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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_幕間3

Last-modified: 2009-05-21 (木) 05:41:11

 

  人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。
  多くの人は、見たいと欲する現実しか見てはいない。

 

                               ――ユリウス・カエサル

 

 
 

マハムール基地近辺、荒野上空

 

『中央カタパルト、オンライン。進路クリアー! マルチフライヤー、発進!』
現在は艦内に収容〝されていない〟ブリッジのオペレーター席に着いたアビー・ウィンザーのナビゲーションに従って、
ミネルバの中央カタパルトから無人自律操縦式の飛翔体――フライヤーユニットがカタパルトのリニア・レールで加速され、合成風速の向かい風を受けながらスラスターを吹かして飛び出して行く。

 

通常はインパルスガンダムの上半身〈チェストパーツ〉と下半身〈レッグパーツ〉、それに各タイプの追加装備モジュール〈シルエット〉とそれぞれ合体して自律飛行による運搬能力を付加する為の装備であるが、
今射ち出されて来たフライヤーユニットは通常のそれとは異なり、ガナーザクのオルトロス(あるいは前大戦の主力機であるジンが対大型目標に用いたバルスス改・特火重粒子砲)を思わせる格好の〝大砲〟をその機体にと抱いていた。

 

オルトロスと異なるのは、折りたたみ構造を採用する程には全体の長さは無く(とは言っても、MSの全高に迫る程には長いのだが)、
全体的には流線型を取るその後部には火砲でありながら独自にスラスターをも装備して、フライヤーユニットのスラスターと同調して飛翔している点だった。

 

上下両パーツやシルエット以外にも、被弾による破壊や手放す事によって戦闘中に失われる事も往々にして想定される、ビームライフルやシールドと言った装備類の予備を運搬する用途も想定されているフライヤーユニットではあったが――
基本呼称がマルチフライヤーであり、合体して運搬するパーツに合わせて呼称が変化するのもその為だ
――そうして飛んで行く〝運搬相手〟の方にも、この場合は自前の十二分な推進力が付加されている点だけが異なっていると言う事だ。

 

その意味では合成推力により通常よりも速く飛べるフライヤーユニットが今、まっしぐらに向かうその先には、ギャルセゾン機上に立つフェンサー・メインのメッサーの姿があった。

 

そのまま接近したフライヤーユニットから切り離された〝大砲〟は、自らのスラスターの力でその先の短距離をひとまたぎに飛んで、そしてメッサーにがっちりとキャッチされる。
『フェンサーよりミネルバ、マルチフライヤーによる運搬・空中受領は成功!続けてこれより試射に入る』

 

『ミネルバ、了解。標的機群の誘導を開始します』
アビーからの返信と共に、ミネルバのブリッジがコントロールする無人の標的機たち――
先日のガルナハンでの戦闘で破損した状態で虜獲されたジェットストライカー装備のダガーLを、ストライクダガー等他の機体からのパーツ移植で一応の修理を施した格好のものが2機
――が、それまでの旋回待機を止め、ランダム飛行パターンの格好での空戦機動を開始する。

 

それらのMSも、フライヤーユニットと同じく簡易型のドラグーン・システムにより、母艦から誘導でこの程度の飛行も可能になっていた――
より正確に言えば、それ自体もまたドラグーン技術の発展運用実験の一環をも兼ねていたりもするのだが。

 

ともあれ、会敵の格好を作った上で、手にする〝新兵器〟を構えて標的を狙うフェンサー。
その威力の検証と言う意味で、1機ずつ狙うのではなく2機いる標的の、その機動軸線が接近するタイミングを狙っての見越し射撃の照準を付け、そして――
『よぉしっ、〝ハイパーメガランチャー〟! 行けッ!』

 

射点確保!
フェンサーの指がトリガーを落とし、彼のメッサーが抱える新兵器〈ハイパーメガランチャー〉の先端の砲口から猛烈なエネルギーが飛び出す。
放たれた白光するエネルギーの幅広の奔流が、ほとんど正面から2機の標的機〈ダガーL〉を巻き込んで、爆発させた。

 

『おおっ!流石!』
まさに一石二鳥にする様を目の当たりにして、副長のアーサーが喝采する様に声を上げる。

 

『本当に、MSでタンホイザーを……!』
それを後目にするオペレーター席のアビーや、滞空して至近に同行しながらテストを見守っていたカスタムディンに乗るアリシアら、ザフトの軍人達は眼前の現実に軽い驚きの声を上げていた――
もっとも、本来ならばもっと驚いても良さそうなものである筈なのだが、流石にマフティーとの同行にも馴染んで来ると、大小無数の〝驚き〟に接するのはもはや、当たり前の事になってしまっていると言う事もあり、
ある意味で驚きの感覚が鈍麻してしまっている様なきらいがあったりもするのは微苦笑すべきところであったかも知れない。

 

『全く、もう少し早くこれが届いてくれていたなら、もっと楽に戦えたでしょうにね……』
そこでそうやって冗談めかして言うタリアの言葉に、ミネルバのブリッジ内と、それと通信を繋げた先の全てから笑いが起き、互いにいい雰囲気にと包まれて行った。

 

艦長らしく上手くまとめては見せながら、そういうタリア自身とて内心ではやはり驚きは覚えているのであったが。

 

(「マフティー」〈彼ら〉との技術協力の研究のその成果……。試作品でこれだと言われては、それが軌道に乗り出したらどうなる事かしら? 楽しみと言うよりは、いささか怖い気さえするくらいね……)
部下達には決して気取られないように、そう心の内でだけ呟く。

 

フェンサーが試射を行い、問題なく成功させたのは、MS用にダウンサイジングされた「陽電子」砲、タンホイザーを発射するランチャーであった。

 

冗談めかして愚痴って見せた通り、結局ローエングリンゲート要塞の攻略戦には間に合わなかったわけだが、
こうして現在、奪取した要衝を中心に地歩固めと言う感じで、その一つ一つは小規模な制圧行を続行中の彼女らの下へと送り届けられて来た新装備――その試作モデルだ。

 

ザフト側――つまり「この世界」の側からマフティー側へと合わせると言う格好でもって開発が行われている系統の研究成果の、まずその一つ目(比較的、即効性の有るものとしての)だと言えるだろうか。

 

小型化されているとは言え、威力の方もMSが用いる火力としてならば反則級に高い代物ではあるのだが、当然の事ながら必要とするエネルギーの方も大きくなる。

 

本来ならば、動力源として核融合炉を持っている戦闘艦――実質的にはそれも、出力も比例して高くなる大型で高性能のものに限られるが――にのみ、(余裕があればこその)運用が可能になる兵器なのであり、
威力、消費エネルギー共、比例的に幾ら〝小型化〟されているとは言え、それをMSに使わせるのにはニュートロンジャマーキャンセラーが必要になる処なのだが、
マフティーのMSが用いる分には、彼らの機体が装備している(戦闘艦のものをそのまま超小型化した様な)核融合炉のエネルギーをドライブする事で使用が可能では?
と言う着想――つまりマフティーのMSの事は、MSとしてではなく「MSの形(とサイズ)をした戦闘艦」だと見なすと言う事だ――の処から開発がスタートし、
更に合流したマフティー側の技術スタッフが自分達の世界の装備――Zガンダムのハイパーメガランチャー等の設計思想を提示し、加味する事で、
元の「宇宙世紀」の世界のモデルに似た自前の推力付与等の改設計を行った上で完成した、言わば両世界の技術の合作だった。

 

「艦長の言われるとおりですよ!まだ試作品だと言う事ですが、運用性も良好な様ですし、これが量産化された日にはマフティーの方々との連携で本艦の戦力も更に劇的に強化されますね!」
良くも悪くも、タリア程には深刻には考えていないアーサーはそう言って嬉しそうに頷いて見せる。

 

そこだけならば良かったのだが、アーサーが更に続けた一言には、流石にタリアも密かに軽く溜息を付かされるのだったが。

 

「しかし、あれ程の装備なのにどうしてこう、〝カッコいい名前〟が付けられていないんでしょうね?
パラケルススとかミストルティン、ブリューナクとか……イイ!と思うんですけどねぇ……」
そんな感じでぺらぺらとひとりごち続けるアーサーだったが、内心ではどうあれ流石に懸命にも他の艦橋スタッフはそれを聞いても何も言わなかった。
(ゲームのやり過ぎですよ、副長……)
くらいの事は、多分みんながそう思っていた可能性が高いけれども。

 

無論、アーサー自身は預かり知らぬ事ながら、
実はこの武器はザフトの正式な開発局を通しての代物ではなく、議長直属の特命チームが密かに試作したものだったので、
「〝メガ粒子砲(メガ粒子砲方式ビームライフル)を上回る威力のランチャー〟と言う意味で、そのまま『ハイパーメガランチャー』でいいよ」
と言うマフティー側の〝感覚〟が、にびもなくそのまま意見として通っただけだったりするのだが。
――もっとも、その設計思想とネーミングにはマフティー側の人々の無意識的な「元の世界」への郷愁の様なものも、あるいは含まれてもいたのかも知れない……。

 

ともあれ、今はまだ「非公式に~」であるにせよ、プラント――この世界の技術を元にしてのマフティー側への新たな専用装備の開発の、その第一陣は無事に目途が立ったと言う処であった。

 
 

プラント、デュランダル私邸内

 

『ギル……。〝宇宙〟〈そら〉が、視えました……』
もう幾度も繰り返し繰り返しして見ている、レイからのその〝私信〟――
いつも同様のメッセージ形式とは異なり、わざわざ音声までをも添えて送って来たと言う事実そのものが、その送り主たる少年の常ならぬ興奮を示していた
――を今も再び見返しながら、デュランダルは束の間の休息の時間を沈思の中に過ごしていた。

 

レイが送って寄越したこの私信自体は、初めてだとも言っていい彼の言葉と表情をも写したビデオレターの形式を取ってはいたのだが、
そこは長年の仲でもあり、デュランダルにとってはその声音を耳にするだけで手に取る様にその時のレイが浮かべている表情を脳裏に思い描く事が出来る――
その意味でもむしろ実際の表情を写した映像は逆に見ずに、その口調からのみで〝感じ取れるもの〟をこそ判断したいと考えて、音声のみで聞いているのだった。

 

『これを……なんと言ったらいいのでしょう? 彼と、マフティー氏と握手を交わした時に、脳裏に……それがイメージとして本当に、〝視えた〟のです……。
あの人はラウと同じ……いいえ、ラウよりも遙かに強い〝力〟を持っていると、それをはっきりと感じさせられました……』

 

興奮を必死に押さえようとはしながらも、やはりそれが充分には出来ていないレイの声。
あの子がそんな姿を見せるのは余程の事なのだなと、そう思わされたのが彼ら――
「マフティー」〈異世界からの客人たち〉の存在に〝実質的に〟接した、その始まりだった……。

 
 

奇貨と言う言葉がある。
さしずめ「マフティー」〈彼ら〉と言う存在はそれなのだろうなと、デュランダルはそう想う。

 

時空を超えて、「この世界」とは別の歴史の歩みを辿った世界から、突然にこの世界にと現れ出たと言う彼ら。
余りにも突拍子も無さ過ぎて信じ難い事ながら、どう考えても「この世界」の技術力や概念(基礎理論)を軽く跳び超えている、その彼らの持つ装備の数々を目の当たりにすれば、信じるより他には無い。

 

多分に偶然の要素の重なりに依る処も多いながらも、そんな彼らを「味方」として得る事が出来たのはまさに望外の僥倖だったと言えるだろう。
それがデュランダルの偽らざる本音だった。

 

前大戦におけるアークエンジェルの様な役割を担わせたいと期待していたミネルバに同行する事になった、彼らマフティーの実戦部隊の活躍ぶりは想像以上のものとなっていた。
インド洋での会戦にせよ、終結したばかりのガルナハン解放作戦にせよ、後の分析から見れば普通であればまず勝てる筈が無い様な状況を、
彼らの存在とその懸絶した戦闘力でもって見事切り抜ける事が出来たのだと言う事が如実に示されている。

 

比喩では無しに、地球連合のその国力とマンパワーと言うものを今更ながらに見せつけられている様な状況下でありながらも、どうにかそれに互して行けているのは、
ひとえにそんな彼らの加勢を受けた武勲艦ミネルバと言う、まさに比類無い〝象徴〟となる存在を擁しての華麗なる戦果――
その後に後詰めをする事によって、地球連合の暴政から守ってはくれない赤道連合の統治下からの離脱を希望する多島海の島嶼群らも吸引しつつ、いまやインド洋の大部分の制海権を自陣営のものとし、
カーペンタリア及び大洋州連合とマハムール間のルートを確立すると共に、要衝ガルナハンの拠点をついに陥落させ、西アジア方面への橋頭堡を築いてスエズ方面の地球連合軍陣営を遮断する勢いとなっていたが
――の数々による、もはや戦略レベルにすら達している現在の「主戦線」での優勢の賜物で。

 

素人目には華々しい軍事的成果のみが(突出して)〝見える〟事だろうが、
デュランダルを筆頭とするまともな感覚を持った政治家、軍人、アナリストらと言った玄人の人々の目にはむしろ、それ以外(それ以降)の部分においてこそ
「マフティーの存在による作用〈働き〉」こそが真に大きいものだと言う事を実感させられるものであった。

 

ガルナハンでの戦闘終結後の地球軍将兵に対しての処置などが象徴的であったが、
それに先立つインド洋東端での会戦での戦闘の最中と事後、双方での彼らマフティーの献身的な姿勢と水際だった対処は、ガルナハン周辺での慰撫行動と言う現状における軍政面でもやはり存分に発揮されている。

 

「異世界人である」と言う〝微妙な事実〟をこそ伏せてはいるが、それを置けば彼らの存在は
「同じナチュラル」が、ザフト(コーディネーターたち)と対等に――いや、むしろ実際にはリードしているくらいだが――手を取り合って、
地球連合の圧制下に苦しめられているナチュラルの人々を、その状況から救い出そうとしていると言う、

 

『今次の戦争は、前大戦の様なナチュラルとコーディネーターの間に行われる、相手を殲滅対象としてしか見なさない「人種」間の対立戦争なのではなく、
今なお旧態依然としたそんな一方的不寛容による絶滅戦争を実行しようとしていて、
そしてその為に〝敵〟であるコーディネーターを~と言う以前に、同じナチュラル全てを無理矢理に巻き込んで犠牲を強いている「圧政者」である地球連合〈ナチュラルの内の、あくまでも一部〉と、
その逆に今や過去の誤謬と蒙昧からは目覚め、互いに寛容の精神を持ってコーディネーター、ナチュラルの別無く手を取り合い、自由と平和を希求しての「平等な共存」を目指そうとしている
〝新生したプラントと、その友好勢力〈同盟者〉〟たちとの戦いである』
その新しい対峙軸を確立し、強化する方向へと舵を切って行くその為の、それを最前線で体現してもくれている強力な味方だった。

 

ただ単に卓越した技術と戦闘力を持っていると言うのに止まらず、「元の世界」では政治的な面までも含めての闘争を行っていたと言うだけあって、マフティー側はそんな現在の戦略的な状況を的確に判断して動いてくれており、
「同じナチュラル」(の組織)が~と言う部分がそのまま、赤道連合から離反したインド洋の群島に暮らす人々や、ガルナハンとその周辺地域と言った、
新たに反地球連合の体制側へと身を寄せようとするナチュラル達との間に立つ〝適切なワンクッション〟ともなってくれていた――
その意味合いでも、彼らをザフトに編入するのではなく、あくまで「対等な」同盟軍として遇すると言う判断は正解だったと言えよう。

 

もちろん、そうやって「コーディネーターをすら凌ぐ能力を発揮するナチュラルの集団」と言う組織〈マフティー〉の実在は、ブルーコスモスの論拠を突き崩すものであるのみならず、
同時にコーディネーター達の中に潜在するナチュラルに対しての(実は根拠は大してない)優越感情をも同時に揺さぶる事が出来るものとなるのだった。

 
 

ブルーコスモス(を中心としたナチュラル達の側)からしてみれば、マフティーと言う「コーディネーターに優越するナチュラル」の存在自体は、誠に愉快な事実となるであろう。

 

自らを優等種であると任じ、ナチュラルを愚かで野蛮な劣等種と見下すコーディネーター達の多くの内に見られがちな悪癖である、無意識的なその感覚――
もっとも、それ自体はナチュラルの側からの偏見や差別に曝され続けて来ている事への当然の反作用が根源でもあるのだが……
――それを根底から覆してくれるナチュラルが、それも天才的な一個人が~と言うのではなく、「集団」として存在すると言う事実。

 

言うなれば、マフティーの実在はコーディネーター達の寄って立つ、ある種の〝信仰〟と言っても良い幻想を粉砕するものであり、
そんな状況に晒されるのを余儀なくされたコーディネーター達の姿を見るのは、ブルーコスモスの連中には大いに愉快を覚える事実となる筈だ。

 

しかしながら同時に「そんな同胞」〈マフティー〉達は、ブルーコスモスに正当な理は無い――それどころか、そんな連中こそが争いの真の原因だとして、
コーディネーターの側に立って〝同じナチュラル〟である自分達に敵対して来ていると言う、皮肉な現実があると言う事でもある。

 

「さしずめジブリール氏辺りにしてみれば、痛し痒しと言う事になるのだろうな……」
デュランダルはそう微かな苦笑を浮かべながら、グラスの中身を一口呷った。

 

多分に偏見や妄想に根ざしてもいる「コーディネーター(と言う存在)の脅威」と言うものがナチュラルたちの多くの内に根強く存るのは事実だが、それを利用しての
「あれは危険だ。放ってはおけない。戦おう!(=〝間違った存在〟を浄化しよう!)」
と言う、それを実像以上にことさら過大に煽り立て、その〝脅威〟を排除する為に~のプロパガンダでもって実際に戦争を望み、引き起こしている者達の、
そのマッチポンプなイデオロギーの論拠自体がマフティーの存在と言う事実一つで崩壊させられてしまう事になるのだから。

 

感情的、心情的な部分での歓迎とは裏腹に、陰謀的なプロパガンダ、大義名分の方面では非常にまずい状況にも陥ると言う、二律背反のジレンマにさらされる事になるわけだった。

 

(もっとも、事は無論ナチュラルの側だけの影響に留まるものでは無い……)
そう内心で呟きを続けるデュランダルは、微かに口元に皮肉な微笑を浮かべる――ただの偶然ながら、それは彼の今は亡き友人、ラウ・ル・クルーゼの仕草とどこか似ていた。

 

それも当然の事であったかも知れない。
現在のこの状況を、今は亡き彼〈ラウ〉が目にしたら果たしてどう思うであろうか?と、デュランダルはそんな事を考えていたからだ。

 

〝最先端の技術水準を持っている筈〟の自分達コーディネーターを、軽く凌ぐ水準の装備や運用能力を持っているナチュラルの集団が実在する。
その事実は同時に、反転してコーディネーターの側の方に対してもまた、投げ掛けられるものともなるのだ。

 

イメージ的にはほとんどそのままブルーコスモスと=で見られている地球連合を筆頭とする敵対的なナチュラルたちが、痛し痒しの状況であると言う事自体は、
コーディネーターの側から見れば溜飲が下がる様なものであるのは事実だろうが、
それは「コーディネーターを凌ぐナチュラルの集団、マフティー」と言う現実の存在に担保されるものであると言う〝事実〟を、どう受け止めるか?
そういう話だ。

 

実際に、ガルナハンでの戦いを通してもそんな現実に対しての両極端な反応の流れは兆候を見せだしてもいる様だった。

 

現在、彼らマフティーと行動を共にしているミネルバ乗艦の将兵達は、日々間近に接してのその薫陶を受け、深い心酔を見せている様子だと言うし、
インド洋会戦にて沈んだボズゴロフ級ニーラゴンゴ乗組だった者達もまた、そこにて示された彼らの奮闘と献身的な姿勢に打たれ、すっかり認識と態度が改まると言う実例となっている。

 

そしてその拡大再生産として、先日のガルナハンでの戦いにおいても同様に、
デュランダル自身が深く信任するハイネ・ヴェステンフルスと彼の率いる隊員達を筆頭に、司令官のヨアヒム・ラドル以下多くの将兵達が良い意味での衝撃を受け、無意識の蒙を開かされると言う事にもなっていた。

 

「少なくとも、前線と言う「現場」に身を晒している者達ならではの〝感覚的な柔軟さ〟は、やはり現状認識とその受容の最大の下地と言う事か……」
その意味では、観念論を弄んでいる余裕などは無い、文字通りの「戦争の最前線」と言う舞台に立っている者ならではの現実感覚が、良い方に作用していると言う実例であろう
――無論、それ自体は何とも皮肉な「人間の現実」と言うものを証明する話でもあるのだろうけれども。

 

しかし、手放しでそれを喜んでもいられない様な事情もまた散見され出している事もまた――そろそろだろうとは確定的に予測されていた事ではあったが――デュランダルは把握していた。

 

ハイネや彼の部隊員達の様に、現実を受容し自らの意識の方を柔軟に変化させられる者達も存在するその一方で、
その真逆に観念の呪縛に自ら囚われ続けたまま、その現実にただ反発だけを見せ、現実を否定するのみの空気もまた間違いなく存在し、くすぶり出し始めてもいる。

 

ラドル隊の幕僚達の内の一部の様な、(この場合は悪い意味の方で)感覚を鈍麻させ「頭でっかち」になりがちな者達を中心に、そんな反作用の流れもまた生まれて来ているのは間違いない。

 

いつの時代でもそうだが、そう言った者達の声ばかりが大きくなる事でもって対立の火種は煽り立てられ、容易に燃え上がってしまうものだ。
その点においては、コーディネーターにもナチュラルにも大差はあるまい。

 

(結局は、〝同じ人間〟のする事だ……と、言うところかな……?)
デュランダルはそう内心で苦笑混じりにひとりごちた。

 

だからこそ自分はそれを――「仕方がない」と言う現実を、ただ(後ろ向きに)許容したくはない……。
それがデュランダルの偽らざる本心で。
なればこそ、マフティーと言う奇貨の存在は彼にとってはある意味まさに天佑であった。

 

「変わらなければならない」のは、なにもナチュラルの側だけが~と言うのではなくて、
同時にコーディネーターの側にもまた、同じ事が言えるのだから。

 

その意味においてはプラントの側もまた、本当の意味で生まれ変わるその為の痛み――膿を出し切るための出血は避け得ぬだろうと、
だが、そうでなければ〝本当の意味では変われない〟のだと、既にデュランダルはそれだけの腹をくくってしまっていたのである。

 

心情的には無理からぬ事である事だろうが……と言う、理解そのものはまだ抱ける余地もあるとは言え、
やはりただ単に「狭義的な意味合いでの、人種間の対立戦争」の枠内へと自らもまた進んで舵を切って行ってしまうと言うやり方をしてしまった前大戦の展開は、
政治的には非常に拙いものだったと、前大戦時の最高評議会の戦争指導については失格と評価せざるを得ないデュランダルだった。

 

〝上〟がそんな調子では、戦争と言う狂気に加速された憎悪の感情を制御する事無く、捕虜を取らずに虐殺行為を行った事に代表される、末端〈前線〉の暴走なども現出するのはむしろ当然の帰結である。

 

もっとも、戦争の狂気に加速された憎悪や差別感からの虐殺、非道行為を言うのならば、ナチュラルの側もいいとこ勝負ではあろうが――
(そう言えば、あのラクス嬢も、ユニウス・セブンの慰霊使節団として乗っていた非武装シャトル〈民間船〉を地球軍に、遊び半分に問答無用で撃沈されて危うく死にかけたのだったな……)
そんな出来事を思い出すデュランダルはふと、彼女はそんな九死に一生を得た経験から何かを得たのだろうか?と、そんな事を考えた。

 

前大戦の後半に、そんな狂気の掌の内にと自ら呑み込まれて行きつつあるパトリック・ザラの下、加速度的に状況的な狂気の方向へと傾く一方だったプラントの現状に対して立ち上がり、俗に「三隻同盟」などと呼ばれる、そんなプラントと、
先鋭化する一方のブルーコスモス思想に支配された地球連合、どちらも互いを不倶戴天の殲滅対象としか見なさずに殺し合いを続けるだけの双方に等しく異を唱え、武力介入して際限なき殺戮行為を止めさせようと言う第三勢力の、
その象徴的存在となった彼女、ラクス・クライン。

 

ユニウス・セブン慰霊使節団の虐殺の難に遭ったラクス自身のその実体験もまた、彼女の大戦終盤の行動の、遠因のその一つにはなったのかも知れない。

 

そんな彼女はしかし、自身らの働きもあって〝戦闘行為がどうにか停止する〟のを見届けるや、静かにその行方をくらましてしまっていた。

 

状況的には、そのままアイリーン・カナーバ前(暫定)議長らと共に、パトリック・ザラ亡き(ザラ派も一掃された)後のプラント最高評議会の後を襲い、
終戦交渉などとも並行・連動した、戦場での非道行為の温床ともなったコーディネーター側の意識改革の為の啓蒙活動等の、「政治的な面での働き」が期待されるべき(またそれが出来うる)立場にはあった筈なのだが、
その途を行くと言う事を、彼女はしなかった……。

 

その事自体は、本質的に彼女は「政治的な人間」〝では無い〟と言う事実の証明でもあるのだろうが、
元より〝アイドル的な存在〟であった彼女は、その枠内には留まらずに、
ただひたすらに憎しみをぶつけ合い、その果てに互いを滅ぼし合いかけると言う処まで行ってしまった〝世界〟の有り様にと敢然と異を唱え、現実的な――まっとうな方向への影響を実際にもたらした。

 

――それは間違いなく必要な行動であった。少なくとも、あの時点においては。
誰かがやらねばならなかった事を、彼女は自ら行った。その事実に関しては、確かに彼女は偉大だった。
ただ、結果的にはその行動によって、彼女は「生ける偶像〈アイドル〉」へと、
彼女自身の意思やその意識の有る無しはもはや無関係に、自らの存在と言うものを昇華させてしまってもいたのだ。

 

〝戦闘の〟終結を見届けるや、直ちに姿を隠したと言う行動には、恐らくは無意識的に、そんな現実を忌避したと言う部分もあった筈だろう。

 

無論それは、個人の心情としてならば理解できない話では無かったが、見方を変えればそれはある意味
「呷るだけ呷っておきながら、その当人は途中でそれを放り出して後の顛末には頬かむり」と言う格好にもなってしまっていたとも言えるだろう。

 

そして彼女は、そうやって熱狂したままでそのまま放置された者達の、悪い方の意味での〝偶像〟と化してしまってもいたのだ。
むしろ、突如それらの前から行方をくらます事で、却ってそれらの者達の間においては神秘性を高める結果となるのと共に、
それらの者達の〝脳内においての自己妄想的に都合の良い「偶像」〟として、勝手な神格化すらされている部分すらも見受けられると言う域に達しているのだった。

 

そこまで来ると、もうこれは立派に政治的に放置は出来ないものに成りうる、と言うレベルの話である。

 

「私自身もまた、ある意味貴女によって生きながらえさせて貰ったかも知れない立場である事を考えれば、「恩知らず」な言葉だと言う事になるのかも知れないが、
それにしてもラクス・クライン嬢、まったく貴女はとんでもない置き土産を残して行ってくれたものだ……」
そう嘆息するかの様な言葉を口にしながら、デュランダルの表情自体はしかめ面ではなく、むしろ苦笑混じりに楽しげな表情さえ浮かべていた。

 

結局の処、デュランダルはこの世界においては誠に希少な、真の意味での政治家であったと言うことだ。

 

理想は理想として自らの行動原理として確実に保ちながら、今ある現実は現実として率直に認識し、正すべきは正すと言うその為に清濁併せ呑み、硬軟織り交ぜて対処しつつ、
まずは自らの属する集団の事を~と言うのは当然として、更により普遍的な意味合いでのより大多数の幸福と言う方向へと現実を変えて行きたいと言う意志と情熱を持つ――
自身もかつて、とある〝現実〟と言う痛恨事にまみえた処から立ち上がった彼にとっては、それがある種の(自身なりの)〝戦い〟なのだから。

 

本人にはそんなつもりは全く無かったのかも知れないが、客観的に見ればラクス・クラインは放り投げる格好ともなっていた、正されるべきコーディネーター側の悪弊――
前大戦が落ち着いてその後も、後々まで響く汚点となる幾つもの痛恨事は、
こうして今、いい加減そんな不毛な応酬だけを繰り返す様な状況から脱却すべきなのだと言う意志を持っているデュランダルにとっても、全くもって足を引っ張ってくれる〝負荷〟となっていた。

 

だからこそ、今次の戦争においてはその真逆を行くべし!と言うのを大方針としているわけだったが、
新しい対立軸の確立と言う政戦両略の部分でこそ概ね順調に推移浸透を見せてはいたのだけれども、
やはり現場レベルにおいての人々の〝意識の改革〟と言うものは――それも予想されていた事であるとは言え――そう簡単には進まないものであった。

 

そんな現状の中での、実際の行動でもって体現される「マフティー」の面々のその姿勢。
コーディネーターだナチュラルだと、そんな観念論ばかりこね回して(それも多くは無自覚にだ)ばかりいるだけの者達のその眼前で、
淀みも躊躇いもなく淡々と、ただ己に出来うる事の全てを実践するその姿は、まさしく〝鏡〟の様なものだったかも知れない。

 

そんな姿を目の当たりにしてみれば、あのアスラン・ザラや、インパルスを託す事にしたオーブから来た少年、シン・アスカと言った心ある若者達にも良き影響が出ない筈が無い。

 

また現に、そんな彼らの存在によって救われた多くの人命――撃沈されたニーラゴンゴから生還した乗員達や、ガルナハン戦線の軍民双方の人々と言った存在もある。

 

配属MS隊パイロットを除いたニーラゴンゴの元乗員達には等しく、プラント本国へ帰還させての一時休暇を与える措置を命じておいたのだが、
「マフティー」と言うとんでもないナチュラルの集団のおかげで生命を救われて、こうして生きて還れたと言う各々が持ち帰ったその事実は、口コミとなってじわじわとプラント社会の内にも浸透しつつあった。

 

当の生還者達本人が、余りにも劇的だったその体験に著しい興奮と感動を覚えているのだから無理もない事だが、
そう言った目には見えない部分から事実を浸透させて行けると言うのは、デュランダル自身の政治の目的とその為の手段の上からも、まさに願ったり叶ったりな話でもあったのだ。

 

それと同時に、彼らマフティーが持ち込んで来た技術の結晶や概念もまた、今次の戦争の行方のみならず「その先」〈戦後〉の事までも視野にと入れているデュランダルからしてみれば、
それこそ開けてびっくり玉手箱とでも言うべきレベルのものであると言えた。

 

外部は無論の事、例え内部の者に対してでも容易に漏洩は出来ない程の「核爆弾」(比喩的な意味での)級の代物である。
それ自体は何とも皮肉な話ではあるが、むしろプラント内部側に対しても、おいそれと迂闊には開示出来ないものである為、
現状ではまだごくごく限られた範囲の完全に信頼が置ける一部の技術者・研究者らの選抜チームにのみ対応させるに止められてはいたのだが、
その範囲内においてすら、この世界でも実在が確認〈改めて発見〉されたミノフスキー粒子や、チタニウム系の合金を用いる冶金技術等のオーバーテクノロジーの数々は、
この世界――一義的にはプラントだが――の総合的な技術体系そのものに対してすら、大きな衝撃と新たな発展をもたらしうるモノである可能性は確定的だと予測されると言う結論が出ている。

 

最先端の技術力を誇り、また売りともしているプラントの中でも、特にその最前線を行く選抜メンバーの様な者達からすれば、
一歩間違えればそれらの人々もまた、現実の否定と観念論(と言うよりは盲信に近いだろうが)の方向へと向かわせかねない程のインパクトがあるものであるのは間違いないだろうが、
やはりミネルバの者達と同様に、大きな衝撃は受けつつもその事実を受容し、良い意味で自身の無意識の鼻をへし折られて目覚め、積極的に受け入れて学ぼうと言う姿勢を一様に示している辺りは流石と言うべきであったろう。

 

「一流は一流を知る」と言う言葉もある様に、
真に優れている者は自身が優秀であると言うだけでなく、例えそれがどんな異形であれ、同様に優れた他者と言う存在にも気付くものであるのだから。
その意味ではある意味その辺りも、様々な意味合いで「信頼のおける」メンバーの選抜の基準としては明確な指標の一つにはなり得た。

 

目の前に、専門家としての自身を心底驚愕させ得るほどの代物が実際に転がっているのである。
〝真の意味で〟専門家であるならば、それがナチュラルの手になるものだ~などと言う出所などには全く拘泥せずに、飛び付かない筈が無い。

 

無論の事、慎重の上にも慎重を重ねての白羽の矢を立てられた全員がそう言う反応でもって事実を受け入れ、宇宙にと上がって来たマフティー側の技術者〈後方支援要員〉達から熱心に教えを請いつつ、共同しての基礎研究にと入っていた。

 

マフティー側からしてみれば、技術の一端を開示する事により自らの存在価値を担保しつつ、この世界でも調達可能な補給品の研究・検証(可否の見極め)と、入手・代替可能なものの確定と開発の必要があったし、
逆にプラント側から見れば、「パテント料」的なものとして彼らを受け入れつつその研究・開発に協力しながら、同時に彼らから開示されたものを如何に自らの技術体系の中にとフィードバックさせて行くか?と言う話になる。

 

「この世界」でも実在が確認されたミノフスキー粒子や、フェイズシフト系装甲技術の概念自体を一気に廃らせ得る可能性すら含む画期的な冶金技術など、専門家ではなくともインパクト絶大なものが数多くあったが、
わけてもある意味でデュランダルの選抜眼の「確かさ」を証明する結果だったかも知れないと言えるのが、上がって来た中間報告に明記されていた『ローテクと言うものの見直し』と言う要素だった。

 

流石に選び抜かれたメンバー達は見落とす事は無くしっかりと気付いていたのだが、
『マフティーの方々の持つ超越的な水準の技術体系を支える要素の中核が、最先端技術の追求を目指したものでは無く、信頼性が高いローテクをあえて用いていながら、しかしそのローテクは驚く程に洗練されたものであると言う事実は見逃す事は出来ない』
中間報告ではその点に付いて見落とす事無く、はっきりと触れられていた。

 

――実のところそれは、「宇宙世紀」の世界においてはミノフスキー粒子の影響から免れる為に、
その状況下でも安定して機能するローテクの方がミノフスキー・ショック以後には逆に見直され、発展する事になった~と言う歴史的な経緯があった為なのだが、
ミノフスキー粒子のそれに比べれば「かわいいもの」と、言う事になってしまうのだろうが、やはり電波障害や電子機器への影響を及ぼすと言う特性に置いては同一ベクトルであるニュートロンジャマーに対しての方策が、
それを更に凌ぐ最先端技術で対抗を~と言う発想以外に出てこなくなっていた、自分達――ひいてはこの世界の人間達全体的な有り様そのものに対しての、根底からの疑問を投げ掛けるだけの力が、
「マフティーの存在と言う事実」には備わっていたのである。

 

枯れた筈の技術〈ローテク〉でありながら、その性能は技術立国を自認するプラントやオーブ(選抜メンバーの中には前大戦後にオーブから移住して来た者も含まれていた)が送り出す最先端のシステムと同等以上の性能を持っていたし、
しかもローテクであるが故に、その安定性やメンテナンス、交換の容易さなどと言った、トータル的な意味合いでの「信頼性」の点では端から勝負にすらさせて貰えないレベルであった。

 

やはり、現物として超越した技術力の結晶たる代物が、しかもそれを構成する未知の理論・概念も伴って存在すると言う「事実」ほど雄弁なものも無いであろう。

 

「この『マフティー・ショック』は、間違いなく〝この世界〟を大きく変える……」
そう確信するように呟くデュランダルの口元には、何とも楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

(ハサウェイ・ノアか……)
と、彼自身も政治家としてのみならず、一人の人間としても大いに惹き付けられている人物の名を思考の内で呟いて、
そしてデュランダルは不意にとある事にと気が付いた。

 

「そうか……!」
その〝発見〟への驚きに、思わず本当に声を上げていた。

 

(つまりは、〝箱船〟なのだな……。そんなマフティー〈彼ら〉の存在は……)
まるでこの混迷する世界へと、それをもって閉塞感にのみ覆い尽くされた状況を打破してみよと送り込まれた、〝運命の神〟の見えざる手による、その為の使者であるかの様ではないか!

 

異世界より到来したが故に、彼らは――彼らだけは「この世界」に存在する〈生きる〉者達のそのほとんど全てが囚われてしまっている観念や、過去の因縁からは初めから自由であり、
先の見えない対立の観念と言う、そんな不可視の檻の中にと囚われたままのこの世界の有り様を、その健全な感覚のままに客観的に俯瞰し、
そしてその意志に基づいてそれらに対しての行動する事を通じて、そんな「世界」を覆う閉塞を打破し、未来へと繋がる風穴をこじ開ける事の出来うる存在であるのが、「マフティー」〈彼ら〉だった。

 

そんな〝カード〟を得て、それをもってお前は何を成す?
「運命の神」からそう問われている様にも思える、現在の状況だった。

 

この状況を打破するには、「この世界」の人間だけでは無理だと、運命の神からまるでそう宣言されたかの様な事実があったわけだけれども、
その事実そのものにはやはり複雑な心情を抱かされつつも、ならばそこからやってみせよう!と言う意志もまた、不屈に湧いて来ていた。

 
 

ただ、そんな政治家としての現状認識とそこからの発想は当然の事として、
同時にその事実は〝一人の人間〟としてのデュランダル自身にとってもまた、大きなものだった。

 

その一個人としての立場で考えた時に、今こうして声だけを聞きながらその表情を脳裏に描き出しているレイ――
彼自身にとっても今や弟、あるいは息子の様な存在である、今は亡きラウ〈友人〉の、背負わされた〝宿命〟までも共有するその「弟〈分身〉」
――が、これまで覚えが無い程に活き活きとしている、その事実は驚きの一言だった。

 

かたやコーディネーター、かたやクローンと言う、どちらも自分の意志が初めから介在する事も無しに
生まれついての「不合理な宿命」を背負わされた者同士の――そんな者達同士にしか判るまい共感とでも呼ぶべきものを互いに抱き合っていた
今は亡き友人、ラウ・ル・クルーゼが遺して行った少年、レイ。

 

彼もまたラウと同じ、クローン故の短いテロメアにより初めから常人の1/3程の寿命しか許されてはいない命だった。

 

否応なしにそんな宿命を背負わされた彼の「保護者」――養父、兄代わり、後見人、どの言葉を用いるのが適切になるのだろう?――として、
前大戦の最後、ラウが戦いの中にと(半分は自ら)斃れ還らなくなった後、レイには「君もラウだ」と、そう告げねばならなくなった。

 

そんな二重に残酷な真実さえも、亡き者となったが故に実際には何らの関与も責任もない事までも汚名をひっかぶせられたラウへの周囲の声を耳にしながら、その現実の中で生きて行かねばならないレイにとっては、
そんな現実に対してのやり場のない静かな憤り以外には、生きて行くための意志を保つエネルギーは無かろうと思えたからだ。

 

だが、そんなレイが今見せているこの様子は何だろう?
まるで初めて恋をした少年でもあるかの様な、率直な驚きと歓びの感情を見せているレイの姿がそこに在った。

 

〝不思議な共振〟とでも言うべき感じだと言う、レイがハサウェイとの間に感じたと言うもの。
ハサウェイの言葉を信じるならば、そう言った感覚を互いに及ぼし合える者同士は死してなお後にも変わらずにそうやって共鳴し合う事さえあると言う。

 

それが本当の話であるのかどうかは判らない。
元よりレイとラウの間には(と言うよりは、彼らを形作るフラガ家の遺伝子にか)あったと言うそんな感覚の話は、デュランダルにはそれこそ確かめようの無い話ではあったし、
よしんばそれが本当だったとして、レイがそんなハサウェイ達のいた世界の〝同類〟達の様にそうなれるかどうかさえも定かではないのだから。

 

だが、問題はそこでは無いのだろう。
例えそれが他者からは眉唾ものとしか見られない様な、理解を受けられない様なものではあろうと、あるいは幻想であろうとも、
あのレイがそうやって(その中身は置くとしても)〝普通の人〟が誰でも当たり前に持つ事の出来る前向きな希望〈生きるよすが〉を、
普通の人と同じ様に抱くと言う事が出来る様にと変わった。

 

その事実こそが、デュランダルにとっては良い意味での衝撃と共に重大なものだったのだ。
「保護者」だ~などと言いながら、自分はレイにはそんなものを与える事が、そう言った何かしらのものへの途を示す事が出来なかった。

 

自分自身もまたその事実にある意味で愕然もさせられ、自省を強く促されながらも、
デュランダルは同時にハサウェイ達に対して一個人としての深い感謝の念をもまた、抱かされていたのだった。

 

『――ギル。俺は今、やっと……』
連続再生になっているレイからのビデオレターはその間にも進み続け、その後のものへと内容は変わっていたが、
そうして繰り返し送られてくる度にレイの声はますます明るさを増して行き、精気が漲って来るものを感じさせていた。

 

それ程までに彼は今、充実を感じながら日々を過ごして〈生きて〉いると言う事だった。

 

「私も今、そう思わされているよ。レイ……」
デュランダルもまた、そう返すようにとひとりごちる。
彼自身もまた、ハサウェイ達との〝出会い〟を通して、忘れていた大切な事を思い出した様な気がしていた。

 

「これは、やはり直に会いに行かなければ、なるまいな……」
自身の想いを確認する為に、そう口に出して呟いてみて、一つ頷く。

 

既に幾つかの「手土産」の準備は進みつつあり、その内の二つ程は先発させてもあるのだが、
デュランダルは今度は「公式の」ものとしての、自らの地球への降下〈訪問〉をあらためて決意するのだった。

 
 

ミネルバ艦内、ラウンジスペース

 

「あれ?メイリン! 戻ってたのね?」
出撃から帰艦して来たルナマリアが、人がいないとやはり広さを感じさせられるラウンジスペースの中に一人でいた妹の姿に気付いて声を上げる。

 

「あ、お姉ちゃん!お帰りなさい」
〝数日ぶりの再会〟となる姉の顔を見て、メイリンも嬉しそうに笑顔を返した。

 

「お、メイリン。珍しいじゃんか?」
更に続けて姿を見せたシンもそうやって声をかけて寄越す。
「シンも、お帰りなさい」
メイリンがそうやって友人をやはり笑顔で迎えた後にも、イラムとミヘッシャ、ロッドにモーリーと言った、シンとルナマリアの二人と共に出撃をしていたマフティーの1個戦闘小隊の面々と、
ミネルバにと滞在したまま取材を続けていて、今回はシン達に同行していたジェスとルルーも続いてラウンジにと姿を現して、
数日ぶりに顔を合わせたメイリンと互いに笑顔で挨拶を交わし合う。

 

「そっちも忙しそうね。大丈夫?メイリン」
互いにオペレーターとして席を並べて戦いを支援する役目を担う者同士であり、またガルナハンへの潜入行の様な事までも含めての、副官役も務めていると言う点でも同様の立場でもある処から、
そう言うミヘッシャとはマフティーの面々との中でも特に親しくなっていた為に、彼女から掛けられる気遣いの声にもメイリンの頑張りぶりへの理解に根ざした優しさが溢れていた。

 

「ええ、ありがとうございます。ミヘッシャさんの方も、大変そうですね」
笑顔と共に謝意を示しながら、逆に自身の方からも気遣いを見せるメイリン。

 

彼女らが互いにそうやって気遣いを見せ合うのも、ザフト・マフティー同盟軍側が置かれているこの方面での〝現状〟と言うものにその理由があった。

 
 

要衝であるガルナハンの陥落は、それに伴ってこの地域のパワーバランスにも急激な変動をもたらしていた。

 

地球連合軍はこの西アジア方面に睨みを効かせていた戦略上の拠点を失って、この地域に対してのその影響力を一気に低下させられる結果となり、
そのせいで陸路上では半ば孤立の格好になってしまったスエズ基地だけは死守せねばならないと言う事でその防備を固める意味合いもあって、
この地域に展開させていた戦力の大半がスエズ方面を中心とした各〝後方〟地域への戦略的後退を余儀なくされていたのである。

 

そしてガルナハン解放戦の状況が口コミで伝わって一気に広まる様になって(無論、そこにはマフティー側が情報戦として積極的にそれが広がり伝わる様にと後押しもしていたわけだが)伝わるや、
ガルナハンと同様に一方的に支配され搾取されるだけの地球連合軍の圧制の下に喘いでいたこの地域全域での抵抗運動が一気に勢いを増し、
一つ一つの規模は小さいながらも、地球軍との間の衝突がさながら雨後の筍の様に各所で発生していた。

 

本来ならば地球連合軍の勢力の前には抗すべきも無かったのだが、地球軍側にも退き足が付いている様な格好で展開している兵力を一気に減らしていると言う状況があった事で、
逆に抵抗運動にもそれだけ勢いを与える格好にもなっていたのだ。

 

旗艦デズモントをガルナハン付近に滞泊させ、地域住民との復興支援の折衝及び対地球軍の軍事的対応の拠点として軍政にあたっていたラドル司令官とフェイス達のザフト側、それにハサウェイ達マフティーとの協議の結果、
それらの抵抗運動を支援し、ドミノ倒し式に一気にこの地域から地球連合軍の勢力を駆逐し、解放すると言う短期的戦略目標が決定され、現在はそれに基づいての短時日の作戦行動――
マフティー及びミネルバ、ディアナ両艦所属の卓越した戦力でもって合同した少数ずつのチームを複数編成し、
そこにラドル隊(マハムール基地部隊)からの部隊をそれぞれ指揮下に付けた格好の、機動性のある小規模戦力を多数編成して係争中の各所に派遣する
――と言う格好を取っていたのだった。

 

一つ一つの戦力単位の「規模」そのものは一見小さくも見えようが、
文字通りに〝一機当千〟のマフティーの1個戦闘小隊(メッサー2機とギャルセゾン)に、それぞれフェイスの隊長に率いられるミネルバ、ディアナ両艦のMS隊からのメンツが加わって中核が構成されている。
彼らのみでも、5倍以上の規模の敵勢力を容易に駆逐出来る程の戦闘力を持っていた。

 

無論、見た目の「数」と言うものを軽視しているわけでは無いので、数的な意味での「主力」はマハムール基地部隊になるわけだが、
ローエングリンゲート要塞での戦いを経た後の現在では、マハムール基地部隊からのメンツも「真の主力」は何であるかは理解している。

 

結局この方針は、戦略戦術の両面上の必要性は当然ながらも、同時にそうしてマフティーと言う存在に(また、それを屈託無く素直に認めている同胞のエース達にも)多くのコーディネーター将兵をより間近に接させると言う狙いもまた、あるのだった。

 

もっとも、マフティーとの共同戦闘行動自体が戦闘行為そのものに限らず、ガルナハン解放においても〝示された〟「マフティーの存在」と「ザフトの変化」は、
隠蔽をはかる上層部の無駄な努力をあざ笑うかの様に、迅速な口コミで当の地球連合軍の兵士達の間にも知られる様になり、その士気にも多大に影響を及ぼしていた。

 

流石に、オーブ沖、インド洋、そして今回のガルナハンと、マフティーが姿を現した戦場で地球軍側が(ほとんど一方的に)被った損害の程度は、およそあり得ない程の領域に達していたからだ。

 

〝全滅〟や〝壊滅〟と言う言葉の意味するところは、一般の感覚と軍事上の用語とではその意味合いがいささか異なるのだが、
マフティー相手の戦闘における自軍の損耗はもう、〝全滅〟や〝壊滅〟と言うレベルを軽く通り越して文字通りに、繰り出した戦力がきれいさっぱり〝消滅〟するのだ。

 

「砂嵐とマフティーに出合ったら、逃げ帰っても恥ではない」

 

現状では戦略的守勢に回らざると得ないと言う現実が見えている地球連合軍の中級指揮官達の中には、そう公言してしまう者さえいたくらいだった――
もっとも、そうやって物が見え過ぎていた有能な者達の多くが、逆にそれが故に軍上層部に巣くっている、兵士達の命をただの消耗品としか考えていないロード・ジブリールの腰巾着の様な手合いに睨まれて左遷されると言う様な結果をも生んだりもして、
結果的に言えばマフティーは、それも予測して仕掛けている情報戦の狙い通りに、間接的にも地球連合軍にじわじわと損害を与え続けていたと言えるのかも知れないが……。

 

ともあれ、そんな化け物みたいな連中〈マフティー〉がザフトにくっついて一緒に攻めて来る。
その事実だけで、守る地球軍側の士気は一気に阻喪せしめられていた。

 

もちろんマフティー側としても、文字通りの〝異邦人〟であるが故に「実績」として自分達の〝力〟をあえて示す必要性があった為にこれまでは容赦ない戦いぶりを見せて来ていたが、
そろそろ実績としては充分に見せ付けて教えた筈だと言う事で、名乗りを上げ、「無駄死にをしない様に」まず警告を行うと言うスタイルを行い始めて、効果を生んでいた。

 

そもそもからして体の良い死守命令などと言う損な役目を押し付けられた立場――早い話が捨て駒だ。

 

しかも攻めて来るザフトも、ガルナハンでは敗軍となった地球軍将兵を虐殺したりするどころか、自ら降伏を勧告し、それを受け入れた者達を現地住民による私刑からも保護して捕虜としての待遇を与えていると言うではないか!
ガルナハンに続いて陥落していく各地でもやはり同様の状況であるらしいと言う話も伝わってくれば、残る地域を守らされている者達も、尚更抗戦の意志など無くなると言うものであった。

 

前大戦での相互の応酬がそうだった事から、(人道的に~などと言う意味合いだけを持ち出す以外の部分においても)「捕虜として敵兵を遇する」と言う発想自体が、この世界の人間達には何故か稀薄な様だと判断せざるを得ないマフティー側だったが、
故に彼らがザフト側に強く働きかけ、自分達も加わったこの主戦線において徹底させる様にしたその措置は見事に、
「かつてとは根本的に変わりつつあるザフト」(ひいては、プラントそのものもだが)と言うものを何よりも雄弁にアピールする〝政治的な効果〟をも生み出していた。

 

そしてその政治的な効果はそのまま、敵の戦意が低下し抵抗が弱まり、またそれを早々と断念して降伏してくる様にもなると言う軍事面への影響となって実際に返って来る。
そう言った現実を目の当たりにし、肌でもって感じさせられているアスランやシン達――もちろんハサウェイやイラムからその意味合いや効果を教えられもしつつだ――が、そこから学ばない筈が無かった。

 

そんな〝刺激〟と、先日のガルナハンでのハサウェイやシンの姿を目の当たりにしての自身への内省は、アスラン自身にも相当その心に期するものがあった様で、
現在の彼は自身の側から積極的にハサウェイやイラムへの相談をし、助言も得ながらの、この地におけるザフト――プラントの上級権者になるフェイスとしての自身の立場を積極的に活用した、政軍両面からの宣撫活動にも積極的に取り組んでいたのである。

 

無論、地球軍の中には真正のブルーコスモス主義者も根強く存在し、宇宙の悪魔〈コーディネーター〉共に対する為ならば全ては許される!などと言うお決まりの身勝手な理屈で、
〝同胞〟〈ナチュラル〉達をそれで苦しめ、死なせる事になってもお構いなしでの頑なな抵抗をし続ける場合もままある為に、戦闘行為自体はやはり避け得ずにはおけなかったのだが、それらへの制圧軍事行動の指揮も行いつつ、
並行して解放された地域各地の軍政の監督者としても奔走するアスランに、メイリンも副官役として同行していた――それこそ、セイバーガンダムのサブシートにも乗り慣れてしまうくらいに――のだった。

 

「そう言えば、珍しく一人なのね。ザラ隊長は?」
アスランの姿無しで、副官役の彼女一人で休憩していると言うのを訝しんで尋ねるルルー。
逆にもうそれが不思議に思えるくらいに、メイリンがアスランの副官役として良く務めていると言う事の証明かも知れない。

 

「ええ、今はちょっと……お一人になりたいのではないかなと思って、休憩を頂いて来たんですよ」
そう言ってメイリンは隔壁越しにアスランのいる執務室(に使っている部屋)の方にと視線を向けつつ、意味深な事を口にする。

 

(?)
表情でそう示すルルーやジェス、姉達他の皆にメイリンは微笑を浮かべながら左右に頭を振って見せた。
「プラントから、何か嬉しいお知らせが届いたみたいです」
あるいは、後で隊長ご本人からお話しをして下さるかも知れません。
そう言うメイリンは、眼前に見て気を利かして出て来たアスランの浮かべていた表情を思い返しながら、自身も自然な微笑みを浮かべていた。

 

プラントから届けられた物資の中にあった〝ある物〟に添えられていた、一通のメッセージ。
デュランダル議長経由でアスラン宛に直々に届けられた、知らない人からだと言うそのメッセージを目にして、当然ながら初めはまず訝しんだアスランは次いで驚きの表情を浮かべ、
そして読み進んで行く内にやがてその表情は変わっていった――驚きと嬉しさと、そしてこみ上げて来るものを必死に押さえようとするのをない交ぜにした表情に。

 

そんな彼の姿を、遠くを見るような表情で思い返しているメイリンの横顔に、気遣いや敬意以上のものもにじみ出ている事に気付いた面々は、何も言わずに互いに微苦笑だけを交わし合っていた。

 

と、そこにラウンジの扉を開けてそのアスランが姿を現した。

 

「あ、隊長。お疲れさまです」
「おや、やっと一息かい?お疲れ!」
シンとルナマリア、ロッドやモーリー達、居合わせたミネルバとマフティーの面々とジェス達から、口々にそんな声が掛けられる。

 

「ああ、ありがとう。そちらも皆、ご苦労さまです」
もはやそれがデフォルトになりつつある、部下達と年長の同盟者や軍属達が混ざっているので、そういうない交ぜ気味にの言い方で返しつつ、
アスランは数日ぶりに顔を合わせた〝仲間達〟としばし互いの報告を交わし合った。

 

小戦力単位による身軽な戦闘部隊復数でもって、それぞれが適宜各係争地点へと赴いて軍事・非軍事両面の一時的対応に当たっている状況であった為、
アスランやハサウェイ、ハイネ、イラムと言った各単位の指揮者は無論こうして帰艦して報告を上げては、以降の二次的・三時的な対応をラドル司令官の方へと委ねているわけだが、
各自が別々に動いているせいですれ違ったまま、互いにしばらく顔を見ないと言う様な状況にもなっていた為に、こうして久しぶりに顔を合わせられた時には互いの情報交換にも花が咲くと言う事だ。

 

「アスラン。ここの処ずっと勢力的に飛び回っているが、地域住民相手の折衝はどうだ?」
イラムがそう言う聞き方をするのは、軍事的な部分では全く心配していないと言う事の証明でもあるが、そう聞かれたアスランの方も苦笑気味に頷いた。
「はい、やはりこれがなかなか……難しいものですね。ただ戦っている事の方が遙かに楽なのだと今はつくづく思い知らされています」
「そうか。だが、状況を見ていると君は十二分に成果を上げていると思う。流石だよ」
イラムはアスランの努力を認め、労う様に言う。
「ありがとうございます。それがこの地域の人々の助けになっていれば……そうであれば、嬉しいのですが」
照れた様に軽く頭を振るアスラン。

 

そんなやり取りを間近で聞きながらシンもまた明るい表情であるのは、
もちろん同レベルまでの理解力では無いとは言え、彼自身もまた実感させられつつある〝現実〟への認識と、それに基づいた思考の前で今や素直に認め、敬意も抱くようになっているアスランが
(より深く)自分と同じ様な想いで考え、その実現の為にと頑張っている姿を見られるのを嬉しく思っているからだ。

 

状況の展開はまだ、ガルナハン作戦当日の出撃前の約束を果たさせてはいないものの、
それでもこうして慌ただしい合間に短時間でも顔を合わせられれば、互いに以前よりもずっとうちとけて来ている事を実感出来る。

 

オーブの事と言う、今なお微妙な部分が残っているのも確かだったけれども、
今はもうそれに関しても割合楽観的な見通しでいられる様にすらなっている、シンなのだった。

 

「ああ、そうだ……」
と、そんなシンの眼前でアスランがそう切り出しながら、同時に手元に一通の封筒を取り出して見せた――
それはメールの文面をプリントアウトした紙束ではなく、きちんと古風にも仕立てられた〝手紙〟の体裁を取っている、
それだけにその送り手の気持ちが本当に込められて送られたものだと容易に推測が出来るものだった。

 

「いいのか?」
アスラン本人宛に送られたのであろうその手紙を、皆にもと差し出してみせるアスランにイラムがその場にいる皆を代表する格好で確認する様に尋ねる。

 

「はい」
晴れやかな表情を浮かべて頷くアスラン。
彼自身がこの場にいる皆――自らが信頼し、日々心を許しつつある戦友〈仲間〉達――にも、見て貰いたいと思っていると言う事なのだ。

 

「そうか、ならばまずメイリンからだな」
「えぇっ!?」
了解して、そうするやあっさりと最初にそれを見るべき相手として、アスランを内心で慕いながら副官として良く支えている少女の事を指名してやるイラム。
そうとは知らずにメイリンの方は驚きの声を上げるが、イラムからそう言われたアスランの方も屈託ない笑顔で頷いて、自らの副官役の少女にとその手紙を差し出した。

 

彼自身が、先程も彼女が示してくれた真情ある〝気遣い〟に感謝していたし、だからこそ落ち着いた後は真っ先に彼女に見て欲しいと思っていたからでもあるのだが。

 

すっかり恐縮し、遠慮のそぶりを見せるメイリンだったが、アスランも屈託なさそうにそんな態度を保っていたし、他の皆もそれでいいと言う表情を送って見せていた為、
恐縮するようにしつつ、アスランの手から受け取った手紙を開いて読み始める。そして――

 

「………………っ!? 隊長!これは……!」
読み進めていたメイリンが、驚きの表情でそう言って顔を上げる。
アスランも本当に嬉しそうな微笑を浮かべて頷きを返す。
そして読み終えたメイリン自身もまた、アスランのその表情の理由を納得しての晴れやかな表情を浮かべながらアスランを見やるのだった。

 

そのやり取りを見て、ルルーがそこで提案を出して言った。
「それだったら、メイリン。あなたが読み上げてくれないかしら?」
皆に聞かせると言うだけでなく、ジェスの構えるカメラにもその内容が~と言う事でもあるわけだが、確かにその方が良さそうでもあったので、
アスランが再びそれに頷くのを見て、メイリンは一度読み終えたその手紙を再び、今度は皆に聞かせる為にと朗読し始める。

 

そうしてその手紙の内容に耳を澄まして行く、イラム、ミヘッシャらマフティーの面々や、シンとルナマリア、それにジェスとルルー。
その手紙を呼んだ誰もが、やはり先程のメイリンと同様の表情で顔を上げてアスランの方を見やる。
その場にいる誰もが皆、今のアスランの表情のその〝理由〟を理解し、そしてその事実をまるで我が事の様に喜んでいた。

 
 

その手紙の送り主は、今現在もプラントの農業用コロニーで穀物の研究に従事している、ある一人の研究者であった。

 

今回、直接的な軍事用の物資と共に、地球連合軍の支配下から解放されたこの地域の住民達の為にと、
人的要員と共にプラント本国から送られて来ていた、食料や医薬品と言った支援物資群の中に加えられていた、とある物にと添えられていたその手紙を書いたその人は、
亡きアスランの母のレノアと共にプラントの食料問題を解決する為の穀物の研究にと取り組んでいたナチュラルの研究者で、レノア亡き後もプラントに留まったまま、変わらずにその研究にと取り組み続けていた人物だった。

 

そんな人から送られて来たものとは――

 

『――親愛なるアスラン・ザラ。亡きレノア女史のご子息である貴方が今、またかつての様な戦争の悲劇を繰り返させまいと、自らも再び立ち上がられたと言うお話をデュランダル議長より伺いました。
今現在は、西アジア方面で地球連合の圧制下に苦しめられているナチュラルの人々を解放する為に、フェイスとして日々奮闘されておられるとの事、嬉しくうかがっております。
そんな現在の貴方のお働きの一助にもなるかも知れない〝これ〟を、今この時に貴方の下へとお届けする事が出来る事を、本当に嬉しく思います……』

 

そんなメッセージを伝える手紙を添えられて送り届けられて来た物は、この地域の様な土地でも栽培が可能である様にと品種改良を重ねられた様々な種類の穀物の種子だった――
それも、サンプルと言うにはいささか量が豊富すぎる程の。

 

『――これらはみな、貴方のお母様が始められ、取り組んでいらした事の、その成果です。
レノア女史が亡くなられた後も、共に取り組んでいた我々がその遺志を引き継いで研究を続け、ようやく地球上にもこれだけのものをお送りできる様にとなりました……。
それが今こうして、我々とはまた違った形で亡き女史の想いを継がれようとなさっている、ご子息の貴方の助けとなるかも知れない形にもなったと言う事実に、まるで亡き女史のお導きであるかの様な思いになります……。
「コーディネーターが、その名の通りに〝人々の間の調停者〟たるべく在るその為に優れた資質を与えられて生まれて来た存在であるならば、それをもって多くの人々の幸福の為に生きる事が使命であると思います」
女史は折に触れて、その様におっしゃっていました……』

 

今も尚変わらない、レノア・ザラへの尊敬と親愛の想いが滲み出ている手紙が語る、それらの種子に託された今は亡き彼女の抱いた想いと理想は、
その忘れ形見である息子のアスランは勿論の事、それを見聞きするその場にいる誰の胸の内にも静かに染み入っていた。

 

『これらの種子は、過酷な環境条件下、痩せた土壌でも生育する強さと、一粒からの安定した収穫量の多さを合わせ持つ、プラントの技術力の粋を尽くして開発されたハイブリッド種です。
食べられない部位もバイオマス燃料の素材等として余すところ無く利用できる――非先進地域に暮らす人々の生活の安定と向上に寄与する事、まさにレノア女史が目指された理想です』

 

それを、この地域の人々への復興支援の一環として供与すべしと言う事だった。

 

レノアが成そうとしていた事は、無論一義的にはまずプラントの平和的な自立の為の食の安定の確保が目的ではあった。
しかし彼女が真に非凡であり、偉大であったのは、初めからただプラントの事だけを考えていたのでは無く、こうしてそれを地球上の人々――特に発展途上の地域に対しての貢献とする事をも目的としていた事なのだ。

 

イデオロギーに沸騰し、武器を手に睨み合う事を通してでは無く、多くの人々の幸福に寄与する事、それをもって平和と共に自分達コーディネーターの寄る辺(としてのプラントの存立)を守る。
それが、彼女の願った理想だったのだと、今ようやくそれを知ったアスランは激しい衝撃と感動とを同時に味わわされていた。

 

だから、そんな姿を見せている彼を傍らで目にしたメイリンは、しばらくアスランを一人にさせておこうと気を遣ってくれていたわけだったが、
衝撃が徐々に落ち着いて来るのに比例して、アスランの胸の内には初めてと言ってよい熱い想いがふつふつと湧き上がって来ていた。

 

(母上……感謝します。俺は今、あなたの息子である事を心から誇りに思います)
自分がアスラン・ザラである事の、そんな母の子であると言う事実の素直な肯定――あるいはアスランはこの瞬間に、自身が〝ザラ〟家の子であると言う事実の負の側面の呪縛から、解き放たれたのかも知れない。

 

亡き母の、死してなお残され生き続けているその良き意志が、あらためて自分にと己が行くべき信じる途を指し示し、「信じてお行きなさい」と背中を押してくれていた。

 

自分が〝ザラ〟であると言う事実にちゃんと向き合えるのならば、それは――と言う、ハサウェイ達から言われていた事の意味が、今ようやく理解できた気がする。
もちろん彼らがこの事実自体を知っている筈がなかったが、経験や考察によって導き出された〝大人としての予測〟の、その正しさも。

 

『今、戦争の前線にと立ちながら、敵を憎みただ滅ぼす為にではなく、かつてのプラントと同様に強者に虐げられている人々の為に戦っている――
その手段は違えども、目指すその先は亡きお母様が願い目指された先と繋がっているであろう貴方に、喜びの想いと共にこれらの品々をお贈りします。
どうぞお母様をお偲びください』
手紙はそう締めくくられていた。

 

「隊長!」
「良かったな、アスラン!」
その場にいる者達が皆口々に、笑顔を浮かべてアスランを見やる。

 

それを受けるアスランもまた、吹っ切れた様な晴れやかな表情を見せた。
互いの境遇を知った後であれば尚更であろうが、この事実を我が事の様に喜んでくれる〝仲間達〟皆の気持ちが嬉しかった。

 

そして、その上に更にもう一つ。
イラムがぽつりと呟いた一言にも、アスランの心にあった最後の澱に対しての自然な感情からの気遣いが滲み出ていた。
「君のお母上は本当に素晴らしい方だったのだな、アスラン。お会いする事が出来なくて、本当に残念だ……。
そしてそれ程の人を、ある日突然、理不尽に奪われてしまったわけだものな……。君のお父上が怒りと絶望に狂ったのも、心情としては理解できる気がするよ……」

 

「イラム参謀……」
そう呟いたきりアスランは何も言えない想いにさせられた。

 

今はもう、彼自身が政治と言うものを学びつつあるが故に、公人としての亡き父が批判や非難を受ける事を甘受するのが、その息子である自分に貸せられた義務だと言う事を本当の意味で背負って行く、
その覚悟を既に決めてはいたわけだったけれども、だからと言って、やはりそれはとても辛い事であるのには違いない。

 

ハサウェイやイラムらマフティーの面々は、それが事実でもあり、また政治的にも必要であるからこそ、公的にはやはりパトリックの事を手厳しく批判せずにはいられない立場ではあったが、
ただやはり、彼らにとっても同志的連帯感を抱いている好感を持てる青年のその父親を、それも本人のその眼前で糾弾する格好になってしまう事自体には、やはり心苦しいものを覚えずにはおられない処でもあった。

 

だからこそ、折に触れてそうせざるを得ない現実に対しては常々、アスランに向かって済まないなと言い続けてもいたのだったが、
それを受けるアスランの方もまた、複雑な心情で居ざるを得ない立場だった。

 

しかし、今こうしてイラムが、私人――一人の人間としてならば、あるいは自分も彼と同じ境遇にと置かれたならばその様になるかも知れないと言う、ポーズではない惻隠の情を見せてくれている辺りから、
やはり彼らの本当の意味での優しさや度量と言うものも感じられるからこそ、アスランもまた彼らに対しての信頼と尊敬の念を日々新たにし続けながら、余り無理する事無しに心情的に折り合いを付けていられたのである。

 

「隊長、この種子は…………お母さんが隊長に遺してくれた形見なんですね……」
よかったじゃないですか?
恐らくは無意識の羨望をも微かに滲ませながら、シンが喜ばしい気持ちを湛えた表情で言う。

 

「ああ……」
そしてアスランの方もまた、万感を湛えた表情で静かに頷くのだった。

 
 

「………………」
そんな彼らの様子をカメラに収めながら、無言のままに視線を交わし頷き合うジェスとルルー。

 

(「〝素晴らしいもの〟が見られると思うぞ?」と言うマフティーからの誘いは、本当の事だったな……)
アイコンタクトを交わし合いながら、その事実を改めて実感させられている二人だった。

 

ガルナハン解放後、議長の肝いりで最前線へと真実を追う取材にと赴いた彼らを驚かせる申し出が、ミネルバへの帰艦の後に待っていた。
――即ち、彼らを自軍の専属広報役として雇いたいと言う、マフティー側からの打診である。

 

「俺は――いや、このベルもそうだが、俺達は〝真実〟を知り、伝えようとしている人間だぜ?
そんな俺達を迎え入れるって言う事がどういう事なのか?を、本当の意味で理解しているか?」

 

それを聞いて、ジェスはほとんど脊髄反射の様に尋ね返したものだ。
彼らの立場からすれば当然の問いでもあったわけだが、それに対してのマフティー(ハサウェイ、イラム)側からの回答と言うものは驚くべき事に、
速答だと言ってもよい程に実にあっさりとした、「それで結構だ」と言う肯定だった。

 

無論、MS用の超小型核融合炉や異世界からの時空転移と言った、そこだけはまだ隠しておくべきと判断された〝核心〟の部分自体はやはり若干存在はするものの、
それ以外の部分に関しては包み隠そうとするのでは無く、逆に全部あけっぴろげにしてしまおう!と言うのが、インテリジェンスの部分での〝戦い〟に関してマフティー側が選んだスタイルであったのだ。

 

もちろんその〝密着取材〟が、文字通りに作戦会議等にすら同席してその内容を知ると言う処までもが許されると言う破格の条件――
マフティー側が正式に雇ってそうして欲しいと要望して来ている存在であると言う事で、ザフト側としても本音では嫌であってもまず断れないと言う状況にもなる
――であるからと言って、次の作戦内容にその目標など、直ちに開示出来るわけではない類の部分も在ると言う事をジェス達とてちゃんとわきまえてはいる者達ではあったので、
それならば積極的に信を置いて見せると言う、ある意味では(この世界においては)画期的なやり方を、マフティー側は選んでいたのだった。

 

そして、そんなジェスとルルーが現在、ミネルバに共に乗り組む〝密着〟をして取材を続けながら見聞きした事柄をまとめたレポートが、やがてプラント社会を――
ひいては地球連合やオーブと言った地球上の諸国までをも含めたこの世界全体にすら
――良き影響を与えて行くと言う、ある意味でジャーナリストとしての冥利を彼らに帰す事にもなるのだが……。

 
 

マフティーの〝来訪〟と言う「超常的な」出来事をきっかけに変わり始めたこの世界の道行きは、こうしたささやかな日々の積み重ねの中に、静かにその芽を伸ばし続けていたのだった。