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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_幕間4

Last-modified: 2010-04-17 (土) 01:26:56

耳だけはいつでもそば立てていると言うのは、じっと息を潜め隠れている者にとっては必須の行為であると言えるだろう。
辛辣なもの言いをするならば、それ以外にはさして――他には食べる事と寝る事ぐらいしか――する事が無いからだが、とも言えるのかも知れないが。

 

公的には国家元首と言う事になっているカガリ・ユラ・アスハをかっ拐……もとい、連れ出してオーブを飛び出してからおよそ一月半余り。
全ての旗に背く道を選んだ(と、クルー達自身は大真面目にそう思っている)強襲機動特装艦アークエンジェルは、その巨体を北洋の海面下にじっと潜めたまま、C.E.74年〈新しい年〉を迎えようかと言う体勢にとなっていた。

 

地域名がそのまま国名とその領域を示す事にもなっている、北欧はスカンジナビア王国の沖合に浮かぶ、王国成立以来の王室直領とされているトルステイン諸島。
こぢんまりとした諸島ながらも、この地域ならではの地勢の通りに無数に存在するフィヨルドの内の一つ――支援をしてくれる者達とアークエンジェルの間ではギンヌンガカプの秘匿名称でもって呼ばれている――のその海底。
ここがアークエンジェルの現在の仮泊地であった。

 

彼らの頭上の海面上に浮かんでいる幾つかのブイの中にと、先端部をそれに偽装して紛れ込ませている
母艦〈アークエンジェル〉から延びるケーブルの先に取り付けられたアンテナのみが海面上に露頂したまま、連日飛び交う世界状勢を伝えるニュースを拾い続けている。

 

今しも、CICの機能も兼ねているブリッジにと集まっているアークエンジェルの首脳部が、地球上の様々な諸勢力のメディアが各々伝えているニュースをチェックしている所だった。

 
 

《――ユーラシア西側地域においては、各地で蜂起した反体制武装勢力との激しい戦闘が依然継続中で、地球連合軍のユーラシア方面軍司令部は周辺諸都市の防衛の為、新たに3個師団を投入する方針を決定したとの事です……》

 

《即時の停戦と、開戦によって打ち切られたブレイク・ザ・ワールド事件の復興活動への支援再開を求めるデモ隊に対しての、軍と治安部隊の発砲によるこれら一連の衝突による死傷者数は既に千人以上にも達したとの報道もありますが、
赤道連合政府はあくまで「〝一部暴徒〟による反体制活動には、断固たる措置を取る」と言う主張を保っています》

 

《……「もしプラント側から停戦を求めるのならば、我々が開戦前に要求した諸条件の即時受諾はもはや最低限の前提条件であり、プラント側がその言葉に嘘偽り無く真に平和を希求すると言うのであれば、その速やかなる履行以外の選択肢などある筈がない」
との、東アジア共和国を訪問中の大西洋連邦のジョセフ・コープランド大統領の18日のシャンハイでの演説を受け、
アフリカ共同体のガドワ議長は翌19日、ナイロビにて
「れっきとした一独立国家に対しての〝無条件降伏〟要求などと言う暴挙は旧世紀時代の世界大戦時以来の蛮行と言う他無く、大西洋連邦以下の地球連合側のかかる姿勢こそが今次の戦争の真の原因である」
との、地球連合を非難する声明を出しました》

 

《この声明に対しプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、
「我々プラントはあくまでも自らの身を守る為の行動を、やむなく選択せざるを得なくなっているだけであり、自らもこの地球圏に共存する一国家として他の諸国との和平を強く希求している事には現在も何ら変わりはない。
故に〝理不尽でない条件〟に基づいての和平交渉のテーブルに着く用意ならば、常に出来ている」
と言う、従来通りの主張を繰り返した模様です……》

 
 

基本的にアークエンジェルにリアルタイムで入ってくる情報は、彼らが密かに身を寄せているスカンジナビア王国の国内メディアが伝えている国際情勢ニュースであり、
オーブ同様にかつての中立を捨てて世界安全保障条約機構への加盟を余儀なくされた現在、やはりと言うべきかこの国においてもその報道姿勢は明らかに地球連合寄りのものにと変化をしつつあった――
例え〝敵性国家〟ではあっても、同じナチュラルの国家であるアフリカ共同体や大洋州連合の元首や要人に対しては礼儀を守ってちゃんと敬称を付けて呼んでいるのに対して
プラント元首のデュランダル議長の事だけは敬称も付けずに呼び捨てにしていると言う辺りが、児戯的なものではあるのだろうが、端的な形で現在の情勢下におけるその空気と言うものを如実に現しているとも言える。
もっとも、本来は中立国であり、プラントに対しても比較的友好的ではあった(少なくとも敵対的ではなかった)スカンジナビア王国内の報道姿勢は、これでもまだ〝ましな方〟ではあるのだが。
――ブルーコスモス主義者に牛耳られている地球連合各国内のメディアの、敵意と人種差別意識に満ち満ちた偏向報道ぶりはこの比では無いのだから。
何しろその本丸たる大西洋連邦は、その前身たる合衆国〈ステイツ〉の時代から連綿と受け継がれるイエロージャーナリズムの伝統の金城湯池でもあるわけなので。
いかにすれば世論を「(やむを得ない)正義の戦争なのだ!」の方向へと誘導出来るか?と言うノウハウの蓄積は、既に匠の域に達しているものであった。

 

閑話休題、スカンジナビア王国内のメディアが伝える厳しい国際情勢のニュースを映し出すメインパネルの脇では、
流石にリアルタイムでは見るのが難しいその他の国家や勢力のメディアのニュースを記録し、まとめて送って来てくれる〝協力者達〟の手によるタイムラグ付きのそれら各地の報道内容もそれぞれのサブパネルにと振り分けられて流されていた。

 

「やれやれだねぇ、全く……。毎日毎日、気が滅入る様なニュースばっかりだ」
いつもの様に、趣味である様々なマイブレンドを試しているコーヒーの入ったマグカップを手にしたアンドリュー・バルトフェルドが、目の前を流れ行く数々のニュースの内容にと溜息をついた。
「もっと何かこう、明るくなる様なニュースはないもんかな?」
「例えば、『水族館の白イルカが赤ちゃんを産んだ』――とかですか?」
「いや、そこまでは言わんが……」
キャプテンシートに座った艦長マリュー・ラミアスの、あえて茶化すかの様に言う横合いからの声にバルトフェルドも苦笑気味に肩をすくめる。

 

「しかし、何か変な感じだな……。プラントとの戦闘の方は一体どうなっているんだ? こうして聞いていても、入ってくるのはほとんど連合側の混乱ぶりを知らせる情報ばかりじゃないか」
そんなやり取りを耳にして、立ったままそれらのニュースを見ていたカガリがそう呟いた。

 

実際、こうして報道されている世界情勢のそのほとんどは地球連合を中心とする反プラント陣営側の各国家・勢力の内側におけるデモや暴動、反体制武装勢力との内戦、
あるいは国境を接するプラント側陣営の地球上国家との間の小規模な武力衝突と言った出来事ばかりであり、肝心のプラント相手の戦争の方がどうなっているのか?と言うのは、それだけ見ていてはさっぱり判らない様な状況であった。

 

「プラントの方はプラントで、こんな感じですものね」
カガリの呟きに対してそう答えたのは、通信士席にと座ってプラント国内の報道の再生録画に目をやっているラクス。
彼女の視線の先のモニターには、どこかのアイドルのコンサート会場そのまんまの構成の派手派手なステージ上で激しく歌い踊る彼女――否、〝彼女を模した存在〟の姿が映し出されている。

 
 

『勇敢なるザフト将兵のみなさぁーん!平和の為にわたくし達もがんばりまぁす!みなさんも、どうかお気を付けてぇーっ!』

 
 

そう言って満面の笑顔で手を振る〝ラクス〟に向かって、会場を埋め尽くす観客〈ギャラリー〉側のザフト将兵達からも大歓声が湧き上がった。

 

そんな光景を眺めやって、ラクスがぽつりと呟きを漏らす。
「……楽しそうでよろしいですわね、皆さん」
微笑を浮かべてはいるし、声も普段と全く変わりがない平調なままのものではあったのだが、脇で直に聞いていれば
自分ならあんな事は絶対に言いませんのにねぇ……と言う雰囲気のオーラが滲み出ているのは如実に伝わり、
そんな彼女に間近なシートに着いていたオペレーターのチャンドラと操舵主のノイマンの二人は思わず、(ラ、ラクス……やっぱり、怒ってる?)と言うアイコンタクトを交わし合うのだった。

 

「何とかしなくていいのか? やっぱり〝これ〟は流石にな……」
そんなラクスに向かって、映し出されているフェイクのライブの映像を自身も見やりながらカガリが問う。
「そうしたいのは、確かにやまやまなんだがねえ……」
ぼやく様に言いながらそれを引き取ったのはバルトフェルドだった。
「いま迂闊に動きを見せて、それでこっちの居所がバレてしまったりしたら藪蛇だよ。そいつはあんまりうまくは無い。我々を匿ってくれたスカンジナビア王家にも迷惑をかける事になるしなぁ」
「ええ……」
それまで黙ってやり取りに耳を傾けていたキラがそう頷いてバルトフェルドに賛意を示す。

 

オーブを飛び出した後、潜行したままベーリング海峡を突破し北極海を抜けてアークエンジェルが辿り着いた仮泊地であるここ、トルステイン諸島はビフロストフィヨルド。
状況故に文字通りの強行突破でのオーブからの離脱を選択せざるを得なかったアークエンジェルの一行だったが、流石にいくら何でも潜伏するその先の当ても無しに行動を起こす程に無謀では無かった。

 

慌ただしくも行動を起こすその前にバルトフェルドがコンタクトを取ったのは、同じ君主国としてオーブ首長のアスハ家とは長年親交のあったスカンジナビア王室であった。
もっとも〝同じ君主国〟だとは言っても、スカンジナビア王国はオーブとは異なり、立憲君主制に基づいて王家は政治的な権力は握らずに権威のみを保持する象徴王制であると言う決定的な違いはあるのだが……。

 

故に、民主的な選挙でもって選ばれた政府と議会が(不承不承ながらもそうせざるを得ずに)受け入れた、世界安全保障条約機構への参加――国是であった中立を捨て、帝国主義的大国群〈地球連合〉の陣営入りを決定した以上は
王室も、内心では別であってもそれに異を唱える様な事はせずに、黙って条約加盟の公文書にも御名御璽をついてはいたわけだが。
こうして〝あくまでも私的な友誼の発露〟と言う様な感じでの王室が密かにアークエンジェル一行を受け入れたと言うのは、
ほんのささやかなものではあろうがそんな現実への反抗(完璧にまでは屈しはしない)と言う気概の表れだと言える様な格好でもあった為、
単に王家の為さる事なれば……と言う様な類の意識だけでは無しに、薄々はそれを察しているこの国の政府上層部の者達もまた、揃って黙認する事にとしていたのであった。
――この辺りもまた、政治の複雑にして不可思議な現実の姿の一面ではあると言えるかも知れない。

 

とは言っても、バルトフェルド辺りはともかくとしても、キラなどはそこら辺の事情までも認識して頷いていたと言うわけでは無いのだったが。
ただ単純(かつ純粋)に、かつてカガリが前大戦後に自分達をオーブに受け入れて匿ってくれたのと同様に、今回も危険を犯すのを承知でそれでも自分達を受け入れて匿ってくれている人達への感謝の念を抱いていると言うだけだ。

 

――神の視座でと見るのならば、そう言った部分があると言うのそれ自体は、彼らが〝本質的には善良な人間〟ではあるのは間違い無いと言う事を示しているのではあろう。
ただ惜しむらくは、物事を見る目や意識と言うものがあまりにも主観的で狭くあり過ぎ、そのくせ思考が良くない方の意味で〝純粋〟〈単純〉で、かつそれを拡げようと言う様な外向きの意識が希薄でもあると言う点が、彼ら自身にとっても
ひいてはその周囲の人々と世界にとっても、実に不幸な限りの話ではあるのだったが……。

 

早速そんなきらいをまたもや見せて、バルトフェルドとキラとのやり取りを聞いたカガリが口を開く。
「だが、いつまでもこうして潜ったままではいられないだろ? ――オーブの事だってある……私は……」
後に残して来た国〈オーブ〉の行く末を心配して、いても立ってもいられないと言う雰囲気を見せるカガリ。

 

しかしそうやって彼女が一人相撲を取る様に自分だけでヒートアップするからこそ、その前にいるキラの方は逆に冷静にならされるのだと言えたかも知れない。
「カガリ……でも、だからこそ今はまだ動けないよ。まだ、何も分からないんだ」
「そうね……。私もキラくんの言う通りだと思うわ」
カガリをなだめ諭す様にと言うキラに、マリューも相槌を打つ。

 

「……確かに、ユニウス・セブンの落下は地球上に甚大な被害をもたらしはしたけれど、その後のプラントの対応と姿勢は真摯だったわ。それを認めようともせずに、一方的に難癖を付けて開戦した地球連合の側がバカよ」
「正確に言えば、〝ブルーコスモスが〟だけどね」
バルトフェルドが入れた訂正――と言うよりは、当の黒幕達を揶揄する様にだが――にも、そうねと頷くマリュー。
「でも、それに対してプラント――デュランダル議長の方は、開戦と同時にの手ぐすね引いて準備されていた飽和核攻撃なんて言う、信じられない様な攻撃にと晒されたその後も
前の戦争の時の様なバカな応酬は始めたりせずに、市民から議会までみんな宥めて落ち着かせて、宇宙と地球の双方で必要最小限の防衛戦を行っただけで、その後ザフトの側からは積極的に戦線を拡大しようともしていない。
それどころか、そんな連合を相手にしてなお事あるごとに停戦と交渉を呼びかける姿勢を示し続けてさえいるわ……」
どう見ても悪い人じゃないわよね。そこだけ見れば……。
マリューはそこまで言ってから、最後に疑念を呈する様に言葉を切る。

 

「実際、良い指導者だと思う。デュランダル議長はな。だからこそ、アスランだってプラントに行くと言い出したんだし……」
マリューの呟きに頷いてそう口にしたカガリも、やはりその語尾を濁して複雑な表情を浮かべた。
「いや、実際そう思って疑いもしなかった。ラクスの暗殺未遂と、〝この件〟を知るまでは……」
そう言うカガリの視線の先には、ミーア〈ラクスを模した誰か〉の姿を映し出しているモニターの一つがあった。

 

「じゃあ、誰がラクスを殺そうとした? そして〝これ〟じゃ、信じられないよ。そのデュランダルって人も、僕には……。みんなを騙してる」
キラが彼には珍しくきつい表情になってそう呟き、カガリも押し黙った。
彼ら彼女らが各々口にしたそれらの疑念は全て、現在のアークエンジェル首脳部一行が等しく抱いているものであった。
――今、彼らをここへと出奔・潜伏させるきっかけとなった一月半前の襲撃事件の時からずっと。

 
 
 

オーブ アスハ家別邸地下格納庫、払暁(一ヶ月半前)

 

「アッシュ?」
「ああ、流石にボクもデータで知っているだけの代物だけどね」
マリューが鸚鵡返しにした機体名に、それを示唆したバルトフェルドが頷き返した。

 

――何の前触れすらも無しに彼らが突如として晒される事となった、謎の武装集団による夜半の襲撃。
状況から考えて、襲撃者達の目的は隠静していたラクス・クラインの暗殺であった様だが、対人戦レベルでの襲撃はバルトフェルドとマリューの奮戦や、ダクトの中に潜んだ狙撃手の存在に気付いたキラの機転と言った幸運にも助けられて
ラクスも、そして他の皆も、対人レベルの攻撃にはビクともしない分厚いシェルターの中へと全員がからくも無事に逃げ込む事が出来たのだったが、襲撃者達の方はそこで諦めるどころか、驚くべき事になんとMSまでをも持ち出して来たのだった。
いかに彼らが籠もったシェルターが頑丈な造りであるとは言え、対MSまでをも想定しているなどと言うのは流石にナンセンスな話で、そのままではただ座して死を待つのみと言う状況に陥ってしまった。

 

事ここに至ってはやむを得ない――戦いを忌避したいと言う意識も、ラクスや皆を死なせたくはないと言う想いの前では天秤に掛けられるものではなかった――と、キラは彼らがブレイク・ザ・ワールド事件の被災後に身を寄せていた
このアスハ家の別邸の地下に設けられていた秘密基地にて密かに修復と整備保全が成されていた、かつての大戦の後半において駆ったフリーダムにと再び乗り込み、襲撃者達のMS隊を迎撃に出る。

 

前大戦終結より二年近い月日を経て、地球圏の主要諸勢力においてはMSの世代交代がなされつつある中においてもなお、核動力によって駆動するMSであるフリーダムは懸絶した機体であり、
同時にその機体を自在に操るスーパーコーディネーター、キラ・ヤマトの操縦技術もまた異次元のものだった。

 

愛機〈フリーダム〉が眠りについていたのと同期間、二年近くも操縦〈実戦〉から遠ざかっていたと言うのにも関わらず、いざMSを駆っての戦いとなれば
キラの身体は当の本人自身もが驚く程にごく自然に、あたかも呼吸をするのと同じの如くブランクなど一切無しにかつてと変わらずに動いていた。
それどころか、退嬰的な意味合いの方が強い様な格好での隠遁生活ではあったのは間違いないにせよ、心穏やかにと過ごしてこられたそれまでの日々は間違いなくプラスの作用さえもたらしてもいた様で、
今のキラはまるでスイッチを切り替えるかの様にと、いとも簡単に所謂〝種割れ〟の状態へと任意に突入する事すらも可能になっていたのだった。
――無論、それがキラ自身にとっては喜ぶべき事であるのかどうかはまた別の話なのだが。

 

ともあれ、そう言った諸条件を前にしてはそれなりに腕利きのパイロットを集めた中隊規模の最新鋭機群と言う、〝通常の常識の範囲内〟であれば十二分に用意されたと言い得るではあろう戦力もあっさりと覆される。
かくして全くの無傷と言う、文字通りの完勝を納めるフリーダムの前に襲撃者たちは1機も残さずに殲滅されたのであった。
そしてとりあえずの脅威が掃討されたところで、バルトフェルド達はキラを交えて早速状況を検分するべく、
ハンガーへと帰投したフリーダムから機体にモニターされている戦闘記録の映像を取り込んで、手元のディスプレイにと一度再生をし終えたところだった。

 

ループ再生に入っているモニターに映し出されている襲撃者達のMSは、その全機が「直立二足歩行スタイルにデフォルメされたカエル」とでも言う様なイメージを抱かされるデザインとカラーリングの、素人目にも一目でそれと判るであろう水陸両用戦型の機体と見えた。
それも、モノアイの採用や通常の人型からは遠いシルエットと言った機体デザイン上の特徴は、明らかに地球連合系ではなくてザフト系の水陸両用戦型MSだけが持つものだ。
ただ、そのシルエットは彼らが知る既存のザフトの水中/水陸両用戦型MSのものとは明らかに異なるものであり、宇宙に残してあるツテからザフトの情報も収集し続けているバルトフェルドだけが映像からその正体を掴む事が出来たと言うわけなのだった。

 

そしてバルトフェルドはそうであるが故の疑問を口にする。
「しかし、コイツはつい先頃ロールアウトしたばかりの最新鋭機でな。〝まだ正規軍にしかないはず〟の機体だ……」
「それが、ラクスを狙いに?」
「と、言う事は――つまり……」
バルトフェルドの言わんとする処を察してキラが、続けてマリューがそれぞれ呟く。

 

あの謎の襲撃者達は全員がコーディネーター、それも明らかに特殊部隊としての戦闘訓練を受けている者達の動きをしていた。
そして繰り出されて来た水陸両用戦型MS部隊――姿こそ現さなかったが、当然付近には母艦も来ていた筈だ――はザフト製の最新鋭機で統一された中隊規模のもので、
しかも全機が撃破された後には証拠は一切残さない様にと言う事だろう、せっかくキラが動力系とコクピットは外して武装と四肢のみを破壊して無力化〈強制武装解除〉していた敵機はみな、その直後に全機が〝自爆して〟果てていた。
もちろん、当初の対人レベルの襲撃が失敗した後にはただMS部隊を送り込むだけでなく、それと入れ替えの格好で並行して
ご丁寧にもバルトフェルドやマリューに迎撃されて死傷した者達を全員搬出してまでいたらしく、瓦礫と化した別邸の敷地内には一つの遺体も残されてはいなかったのである。

 

それらの状況証拠を勘案すれば、あの襲撃者達はザフト――プラントから差し向けられたものである可能性が高いと言う推論は必然的に導き出されるものだった。

 

「狙われたのは、わたくしなのですね……」
突きつけられたその〝事実〟を噛みしめる様に、悲しげな表情と口調とで呟くラクス。
「ですが、なぜ今頃になって……? しかも〝この様な形〟で……」
マルキオ導師やキラの養母〈はは〉のカリダ、それに多くの孤児達と言った無関係かつ自らの身を守る術さえ持たない人々をも巻き込む事に何らの躊躇も感じさせない、そのやり口に彼女は慄然とさせられていた。

 

「その辺りは何とも言えないが……ね。ともあれ、こうなるとプラントへお引っ越しって言うのも、ちょっとやめといた方が良さそうだなぁ」
あえて軽い口調でそう言うバルトフェルドに、マリューも頷く。

 

ラクス、それに非公式ながらカガリとは双子の〝きょうだい〟の間柄でもあるキラにはまだ明かしてはいなかったのだが、バルトフェルドとマリューは
前大戦終結後からこれまでの間、安息の地となってくれていたオーブから脱出せねばならなくなると言う状況が現実のものとなってしまった場合の事を、真剣に検討を始めていたのである。

 

押し寄せて来たブレイク・ザ・ワールド事件後の世界状勢の変化の大波は、オーブに対しても
国是であった武装中立路線を放棄し、世界安全保障条約機構への加盟――
すなわちまたぞろ前大戦と同様、あるいはそれ以上の反プラント〈コーディネーター殲滅〉路線を再開し始めた地球連合の陣営入りと言う選択を強いる様にとなっていた。
そしてそれに伴う国内情勢の変化にと真っ先に晒されるのは、かつてのキラやシンの一家の様なオーブの国内で〝れっきとした国民の一人〟として暮らして来ていたコーディネーターの市民達と言う事になる。
――キラの養母のカリダの様な、コーディネーターに対しても友好的な関わり合いを持つナチュラルの市民に対しても、その余波は有形無形の圧力と言う形で付随して及ぶ事でもあろうが。

ましてやナチュラル・コーディネーターの別を言う以前に地球連合側からすればお尋ね者の立場には変わりのない、彼らアークエンジェル関係者である。
彼らの立場と言うのは、あくまでカガリの好意に基づいての庇護を受けている事に守られてのものであるに過ぎなく、状勢の変化がそれを許さず
いよいよカガリを名実共に傀儡と化さしむる様なものともなれば、
下手をするとセイラン一派を筆頭とする元より連合寄りの現オーブ指導層主流派からは、やっかい払いも兼ねての同盟締結の手土産にと連合側へ差し出されると言う様な可能性さえも考えておかねばならなかった。

 

そうなった場合はやはり、「同じコーディネーターのよしみ」で(マリューの様なナチュラルのその仲間達については、
「コーディネーターに好意的であるが故に同胞の間に居られなくなった、救済すべきナチュラル」と言う括りの枠で)身を寄せる先はプラントが第一候補になるか?
と言う風には考えていたのだが、そんな矢先にのこれだと言うわけだった。

 

そしてもう一つ。
確かに場所が広大なアスハ家の私有地の中のその外れで起こった事であるとは言え、相互にMSを繰り出して派手にドンパチを繰り広げるところまで行ってしまったと言う状況であるにも関わらず、
未だにオーブ国防軍に〝何らの動きも見られない〟と言う、どう考えてもやはりそう言う事なのか?と結論付けざるを得ない現実もあった。

 

あの襲撃者達がプラントから差し向けられたものだとして、ではそいつらの蠢動も(また、失敗した母艦の逃亡の追尾も)放置だと言うのは、意図的なものでしかあり得ないだろう――
同盟締結のいい手土産になるか?言う思惑よりも、自分達を匿っていたと言う事実を認める事の方がデメリットが大きいと見た現オーブ政府主流派の内の誰かが
友好関係を破棄する流れにはあるのだとしてもその前に、自分達が邪魔であると言う点においては現時点での利害が全く一致するプラント側と結託して、相互に隠密裏にの「清算」を謀ったと言う事だと考えた方がよさそうだ。

 

――それが彼らが下した状況解釈であり、その直後に行動を実行に移したカガリの「救出」をも含めたオーブ脱出は、それに基づいての選択だったのである……。

 
 
 

(再び現在) ギンヌンガカプ投錨中、アークエンジェル艦橋

 

「ま、それが政治だと言えばそうなのかもしれんがね」
珍しく感情を露わにし気味になっているキラを落ち着かせる様にとバルトフェルドが再び肩をすくめ、マリューも訝しげな表情で応じる。
「まさか、知らない筈は――ないでしょうしね。これ」
当の本人も、また他の面々の誰もそれに気付く事はなかったのだが、聞きようによってはマリューのその言葉は「お飾りの指導者」〈カガリ〉を揶揄するようにも取れるセリフであったと言うのは笑うべき処だったであろうか?

 

「いったい、どういうつもりなのかな? 議長は……」
しかしそれに気付く事も無かったカガリは大真面目に思わずそんな呟きを漏らす。
キラ達とは異なり直にデュランダル議長を見知っている彼女には、あの柔和な人物がその裏でラクスを抹殺しようと画策したなどと言うのは未だにもって考えられない様な話であった。

 

「なんだか、ユーラシア西側の様な状況を見ていると、どうしてもザフトに味方して連合と戦うって選択の方がいい事の様に思えちゃうけど……」
とりあえず、何も考えずに状勢だけを見ていれば~と言う場合に抱きそうな心証を、マリューはあえて口にする。

 

先日ザフトによって解放されたと言うユーラシア西側――ガルナハンやそれに続いた周辺地域の漏れ伝わって来る状況などを見れば、確かに連合側のやり口は目に余るものに見えるし、
対照的にプラント――デュランダル議長の方は理性的で正当な行動を取っている様に見えるだろう。

 

但し、自分達の場合はそう言った表面上の事だけでは計れない様な〝事実〟に自身も接し、また協力者たちからの情報としても掴んでいるからこそ、単純に目に見える構図にと合わせて動くと言うわけには行かないのだと。
現在のアークエンジェル一行の思考はそういうスタンスにとなっているわけであった。

 

「お前はまだ、反対なんだろ?」
「ええ」
確認する様に聞くバルトフェルドに頷き返すキラは、ちらりとミーアの慰問ライブの風景を映し出しているモニターを見やる。

 

「この〝彼女〟の事もそうですけど、デュランダルって人はその一方で僕達を襲って来たあのMSみたいな軍備の増強だって、現に着々と進めてもいるわけでしょう?」
そんなキラの言葉に、バルトフェルドとマリューだけでなくラクスとカガリもそれぞれの表情で頷く。

 

「それにカガリも全く知らなかったって言う、あのマフティーとかって組織の事だって……」
「確かにな」
「ああ、あの時の戦いの事は今思い出してもぞっとするよ……。キラ、まるでお前が何人も現れたみたいだと思ってしまったくらいだったものな」
キラが呟いたマフティーの名に、各々頷きを見せるバルトフェルドとカガリ。

「小勢ながらあれ程までの凄まじい戦闘力を持つあんな武装集団が、一体何時の間に、どんな連中によって組織されていたのか? ツテを辿って調べ続けてはいるんだが、未だにその手がかりさえ掴めないと言うのはな……」
バルトフェルドが珍しく裏表無しにお手上げだと言う表情を浮かべて言う。

 

そんな会話が交わされるのに気付いてチャンドラが自席のコンソールを操作し、一つのモニターの映像をオーブ沖での地球連合軍とザフト艦ミネルバの海空戦の記録映像にと切り替えた。

#brおよそ二ヶ月近く前、文字通りに突如その姿を満天下に現した「反地球連合組織マフティー」の余りにも鮮烈過ぎる登場となった戦いの様子を
アークエンジェル組は宇宙、それに地球上の各勢力の中にも根付いて連帯している〝協力者達〟のおかげで入手していた。

ちなみに現在彼らの眼前にと映し出されているオーブ沖海戦の映像は、カガリはユウナらと共にリアルタイムで目撃していたオーブ国防軍本部の指令センターがモニターしていたものである。

 

「本当に、凄まじい……ですわね」
もう何度かは目にしている筈の映像ではあるのにも関わらず、それでもラクスが思わずそう呟く通り。
こうして見ているだけでも先程カガリが呟いた、まるでキラが大勢いるみたいだと言う感覚は決してオーバーなものではなくてむしろ妥当なものだと思わされるものだった。

 

いや、キラとは違って相手を殺さない様に戦闘力だけを奪うと言う様な事は一切せずでの、彼に匹敵するかあるいは凌いでさえいるかも知れない程の速度と精密さを持った躊躇無い攻撃を繰り出している。
しかもその攻撃の威力の方もまた、間違いなくフリーダムやジャスティス級のレベルのものであろう。

 

「ここに映っている戦いぶりを見れば、マフティーと名乗っている一団が使っている機体は明らかに核動力機よね」
「ああ、疑いなくそうだろうな……」
マリューの言葉に同意を示すバルトフェルドに、キラ達も無言で頷く。

 

オーブ沖の海戦で追いつめられつつあったザフト艦ミネルバの救援にと駆け付けて来たマフティーのMS隊は、
フラッグマシンなのだろう一番凄まじい戦いぶりを見せるキラのフリーダムとも似通ったデザインの1機と、大型の空中機動飛翔体にタンデムした量産機タイプとで構成されていたが
後者の方が備えているモノアイタイプのメインカメラはザフトの量産機には例外なく採用されている特徴でもあり、
またその両者共に共通する意匠である生物的な全体のラインは、MSとしては確かに他に無いものではあるが、ザフトのナスカ級などを念頭に置けばその辺りもまたザフト系の流れを汲む機体である事の証左である様にと、彼らには思われたのだった。

 

「表だっては平和を唱えつつ、その裏ではこれ程までの武力を着々と――それもこういう〝ユニウス条約の制限には抵触しないやり方〟でもって準備していたのだとしたら?
デュランダル議長もまた、自身で非難しているブルーコスモスと大差ない事を実際には行っている。と言う事になりますわね?」
「確かに……そうだな。デュランダル議長は言っていたよ、『争いが無くならぬからこそ、我々には力が必要なのだ』って……。あれは、こういう事だったのかな?」
ラクスの口にした仮定に、そう言われてみれば思い当たる節はあったかも知れないと応じるカガリ。

 

ブルーコスモス過激派お抱えの独立武力であると〝公然と囁かれている〟非合法特殊部隊ファントムペインの、プラント版の様なものか?と、自分達がそういう存在であると疑われているのだと知ったら、ハサウェイ達マフティーの面々は果たしてどう思ったであろうか。

 

もっとも、アークエンジェル一行がいま口にしている「疑惑」と言うのは、ある意味当然ながら実は地球連合側もまた同様に思っている事ではあった。
ただ、ファントムペインの存在はそれでも公的に認めるわけにはいかないと言う事だけでなく、デュランダルが既に看破している様に痛し痒しな諸般の現実から、連合側としてはそれは思ってはいても決して口に出して言えないものであるのに対して、
彼らにはそんなしがらみは無いからこそ、アークエンジェル一行の間では普通にそれを口にとする事が出来ていたと言うわけだ。

 

流石に100%クロだと言う断定まではしていないものの、この様な流れもあって
現状においてアークエンジェル一行の心証の中でのデュランダル議長は、限りなくそれに近い事を疑わざるを得ない存在だと言う見なされ方をされているのだった。

 

そしてそうであるからこそ、そんなデュランダルに会いに行ってくると言って、よりによってタイミングも悪い事に開戦の直前にプラントへと向かってしまったまま戻らない友人の事が、彼らには結構な気掛かりにもなっていたのである。
「アスランが戻ればプラントの事だって、もう少しいろいろと判るんだろうけど……。いったい何をしているのかな、アイツ……」
溜息と共にカガリが漏らした呟きに、キラとラクスも気遣わしげな表情を浮かべて頷いた。

 

「まあ、確かにタイミングは最悪だったかもしれんがね。アスランだって素人じゃない。きっと自分なりにどうにかはするんじゃないか?」
そんな3人をなだめる様にとバルトフェルドがそう言った処で、彼の上着の胸ポケットに入れられた携帯情報端末がラクスの歌(無論オリジナル版である)の着信メロディを奏で始める。
彼が持っている情報ラインのいずれかからの、新着の重要情報到来の知らせだ。

すまんと一言そう言ってその場を離れ、バルトフェルドは彼用に割り当てられているブリッジ内のシートに着いてモニターを覗き込んで届いたばかりの知らせの中身を確認し始める。

 

「どうやら、反撃の狼煙が上がる事になりそうだぞ」
ややあって、見守る一同へと向かってそう言いながら顔を上げたバルトフェルドの表情は、「砂漠の虎」の二つ名に相応しいと思わせる類の微笑を浮かべていた。

「?」
訝しがる仲間達にと向けて、バルトフェルドは告げるのだった。

 

宇宙の協力者達〈連中〉が、水面下で着々と軍備増強を進めつつあるザフトの戦力を、ひとつ大きく削ぐ為に動くそうだぞ――と。

 
 

ザフト――プラントの内部にて暗躍を続けている組織〈ターミナル〉がザフトに対して仕掛けんとする、秘密組織なりのとある〝大がかりな作戦〟が開始されようとしていた……。

 
 

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