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小話 ◆9NrLsQ6LEU 氏_Restored to Life_第02話

Last-modified: 2011-03-03 (木) 23:37:47

太平洋の西端に浮かぶ台湾島はBTWにて壊滅的な被害を受けていたが
ロゴス戦後に設立された独立治安維持部隊《A-Laws》の東アジアにおける一大拠点として
復興が進められていた。
夕闇が迫る中西の空から台湾の港に灰褐色の威容を誇る戦艦が入港してきた、AA級7番艦ソロネである。
ドックに係留されたソロネのハッチが開くと早速大型のトレーラーに乗せられたMSのパーツや
実証実験を行う為の試作品、その他生活雑貨などの物資の搬入作業が開始され辺りは喧騒に包まれた。
その騒がしい光景を横に見ながら黒、金、赤の髪をした男二人に女一人の三人が
のんびりと船から降りてくる。

 

「ん~っ、久しぶりの陸地だわ~」
「ほんとだよな、2ヶ月ぶりだっけ?」
「艦のメンテのおかげで一週間は港暮らしだな、俺たちは今夜と明日はオフになっている」
両手を組んで背伸びした赤毛の女の声に黒髪の男が応じたのに合わせて、
二人の後ろを歩いていた金髪の男が柔らかい笑みを浮かべながら予定を話すのに黒髪の男が振り返る。
「明日も休みか、なら夕飯は基地の外まで出ないか?」
「そうね、折角基地に戻って来たんだし軍の食堂より屋台でも回りましょうか、レイも行くわよね」
「いや止めておく、デートの邪魔をする気は無いさ」
金の髪の美丈夫レイ・ザ・バレルにデートと言われて黒髪の男と赤毛の女が顔を見合わせたが、
直ぐに女の方が屈託のない笑みを浮かべた。
「気にしなくても良いわよ、シンとは後でイチャイチャするから」
「おいルナ」
赤毛の女ルナマリア・ホークが黒髪の男シン・アスカの腕に自分の腕を絡めながら
レイに向って悪戯っぽい顔を向けると、その顔を見たレイは口元だけを軽く吊り上げて笑う。
「こっちこそだ、今日は弟と食事をする約束になっているんでな」
「あ、グラディス艦長の」
「ああ、あの日メサイアが陥落するときに艦長、いや母さんが俺に託してくれた家族だ」

 

あの運命の日、レイは崩れ行く要塞の中で幼い頃に母と慕った女性から一人の子供を託されていた、
それが今の彼の家族であり生きる理由、守るべき者だ。
メサイアを脱出したレイは人目を忍んでプラントに潜入するとグラディス艦長の家で
一人泣いていた幼子の手を取った。
来た理由を話すと何故母を見殺しにしたのかと随分と詰られたが、
そんな自分を憎んでいる幼い子供に対してレイは真摯な姿勢で向き合い続けた結果、
少しずつ頑なだった幼子の心が解きほぐされていき、距離のあった二人が徐々に歩み寄りを始め
今では本当の兄弟のように仲が良い。
結果としてレイは自分でも驚くほど変化していた、
戦中は自らの寿命が短い事を享受していたが、
今はどんなに見っとも無くても少しでも長く生きていたいと思っていた。
それなのに危険な軍に身を置いているのは現在の地球の状況では満足な生活の糧を得る為には
最も確実な手段が軍務に付くことだったからで、
万が一のことが起こったときも遺族年金とか各種福祉が充実している事と
親友であるシンとルナマリアが何とかしてくれるだろうとの信頼からである。

 

そんな話をしながら基地の中に入るとロビーにいた栗色の髪をした利発そうな子供が
大きな声で呼びかけてきた。
「レイ兄さん!」
「待たせたか?」
「ううん、今来たところ、シンさんとルナマリアさんもお久しぶりです」
「よっ、また大きくなったな」
「元気そうね」
レイの前まで駆けて来ると嬉しそうに顔を綻ばせた子供は久しぶりに再会した兄の前と言葉を交わした後、
シン達に礼儀正しく挨拶をしてくる子供に笑顔で応じる。
普段は軍関係者用の寄宿学校の寮に入っているので簡単には出てこられないはずだが、
態々と出迎えにきていたようだ。
「じゃあ俺たちも兄弟水入らずで過ごすんでな、いくぞ」
「ハイ! お二人共失礼します」
「ああ」
「じゃね」
シンとルナマリアに軽く手をあげて別れると二人仲良く連れ立ってと歩いてゆくレイ達を見送ったシンは
苦笑を浮かべる。
「なんかレイの兄馬鹿ぶりが段々酷くなっているような気がするな」
「良いじゃない、今のほうが生き生きしてるもの」
確かに現在のレイからはあの戦争当時のような切羽詰った感じは抜けている、
それも守るべき者を持つ事で変わった部分だろう。
それに兄馬鹿ぶりならマユが生きていたのならばシンの方が間違いなく凄かったのだが、
現在そのシスコン振りを知っている人間が居ないのでこんな態度が取れるのだ。
「じゃあ俺たちも行くか」
「外に出るんだし着替えてロビーに集合ね」
「そうだな、なら5分もあれば」
「30分後、女の支度には時間が・い・る・の」
「分かった、30分後な」
「宜しい」
そしてきっかり30分後にロビーで落ち合った二人は外出する為に受付で車を一台借り受けると
シンが運転席に滑り込み、助手席のルナマリアがシートベルトを締めたのを確認して
街へと向って走り出した。

 
 

この台湾島の基地は現在急ピッチで建設が進められており、
また壊滅した台北の街の再建の為に外部から入って来ている労働者も多い。
未だに戦禍の傷跡を残す街だが、あちこちに労働者を当て込んだ屋台などが立ち並んで活気に溢れていた。
そんな光景を見ているとシンは複雑な気分になる、
ここで働く人たちは何かを生み出す事を仕事にしている、それはとても素晴らしいことだ。
それに比べて自分はどうなのだろう、
戦争を無くす為に戦っていた心算だったが本当のところはどうだったのだろう。
議長のいう戦争のない世界を作る為に戦っていた、今も守るためと言いつつ戦っている自分は、
ただ破壊を撒き散らすだけの存在ではないのだろうか。
そんな思いが顔に出ていたのか助手席にのっていたルナマリアがギアを握っているシンの手に
優しく手を重ねてきた。
「大丈夫、シンは間違ってないよ、戦う事でしか守れない物があるんだもの、
 それに間違ったら私が止めるから」
「ありがとう、ルナ」
恋人の手の温もりを感じながらシンは車を走らせる、
しばらく無言で走ったあと繁華街の近くにある屋台の集まっている一角に車を停めて、
二人は連れ立って屋台めぐりとしゃれ込んだ。
ゴミ箱を眺めてゴミの多い屋台(流行っている店はゴミが多い)に腰を落ち着けると
坦仔面を二つと虫可仔煎と煙腸、臭豆腐を一つずつ頼んで夕食にする。
談笑しながら出された料理に舌鼓をうっていると二人の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

「皆様こんにちは、私はラクス・クラインです-」

 

その声に惹かれて辺りを見回すと街角に設けられているケーブルTVの画面に
ピンク色の髪をした柔和な笑みを湛えた現プラント最高評議会議長のラクスが写しだされている。
「プラントの政見放送か」
「みたいね」

 

前の戦いで一番の被害を受けたのはBTWが直撃した地球であることは間違いないが、
実の所圧倒的に人的資源に乏しいプラントもレクイエムの被害や
デュランダル派とラクス派の内ゲバでしかなかったメサイア戦に置いて相応の被害を出している上に
地上が被害を受けた事で自国の問題を先に解決したい各国から輸出制限を受けているプラントも
厳しい環境におかれていた。
それでもプラントはラクスの元で一体となり遅々とした速度ではあるが徐々に復興しているようであった。
これは旧デュランダル派が元々クライン派の一派閥でしかなかった事もあるが、
対抗派閥のザラ派の意識は未だにナチュラルに向いていた事と、本来ならザラ派の旗頭になるはずの
アスラン・ザラがラクスの下で参画している事から勢いを減じた事が大きかった。
つまり現在のプラントにはラクス政権に対抗できる組織が無く、地球の各国も自国の復興に忙殺されて
宇宙のプラントにまで手を出す暇がなかったのである。
それでも名物の海鮮ジョンゴル鍋やビールといった嗜好品は無くなり、
食料は配給制になるなど影響が皆無という訳ではないが市井の高まる不満を良く制御しているといってよい。
今もTVの中で切々と人の道を説く姿は美しい容姿と前の戦争を止めた立役者という立場と相まって
地球でもそれなりに人気があった。

 

TVの画面から語りかけてくるラクスの姿を眺めていたシンが昨日諜報部から齎された情報に
プラントの新型MSの事が載っていたのを思い出しだした。
「そういやザフトの新型がロールアウトしたな」
「ゲルググって奴ね、あと親衛隊用にギャンていうのも開発中らしいわよ」
「今の状況でそんなに新型作って何するつもりだよ」
「さあ? 海賊対策には大げさだとは思うけどプラントとしてはどうしても
 物量を質で埋めなきゃならないから仕方ないかもね」
プラントは復興に際して本来の姿である工業施設としての顔を強くしていた、
宇宙から資源を採掘し加工したものを地上へと運搬、対価として食料等を買い付けて戻るのだ。
その行為自体は何の問題も無いのだが一つ困った事が起こった、
軍縮によってあぶれた人間や離反した人間達が海賊になって横行しだしたのである。
本来こうした海賊行為を取り締まるのは連合の宇宙軍であったのだが、
月のアルザッヘル基地が壊滅のおり戦力の大半を喪失した連合宇宙軍は開店休業状態で
とても海賊を相手に出来る状態ではない。
勿論ラクスも手をこまねいていた訳ではなくCEの聖剣伝説であるキラ・ヒビキ
(公式記録では連合少尉のキラ・ヤマトはオーブ沖にてMIAのため、
 生存確認されると出頭義務が生じるために改姓して別人となっている)
と歌姫の騎士団、再編中のザフトを総動員して対処したが神出鬼没の海賊達相手では
後手に回らざるを得ない。
奇しくもデュランダルと戦っていたときの自分たちと同じ非正規戦に悩まされる事になったのだ。
しかも海賊達は軍縮を行なったラクス達がジャンク屋に解体を頼んだMSや艦艇を
裏ルートから横流しで入手して使用していたのである。

 

この事態にラクスはプラント単独ではなく連合にも協力を要請し組合に対して抗議を行なったが
プラント、連合共にジャンク屋組合に廃棄予定の機体を買い取って貰い復興資金に回している現状では
余り強くは出られない。
本来なら戦闘用MSの民間所有など規制されてしかるべきだが前述の理由から抗議は形骸化し、
組合側も遺憾の意を表明し横流しには厳罰を以って当たると返答を返したが、
元々が非合法スレスレのジャンク屋の集まりに過ぎない組合では指示に従わない者がいるのは当然、
それどころか名前は登録してあっても実態は不明という人間の方が多いので如何とも出来ない。
そのような歪な構造から最も軍事力を持っているのがジャンク屋組合、
次いで連合、プラントとなってしまっていた。
無論将来的には民間企業の集合体でしかない、しかもやっている事はテロ支援と変わらない組合は
解体されることになるだろうが、当然それを判っている組合側は政治家に鼻薬を嗅がせているし
現状の戦力では組合が暴発した場合各国に相応の被害が出るのは確実で
解体が何時の事になるのかは全く不明だ。
そういった背景がある以上は各国共に戦力の増強は必要なのだが、
新型が開発されれば旧式が市場に出回るということで完全にイタチごっこになっていた。
シンたちも今まで治安維持活動の一環としてジンやM1といった旧世代機を相手にしていたが
これから先はザクやウィンダムを相手にする事が多くなるだろうから気を引き締めないといけない。
「こっちも新型が欲しいわよね」
「今使ってるアサルトストライクは第二世代の最後発だから性能的には第三世代に引けは取らないさ」
「それは分かってるけど、気分の問題よ」
腕組をして唸るルナマリアに苦笑いで応じるシン、そんな会話をしていると
TVに映っていたラクスの姿が別の人間に変わっていた、次に現れたのもシン達が知る人物であった。

 

「オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハです-」

 

どうやらプラント単独の放送ではなく、対談形式でもないことから各国の首脳が順番に話す番組らしい。
まあ現状で首脳同士の対談なぞさせれば責任の擦り付け合いの罵り合いにしかならないだろうから
局側の賢明な判断だといえる。
「そういえば、今オーブって大変なんでしょ」
「みたいだな」
TV画面で現在の世界の状況を訥々と語るカガリだが、そのカガリが代表を務めるオーブは
現状では一番困難な状況に陥っていると言っても良かった。
なにしろ前の戦いで得たものが何もないのだ、先の戦闘においてカガリの盟友であるラクスが
プラントの議長に就任したので同盟関係は結んだものの、利益を引き出した訳ではない。
終戦直後こそオーブが誇る三つのアドバンテージである地熱発電、モルゲンレーテ、
マスドライバーのおかげで一時的に復興需要による好景気に湧いたが、
諸国家郡が連合から供出されたNJCによって原子力発電を復活させると様相は一変した。
それまでは各国から資源を安く買い、復興に必要な資材に加工して高く売りつけていたが
エネルギー供給があれば生産ラインを動かせる。
つまり自国内での開発、生産が可能になったということで態々輸送コストや関税が掛かるオーブに
依存する必要が無くなったという事だ。
それでも自国の製品とオーブ製品との間に雲泥の差があるならば需要はあっただろうが
オーブ侵攻戦においてウズミが自爆した際に技術者の多くはプラントを初めとした各国家へと散っていた。
当然新天地において生活基盤を求める技術者は自らの持つ知識を活用するのは当然で、
オーブが誇る技術的なアドバンテージは小さくなっていたのがオーブ離れに拍車をかけた。
それでも自国内に資源があれば今までより利潤は減るがまだ何とかなっただろうが、
島国であるオーブにはコレといった資源が無いのでそれもままならない。
ようやく海洋資源の採掘に手を伸ばし始めたところで形になるまで暫くはかかるだろう。
その点同じような国家構造のプラントは宇宙という立地を生かしてアステロイドベルトなどから
レアメタルを採掘しているのでオーブよりはマシである。
それに拍車をかけたのが主に予算、金融関係を一手に引き受けていたセイラン家の壊滅である。
元々セイラン家は五氏族ではなくカガリとサハク家のロンド・ミナ・サハク以外の五氏族が全滅した事から
昇格した家でオーブ国民の大半はセイランを成り上がりとして馬鹿にしており、
宰相に納まったウナトやカガリを娶って名実共に権力を握ろうとしたユウナに対して
嫌悪を隠す事はなかったが、その経済的影響力は衆目の認めるところであった。
だがジブリール追撃においてセイラン家は滅び、連合や経済界に太いパイプが無くなった事で
金融市場において後塵を拝し、前述の理由が重なってオーブの経済事情は悪化の一途を辿っていた。
代表となったカガリも色々と経済政策に力を入れてはいるが、余り上手くいっておらず
現在は戦後のスタートダッシュで稼いだ分を食い潰している状態である。

 

「気になる?」
「少しだけな、俺たちはもうプラントやオーブの住民じゃないから殊更気にする訳じゃない、ただ……な」
「そうね、火種にならないと良いわね」
政情不安は人心の荒廃を招き新たな火種に成りかねない、
皿に乗っていた最後の煙腸を口に放り込んだルナマリアが真剣な表情で呟くのにシンは無言で頷いた。
放送は何時の間にか次の人間に代わっており、
画面の中の人物はこれからの世界情勢と復興について語っている。
ラクスもカガリも今映っている人物も一様に話している事を要約すれば
「今は苦しい時だが、復興の為に国家の垣根を越えて手を取り合い人類が一丸となって乗り越えよう」
ということだ。

 

「……正論だよな」
「そうね、でもご大層な言葉の割には何処の国も身が伴なわないのよね」
「言うなよ、空しくなる」
シンたちは国際緊急事態管理機構の直轄であるために世界中で活動する独立部隊である。
そのために行く先々で色々と各国の思惑に巻き込まれる事もあり、
首脳がTVで喧伝しているような協力体制が必ずしも出来上がっている訳では無いことを知っている。
事実として皆が協力すべきと理解しているのに
各国の首脳部はこの混沌とした世界情勢を利用して如何に他国を出し抜くかに血道を上げているし、
食い詰めた傭兵や敗残兵は夜盗に成り下がり人々に恐怖を与え、
そんな夜盗共にジャンク屋たちは自らの利潤ばかりを追い求めてMSや武器を売りつける。
騒乱の元凶である夜盗やテロリスト達ですら、政府に対する反抗ではなく
生きていく為に仕方なくやっているという食い詰めの連中が大半だ。
だからといって彼等を放置する訳にはいかず、彼等は駆逐するために別の力が必要とされ、
その力の一旦としてシンたちが所属する《A-Laws》が結成されたのである。
そんな混沌とした状況がもう何年続いており未だに平和には程遠いのは、
この世界に生きる誰もが感じていた。

それでも人はこの世界で生きていかなければならない。
今も二人の横に赤ん坊を抱いた若い母親とその夫だろう男が隣のテーブルに座り談笑している。
母親の肩越しにシン達を見つめてくる赤ん坊の無垢な瞳にルナマリアが思わず頬を緩めて手を振ると
人見知りしないのかニッコリと天使のようなあどけない微笑を浮かべてくれた。
そんな光景を見てシンもついニヤけているとルナマリアの口から思わぬ言葉が聞こえてきた。
「子供って可愛いわよね、欲しくなっちゃう」
「え、ルナが欲しいなら頑張ってみるけど、早くないか?」
ルナマリアが何の気も無しに口に出した呟きにシンが真っ正直に応じた台詞を聞いて、
一瞬コイツは何を言ってるのかしらと頭を捻った後に言葉の意味に気がついて顔を赤く染める。
「な、何言ってんのよ、将来の話!」
「ああ、そっかそうだよな、ははは」
若干焦った感じの笑いを続けるシンはルナマリアの叫びにあるブロックワードが織り込まれていた事に
気がつかなかった。
笑い続けるシンを半眼で睨みつけているルナマリアは赤い顔のままそっぽを向くと口中でぼそりと呟いた。
「もう…… 大体子供より先にプロポーズでしょ」
「ん、何か言ったか?」
「何でもない!」
「……?」
「何でもないったら、御飯も食べたし遊びに行くわよ」
気を回した心算だったシンを怒鳴ると腕を掴んで半ば強引に引っ張って行くルナマリアの耳は
赤く染まっていた。

 
 
 

シンとルナマリアが夫婦漫才を繰り広げている丁度その頃、
某所にて黒尽くめの一団が街の郊外に建つ古い教会の周囲に集まっていた。
そこへ一人の修道服を着た緑の髪をした柔和な雰囲気の男が一人歩いてくると、
そのまま教会の中へと姿を消してゆく。
黒尽くめの集団の一人が手に持った端末を確認すると、そこには先程の優男の顔が映し出されていた。
「間違いないな、ブラヴォーよりアルファ、ターゲットを確認、指示を請う」
画面に映っている目標、ルコーニ・フィルマーを確認した男が
懐から小型の無線機を取り出してコールする。
「アルファからブラヴォー、こちらも確認した、アルファからブラヴォー、チャーリー作戦を開始する、
 可能ならば目標を確保、不可能なら処理しろ」
「了解」
通信を終えると同時に黒尽くめの人間達が一斉に動き出す、
機敏で組織だったその動きは訓練された軍人のものだ。
先行した二名が教会の窓下に取り付くと、スタングレネードを二個取り出して窓から放り込む、
一瞬ののち大音響と眼も眩む閃光が教会内で爆発した。
同時に周囲を取り囲んでいた3チーム9人が窓と扉を破って突入すると前方と左右の三方に銃を向けて警戒、
教会内に視線を走らせ奥へと進んでゆく。
「Aブロック、クリア!」
「Bブロック、クリア!」
「Cブロック、クリア!」
「アルファより各隊、状況報せ」
「A2より、アルファ目標は確認できず、B2、C2も同様です」
突入した3つの分隊が教会の中を進行し全てのブロックの制圧が完了したことを受けて
作戦目標を達成できたかの報告を促すが、返って来た答えはNOである。
「アルファよりブラヴォー、チャーリー目標の姿を確認していないか?」
「……」
それぞれ外側を警戒している、他の隊に目標を確認していないか連絡を送るが返ってくるのは無言だけだ。

 

「アルファよりブラヴォー応答せよ、チャーリー!」
「無駄ですよ」
「なにっ!?」
無線で必死に仲間を呼ぶ真後ろから柔な声が降ってきた、
その声の主を確かめようと懐から銃を抜きつつ振り向くが誰も居ない、
周りにいたはずの仲間も全て消え去っていた。

 

「フフフ」
「く、どこだ、どこにいる」
姿は見えないが声は近くから聞こえる、
眼を皿のようにして辺りに視線を飛ばすが眼には緑の森しか映らない。
背中にいやな汗を掻きながら気を配っていると無線から突入した部隊の悲鳴と銃声が聞こえて来る。
「A2よりアルファ、ここには奴らが揃って」
「ぐあっ」
「ぎゃっ」
「くそっ、撤退を」
現状から離脱するべく走り出そうとした瞬間脇腹に灼熱の痛みが走ると同時に体が地面に叩きつけられた。
「うああああっ」
痛みに苦鳴を上げながら脇腹をみると鋭い杭が突き刺さっていた。
内臓を貫通したのだろう口から血泡を吐きながら杭に手をやった男の目の前の空間がゆらゆらと揺れると
忽然と教会に入っていった修道服の優男が現れる。

 

「こんにちは」
「が、き……貴様一体」
「携帯用のミラージュコロイドですよ」
「そ……んな物を、どこから」
「我々【チャペル】を舐めてもらっては困ります」

柔和な顔に笑みを張り付けたままの優男の右手が上がる、
その手にはスプリング式の杭打ち銃が握られている。
「お仲間も全員、僕の同志たちが片付けました、ではさようなら」
スプリングの微かに軋む音と共に放たれた杭が頭蓋に突き刺さる音を聞いた優男は
満足そうな微笑を浮かべると教会へと戻った。

 

「遅いぞ、レリニョーゾ」
「済みません、ファルツァ」
教会へ入った優男に声をかけて来たのは赤い髪を逆立てた大柄で逞しい筋肉を持っている男であった。
「手前の不始末を回されたらたまらんぜ」
「そんな事を言う物ではないですよ、我々は同志です協力するのは当然ではないですか」
次に声をかけて来たのは革ジャンを肩に引っかけた暴走族風の男と
それを諌めたのは白い怜悧な容貌の線の細い男だ。
「カルマンドが正しいわね、フリオーゾ」
「うるっせえよ、アマービレ」
二人のやり取りに口を挟んできたのはまだ若い、いや幼いというべき外見の可愛らしい少女だ。
他にも教会の中には人種も服装も統一感のまるで無い人間が何人もいるが、
その足元には例外なく教会に突入した男たちの死体が転がっている。
そんな中、教会の奥から豪奢なローブに身を包んだ巌の様な雰囲気を持った
壮年の男性が現れ壇上にあがった。
すると銘々勝手にしていた人間たちはすっと居住まいを正して壇上の男に向き直る。

 

「よく集まってくれた、【讃美歌】諸君、ちょっとした余興が起こったのは想定外だったが
 一人の欠員も無く収まったのは諸君らの優秀さであると思う」

 

よく通るバリトンの声が教会内に響き渡る、
話が途切れたのを見計らって壁際にいるスレンダーな美女が手を上げて発言を求めた。
「コンダクタ、襲撃してきた連中と情報元は分かったのかかしら?」
「デリツィオーゾ、それを今から話す所だよ」
「持ち物は何処からでも手に入るような物ばかり、当然身分を証明する物も所持していなかった、
 ドロローゾ達が歯型を調べているが、まあ難しいだろう」
「あら残念、でも動きは訓練された軍人だったわよ」
「うむ、故に恐らくはどこぞの国軍だろうと思われる」
そこでフリオーゾと呼ばれた男が壇上のコンダクタに声をかける。
「コンダクタ、集会がバレたのは誰の所為だか分からねえのか、
 つか今回の場を用意したのはレリニョーゾだよなあ」
「それについては申し訳無いと思っていますよ、ですが誓って僕ではありません」
「口では何とでも言えるわな」
フリオーゾとレリニョーゾの間に見えない火花が散り緊張が高まり、
なにか一押しあれば殺し合いが始まっても可笑しく無いような雰囲気が周辺に満ちてゆく。

 

「そんな事を言う物ではありませんよ、フリオーゾ」

 

その空気を破ったのは、奥から聞こえて来た柔らかな声であった、
高くも無く低くも無い男女の別さえ定かではないような中性的なその声を聞いた瞬間、
教会に集まっていた全員が地に膝をつき畏まる。
扉を開いて中へ入ってきたのは白い法衣に身に付けた人間であった、
体格は男性なら小柄、女性にしては大柄といった風で顔はベールに隠されており判然としない。
しかし何もせずに立っているだけでありながら漂ってくる存在感は圧倒的で
自然に畏怖の念を抱かせるようなオーラを放っている。
「いらしていたのですか教主」
「ええ、折角【讃美歌】が集まるのです、皆の顔を見ておこうと思いまして」
「もったいないお言葉です」
壇上へ上がった教主の背後へ下がったコンダクタが改めて礼をとると
薄いベールの奥に微かに覗く口元が笑みを形作る。
「皆の力添えで教団も大きくなってきました、
 そうなれば教団の中に二心を抱く者がいるのは仕方のないことです。
 しかし此処へ集った【讃美歌】にはそのような不信心者は居ないと私は確信しています」
「しかし現に襲撃が」
「フリオーゾ、私の言葉に間違いがあると申しますか?」
なおも言い募るフリオーゾに教主から圧倒的な気配が注がれる、
全てを包み込むような今まではとは真逆な凍てつく凍土のような鮮烈な気配である。
教主からもたらされるプレッシャーは教会内にいる全員に等しく降りかかっており、誰も言葉を挟めない、
教会内の先程襲撃者を一蹴してのけた【讃美歌】たちが従順に従う教主の実力とは如何ほどのものなのか。
「いえ、決してそのような事は御座いません」
「分かっています、彼方の言葉は教団の為を思って言ってくれていると、
 しかしそれは此処に居る全員がそうなのです、それを忘れてはいけません」
「はい、申し訳ありませんでした教主」
「ではこの話はこれで終わりにしましょう、レリニョーゾも良いですね」
「御意に」
フリオーゾとレリニョーゾが従順に従うと放射されていた気配は雲散霧消し辺りに平穏が戻る。
教主は全員の視線を一身に受けると朗々と伸びやかな声で語りかける。
「教団の教えが世界に広まれば、人は自らのやるべき役割を正しく理解する事で
 悩み苦しむ事なく生きる事ができます、それは必ずや恒久的な平和と繁栄を作り出す事でしょう」
全員が陶酔した視線を教主へと注ぎ、その視線を真っ向から受け止めた教主が最後の言葉を投げかける。

 

「全ての人々に正しき運命を与える【真のディスティニープラン】のために【讃美歌】に祝福を」
「【讃美歌】の力をもって【チャペル】に福音を!」

 

全員の声が唱和し熱狂的な混沌が教会内を支配していた。

 
 

【チャペル】とは【讃美歌】とは【真のディスティニープラン】とは、
そして【教主】とは一体何者なのか

 

数々の謎を孕んだままCEの歴史は新たな戦乱の時を迎えようとしていた。

 
 

】【】【