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戦後シン×ミーア_PHASE03

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:31:44

翌日、7時前に病室に改めてやって来たシンは、ミーアがまだ寝ていることに少しほっとした。
ナースステーションに確認を取れば、昨夜ミーアが目覚めたかはハッキリしないが、
ナースコールは無かったとのことだった。
遠慮がちにベッドを覗き込むと、目を閉じていたミーアだったが、気配を感じたのかもしれない。
薄っすらと目を開けた。
これには内心驚きつつ、敬礼をしてミーアの意識がはっきりと浮上するのを待つと、
ミーアはシンの姿を確認し、暫く彼をじっと見ていた。

 

「・・・・・・誰?」
「ZAFT軍FAITH所属、シン・アスカです。昨日より貴女の護衛を務めさせて頂いています」
「ZAFT・・・・・・・・」

 

まるでZAFTとはどんな単語だっただろうかと思い出すような呟きだった。
何かを思い出すようにシンから視線を外し、暫く考えたミーアは納得した表情を見せた。
諦めも含まれたその表情から笑顔が見えるには然程時間が掛からなかった。

 

「そっか・・・・もうここ、プラントなんだ」
「はい」
「帰って・・・・来たんだ」

 

どういう想いがそこに含まれているのかはシンには分からない。
プラントに戻って来たくなかったのか、戻りたかったのか。
どちらとも取れる音に、シンは正直戸惑いを感じたが、それを追求する権利を持たない。

 

ミーアは再びシンに視線を向けた。

 

その視線は何かを覚悟したかのように強く、しっかりとシンを見据えていた。
今からの言葉はミーアにとって重大な言葉なのだろうとうっすらと感じられる程の時間
が経った後、ミーアは一度唇を噛んでから口を開いた。

 

「あたしの体は大丈夫。・・・・・だから、死刑にして下さいって、伝えて貰える?」

 

本物のラクス・クラインは現れ、デュランダル議長は亡くなった。
戦争は休戦状態となり、プラントと地球の関係はこれから再構築を行わなければならない。
この状況で、瀕死の状態の自分が生き続ける事にミーアは存在意義を持つ事が出来なかった。
しかし、シンにはミーアの言葉を報告する義務はあってもミーアの意志を通す事は出来ない。
逆に、最高評議会はミーアを生かし、デュランダル議長が何をもって世界を変えようと
していたのかを判明しようとしているのだ。
それに、ミーア自身は知らないのかもしれないが、彼女を擁護しようとする人々がこの
プラントに増えているのだ。
ミーアを死刑にする事は現状で考えにくい。

 

「伝える事は出来ますが、恐らく通りません」
「・・裁判が必要だったとしても・・・あたし、わかるの。あたしの中の記憶がおかし
い事に。お医者様も言ってたから間違いない。こんな立派な病室で沢山薬を使って貰う
より、薬も手に入らない場所の人に薬を渡して欲しいの」

 

自分が生きていればその分薬は消費される。
世界には自分と同じ薬が必要な人も居て、その人には薬が届かず、死が確定している自
分に与えられるのは、おかしい。

 

そう、考えているのかもしれない。

 

「医師の判断としてはリハビリを行えば回復の余地があるそうです。記憶が曖昧だとい
うだけでは死刑にはならないと思います」
「でも、それまでにどれだけ時間が掛かるか分からないじゃない。議長が何を考えてデ
スティニープランを打ち立てたのかって事よりも、今生きている人が一人でも多く助か
る方が大事よ!」
「・・・・・・貴女はその「生きている一人」なんじゃないですか?」

 

ミーアは知らないが彼女の歌はまだ市内に流れている。
事情が事情だけあって以前のように毎日とまでは行かないが、市内に彼女の歌は流れな
くなった代わりに個人で彼女の歌を購入している数が増えているらしい。
シンもその市民と同じで彼女の歌を購入した一人だ。

 

「あたしは・・・・・皆を騙していたのよ」
「それについては・・・・・俺からは何も言えません」

 

裁判に関わる情報を個人の感情だけで判断する事は出来ない。
シンにとっては大したことではないという事でも、他の人にとっては重大な事の場合もある。
それが許されることなのか、許されないことなのかもシンには判断が出来ないのだ。
シン個人で言えば、癒された人間が居て、自分もまた戦場に立ち、戦士の前で歌う彼女
の姿は強烈な違和感を感じさせ、同時に強さを感じた。

 

あの彼女を一度見れば。
その後のラクス・クラインの行動を見れば。

 

ミーア・キャンベルがラクス・クラインでもいいように思えるのだ。
だが、それはカメラが回っているこの病室では発言できない。

 

シンの眉間に皺を寄せた表情にミーアは何か気付いたのかもしれない。
突然、点滴がついた右手をシーツから出し、シンを招き寄せるように手を動かした。

 

「来て」
「?」

 

ミーアの隣に立つと、ミーアはシンを見上げて苦笑する。

 

「見上げるのって少し疲れるの。座ってくれる?それとも仕事に差し支えちゃう?」

 

座っては護衛は出来ないのだろうかと尋ねられれば勿論そんな事は無いのでシンは革張
りの椅子に腰掛け、僅かに身を乗り出す。

 

「何か?」
「握手、しよ」
「・・・・・意味が分かりません」
「シン・・・、だっけ?挨拶まだだったから。あたしはミーア・キャンベル。これから
宜しく」

 

ミーアが右向きに寝返りを打ち、右手を差し出した。
シンは特に気にせず右手を差し出し、握手をした瞬間彼女の左手がシンの腕を捕らえて
思い切り引っ張られる。

 

「えっ!?」

 

ミーアの唇がシンの耳に当たった。

 

それに驚いた瞬間顔を起こそうとしたが、それよりも先にミーアの囁きがシンの耳に届いた。

 

「カメラ、何台あるの?」

 

慌てて耳を押さえ、大きく目を見開いて僅かに頬が染まるとミーアが予想外の表情を見せた。
まさか自分の言葉よりも耳に唇が当たった事に動揺されるとは思っていなかった、とい
うような戸惑いの表情だった。

 

「えっと・・・。・・・・あの、・・・童貞?」
「い、いいだろそんな事!!」

 

思わず声を荒げて反論すると、ミーアは楽しげに、僅かに声を立てて笑った。
そして笑い声が収まった時、ミーアは左手の人差し指を立てた。

 

1台?

 

そういう意味なのだろうとシンも察すると、シンはミーアを誤魔化そうかと考えた。
しかし、ミーアの無邪気な笑顔を見ると少し胸が痛んでシンも指を一本立てるとミーア
の人差し指を指し、次に自分の体の方に指を傾けた。

 

2台。

 

これで分かるだろうかと少しぎこちなく笑うと、ミーアがにっこりと自分の中指も立て
てピースサインに変えた。

 

伝わったらしい。

 

「そっか、2人は体験してるんだ」
「はぁ!?」

 

そういう意味に捉えたのか!?

 

シンが慌て、僅かに腰を上げるとミーアは意味深にウィンクをして見せた。

 

伝わっているが、今のジェスチャーの意味を誤魔化してくれたらしい。
シンは否定しようにもこの状況では否定できず、喉の奥で唸り声を上げて更に頬を染め
ると、反論を諦めて腰を下ろした。

 

「・・・・・・・・・も、もっと沢山いるよ」
「強がっちゃってー」

 

腕を組んでそっぽを向くと、シンは直ぐに任務中であった事を思い出して腕組みを解き、
ミーアに向き直った。

 

「あ、あの・・・っ!すみません!」
「フランクに話そうよ。あたしはそっちがいいから」

 

ミーアが改めて手を差し出した。
最初は少し警戒したシンだったが、直ぐにミーアの手を握り返した。

 

「よろしく」

 

そう、微笑んだミーアがシンには何かを考えているように感じた。

 

カメラの台数を気にしてから裁判や自分の立場に付いて語らなくなった。
それは諦めたからではないと、シンはどこかで感じ取っていた。