとパイロット双方の能力の賜物だろう。
 このままこちらに襲い掛かってくるかと身構えるルナマリアの前で、ガイアはくるりと背を向けるや、近づいてくる生き残りのテロリスト達を牽制し、明らかにルナマリアを援護する動きを見せたのだ。
 そこに、わずかにガイアに遅れてシンのAインパルスが姿を見せた。

 

「悪い、一機通した!」
「ていうかその一機をガイアが落としたんだけど、どうなってるの?」
「説得した! 今はおれ達で戦っている場合じゃないって納得してくれたんだ」
「本当に!? へえ~、話の分かる相手だったのね」
「起動準備は?」
「今からやり直すところよ。今度は横槍なんか入れさせるんじゃないわよ」
「分かっている!」

 

 ダイノブレードこそ両手に提げているが、ほとんど戦闘を眺める様子だったダイノガイストは、メテオブレイカーが次々と起動し、ユニウスセブンに罅が走るのを見守っていた。
 どういう経緯を経たのか、シンのAインパルスが、ザフトのFインパルスやファントムペインのガイアと連携してメテオブレイカーの一基を守っているのが目に入ったが、まあ問題はないらしいのでこれは放置。
 落下阻止の切り札の一枚も、うまくやっているようだしこれならばユニウスセブンの落下を完全に阻止する事もできるだろう。
 そう考えている間にも、ユニウスセブンはいよいよ落下阻止限界点に到達し、大気との摩擦で底部が灼熱の色になっている。メテオブレイカーは十分に間に合うとは思うが、念には念を入れるべきだろう。

 

『いくつかテストさせてもらうとしようか』

 

 対グレートエクスカイザーおよび捉えられているであろうガイスター四将救出用強襲兵器のテストには持ってこい、と言わないが、試すのはやぶさかではない。
 前者はともかく、後者は、四将らが捉えられているであろう宇宙牢獄の防御機構を突破する必要性から、大出力の広域攻撃兵器としての性格を持つ。ユニウスセブンくらいは砕けないと不十分なのだ。
 足元から伝わる振動が一層激しさを増し、大地のひび割れる音が大きさを増している。メテオブレイカーによって徐々にユニウスセブンが砕かれ始めているのだ。テロリスト達の機体はすでに数えるほどもない。
 センシングでユニウスセブンの効果的な破砕点を選出し、そこに向けて背のスラスターを吹かして突進しながらダイノブレードの刀身を重ねる様にして思い切り大上段に振り上げる。

 

『奴の技の二番煎じだが、同じ技を持って打ち破るも一興と思い立ち編み出した技よ。試し切りをさせてもらうぞ、ユニウスセブン』

 

 刀身を重ね振り上げたダイノブレードはダイノガイストの気迫を乗せ漆黒の雷を頭上へ一直線に迸らせる。本質がエネルギー生命体であるダイノガイストにとって、気迫、精神状態はダイレクトに戦闘能力に反映される。
 来るべき宿敵との再戦に向けて編みだした技の一つをいざ試しに当たり、ダイノガイストは目の前に宿敵エクスカイザーがいるという想定の下に、ダイノブレードに破壊の意思を込める。
 一直線に光の柱を築いた黒雷はその密度を高め、ダイノガイストの持つ必殺剣に匹敵する超高密度・膨大なエネルギーの刃と化す。それはかつてガイスターの前に立ちふさがったエクスカイザーが振るった必殺の剣。

 

『見よ、我が新たなる必殺剣、ダークサンダーフラッシュ!!!』

 

 振り下ろすは絶望という概念が変わったかのような漆黒の刃。黒雷を瞬かせながら、円筒型コロニーも両断するほどの超長刀身の雷刃が、ユニウスセブンの地表に斬り込む。
 メテオブレイカーによって分断されつつあった、死の次世代型コロニーが、その一刀によって崩壊を加速させてゆく。
 ガーディー・ルーやミネルバ、ボルテールに搭乗していたネオ・ロアノーク、ギルバート・デュランダル、カガリ・ユラ・アスハ、タリア・グラディスなどは、突如発生した超高出力のエネルギーと、その発生源を映した画像に食い入っていた。
 実に、ダイノガイストがコズミック・イラに現れて本格的に戦闘行為に乱入し、暴君の如く暴れ回った際に、ダークサンダーストーム、ダークサンダーインフェルノといった必殺の剣を振るった事は一度もない。
 振るうほどの強敵がいなかったと言うのが最大の理由だが、ヤキン・ドゥーエ戦役の際には、必殺剣で消耗するエネルギーを惜しみ、肉体の損傷を補いながら戦っていたためだ。
 故に、このコズミック・イラで初めて披露されたのが、今放たれたダイノガイストの新・必殺剣なのである。
 PS装甲さえも切り裂く途方もない切れ味を有するダイノブレードや、ダイノキャノン、ダイノバスターと言った強力無比な火器。
 攻撃面に置いてこれらがダイノガイストの兵装とみなされていたが、この地球存亡の場面にて、さらにそれらを上回る、もはや防御手段などない問答無用の一撃必殺の攻撃手段がある事が、暴露されたのだ。
 ダイノガイストの鹵獲(捕獲ではない)を目論む軍需企業や軍の者達からすれば、より一層貪欲に欲するか、新たに判明した鹵獲の困難さに頭をかきむしってしまう光景だろう。
 類似した兵器にミーティアのビームソードがあるが、攻撃力で言えば圧倒的にダイノガイストに分がある。また大型MAともいえるミーティアに比べ小回りが利き、この戦闘能力が隔絶しているダイノガイストが振るうとなれば、その厄介さは比較にならない。

 

『ぬうううんん!!』

 

 頑健な地表の抵抗を両腕に感じていたダイノガイストは、一気に両腕に力と気迫をこめて、ついにダイノブレードを振り抜いた。
まるまるユニウスセブンの一区画を切り取ったダークサンダーフラッシュの黒雷刃が、ゆっくりと根元から霧散し、ダイノブレードの銀の刃が露わになる。
ふと、ダイノガイストは以前、地球への落下軌道にあった隕石を巡る戦いで、隕石ごとエクスカイザーにサンダーフラッシュで斬られた事を思い出し(直撃はしなかったのだが)、このシチュエーションでこの技を使った事に若干の不快感を覚えた。
いや、威力に関して言えば申し分はなかったのだが。

 

『いらぬ事を思い出したか。まあいい。残りの細かい破片はアルダが処理するだろう』

 

 とダイノガイストはあらぬ方を見やった。それは別行動をしているアルダが向かったとある施設の存在する方向だった。

 
 

 シンは眼下でゆっくりと分割し、砕けてゆくユニウスセブンを言葉なしに見ていた。あそこにはまだ多くの人々の遺体が眠っている。その遺体も、今回の事態で大気との摩擦で跡形もなくなるだろう。
 いつかユニウスセブンの発掘作業が行われ、愛する家族との再会を願っていた――例えそれが二度と口を開かぬ姿に変わっていたとしても――人々の胸の内を思うと、何も言葉には出来なかった。
 シンのAインパルスの左右に、ルナマリアとステラがいた。二人とも、大気に焼かれて砕けてゆくユニウスセブンを見ている。その胸中を思うほど、シンはまだ大人ではなかったが、サンダルフォンから送られてきた通信の内容を二人に伝える余裕はあった。

 

「二人とも、これから送るデータの射線上からすぐに退避するぞ。ザフトとステラの母艦にも送ってあるから、味方の事は気にするなよ」
「ちょ、なによこれ!? なにが撃たれるって言うのよ」

 

 ルナマリアは送られてきたデータの広大な射線に思わず目を見張り、シンに問い詰めるが、当のシンが既に退避を始めていたのでそれ以上追及する事なく自分も後に続いた。
 ステラの方はすでにある程度シンを信頼しているのか無条件で従っていた。シンの言った、守ると言う言葉が、ステラにとって大きな意味を持ったと言う証拠であるかもしれない。
 とにもかくにも、一目散に安全圏まで逃げたシンのAインパルスのこれまた左右に二人は陣取り、シン経由でガイスターの母艦から伝えられてきたデータが、何を示していたのか確かめるべく、モニターの向こうに広がる宇宙のある方角を見つめた。
 星の瞬きとは違う何かが、彼方で輝いた。そう認識したのとほぼ同時に、横倒しにした巨大な光の円柱が突きつけられたようにして押し寄せてきた。それは、ばらばらに砕けつつあったユニウスセブンを呑みこみ、光の中でさらに細かく跡形もなく砕いてゆく。

 

「なに、これ?」
「……」

 

 呆然としている様子の二人の傍らで、シンは別行動を取っていたアルダが上手くやったことを確信した。かつての大戦でザフトが使用した決戦兵器ジェネシス。
 ガンマ線を放射し、一射で地球上の生物を死滅させることも可能と言う最後の兵器の試作品ジェネシスα。それを保有するジャンク屋ギルドの本拠地へ出向き、これをユニウスセブンに向けて照射する事。それがアルダの目的だった。
 事前に懇意にしていると言うか一方的に情報を押し付けてくるマティアスという人物から、ジャンク屋ギルドに対してザラ派の残党に怪しい動きがあると聞きつけ、アルダを派遣したのだ。
 ジャンク屋ギルドもユニウスセブン落下となれば、本拠地にしているジェネシスαを用いて阻止行動に出る事は予測できたが、ザラ派の妨害によってそれができない場合もある。
 ジェネシスに比べれば小規模なジェネシスαではあるが、その威力はぜひとも欲しい。よって非常時を考慮した艦長の提案によって、アルダは一人さびしくジェネシスαへと向かったのだ。
 こうして無事にジェネシスαがユニウスセブンに向かって放たれたと言う事は、アルダの目的が果たされた事の証明だ。シンは、心中で常にサングラスをかけたMS操縦の師匠の無事を喜んだ。