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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第04話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:05:15

『カーペンタリア・ベース・コントロール、こちらはミネルバ隊所属、レイ・ザ・バレルだ。これより、マフティー・ナビーユ・エリン氏と共に訓練飛行に発進する。離陸の許可を要請する』

 

 Ξガンダムのコクピット内に用意されたサブシートに座り、レイはカーペンタリア基地の管制をコールする。
隣のメインのシートでは、ハサウェイがテイクオフの態勢を整え終えて待機していた。
管制官からは問題なく発進の許可が降り、ハサウェイはΞガンダムの機体に装備されたミノフスキークラフトを作動させる。
機体下面に発振されたミノフスキー粒子の固まりの働きにより、その反発力でもってΞガンダムは重力の見えざる手を振りきって、真上の空中へと垂直に浮き上がって行く。
そしてメイン・スラスターの出力をゆっくりと上げて行きながら、Ξガンダムはカーペンタリア湾の上空の蒼穹の只中へ、ぐんぐんと上昇し始めた……。

 

 オーブ沖での邂逅後、トップ同士の会談によって「マフティー」側が当面の同行を受け入れた為、ミネルバは合流した「マフティー」側の二隻の支掩船を曳航する形でオーストラリア大陸の北岸、カーペンタリア湾上に建設されたプラントの在地球公館でもある、同基地へと入港していた。
 「マフティー」と言う非常に扱いには慎重を要するゲストを引き連れての入港となる以上、タリアは艦の指揮をアーサー副長に預けて、自身は事前に艦載機でカーペンタリアに乗り込んで、報告や様々な根回しを行っていた。
そして彼女の尽力もあって現在、「マフティー」には臨時にザフト軍属と言う、協力する傭兵などを遇するのと同様の立場の扱いが与えられていた。
無論のこと、彼らの存在は最重要機密扱いで国防委員会とデュランダル議長への直接報告も上げられてはいたが、未だに明確な指示は下されないまま、当面はミネルバが主体的に〝窓口〟となって主管せよ(その為の便宜をはかる優越裁量権は与える)との命令だけが下達されていた。
 とりあえずミネルバは巨大なメガフロートであるカーペンタリア基地の片隅のドックへと、基地の中心からは離れる格好で入渠し、更にそのミネルバに隠されるような配置で「マフティー」の二隻の支掩船は岸壁に繋留され、その傍らにはモジュール組立式の居住ブロックが彼らの為の宿舎として用意されていた。

 

 アーモーリー・ワンでの新型ガンダム強奪事件を機に、予定を前倒しての進宙、実戦参加を余儀なくされ、更にそのまま休むことなくユニウス・セブン破砕、その残骸を追っての大気圏突入と活動を続け、オーブでの補修も万全では無いままに出国。
そしてその沖合で地球連合軍の大艦隊との死闘と繰り広げて来たミネルバの艦体は、短期間で既に並の艦以上の傷だらけの歴戦の風格を漂わせており、ようやく友軍の下に辿り付いたと言うことで、この機会に徹底的な修理・点検が行われることになり、カーペンタリアでの滞在期間はそれなりに長引くことが確定していた。
もっとも、その辺りの事情は「マフティー」側にしてみれば、それはそれでと言う処ではあった。

 

 既にカーペンタリアへと向かう航海の途上において、ミネルバ側との情報交換によって彼らはまず、自分達が来てしまった「この〝コズミック・イラ〟と言う世界」の情勢と歴史を様々な角度からリサーチしていた。
無論のこと、それらは「プラント、また〝コーディネーター達〟の側からの視点」によるものがほとんどになるのは承知の上である。
そして、今度はそれを「別な視点」からも見る為の情報収集と言う意味合いも併せ持たせて、ザフトからの便宜提供を得て対岸の都市ダーウィン―本来の「元の世界」ならば、ここで自派のエージェントと接触し、また補給も行うはずだった―や、現存するシドニーも、そして彼らの重要目標であった〝アデレート〟ならぬ〝アデレード〟をも実際に訪問して、自分達の目で実際に見て改めて〝ここ〟が宇宙世紀の地球ではないことを確認すると共に、プラントの友邦であるとは言え、〝ナチュラル〟達の国家である大洋州連合の公共データベース等からも、ナチュラル側の〝視点〟で見た場合の情勢や史観と言ったものへのリサーチを行っていた。
 その際、ザフト側からの連絡将校的な立場の案内兼監視役として、主管者となって同行したのはレイだった。
航海中にミネルバに人質的な意味合いも兼ねて交代で滞在していた「マフティー」側のスタッフは皆、ほとんど例外なくミネルバの資料室に籠もっていることが多かったのだが(むやみにうろつき、あるいは一般隊員と接触をしない様に~と言うことでもあるが)、逆にミネルバ側からも同様に「マフティー」側の旗艦ヴァリアントへの滞在役を派遣することになり、その際に本人の強い志願によりほとんど専任の様な格好でレイが主にそれを担当する形になったまま、カーペンタリア基地到着後もそのままの立場を続ける格好になっていたのだった。
 レイもまた、ミネルバに来る「マフティー」側のスタッフ達に負けず劣らずの熱心さで「〝宇宙世紀〟と言う異世界」についてのことを知ろうとしていたのだが、彼にとってそれは単なるザフト軍人としての責務の枠と言うだけに止まらず、その上に極めて個人的な動機もまた、加味されていた。
それが今、こうしてレイがハサウェイに付いて、ハサウェイ用の予備のヘルメットを借りてΞガンダムのコクピットに同乗しているのにも繋がるのだが、オーブ沖での最初のミネルバ首脳との会談の後、一旦退艦することになったハサウェイとイラムを再び案内した際に、レイは感謝の意を示して自ら握手を求めた。
するとその時、手を握ったハサウェイとレイとの間で当人同士にしか分からない、〝不思議な共振〟―ニュータイプ能力者同士の間に起きる現象―が起きたのだ。

 

 ハサウェイ自身も、まさか異世界に来てこの感覚を味わうとは!
と、驚きを隠せなかったが、無論の事それ以上にレイは驚愕していた。
彼自身が持つ、〝ある特異な人間〟の因子による不思議な共振現象そのものは、おぼろげながらも戦いの中に身を置く事で時に発現してもいたのだが、これほどまでに強く、明確に感じるそれは、今は亡き〝あのもう一人の男〟との間にすら〝感じたこと〟は無かった程のものだったのだから。
当然の帰結として、レイはハサウェイに対して「その〝不思議な感覚〟」の正体について尋ね、彼の口から「ニュータイプと言う“超越的な感覚”を持った者達について」の話を聞いた。

 

 レイはこの時、ニュータイプと言う概念に初めて触れ、肉体の消滅後にも刻すらも越えて知覚されることさえあると言われるその存在と言うものに、ある種の〝希望〟を見いだせるのかも知れないと、そう思ったのだった。
この時点では未だ彼は自らの生まれながらにして背負わされた〝宿命〟と言うものを他者に打ち明けるには至ってはいなかったが、ナチュラルであれ、コーディネーターであれ、〝普通の人間〟が当たり前に持っている「未来」と言うものを〝持たない〟(持てない)自分にも、その様な形でそれを持つことが出来るのかも知れないと言う可能性と言うのは、彼にとっては驚くべき福音だったのだ。
そして、彼の背負った〝事情〟の何かまでもは知らずとも、その本気の熱意を認め、ハサウェイはレイのその能力を引き出し、鍛えられる様な〝訓練〟を、レイのたっての希望で引き受けることを承知していた。
 ハサウェイ自身は、自分はニュータイプとしては出来損ないだと思ってはいるのだったが、逆に自身がそうなる様な〝苦過ぎる経験〟をしているからこそ、放ってはおけないと言う思いにさせられてもいたからだ。
サイコミュとサイコフレームを採用したニュータイプ専用MSであるΞガンダムへの同乗などは、まさしくその一環でもあった……。

 

 そうして収まったΞガンダムのコクピットの中、レイは改めてこの〝異世界のMS〟の持つ、彼らからすれば驚異的と言うしかない性能の数々に驚嘆していた。
核融合炉で動いていると言うそのパワーの凄まじさについてはもはや言うまでもなく、ミノフスキークラフトと言う推力に依存しない擬似反重力浮揚システムも、そしてそれで重力から自由になった機体を、超音速で自在に飛び回らせる大推力のスラスターと言った部分はもちろんのこと、自分達の世界のものとは隔絶した〝超高性能〟な各種センサー系の、有効レンジの広さや対ジャミング耐性も本当に素晴らしいとしか言い様がなかった。
それに、文字通りに自分の身体がシートごと宙空に投げ出されたかの様な錯覚を覚える、この全天周モニター。
身体を支えるシートも、対衝撃保護性が桁違いのリニアシートと言う方式だ―現在では予備シートもきちんとしたものが整備されていた―し、シンプルでスマートなデザインながら機能性も高く集約されたセンターコンソールに、両腕をすっぽりと覆うアームレイカーと呼ばれるスティックに代わるコントロール装置と言った、戦力価値を高め、支えるさまざまなシステムの設計思想も実に興味深かった。

 

 そして何より、このΞガンダムと言う機体に乗ると感じる〝この感覚〟。
自分の意識が、知覚がとても鋭敏に、大きく拡大して行く様に感じる……。

 

(!)

 

 ほら、〝マフティー〟が「何か」に気付いた。
その彼の意識の指向に合わせて、優秀なセンサー類がその方向へとフォーカスされ、自分達の感覚では考えられない程の超大遠距離から、こちらへと向かって緩やかに降下してくる一つの機影を捕捉した。

 

(それは、〝人間の知覚力〟が超高性能な機械をも凌いでいると言うことでもある……)
ニュータイプ能力の一端を、何とも雄弁な形に目撃しながら、レイは素早く索敵機器が捉えた機影の詳細をチェックする。

 

「MA?……識別コードは友ぐ…いえ、我々ザフトのものですね」

 

 素早くIFF(敵味方識別装置)の表示を確認し、報告するレイ。
この識別コードは、特務隊〝フェイス〟のものだった……。
そしてハサウェイもそれを聞いて、すぐにΞガンダムの進路を弾道コースで降りて来つつあるその赤いMAの方へと修正した。

 
 

(!)
「IFFに反応?」

 

 Ξガンダムからの敵味方識別の為の照会信号を受け、アスランの方も元々センサー系が強化されている機体に乗っていることもあり、この世界の人間としては最高レベルの迅速さで接近するΞガンダムの機影に気付く。

 

「あれは!?また別のセカンドステージシリーズ機なのか?」

 

 自機のセイバー同様に、その存在を聞いてはいなかった〝GUNDAM〟タイプ―そしてかなりの大型機であることにスランは驚く。
IFFの反応は友軍機のものだったが、そのコードは通常使われるものではなく「特殊枠」―奪取や虜獲、投降してきた敵対勢力の機体や、傭兵の機体などに臨時に割り振られるカテゴリーのものだったからだ。
接近して来る〝友軍機〟に対して向き合わせ、アスランはセイバーをMA形態からMS形態へと変形させた。

 

「T(可変)MS?……〝赤いガンダム〟か!」

 

 軽い驚きの声を上げるハサウェイ。
その声にレイは、彼らから話には聞いていた、シャア・アズナブルと言う人物の事を想起したのだなと察っしつつ、マフティーに代わってザフト軍人としての対応の為に新型機へと通信を送る。

 

『接近中の友軍機へ、こちらは〝カーペンタリア所属〟機だ。貴機の来訪を歓迎する』

 

 「カーペンタリア所属」と言うのはかなり“微妙な言い回し”ではあったが、この場合は確かにそれが正確な表現でもあった。入電を受けたアスランの方もその表現には僅かにひっかかりを覚えつつ、それについての問いただしはせずに返信を送る。

 

『〝カーペンタリア所属〟機、こちらは特務隊アスラン・ザラだ。現在、カーペンタリア基地に滞泊中のミネルバへ
の合流を希望する』

 

(アスラン・ザラ!?)

 

 レイは一瞬、ハサウェイと顔を見合わせ、それからセイバーへと返信を送る。

 

『了解しました。これより本機が先導します』

 

 相手が特務隊と言うことで、やや丁寧な口調で言うレイ。
心得たハサウェイがΞガンダムの進路を基地へと翻す中、レイはカーペンタリア基地の管制をコールしていた……。

 
 

 カーペンタリアの基地内に設けられたショッピングモールでの買い物を済ませて、昼食のファストフードの包みを手にミネルバの方へとぶらぶら歩きで戻る途中だったシンの目に、Ξガンダムと言うあの「マフティー」のフラッグマシンである大型MSに先導され赤い見慣れないMSが降下して来て、そのまま赤いMSの方がミネルバの艦内へと収容されて行く様が見えた。
急いでシンが帰艦し、そのままハンガーデッキに向かうと、そこでは既にMSハンガーへの固定を受けてディアクティブモードに落とされたそのMSを前に、整備員達を主にした人だかりが出来ていた。
その中にルナマリアとメイリンのホーク姉妹の姿を見つけて、二人の方に近寄るシン。

 

「新型機か?」

 

 そう尋ねて、ルナマリアから返って来た返答にシンは驚く。

 

「アスランが来たらしいわよ」
「何だって!?」

 

 そうこう言い交わしている間に、その新型機のコクピットハッチが開いて、赤紫を基調色にしたパイロットスーツが降りて来た。その胸元には特務隊フェイスの証である、白い羽をかたどった徽章が輝いている。
皆が固唾を呑んで見つめるその前でヘルメットを脱いだ人物は、やはりアスラン・ザラその人だった。

 

「アンタ……なんで、あんたが!」

 

 前大戦後、アレックス・ディノと名乗り、オーブの人間になった筈の彼が一体どうしてザフトの―それも議長直属の特務隊であるフェイスとしてここに来ているのか?
シンはわけが分からずに、思わずそう声を上げていた。

 

「ちょっと!口のきき方に気を付けなさい、彼はフェイスなのよ!」

 

 ルナマリアの小声での叱責に、軍隊の基本を思い出させられ、不承不承ながらもシンは皆と共に〝上位者〟たるアスランに対して敬礼した。アスランは一瞬シンの方に目を向けるが、彼のその言葉には応えずに皆に向かって答礼を返し、それから直るとこの場では最年長者であり、自然に先任者格(最上位者)として見られる整備長のエイブス主任に話しかける。

 

「特務隊、アスラン・ザラだ。乗艦許可を頂きたい。艦長は艦橋ですか?」
「ああ……はい、だと思います」

 

 やや困惑気味にそう返すエイブス主任。

 

「確認してご案内します」

 

 と、そこへルナマリアはさっと前へと進み出て言った。
その後ろでいつもの様に姉に先を越されたメイリンが憮然とした表情を見せていたのだが、残念ながらそれに気付いた者は誰もいなかった……。

 
 

 グラディス艦長からの案内の指示を受け、艦長公室へと向かうエレベーターの中、ルナマリアからこれまでの経緯
を語られるアスラン。

 

「オーブの領海を出たところで連合の大艦隊に待ち伏せされちゃって。「マフティー」の人達が助けに来てくれなかったら、本当にどうなってたか分からないですよ……」

 

 そう言うルナマリアの言葉に、ふと連想させられるものを覚えてアスランは尋ね返す。

 

「「マフティー」?もしかして、さっきここへと先導したあの見慣れないMSのことか?」

 

 ルナマリアは自分がうっかりした事に気付くが、もう遅い。

 

(でも、もうアスランさんも目撃しちゃったんだし、大丈夫よね……)
 そうあっさりと思考を切り替えて、「マフティー」の事をアスランに語り始める。

 

 オーブ沖で忽然と現れて、こちらに味方して連合の大艦隊をあっさりと退けてしまった、超高性能なMSを駆る武装組織で、ナチュラル達が自分達ザフトの様な(階級がなく、役職分担で運営する)組織を作って連合に立ち向かっているそうなんですよ、と。

 

「そんな組織が生まれていたのか……」

 

 そうつぶやき返したアスランに、今度はルナマリアの方から問いかける。

 

「上空で出会ったんですよね?」

 

 アスランは頷く。

 

「ああ、最初はザフトの新型機だと思ったんだが、見たことがないような〝大型機〟だし、間近に見ていると微妙に(設計思想が)違う様に見えたからな……。それなら納得も行くよ」

 

「Ξガンダムって言うらしいですよ、あのMS」
「Ξ〝ガンダム〟ね……一体、どこの勢力が完成させた機体なのやら」

 

そう苦笑気味に呟いたアスランに、ささやきかけるルナマリア。

 

「これは本当に〝噂〟なんですけど、「マフティー」さん達は〝この世界〟の人達じゃない……って」
(?……どういう意味だ?)

 

 当然の疑問を抱いたアスランだったが、その先を聞くことは出来なかった。エレベーターの扉が目的階に到着し、開いてしまったので自然と話はそこまでになってしまったのだった。

 
 

「一体、議長は何を考えているのかしらね?」

 

 艦長公室の中、目の前の卓上に置かれたケースに収められたフェイスの徽章を一瞥して、タリアは呟いた。
唐突に現れて復帰と着任の挨拶を行い、持参した命令書と〝これ〟を差し出したアスランに目線を戻す。

 

「あなたをザフトに、更にはフェイスへと復帰させ、更には私までフェイスに任命するなんて」

 

 アスランは微妙な表情で返すのみだった。

 

 とりあえずそれ以上に探るような態度は取らずに、タリアは目をきちんと通し終えた命令書を傍らのアーサーへと回す。

 

「これは……!?」

 

 驚きの声を上げながら読み上げるアーサー。
そこに記されていた命令の内容は、予想外のものだった。

 

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへと向かい、現在スエズ攻略戦を行っている駐留軍を支援せよ、ですって?
 本艦は地上艦じゃないんですけどねえ……」

 

 そうぼやくように呟くアーサー。

 

 実際、ザフト初となる両用艦であるとは言え、本来ならばミネルバは5機のセカンドステージシリーズと共に月軌道方面艦隊に配属される予定になっていたし、再びの開戦後、プラントへの核攻撃に失敗して後は月面の基地に戦力を温存させたままにらみ合いの形を作っている地球連合軍への対応の意味合いでも、ミネルバは宇宙へと帰るのが自然だと言う意識があり、その意味ではこのまま地球上にて新たな作戦行動を続けよと言う新たな命令は意外なものだったのだ。

 

「確かに今あの辺りは大分〝ややこしいこと〟になっているみたいだしね」
「ややこしいこと、ですか……」

 

 タリアの呟きをおうむ返しに言うアスランは、
すみません、いろいろと状況を理解しておりませんと詫びながら説明を乞う。

 

「ユーラシア連邦の内部で、大西洋連邦にただ追随して〝地球連合〟に加わっていることをよしとしない地域の反発の動きが激しくなっていると言うことなのよ」

 

 タリアの説明に合わせてアーサーが現地の情勢を伝える映像をスクリーンへと映し出す。
そこには生身で抵抗するゲリラやレジスタンスが、連合のMSに文字通りに一蹴される、一方的な虐殺の光景が広がっていた。

 

「積極的自衛権の行使は明言していても、同時にプラントには領土的野心はないと言うことも明らかにしている以上、我々の〝支援〟と言うものにも様々な〝微妙な判断〟が要求される。そう言うことね」
「……成程、良く判りました」

 

 そう頷いて、それからアスランはおもむろに尋ねた。

 

「判らないと言えば、現在のオーブの情勢についてはご存じではありませんでしょうか?自分は当初オーブにと向かったのですが、問答無用でスクランブルをかけられ、入国は出来ませんでした」

 

そう言われて、タリアはほんの僅か、アーサーの方は露骨に、それぞれ表情を動かすのが見えた。

 

「あなた、オーブに行ったの?」

 

 なんとまあ……と言う風に尋ね返すタリア。
アスランが頷くのを見て、彼女は厳しい表情になって言う。

 

「なら判ったでしょう。オーブは地球連合に与して、我々プラントに対しての敵勢国になったと言うことよ」

 

そう言われてアスランの表情が強張った。

 

「そんな!カガリがそれを許したのですか!?」

 

 信じられない、いや、信じたくないと言う思いがそう口走らせる。

 

「仕方ないですよ、結局は彼女、ただのお飾りのお姫様だったと言うことでしょう?」

 

 本人は説明をしたつもりで、アスランから厳しい目線を向けられてたじたじになりながら、それでもアーサーは更に事実を口にする。

 

「だって、そうでしょう?彼女、そのまま変な奴と結婚しちゃうし……」

 

「けっ、結婚ッ!?」

 

 思わずそう叫んでしまうアスラン。
誰と思いかけて、口に出す前にどうにか踏みとどまる。
相手は一人しかいない。アーサーにまで「変な奴」呼ばわりされる様なあいつ、ユウナ・ロマ・セイラン。

 

 驚天動地とはまさにこのことか、と言う様な気分だった。
自分がいない〝僅かの間〟に、この状況の変化は何なのだと、流石に理解が追いつかなかった。

 

「確かに、見え見えの政略結婚ではあるけれど……」

 

 タリアは軽くため息をつく様な表情で言う。

 

「現在の様々な状況を見てみれば、それもまた仕方がないことでしょう。幾ら国家元首と言ったって、彼女はまだ18歳の女の子ですもの。〝傍で支えてくれる人〟の存在は必要なの」

 

〝傍で支えてくれる人〟が……。
タリアのその一言は、アスランの胸に深く突き刺さった。

 

 だが、そんな彼の動揺を見てとってタリアが口にした続く一言に、アスランの動揺は別種の衝撃をぶつけられて相殺され、曲がりなりにも鎮火する。

 

「でも、安心していいんじゃないかしら?」

 

 僅かに表情と口調を崩して言うタリア。

 

「?」

 

 どういうことかと訝るアスランに向かって、タリアは漏れ伝わってきた〝その後の顛末〟を語ってやる。

 

「結局、〝彼女〟の結婚はお流れになっちゃったそうだから」
「え?」
「連れ去られてしまったそうなのよ、その花嫁が」

 

 どういうことなのか理解が追いつかないアスランは、タリアの言葉の続きに更に驚きを深めさせられる。

 

「式場に乱入して、拐って行ったのは〝フリーダム〟と〝アークエンジェル〟と言う話だけど、一体何がどうなっているのかしら?」

 

 こっちが知りたいくらいだわねと、苦笑交じりに言うタリア。
アスランは複雑な表情で、ただ「はあ……」と答えるしか無かった。
 とりあえず気持ちを落ち着かせるように、アスランは卓上に供されていた飲み物を一口含み、一息ついてから礼の言葉を口にする。
そして、再び冷静な顔にと戻しながらもう一つの疑問について尋ねることにした。

 

「もう一つお聞きしたいことがあります。上空にて〝見慣れないMS〟の出迎えを受け、本艦まで先導をされて来たのですが、〝あれ〟はザフトの新型機なのですか?」

 

 先程のルナマリアの〝失言〟のことはおくびにも出さずに尋ねるアスラン。
タリアはアーサーと顔を見合わせるが、既に見てしまってもいるわけだったし、またフェイスとしての立場を持つ彼には知る資格もあることから、現状は機密扱いになっている「マフティー」についての情報も、彼に対しては伝えることにした。

 

「彼らは〝この世界〟の人間ではないと言っているわ……。確かに突拍子もない様な話ではあるけれど、現実に彼らが持っている既存のあらゆる技術体系とも繋がらない超技術の数々を目の当たりにしてしまっては、信じられないとは言えないの」

 

 オーブ沖での遭遇から、現在までの経緯を語って聞かせるタリア。
特に、「〝ユニウス条約には抵触しない方式〟のエンジン(つまり、戦闘艦同様の核融合?)で動くMS」の存在を示唆され、アスランは再び激しい驚愕に襲われた。

 

「ともあれ、そんな勢力とは願わくば敵対したくないものだし、内外共に〝現状〟は微妙なところなのよ」

 

 そう言ってタリアはやや皮肉げに笑う。

 

「いずれにしても、本艦が出撃可能になるまでにはまだしばらく必要よ。私をフェイスにと言うのならば、早速その権限をありがたく使わせて貰いましょう。今度こそ準備に妥協はしないわ」

 

 きっぱりとした口調でタリアはそう言い、そしてアスランに向かって問いかける。

 

「それで、あなたは?」

 

 通常の指揮系統を越えて動くことさえ可能な特務隊フェイスが二人。
アスランには彼自身の判断で今後を決めることが出来る、独立した裁量権があった。

 

「私にはあなたに対する命令権はないわ。命令そのものはあなたが本艦の戦力の一員として加わることを〝期待〟してのものになってはいるけれど、もしあなたに異見があれば、それに従わなくとも良いわけですからね」

 

 裏を返せば、もし今後の軌を一にするのであるのならば、ここで先にハッキリさせておかねばならない問題もある、と言う事でもあった。
一つのフネに指揮官は二人と言う体制になるのであれば、互いの分限はハッキリとさせておく必要がある。
アスランにもそれは理解出来ることであり、彼は自分も当面このミネルバと共に戦うつもりであるが、グラディス艦長の職責に干渉する様な意図は全くないことを明言する。

 

「判りました。歓迎します、アスラン・ザラ。あなたの参戦は心強いことね」

 

 そう言って再び柔らかな表情に戻るタリア。そして今度は逆に彼女の方から分限の部分についての提案を示す。

 

「あなたにはMS隊の指揮をお願いしたいのだけれど?それなりに実戦を経験したとは言え、本艦のパイロット達はあなたから見ればまだまだ未熟でしょう。
 貴方の経験と技量をもって、彼らを導いてやって頂きたいわ」

 

 艦の運用は専門家であるタリアが、MS隊の方は自機ごと持ち込んで参戦したアスランが統括する。確かに、適切な役割分担であると言えた。

 

「分かりました。私も以後、本艦の一員として共に戦わせてもらいます」

 

 タリアは頷き、そして呟く。
あなたと私、一度に二人以上のフェイスを……と言う状況も、偶然とは言え〝彼ら〟の存在を考えれば、結果的には正しかったのかも知れないわね。
 とりあえず必要な用件は全て片付けて、アスランはひとまず艦長公室を引き取ることになった。
扉を開けると、そこにはタリアに呼ばれて言いつかったのだろう、赤毛をツインテールにした少女が立っており、彼に対して敬礼しながら言った。

 

「メイリン・ホークです。お部屋にご案内します」

 

 メイリンに案内されて、あてがわれた一室にと入りかけるアスランは、「あ、あの……」と、おずおずと聞いてくるメイリンの問いかけに振り向く。

 

「このまましばらくミネルバに乗艦されるんですか?」

 

 そう言うメイリンの問いに、アスランは表情を和らげながら答える。

 

「ああ、〝しばらくの間〟は、そういう事になるね」

 

 宜しく頼むよ。そう言って扉の中へと消えて行くアスランの浮かべた微笑が、メイリンにはとても印象的に焼き付いた……。

 
 

 フェイスの特権の証とも言える一人部屋のベッドに腰を落ち着けて、アスランの脳裏には様々が思いが一気にあふれかえっていた。

 

(本当にどうなってるんだ、一体……)

 

 オーブのこと、カガリのこと。それにキラやラクス、ラミアス艦長達。
ザフト―ひいてはプラントの取る今後のことに、「マフティー」と言う者達の存在と。

 

 セイバーの特長を生かしての弾道飛行でどうにかここまで辿り着いた、長駆の疲労が溜まった身体が自然と眠りに落ちるまで、頭の中では様々な思考がぐるぐると、とめどなく渦を巻いていた。
……そして、目覚めたアスランがシャワーを浴び、身支度を整え終えた処に再び彼を驚かせる〝ある知らせ〟が入って来た。

 

 非公式ながら、デュランダル議長が自ら直々にこのカーペンタリアにやって来たと言うのだった……。