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月に花 地には魔法_第08話

Last-modified: 2007-11-15 (木) 22:50:12
 

 ロランが海鳴市の海岸で鯨を見つけようと目を凝らしている頃、
グレアムは脇にいる愛娘に指示を出しながら、
モニターの向こうで横たわる巨人に視線を向けた。
「最重要機密ですか、父さま」
「そうだアリア。『ターンA』に関する全ての情報を最重要機密扱いとする。
 調査班及び関係スタッフ全員に徹底させろ」
 アースラクルーがグレアムの故郷に捜査本部を置いて以降、
彼の指揮下でロランから託された『ターンA』の調査及び整備が行われる手筈だったが、
一番に行われたことは「『ターンA』に関する情報の一切を外部に漏れないように遮断することだった。
「確かに『ターンA』は謎が多い代物ですが、そこまでする必要がありますか?」
 思わず事務的な口調になるリーゼアリアにグレアムは表情を変えないまま答えた。
「ああ、ロラン君からの情報が真実ならそれだけする必要があるだろう。
 それに下手に情報を流して厄介事になっては計画に関わる。
『ターンA』の戦力が実用に耐えないならそれまで。だが…」
 そこで言葉を切って、グレアムは静かな笑みを浮かべた。
「もし『ターンA』の戦力が期待通りなら、計画をより良い方向へ向かわせることができる。
 引き続き『ターンA』を頼む」
「わかりました。それとロッテは予定通りに行動を開始しました」
 満足そうな父親の顔にリーゼアリアは喜びを感じつつ、報告を続ける。
「よし、なのは君達のデバイスの修理は順調だったな。
 修理と『ターンA』の起動。どちらかが達成され次第、行動を始めよう」
「はい、父さま」
 11年前の出来事に縛られていることには彼自身気づいていたが、
だからといって立ち止まるわけにはいかない。
 グレアムがモニターの映像を切る寸前、
ナノマシンに覆われた『ターンA』のメインアイが静かに光ったがそれに彼は気づかなかった。

 
 

           「月に花 地には魔法」
from Called ∀ Gundam & Magical Girl Lyrical Nanoha A's
            第8話 12月11日

 
 

 八神家の朝は、家主である八神はやてが朝食を作り始めることから始まる。
 そして同居人達が次々と起き始め、共に朝食を食べる。それが彼女にとって具体的な幸せの実感であり、
長らく忘れていた家族団欒の具現だった。
「シグナムは9時から剣道の稽古やったよな?
 ヴィータも老人会のゲートボールに参加するんやろ?二人とも弁当用意してあるからな」
「ありがとうございます」
「ありがとう!はやて」
 落ち着いた物腰で凛々しいという表現が似合う女性、シグナムが静かに礼を述べると同時に
快活な赤髪の少女、ヴィータが元気一杯を体現するように返事をした。
「ヴィータちゃん、落ち着いて食べないとまた口の中を噛むわよ」
 ショートボブの女性、シャマルはたしなめるようなことを言いつつも、
ほんわかとした表情からは怒った様子は見受けられない。
「うるせー!はやての作ったご飯はうまいんだよ」
「ヴィータ、慌てて食べなくてもおかわりあるからな。ザフィーラもたくさん食べや」
 犬というには大型な動物がゆっくり頷き、またご飯を食べ始める。
(幸せや。こんな毎日がずっと続けばええのに…)
 少女のそんなささやかな願いは突然やってきた家族によって満たされたが、
その家族達がこの願いを叶え続けるために夜な夜な戦っていることを彼女は知らなかった。

 
 

 シグナムとヴィータは、それぞれの目的地に向かう間魔力を使った遠隔会話を行っていたが、
その表情に食事の団欒時のような柔らかさは無い。
 あるのは騎士としての責務と使命に邁進する守護者の顔。
 だが、片方には疑念が。もう一方には達観の念がそれぞれの顔に浮かんでいた。
「やっぱりおかしくねぇか?蒐集した魔力分以上のページが増えるなんてこと、今まで無かった。
 それなのに今じゃ1日に1ページくらいは勝手にページが増えてる」
「確かに奇妙だが、『闇の書』と繋がっている我々が何も感じられないのだ。
 そうである以上、現時点で我々が打つ手は無い」
「そりゃそうだけどよ…」
 ヴィータが気にしているのは『闇の書』のページ数と
蒐集したリンカーコアの魔力量が一致しないことである。
 『闇の書』は魔導師の魔力の源であるリンカーコアを食い、その魔力を糧としてページを増やす。
 少なくとも自分を含めた守護騎士はそう思っているし、『闇の書』と繋がっている以上間違いは無い。
 それ故に蒐集した魔力値以上のページが増えるはずはない、
はずなのだが現実としてページは増えていた。
「仮に我々が感知できない方法で『闇の書』が魔力を蒐集していたとしても、
 それを止める手段は無いし、止める必要も無い。
 その件はシャマルが調べてくれている。いずれ原因がはっきりするだろう」
「でも何かが引っかかるんだよ、何かこうよくわかんねぇけど…」
 懸念を訴え続けるヴィータにシグナムは現実を突きつける。
 それに何より、主はやてにはあまり時間が無いのだからな」
「わかってるよ…。あー!イライラする」
 後半部分は喉から声として出てしまっていたが、ヴィータにとってそんなことはどうでもよかった。
 楽しいはずのゲートボールも、今日は楽しめない予感しかしなかった。

 
 
 

 月村すずかは通いなれている図書館に足を踏み入れた時、
ここ一週間で見慣れるようになった銀髪の青年の姿を見つけた。
「あっ、ロランさん。こんにちは」
「すずかさん、こんにちは。今日もお会いしましたね」
 ロランがすずかとこのような挨拶をできるのは、それなりに理由がある。
 この世界に来たロランには、早急にしなくてはならない仕事というものが無い。
 無論『ターンA』が復活すれば成すべき事が生じるのだが、
まだ『ターンA』の復活の報告は届いておらず、
彼にできることは住まわせてもらっている住居の家事の手伝いくらいなものであった。
 もちろんそれだけで一日を過ごせるものでは無く、
時間潰し兼とこの世界の事を知るために図書館に出向くというのはある意味当然の帰結だった。
 そこで以前見たことのある顔を見つけ、それがすずかだったというわけである。
 一週間前に翠屋で顔を会わせただけの二人だが、大した時間もかからずに打ち解けた。
 おおらかなお互いの性格が良い方向に作用したのだろう。
 その日以降、ロランは3日に1度程のペースで図書館に出向くようになっていた。
 施設にいた頃は教科書以外の本を読むことも無く、
地球降下作戦の訓練の一環として地球の文学に触れた時以外には大して本を読んでこなかったロランには、
いいリフレッシュ効果を読書は与えてくれた。
「ロランさんは今日も本を読みに来られたんですか?」
「いや、今日は借りた本を返しに来ただけです。買い物に行かないといけないので」
 ロランはそう言うと手に持っていた買い物籠を掲げて見せた。
「今日は僕が料理当番なんですよ」
「ロランさん、料理もできるんですね。
 でも本を借りたのって3日前でしたよね?もう読み終えたんですか?」
「ええ。面白かったですし、時間に余裕がありますから」
「きっと家でのお仕事をテキパキこなせるから、時間を作れるんですよ」
 ロランはこの世界での自らの立場を「ハラオウン家のお手伝いさん」と説明している。
 平たく言えば家政婦のような仕事である。
 リンディと相談した結果なのだが、思いのほかすんなりと出会う人々には納得されており、
ロランは少し拍子抜けしたものだった。
「では、そろそろ失礼します」
「はい、リンディさんによろしくお伝えください」
 律儀な子だと感じながらロランは図書館を後にした。
 ふと自分が穏やかな生活をしているという実感が沸き起こり、何だか不思議な気持ちになった。
「もしこのまま『ターンA』が目覚めなければ、こんな生活が続いていくのだろうか」
 それが嬉しいことなのか悲しいことなのか、ロランは判断しなかった。

 
 

「こんにちは、はやてちゃん。シャマルさんもこんにちは」
「こんにちは、すずかちゃん」
 すずかにとってロランよりも関係が長い、
八神はやてという少女にはいつもシャマルというショートボブの女性がついている。
「はやてちゃん。私はお夕飯の買い物に行ってきますから、帰りに迎えに来ますね。
 すずかさん、はやてちゃんのことよろしくお願いしますね」
「ありがと、シャマル」
 そう言うとシャマルはその場から離れた。
 はやてが言うにはシャマルの他にあと2人の同居人がいるらしい。
 一体どういう関係なのか気にならないではなかったが、
必要になれば話してくれるだろうと思っているので一度も尋ねたことは無い。
「すずかちゃん、今日は何の本を読みに来たん?」
「今日は何か小説を読みたいなぁって思って」
 会話の中ですずかは、ふとロランのことをはやてに話してみようと思った。
 買い物に行くというシャマルの姿からロランのことを思い出したに過ぎないのだが、
図書館に通うあの青年の事を話しておけば、
はやてとロランが知り合うきっかけになるかもしれない。
 既に図書館で会っているかもしれないが、それなら話は早い。
「あのね、はやてちゃん。この図書館で銀髪の男の人見たこと無い?」
「銀髪?銀色の髪の人は見たことないなぁ」
「その人、ロラン・セアックって言う人なんだけど…」
 すずかはロランのことを楽しげに語り、はやてもそれを楽しそうに聞いた。
 だが、ロランとはやてが実際に出会う時。
 それはそれぞれの「穏やかな生活」が終わるときに他ならなかった。