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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_序章

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:03:22

C.E.73年11月 ソロモン諸島 オーブ連合首長国近海上

 

 状況は最悪だった。
 さながら追い立てられるかのように慌しくオーブを出航したザフトの新鋭艦〝ミネルバ〟は、オーブの領海内から公海上へと出るのとほぼ同時に、地球連合軍の大艦隊の待ち伏せを受けていた。
突発した事態の推移に、準備も不十分なままでの実戦参加を余儀なくされ、損傷の修復も不充分なら、搭載MS、パイロットとも定数を割り込んだ状態のままのミネルバただ1隻を相手に、4隻もの空母を基幹とする地球連合軍の圧倒的な戦力が差し向けられて来ていたのだ。
 しかも後背からは〝領海警護〟の名目で出撃したオーブ艦隊が、退路を塞ぎにかかってきており、実質的には挟撃を受けるのとほとんど同然の状況だった。

 

「か、艦長……」
「我々にはここを突破する以外の道はないわ!やるしかないでしょう」

 

 一体どうすれば…と、動揺も露わな声を出す副長のアーサーを叱咤するように、ミネルバ艦長タリア・グラディスは総員戦闘配置を発令し、包囲網の突破をはかる。
どう考えても勝ち目は見出せない状況だが、それでもむざむざと降伏するようなことは出来ない。
ザフト軍人としての意地と誇りを賭して、突破口を開くべく最後の最後まで諦めずに戦い抜くのみ!
悲壮な決意をもって、一路ミネルバは絶望的な戦いへと突入して行く。
かくして、オーブ沖海戦の火蓋が切って落とされた。

 

「こんな所でっ!やられてたまるかぁっ!!」

 

 激しい怒りと気迫を乗せて、シンは〝フォースインパルス〟を向かい来る連合軍MS隊の只中へと突っ込ませる。
向かってくる多数の〝ウィンダム〟を、〝ダガーL〟を、ビームライフルで打ち抜き、あるいはビームサーベルで斬り下ろし、次々と叩き落してゆく。
 ミネルバ艦上でも、レイの〝ブレイズザクファントム〟とルナマリアの〝ガナーザクウォーリア〟がCIWSと共に防御の火線を張り、次々に飛来するMSやミサイルを必死に迎撃し、ただ1機で空中戦を行っているシンのインパルスへの援護射撃を放つ。
 MS戦と同時にミネルバの主砲、副砲と艦対艦ミサイルは連合軍艦艇に指向され、包囲網の切り崩しを狙っての砲撃戦を繰り広げている。海上には敵味方の無数の火線が飛び交い、爆発の華が無数に乱舞する。その中をかいくぐって、激しい戦闘はなおも続いていた。

 
 

「ふん、なかなか粘るではないか…」

 

 連合軍艦隊旗艦の艦橋で、艦隊司令官は敵艦ミネルバの健闘を認めるように呟く。
事実、状況を考えればミネルバの健闘ぶりは十二分すぎる程のものだった。
だが幾ら奮戦していると言っても、やはりその絶望的なまでの戦力差を覆えすまでには至らない。
これまではどうにか凌いできたミネルバの艦体にも時折、迎撃漏れによる至近弾、直撃弾が出始めるようになっていた。
それら一つ一つはまだ致命傷にはならないが、ミネルバと言う獲物に出血を強い、その抵抗力を徐々に弱めて行く。

 

「だが、ここまでだな。〝あれ〟を出せ!」

 

 効果的なデモンストレーションを行う頃合だと見て、司令官は隠し球として用意してきたジョーカーを切る。
連合軍艦隊旗艦の後甲板から異形のMAが姿を現した。
連合軍の切り札となる新兵器、新世代型の大型MA〝ザムザザー〟がミネルバに向かって発進する。
その異形の巨体は、光学映像でその姿を確認したミネルバ隊の全員を慄然とさせるのに充分だった。

 
 

「な、何ですかアレはっ!?」

 

 ザムザザーの禍禍しい姿に上ずった声を上げるアーサー。

 

「くっ、やむを得ないわね…。タンホイザーを使うわよ!」

 

 あんなモノに取り付かれたらひとたまりもない。
タリアはミネルバの切り札、艦首に装備された最強の武装である陽電子砲を使う決断を下す。

 

「目標、敵MA及び左舷敵艦群。タンホイザー、てーっ!」

 

 アーサーの号令と共に、ミネルバの艦首から白い閃光と共に膨大なエネルギーの奔流が放たれる。
その猛烈な渦が海面を舐め、水蒸気爆発を捲き起こしながらザムザザーを呑み込んで、大爆発を引き起こした。

 

「タンホイザー、目標に直撃!これで……」

 

 なんとか……そう言いかけて言葉を呑み込むアーサー。
徐々に収まってゆく爆炎の中に見える光輝。

 

「なっ!?」

 

 そこから現れたのは、全くの無傷なままのザムザザーの姿だった。

 

「そ、そんな馬鹿なっ!」

 

 アーサーのその叫びは、ミネルバ艦上にいるルナマリアとレイ、そしてCICにいる全員が等しく共有する驚愕だった。

 

「タ、タンホイザーを……弾き返した?」

 
 

 一人前線に立ち、発射前にタンホイザーの射線から離脱していたシンは、横合いから何が起きたのかを目の当たりにして同様に驚愕していた。
あの敵の巨大MAは急制動をかけて立てた機体の上面にバリア状の〝力場〟を展開し、それでタンホイザーの直撃を防ぎきって見せたのだ。

 

 余りの驚愕に瞬間的に反応が止まったミネルバへ、今度はザムザザーからの反撃の火線が放たれる。
ザムザザー最大の火力を持つ脚部の位相砲の内、前方のミネルバを指向できる2門から放たれたビームが左舷のMSカタパルト付近を直撃した。

 

「ミネルバっ!」

 

 ザムザザーのビームが命中し、続けて起きる爆発の衝撃にミネルバの巨体が揺らぐのが見えた。
開きっ放しの通信回路から、ルナマリアとメイリンの悲鳴が響く。

 

「くそっ、これ以上はやらせるかっ!」

 

 シンはインパルスを巨大な敵MAへと突撃させる。
タンホイザーさえ跳ね返すバリアを持った機体だ。ビームライフルは通用しないだろう。

 

「だけど、あんだけの図体だ。接近戦ならっ!」

 

 機動性に勝るMSの方が有利になる筈だと、シンはインパルスの右手にビームサーベルを構えさせ、ザムザザーへと一気に斬りかかる。

 

「落ちろおっ!……!?ッ」

 

 だが、敵MAはその巨体からは想像もつかない機敏な動きを見せ、インパルスの斬撃を余裕でかわしてみせた。
それどころか、インパルスを反転させたシンの動きに匹敵する速さで機体を相対させ、自ら向かってくるではないか。
脚部内に折りたたまれていた接近戦用のクローを展開、赤熱化させながら、ザムザザーの巨体がインパルスに迫る。

 

「くっ、コイツ!素早いっ!」

 

 繰り出される鉤爪の攻撃をすり抜けて後背に回ろうとするインパルスめがけて、ザムザザーの側面と後背に並べられた大小の火器が追撃の火線を放ち、シンは更に機体をひねってそれらを回避する。

 

「このおおおっ!」

 

 やっかいな敵MAを相手に、シンは頭に血を昇らせて再び挑みかかってゆく。
それはザムザザーを足止めすることにはなっていたものの、ミネルバで唯一の空戦機動が可能な戦力であるインパルスもまた、その役割を果たすことが不可能になった事も同時に意味し、残存の連合軍MS隊が一気にミネルバへと群がって来るのを可能にするという結果をも招いていた。

 
 

「ええいっ、落としても落としてもキリがないわねっ!」

 

 ガナー装備のザクウォーリアの、腰だめに構えたオルトロスの大出力ビームを次々に放ちながらルナマリアが叫ぶ。

 

「………」

 

 反対舷ではレイが無言のままにザクファントムの背面からミサイルをばら撒き、敵MSを撃ち落とし、あるいは牽制するが、流石に彼の冷静なその表情にも苦闘の色が見えている。
2人の機体も未だ戦闘には大きな影響は出るほどではないものの、小さな損傷は既に無数の状態だった。

 
 

「右舷、ミサイル発射管に被弾!」
「機関区に火災発生!ダメコン、消火急げ!」

 

 ミネルバCIC内は、戦闘管制に加えて続々と舞い込む被害報告とその対応指示に沸騰寸前の雰囲気だった。
必死の迎撃は続けていても、ここに来ていよいよ彼我の物量差が現れ出した完全に飽和攻撃の状況になってしまっており、それに伴ってミネルバの損害は幾何級的に増大しつつあった。
度重なるダメージによる機関区の一部損傷に、各部の浸水も加わって、艦の行き足自体も徐々に鈍り出してきている。

 

「艦長!展開中のオーブ艦隊より、再度の領海侵犯警告です!」

 

 メイリンが叫ぶ。

 

 ミネルバはオーブ領海線ギリギリを沿うように逃げながら、なおも連合軍艦隊の左舷側の突破を狙ってはいたが、攻撃の圧迫を受け続ける内に徐々にオーブ領海線の方へと追い込まれつつあった。

 
 

「くそっ、このままじゃっ!」

 

 未だザムザザーと対峙を続けているインパルスのコクピット内には、エネルギー切れ間近を示すアラート音が響き始めていた。戦いながらも、ミネルバも追い込まれている状況を確認しており、それが尚更にシンの焦りをかきたてる。

 

 早くコイツをどうにかして、補給をしなくては!

 

 そう思い、一瞬ミネルバの方を振り返ったシンの目に、ついにオーブ艦隊の各艦からミネルバへ向けて艦砲が火を噴いた光景が飛び込んで来た。
放たれた多数の砲弾がミネルバの周囲に次々と着弾し、無数に林立する水柱にその艦体が包み込まれる。

 

「そんな!オーブが…本気で……!?」

 

 実際にはオーブ艦隊の砲撃は、司令官トダカ一佐のささやかな反抗で〝絶対に当てないように〟して行われてはいたのだが、無論シンにはそんな事情は分かる筈もないし、またそれを知ったところで彼には何の慰めにもなりはしないだろう。
かつてオーブの「理念」に家族を〝殺された〟彼にしてみれば、そのオーブが今度はその「理念」を平然と〝殺す〟姿は、何よりも見たくないものだった。

 

 一瞬の自失。
だが、戦場においてのその時間は余りにも致命的だった。
けたたましい警告音に我に返った時は既に遅く、敵MAが眼前に迫っていた。

 

「しっ、しまっ…」

 

 回避も間に合わず、ついにインパルスの右脚がザムザザーのクローに捉えられる。
VPS装甲がクローの圧力に抗してかろうじて脚部の圧壊を防いでいるが、エネルギーが切れてフェイズシフトを展開出来なくなるのはもう寸前だ。

 

 だが、この場合は砕かれてしまった方が却って良かったのかもしれない。
ならばとザムザザーはインパルスの脚を掴んだまま、その機体を滅茶苦茶に振り回す。

 

「うわああぁっっ!!」

 

 コクピットの中でシンの身体は遠心力で振り回され、凄まじいGに意識を持って行かれそうになる。

 

「シンっ!」

 

 絶体絶命に見えるインパルスの姿に、ミネルバ艦上でルナマリアが、レイが、CICにいる者達が皆、思わず叫ぶ。

 

(!?っ)

 

 その次の瞬間、レイは突如として迫り来る〝何か〟の存在を強く感じ、彼方の空をハッと見やる
―ザムザザーの〝両腕が〟彼方より突如飛来した一条のビームに貫かれ、爆発して吹き飛んだ。

 
 

「なっ、何だ!?」

 

 不意に拘束が解かれ、振り回されていた勢いのそのままに放物線を描きながらインパルスは海面へと落ちて行く。
落下しながらインパルスはとうとうフェイズシフトダウンするが、そのコクピットの中で一瞬のブラックアウトの後、シンは必死に機体の体勢を立て直しながら周囲の状況を確認しようとする。
その目に映ったものは、全身を光に包まれながら凄まじいスピードで飛来する1機のMSの姿だった!

 

 機体が大きい―インパルスより二周り近くは大きく見える。
だが、その全体のフォルムはどこか彼のインパルスにも似通っていた。
そのMSはスーパーソニックウェーブでインパルスの機体を揺らしながら頭上をフライパスすると、あの敵MAをすれ違いざまに切り裂いて行った。
更にその後方から、量産機らしいアンノウンMSを各2機ずつ載せた、グゥルとは違う見慣れない形状の大型の空中機動飛翔体が3機、続航して飛んで来る。

 

「な、何だ!あのMS隊はっ!?」

 

 シン同様に、その瞬間だけは敵も味方も傍観者達も異口同音に、音速級の速度で接近するアンノウンMS隊に対する驚きを共有していた。

 
 

「対空索敵、何をしていた!」

 

 思わずCICを怒鳴りつけた地球軍艦隊のイージス艦艦長は、索敵班からの悲鳴混じりの報告に絶句する。

 

「ちょ、超強力な電波妨害です!レーダーが撹乱されています!」
「旗艦との通信もですっ!」

 

 同様のやりとりは彼らの僚艦や〝観戦者〟のオーブ軍でも、また敵艦たるミネルバにおいても交わされていた。

 

 そんなミネルバに、アンノウンMS隊の先頭を飛ぶ〝インパルスに似たMS〟から通信が飛び込んで来る。

 

『〝ザク〟を載せた艦!我々は「反地球連…組織〝マフティー〟」だ。これより貴艦を援護する!』

 

 コズミック・イラの空を切り裂いて、ミノフスキークラフトのガンダムが飛ぶ。
これが、異世界に戦場を移した彼ら「マフティー」の新たなる戦いの、そしてこの世界が辿ることになる〝新たなる運命〟の途の始まりだった…。