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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_幕間

Last-modified: 2008-10-15 (水) 22:56:31

オーブ連合首長国内某所 払暁

 
 

「こうなったらやむを得ん、MSを出せ!何としてもラクス・クラインを始末するんだ!」

 

 隊長格のヨップ・フォン・アラファスのせっぱ詰まった声での命令に、襲撃者達は万が一の用意と言うつもりで用意していた、最後の手段と言うカードを切った。
想定外に固められていた防備に阻まれて、まんまとターゲットには分厚いシェルターの中に逃げ込まれてしまっている。
文字通り、MSを持ち出さねば埒があかないようなレベルの「隠れ家」に引きこもっているなど、やはりあの小娘は生かしておいていい存在ではなかったのだと、驚き呆れながらも襲撃者達は改めて「自分達の〝正しさ〟」への確信をより深めてもいた。
 付近の海中に潜む彼らの母艦―戦没した筈のボズゴロフ級潜水母艦―からオートパイロットで射出されて来た、最新鋭の水陸両用戦用MS〝アッシュ〟が次々と海岸に立ち上がり、生き残っていたメンバー達が波打ち際に飛沫を立てながら、それぞれ各自の機体へと走り寄って行く。
 そして次々と起動した異形の巨人の群は、その身に備えられた大小無数の火器を一斉に、ターゲットがじっと息を潜める〝穴蔵〟めがけて叩きつけ始める。驚くべきは、それでもなお簡単には崩れない防御のぶ厚さだったが、流石にMSの火力は人間の手による攻撃などとはものが違う。一撃には耐えても、更に二撃、三撃と続けば流石に打ち破れるだろう。
MSまで持ち出さねばならなくなったのは何とも拙かったが、ならば確実に目的を果たすまでだと思考を切り替え、どうにかその目処はつきそうだと言うことで、襲撃者達がようやく安堵の思いを抱いたその瞬間、彼らの視線のその先で突如、崖上に爆発がおき、もうもうと立ち上るその爆煙のただ中から、まるで放たれた矢の様な〝一筋の閃光〟が天空へと飛び上がった。

 

「な、何だっ!?いったい…」

 

 一瞬、何が起きたのか理解が遅れ、思わず動きを止めた彼らの目に映ったものは―10枚の青き翼を広げた1機の白いMSの姿だった!

 

「あ、あれはっ!ま、まさか……〝フリーダム〟!?」

 

 前大戦時、本来ならば自分達コーディネーターの自由と平和の為に戦う、象徴にして尖兵として建造され、そしてあの小娘達“裏切者”の手によって盗み出され、それまでの自分達の努力も苦闘も、全てを無に帰す働きをしたあの忌まわしい機体。
その機体が今、彼らの眼前にあった!
その宙に舞うフリーダムから放たれたビームが、1機のアッシュの手足をもぎ取り、ただの一撃で戦闘不能状態へと陥れる。

 

「くっ、怯むな!撃て、撃てっ!」

 

 自らを鼓舞する様に叫ぶヨップの声に従って、残る全てのアッシュが一斉にその火線を宙空のフリーダムへと向ける。
だが、フリーダムは悪夢の様な凄まじい機動でそれら全てをかいくぐりながら猛スピードで接近すると、両手に持ったビームサーベル(いつ持ち換えたのかさえ判らなかった)ですれ違って飛び去るその一瞬で、やはり数機のアッシュの手足を切り飛ばして行く!
 そしてようやく残存のアッシュが飛び抜けたフリーダムへと向き直った時にはもう、勝負は決していた。
とうに射撃態勢―フルバーストと呼ばれる合計5門の火力をマルチロックオンで一斉に射撃する広範囲殲滅攻撃だ―を整え終えていたフリーダムから放たれた火線が、その一撃だけでほとんど全てのアッシュをスクラップ同然の状態へと変えていた。

 

「お、おのれ!貴様っ!」

 

 部下達の機体複数の影になる形に助けられ、偶然にもただ1機無事で残されたヨップのアッシュだったが、無論彼自身にはそれは相手が圧倒的な技量を見せつけ、小馬鹿にしているとしか思えなかった。

 

「き、貴様……っ、貴様はァッ!どこまで〝我ら〟の邪魔をすれば気が済むのだっ!」

 

 ヨップは血を吐く様な憤怒の叫びとともに、アッシュの両腕にビームクローを発振させて、フリーダムへと躍り掛からせる。
だが、その彼の必死の動きもフリーダムには初めから見切られていた。
フリーダムは左手に持ったシールドを突き出し、それでアッシュの突進の勢いをいなすと、逆にその勢いをそのまま利用してシールドの表面に乗せる様にして、ヨップの機体を投げ飛ばした。

 

「ぐはっ!」

 

 一回転して背面から地面に叩きつけられる衝撃に、コクピット内で苦悶の声を上げるヨップ。
と、その眼前に立ったフリーダムが右手に持ったビームライフルを彼の機体に向ける―そして、きっちりと4連射。
彼のアッシュはそれで文字通りに四肢の全てをもぎ取られ、身動きも出来ない状態でただ無様にそこに転がるだけとなっていた。

 

「お、おのれ!……おのれェッ!」

 

 ギラギラとした目でMSの装甲越しにフリーダムを睨みつけるヨップ。
戦後、「行方不明」となっていた筈の、伝説の機体。

 

(何が〝行方不明〟だ!)
 こうして〝あの連中〟はまんまと、こんな代物までをも自分達の手でしっかりと隠し持っているではないか!
これで「平和を愛する」だと?
笑わせるな!この偽善者面した大嘘つきどもが!
こんな奴らこそ、生かしておいてはいけない許されざる者である筈なのに。
今や亡きパトリック・ザラ―真に自分達コーディネーターのことを考えていた指導者は不当に貶められ、その裏で「裏切者」のあの小娘どもは何故か正義だと崇められている。

 

「ふざけるな!こんな奴らのどこが〝正義〟なものか!」

 

 そう叫んだその瞬間、彼の内で溶鉱炉のごとくに煮えたぎる激情が具現化したかのごとく、周囲の全てが膨大な熱量と閃光に包まれた―
限りない怒りと憎悪の目をフリーダムへと向けたまま、ヨップの肉体は猛然たるアッシュの機体の爆発の炎の只中に溶けて行った……。
眼前の1機の爆発が引き金を引いたかの様に、周囲に転がる全てのアッシュが次々に〝自爆〟して消えるのを、フリーダムのコクピットの中でキラはただ黙然と見ているしかなかった……。

 
 

「くっ、ヨップも……駄目かっ!」

 

 最後にただ一機だけ残っていたアッシュも、傷の一つすらも負わせられぬままフリーダムに無力化される様を見て、モニター越しに状況を見守っていた者達は一斉に絶望のため息を漏らす。
アッシュの母艦である―いや、最早〝あった〟と過去形で言うべきだったが―ボズゴロフ級の〝幽霊〟潜水艦の艦内は、よもやの失敗と言う現実に誰もが大きな衝撃を受け、重苦しい空気に包まれていた。
ユニウス・セブンを地球へと落下させることを成功させた、サトーの一派とはまた別の旧パトリック派残党のグループの一つである彼らにとっては、ラクス・クラインの命を狙うこの復仇は、長い雌伏と忍耐を重ねた末の、殆ど総力をあげたと言っても過言ではない程の乾坤一擲の「作戦」だった。
それが、予想外の状況により無惨にも失敗と化したのだ。
この日、この時の為にとエネルギーを注いで来た者達の衝撃は測りしれなかった。

 

「か、艦長……我々はどうすれば…?」

 

 リーダー格の男にすがるように、ブリッジ要員の一人が問いかける。
すると、艦長と呼ばれた男の口からは淀みなく意外な言葉が飛び出した。

 

「武人の情けだ。全機へ、〝自爆信号〟、送れ」
「なっ!?」
「か、艦長!?」

 

(ヨップ達同志をどうすれば?)

 

 と、(それが可能かどうかは別として)救出する事をまず考えた自分達に対して、艦長は「死なせてやれ」と言ったのだ。

 

驚き訝しむ同志達に向かって、淡々と言う艦長。

 

「この状況で彼らを回収する事が出来るのか?……無理だ」
「う……」

 

 部下達は沈黙する。
艦長の言葉の正しさは理解しつつ、同志を見捨てることへの逡巡が彼らを迷わせていた。
だが、そんな彼らを諭す様に艦長は続けた。

 

「このまま彼らを〝奴ら〟の捕虜にするわけにはいかん。今回は確かに失敗した、だが、失敗に終わったからこそ、我々にはここで諦めることは許されない」

 

 わかるな?そう、諭すようにブリッジ内を見回す艦長。
そして、初めて苦渋の感情を僅かに表す表情を見せて言う。

 

「そして彼らに、あの連中に捕らえられ、利用されると言う辱めを与えるわけには………いかんのだ…」

 

 その言葉にようやく部下達は愁眉を開いた。

 

「艦長……分かりました。艦長のおっしゃる通りです。彼らに不名誉を与えぬ為には、もはやそれしか…」

 

 揃って頷いた部下達は、目に涙を浮かべながら陸上に倒れ伏す同志達の乗るMSへの自爆指示信号を送るスイッチを押した。

 

「……アッシュ、全機の破壊を確認」

 

 血を吐くような口調で報告するオペレーター。
それを聞いて頷いた艦長は、新たな指示を発令する。

 

「よろしい、ただちにこの海域を離脱、帰投する。進路反転、機関全速!……忘れるな、我々は必ずや捲土重来を期す」

 

 無言のままに頷いて、操舵主は艦長の指示通りに艦を反転させた…。

 
 

 それから暫時。オーブの領海外へと離脱した艦が、潜行したまま太平洋のただ中へと達した頃、突然にそれは起こった。
突如として艦内で起こった猛烈な爆発に、ボズゴロフ級潜水母艦の巨体が激しく揺れた。
内部からの爆発の衝撃で艦体を覆う圧力隔壁も損傷し、そこから高圧の海水が奔流のように艦内へと流れ込む。
けたたましいブザーの音が鳴り響く、非常照明の薄い赤光に照らされるブリッジの中、絶望的な対処に必死になる艦橋要員達の姿を他人事の様に冷ややかな目で眺めながら、艦長はその口元を笑みに歪めていた。
 アッシュに取り付けられていた自爆用の高性能爆薬の予備分に、彼が密かに取り付けておいた遅動信管が作動したのだ。
発信させた自爆信号は、それのスイッチも同時に作動させていたのだが、わざわざ遅動させたのはこの母艦は万が一にも発見されることがないように、ここ―太平洋の海溝の上―まで移動したその上で沈めさせねばならなかったからだった…。
 彼はほくそえむ表情で、パニックに陥った部下達―いや、かりそめの〝同志〟達の様を眺めやる。
そう、全ては計画通りに進行していた。
偽りの同志達―即ち、本性を偽って自分達「ターミナル」へと入り込んで来た、あのパトリック・ザラを未だに頑なに信奉する錯誤者どもの残党。
あくまでも平和の為、正義の象徴たるお方をお助けする用意の為にのみ備えている、自分達の備え続けている兵備を掠め取ろうとして接近してきた連中。
その様な手段でもってまんまと装備を入手し、ユニウス・セブンの事件を引き起こした連中の存在は、彼らにとっても衝撃ではあったが、そのおかげでそれ以降は獅子身中の虫どもを見分け出す事も出来た。
そして今、この艦の中にはその連中があらかた揃っている。

 

(愚かな奴らだ……)

 

 艦長として、彼らに賛同する〝同志〟として逆にその中にと入り込んでいた「ターミナル」側のエージェントである彼は冷笑を浮かべた。

 

(自分達では〝我々〟を騙して利用したつもりだろうがな、利用されているのはお前達の方だ)

 

 そのままならば、ただ単に平和に敵する〝害虫〟に過ぎない存在。
ましてや、そんな手合いがあの「平和の歌姫」を害そうなどとは、不遜の極みと言うものだった。
だが、どうせどのみち排除する手合いであるのならば、歌姫に再びお立ち頂く、その為のきっかけに使う事で、そのままでは害でしかない者達も、結果的には有効に活かしての排除が出来る。

 

そう考えた連中が描いた絵図面の通りに進行した、今回の事件だった。
自分達の信奉する〝あのお方〟が、こんな事でお倒れになる筈がないと、
そう〝確信〟しているからこそ、あえて襲撃者達の為のお膳立てをも黙って整えてやっていたのだった。
倒れられる筈はないが、かと言って脅威自体はそれなりに〝本物〟でなければ、再起を促すものにはならないと。
少なくとも、彼らの中では(中でだけは)充分に合理的な筋書きではあった。

 

……もっとも、その当の歌姫本人がそれを知ったとしたら、果たしてどう思っただろうか?

 

実際には一歩間違えていれば襲撃者達はまんまと目的を達成させていたかも知れず、
今回の本当の絵図面を描いた連中の思惑通りの〝結果〟が出たのは、多分に偶然の産物に過ぎない部分も大きいのだが……。

 

もっとも、そんな事を考えられる様な者は初めから「狂信者」とは呼ばれはしない。
当の本人の意思などは実際には一欠片すらも忖度しようともしていないまま、艦長は自らを喜んで捨て石にする事への自己陶酔の喜悦だけを覚えていた。

 

(これでいい、これでいいのだ。これで、役目を終えたこの不遜な者どもは自分が道連れにして消す。
そして再び立たれた歌姫は、あの偽善者面のデュランダルめの欺瞞をも暴かれ、奴から正当な地位を取り戻されるのだ!)

 

彼らの中においては、現プラント最高評議会議長のギルバート・デュランダルもまた、〝歌姫に仇なす悪〟と既に見なされていたのだった。
あんな「偽物」をでっち上げ、平和の歌姫の権威を自らに都合良く利用しようとするなど、それのみで彼らの基準では万死に値する不敬だったのだ。

 

だが、これで残された状況証拠―襲撃者は特殊訓練を受けたコーディネーター達の部隊だったと言う事実―から歌姫を身近に守る者達は、
現在のプラントに対しても、警戒心を忘れる事無く向き合う様になるだろう。
実際には無関与ではあるが、だからと言ってデュランダルの奴もまた、打倒されるべき〝悪〟であることは疑いの余地の無いことであるのだから、何も問題は無い。

 

自分はそれを実際に見ることは叶わないが、歌姫が本来立たれるべき場に落ち着かれる時が実現すると言う輝かしい未来を〝確信〟して、艦長は満足げに叫んだ。
「全ては、ラクス様の為に!」

 

その叫びは轟々となだれ込む海水の奔流の中に呑み込まれ、他の誰の耳にも届かなかった。
そして、真実もまた船体と共に圧壊して引き裂かれ、深海の底へと消え去っていったのだった……。