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機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第05話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:05:47

「まるでピエロだな、これは……」

 

 真新しい〝軍服〟に袖を通して、ハサウェイは呟いた。
それを耳にした、傍らにいたウェッジ船長がくっくと笑う。

 

「なんだい?船長…」

 

 その場にいた皆の目が集まる中、そう問うたエメラルダに向かってウェッジは苦笑の理由を口にする。

 

「いやな、今のハサのセリフが……あのシャア・アズナブルも同じ様な事を言っていたって話を思い出して、な…」
「ふぅん、あのシャアがねえ…」

 

 へえと言う感じに頷くのは、2ギャルセゾン機長のシベット。

 

「よしてくれよ?俺に〝あの人〟みたいなカリスマなんか、あるわけないんだからな……」

 

 おいおいと言う風な感じに、七分の苦笑と三分の憮然とをない交ぜに浮かべるハサウェイ。
だがすかさずに、彼の着替えを手伝っていたケリアが言った。

 

「大丈夫、ウチのリーダーだって負けてないよ」

 

 流石は恋人、ひいき目あるいはのろけという感じでハサウェイに言うのを聞いて、室内にはいい雰囲気の笑いが広がった。
 その場にいる彼ら彼女らも、やはりそれぞれに揃いのデザインで色違いの真新しい軍服に身を包んでいる。
彼ら「マフティー」のメンバーで、かつて新兵としてシャア・アズナブルが率いた新生ネオ・ジオンにいた者が、個人的に保管していた当時の軍服を借り受けてサンプルにと出し、カーペンタリアの被服部が急遽仕立て上げてくれた〝「マフティー」の軍服〟の着心地は、悪くなかった。
本来ならば、武装NGOでしかない「マフティー」には決まった軍服などは無く、また制定の必要も無かったのだが、異世界への次元転移と言う未だに信じ難い事態の果てに、「独立した一組織」としての体裁を取り繕う為にその様な事をする必要性が生じてもいたのだった。
 これから彼らは、このミネルバ艦上にてザフトの最高司令官でもあるプラント最高評議会議長自身の臨席の下に行われる、ザフトと彼ら「反地球〝連合〟組織マフティー」との対等な軍事同盟を締結するセレモニーに参列する。
その為の準備をしていたと言うわけだった。

 

 「マフティー」の代表として(それこそシャアにならって、以後は〝総帥〟などと言う大仰な呼称が公的には付く事になっていた)調印書にサインするハサウェイには、軍服とは別に総帥用のケープ付きの上着も用意され、白地の胸には金糸でマフティーのエンブレムが縫い取られた、華麗な礼服に着替えていたのだ。

 

「考えてみれば、〝面白い〟って言える事なのかも知れないな……」

 

 同様に軍服――彼用の物には参謀飾緒が付けられている――を着込みながら、ぽつりとイラムがそんな事を言う。

 

「面白いって?」

 

 何がですと訊いて来るミヘッシャに、イラムは複雑な表情で答えた。

 

「異世界に来ても、やはり俺達は〝地球の政府〟に対して戦う道を選んでいると言う事、そしてそんな俺達がここではまるで、ネオ・ジオンのミニマムパロディをやっているみたいだ……って事かな…」
「…………」

 

 イラムのその一言は、何の根拠もない事ながら彼らにとっては、〝なんとなく〟――だが不思議と腑に落ちる様な感覚をもたらした。

 

「ミニマムパロディ………か」

 

 ハサウェイはそう呟くと、小さく一つ頷いた。

 

「俺達が今いる〝この世界〟がそれを求めていると言うのなら……道化でもいい、せいぜい突っ走ってみるか」
「よく言った!それでこそ、俺達のハサだ!」

 

 そんな独白に、イラムやウェッジが嬉しそうにハサウェイに向かって親指を立て、あるいは軽く肩を叩く。
そしてハサウェイは更に、傍らにいるケリアに向かって笑いかける。

 

「マフティー・ナビーユ・エリンが……じゃなく、ハサウェイ・ノアとして……さ?」
「っ!?ハサ……!」

 

 驚きに目を見張り、次いでケリアも嬉しそうに笑った。
 少なくとも、この世界にいる以上、意識してマフティーを名乗る必要性は無くなっていた。
それは、ハサウェイ自身にとっては、肩の荷が降りる……と言うのとはちょっと違うが、意外な開放感だった。
 〝指導者マフティー・ナビーユ・エリン〟としての無理な背伸びをする事は無しに、今は素直に自分の意志をもって、必要性はある戦いに臨んで行く。
果たして、その先に何が見えるかまでは今はまだ判らない。だが、こうして紛れ込んだこの世界に来た事は、きっと何かをもたらしてくれる筈だと、ハサウェイはこういう方向を決定付けた、つい先日の〝対談〟の事を思い返していた……。

 
 

「しかし、デュランダル議長御自らのご来訪と言う事で、大変驚いております」

 

 ミネルバへと向かうリムジンの中に落ち着いて、向かい合った国家元首に対してカーペンタリア基地の司令が言った。

 

「いや、突然押し掛けて申しわけない」

 

総司令官たるプラント最高評議会議長にそう言われて、司令は慌てて頭を振る。

 

「い、いえ、とんでもない事であります!」

 

 そして話題を変える様に、ある疑問を口にする。

 

「議長ご自身が乗り出して来られるとは……ミネルバが連れて来た〝ゲスト〟と言うのはそれ程のものですか?」
「…………」

 

 議長は直接には答えず、曖昧な表情でのみ応じる―司令の目にはそれは肯定と見えた。

 

(それ程の〝相手〟だと言うことなのか……)

 

 自分達、基地側の頭越しに「得体の知れない〝ナチュラル(自称)〟ども」を引っ張り込んで来て、その後もほとんど関わらせない〝新参者〟に対してはどうしても良い感情は持てずにいたのだが、非公式ながら議長自身の電撃的直接訪問、またそれに先だってのミネルバ艦長のフェイス任命と、更にはあのアスラン・ザラの――しかもフェイスに再任だと言う――の着任と言う露払いもあり、驚きと共に司令の感情はほとんど逆に変化していた。

 

「いずれにせよ、本日の会談の後にはカーペンタリアの諸君には〝面倒をかける〟ことになるでしょうが、ひとつ宜しくお願いしたい」

 

 そう、様々な可能性を考えたセリフを言い残し、司令達の敬礼に見送られてデュランダルは久しぶりの再会となる、巨艦の中へと消えて行った。

 
 

 「マフティー」の存在を知り、自らその者達を見極めるべくやって来たデュランダル議長と「マフティー」側の会談は、ミネルバ艦内の一室にて始まった。
 出席者は、「マフティー」側がハサウェイとイラム。
プラント側はデュランダル議長に、ザフトを代表してグラディス艦長。他にサラと名乗る議長の秘書官と、衛兵代わりのレイが、事前にグラディス艦長経由で議長が「マフティー」側に断り、了承を得た上で同席していた。

 

「コズミック・イラへようこそ、「マフティー・ナビーユ・エリン」。私がプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです」

 

 開口一番の挨拶の声に、シャア・アズナブルその人の事を思い出させられるハサウェイ達。
彼らのその驚きから、運命的な会談は幕を開けた。

 

「あなたの声が、我々の良く知るある人物と実にそっくりだったので驚きました」
「シャアと言う人のことですか…」

 

 即座にそう返って来る辺り、「マフティー」と言う存在に対してのデュランダル議長の関心の程が伺えた。

 

「正直に言えば、当初はタリアがおかしくなったのか?と、思ってしまったのですがね……」

 

苦笑めかして、同席させているグラディス艦長を見やるデュランダル。その呼びかけ方に只ならぬ関係をうかがわせはするが、ハサウェイ達もそこは黙って聞き流し、デュランダルは話を続ける。

 

「しかし、まさか彼女が酔狂で私の下に直に報告を上げて来る筈がない。
 ですからこの件に関する他者からの報告も、細大漏らさずに私にも上げる様にと指示をしましたが、そうして聞くものを総合すると、到底無視は出来ないと言う思いになり、矢も楯もたまらずに来てしまったと言うわけですよ…」

 

 デュランダルは軽く苦笑気味の表情で言う。

 

「それで、ご自分の目で確かめられてみたご感想は?」

 

 ハサウェイの問いにデュランダルはあっさりと即答する。

 

「信じます。自分の目で見てみたならば、これは信じるしかない」

 

 断言する議長に、むしろハサウェイ達の方が意外な気分になる。

 

「随分と平然と言うな…と、思われますか?」

 

その問いにハサウェイ達が肯くのを見てデュランダルは続ける。

 

「私は政治家です。どんなに信じ難いものだろうと、どんなに見たくない様な事であろうと、現実に目の前に存在するものを、起きている出来事を認めないと言う様な事は許されないと言うだけです」

 

 無論、何故そんな事が起こったのか?と言う点についての興味は大いにありますが……。そう言って議長は笑って見せた。

 

「成程……そう言って頂けるのでしたら、こちらとしても話しやすい」

 

 ハサウェイ達も肯き、本題に切り込んで行く。

 

「さて、そうして我々の存在を認めて頂いたところで、プラントの長たる貴方は、我々に対して何を望まれているのですか?御用の向きを伺いましょう」

 

 自分達の置かれている立場は理解している。と、そう言外に示すハサウェイ。

 

 どこかの首長とは違い、明らかに政治的な駆け引きと言うものを正しく理解している相手の態度にデュランダルは微笑を浮かべる。こういう相手と話すのは嫌いではない。眼前のマフティーなる青年に対しての好印象は深まっていた。

 
 

「偽善的な事を言っても仕方ないでしょうね、マフティー。無論の事、あなた方の協力は得たい所です。単純に10機以上のMSが加わると言うだけでも、兵力に劣る我々にとっては非常に大きい事なのでね」

 

 ましてや、それが只の数字上の機数では済まない様な、〝一機当千〟の代物だとくれば……。

 

「こういうのを何と言いましたか……確か、喉から手が出るくらいに? それ程までに、あなた方の存在と言うものは魅力的です」
「…………」

 

 ハサウェイ達は黙って続きを促す。
 だが、その先に続いた議長の言葉は意外なものだった。

 

「ですが、あなた方に協力を〝強要〟は出来ない。私はそう考えています……」

 

 僅かに意外の表情を浮かべる「マフティー」側。

 

「…強すぎる力は争いを呼ぶ。そう、ある人物から言われた事があります。
 それに対して、私はこう返しました。いいえ、争いが無くならぬからこそ力が必要なのです。と……」

 

 その言葉が交わされた状況と事情を知らぬが故に、ハサウェイ達にはどちらもそれぞれに正しい意見ではあるとは聞こえた。
彼らの元の世界においての、ティターンズに代表される様な圧政者と、それに対しての抵抗運動の歴史を頭に浮かべれば、言葉だけを聞く分には自然な発想となるものではあるだろう。
そんな彼らの連想は知らず、デュランダルは淡々と続ける。

 

「しかし、あなた方の存在を前にしての今の我々の立場と言うのは、その人物の言葉をもう一度考えさせられずにはいられないと、そう思わされるものなのです」
「確かに、我々と言うイレギュラーな存在は、この世界にとっては劇薬にもなりかねない可能性を持っている。そう結論付けざるを得ないでしょうね」

 

 これまでの間に、自分達で検討・合議して来た事を議長に告げるイラム。

 

「私は俗物なのですよ」

 

 皮肉げに笑うデュランダル。

 

「あなた方と言う存在をもし傘下に収められたとして、そこから得られる絶大な力に溺れない、などと言い切る自信は到底ありませんのでね……」

 

 そして真顔になって続ける。

 

「また、もし私自身が本当に自制も効かずにあなた方の力を欲し、力ずくでの接収を命じたとしても、実現性は薄いでしょう。あなた方がそれを許すなどとは到底思えぬ事ですし、その結果は……どう転んでも連合を喜ばせるものにしかならない」

 

 良くてこの基地と引き換えでの共倒れ。ザフト側のみの壊滅ですら十二分に有り得る上に、生き延びられれば必然連合の側に追いやるだけ……。

 

「極端な話、こうした現状のままでの好意的中立――この世界への不干渉を保って頂ければ、それで充分ではないか? とさえ思ったのですがね……」

 

 明らかに本音を覗かせて言うデュランダル。
これはまだハサウェイ達の知る所では無いが、ターミナルなる得体の知れないグループの根深い浸透と暗躍を考えれば、うかつにジョーカーが如き存在に触れるのはリスクが大き過ぎると言う事もあるからだ。
ともあれ現状を言えば、「マフティー」は自らの持つ「力」でもって、自らの立場を守れている――相手に尊重させ得ている――と言うわけではあった。
 ただし……。と、そこでもう一面の事実を口にするデュランダル。

 

「それは、今の様な現状が保たれている限りにおいて、と言う前提があっての話であると言う事もまた、お判り頂けているものと思いますが?」
「当然の事でしょうね」

 

 あっさりと頷く「マフティー」側。今はまだしも、もしこの先プラントが追い詰められる状況になったとしたら?
そうなったなら、藁にも縋るとでも言う様に、強引な接収を図る者達が出る可能性は必然的にあり得る事だし、また逆に地球連合が同様に「マフティー」の接収を図ったとしたならば……それこそ人海戦術的に、戦わさせられる兵士達の犠牲など一顧だにしない、文字通りの屍山血河を築かせてでも目的を果たそうとするであろう事は目に見えていた。
つまりは、きちんと現実と言うものが〝見えて〟いるのなら(また、見ようとしているのなら)、ザフトに協力すると言う道が一番ベターな判断であると言う結論は、必然的に導き出されるものではあった。
無理強いはしないが~と言う態度は、そういう読みが半分あっての事だった。

 

 ただし、だからといって完全に打算だけと言う事もまた、有り得ない。
〝協力〟の度合いそのもののイニシアティブ自体は「マフティー」の側が握っている事には変わりがないからだ。
ハサウェイ達にとっても、そういう政治的に〝正しい〟判断を下してくる議長は、交渉相手としてはむしろ信がおけると言うものだった。
 何のビジョンもなく、ただただ打算だけしか持ち得ない相手も、またその逆返しの、現実を全く見ない上辺だけのきれいごとしか言わない相手も、どちらも語るに及ばず。でしかない。
もっとも、この世界では何故だかそういう輩こそがやたらと横行していると言う事実が、ハサウェイ達を驚かせてもいたわけなのだが……。
 ハサウェイは口を開いた。

 

「ここに来てしまってからの間、短い期間、そして限られた範囲ではあるだろうが、我々は我々なりに〝この世界〟の事を知ろうと努めて来た……」

 

 ハサウェイの隣でイラムも頷く。

 

「この世界の事は、我々の目から見れば驚くことばかりだった。我々のいた元の世界と似通ってもいながら、全く異なる道を辿った歴史。そしてここでも全く変わらない、繰り返される人々の対立と争い…。
 だが、一番驚いたのは〝ここ〟では人種対立と言う概念が未だに現実のものだと言うことだ……。我々のいた世界では、教科書の中にあるものでしかないそれは、ここでは肌の色によってではなく、遺伝子を弄っているかどうか?によってもたらされているのだと言う事に…」

 

 ハサウェイはあえて淡々と話し続ける。

 

「我々のいた世界にも対立はあった。力の恐怖によって支配しようと、普通の人々が暮らすスペースコロニーに毒ガスを流し込み、コロニーレーザーを打ち込んだ輩さえもいた。だが、この世界の〝それ〟は……違う」
「違う……?どの様に?」

 

 デュランダルは先を促す。

 

「我々のいた世界でのそれらの非道は、無論その行為自体を容認できる様なものではないが、それでもまだ政治的な一つの〝手段〟の枠内からは踏み外しきってはいなかった。
 虐殺と言う非道も、支配の為の手段であって、決して目的では無かった。だが、この世界のそれは……手段ではなく、〝目的〟そのものだ」

 

 宇宙世紀の世界において、宇宙に暮らす人々を「宇宙人」呼ばわりし、何の躊躇も無くG3ガスによるコロニー大量虐殺などを行った、ティターンズのバスク・オムらに代表される武断派の者達の行動も、それはあくまで殺一警百の手段として行っていた事ではあったのは、(感情面は別にして)事実として否定は出来ない。
言うなれば、宇宙に生きる人々のことは「虫けら」も同然にしか見ていないと言う事で、故にそれらを踏み潰す事には何らの痛痒も感じはしない。しないが、だからと言ってその虫けら共を根絶やしにしようと言う所までは考えているわけではないと言う事だ。
その意味では、この世界のアースノイドと言ってもいい、地球連合側の指導者達に比べれば、あのバスクですら遙かに政治的感覚はまだ〝まともに持っている〟人間だと言う事になってしまうのだ……。

 

「この世界に来てしまった以上、我々は自分達の生存権は断固として確保する。だが、そうであればこそ、自分達の目の前で同様に生存権の確保の為に戦っている人々を見て、無視してはおけないと言う思いにもなる…」

 

 「マフティー」の側からの、協力への前向きな意思の初めての表明だった。
彼らのその言葉に、微かに安堵の表情を浮かべるタリア。
しかし、デュランダルの方は安直には頷かずに、新たな問いを投げかけた。

 

「そう言って頂けて幸いです、「マフティー」。ですが、元より〝この世界〟の住人である我々は、どうしてもこの問いを発せざるをえないのです……。あなた方は、我々コーディネーターの事を、どの様に見ているのでしょうか?」

 

 ナチュラルとコーディネーターが対立するこの世界において、誰しもがその枠内で考えてしまう事を、この異世界からの客人達はどう見たのか?
ある意味では、彼らの持つ「力」よりもむしろ、その視点と言うものを確かめたいと言う思いがデュランダルに自ら出向いての直接会談を選ばせたとも言えるのだった。
 そんな言外のものを感じ取ってハサウェイは、自分達の見解を披瀝する。

 

「我々にはこちらの世界の人間の感覚と言うものは今一つ判らないのだが、コーディネーターであると言う事実が、ホロコースト実行の為の戦争――政治にまでエスカレートすると言うのは、理解の範疇を超えている……」
「我々コーディネーターと言う存在に対しての、〝怖れ〟は抱かれなかったと言うわけですか?」

 

 デュランダルの言葉に、頷く代わりにハサウェイは淡々と答えた。

 

「我々のいた世界でも、人間兵器として〝強化〟されたパイロットや、非公式ながらクローン戦士さえ存在したと言われているのですよ。
 生まれながらにして遺伝子調整を受けている様な人間こそいなかったが……。人間と人間とが対立し、争いあっている事には何も変わりが無かった。
 我々としては、ただその〝事実〟はこの世界においても何ら変わらないと、そう受け取るだけです」

 

 無論それは悲しむべき事なのでしょうね……。そう言外に示すハサウェイ。

 

 コーディネーターと言う存在が、それ程の脅威であるのか?
裏を返せば、コーディネーターがそれ程特別な存在なのか?と言う反問をも同時に投げかけているわけだったが、それをごく普通の感覚で言えてしまうと言うのこそが、この世界の〝常識〟を外から俯瞰して見る事が出来る立場にいる者達の、一番の存在意義だったかもしれない。

 

「…いや、これは……参りましたな」

 

 流石に苦笑いを浮かべながら言うデュランダル。
クローンもいた、と口にした際にその表情が一瞬、僅かに、だが確かに動いたのをハサウェイ達は見逃さなかった。

 

「あなた方にとってはごく普通の事、なのでしょうが……逆に同胞達に対するに当たっては、その種の〝反作用〟が過激化、先鋭化する事のない様にと自分が常に腐心しておかねばならない事を、そうあっさりと言われてしまうと……流石に苦笑いするしかない…」

 

 本当に言葉通りの表情になりながら、デュランダルは言葉を重ねていた。

 

(ギルバート、あなた……)

 

 議長(公人)としての彼がそんな姿を見せていると言うのは、タリアにとってはかなり意外な事だった。
そして、その表情を真面目なものへと戻して続けるデュランダル。

 

「しかし、コーディネーターがそれ程のものなのか?と、それを言うのがあなた方なのであれば――これは説得力がある、などと言うレベルの話では無いでしょうな」

 

 コーディネーターと言う概念そのものが存在しない(言い換えればナチュラルしかいない)世界で、この世界のコーディネーター達が積み上げて来た諸々の最先端技術をもってすら、いまだ遙かに到達し得ない様な超技術の数々を、(そんなナチュラルしかいない彼らの世界は)ごく当たり前のものとして達成している。
おいそれと公には出来ない代物であるとは言え、その事実はプラントの内なる病理である、極端なコーディネーター優越思想をもまた超克すべきものと考えるデュランダルにとっては、何よりの論拠ともなるのだった。
 ハサウェイは応えて言う。

 

「我々の見た所では、確かにコーディネーター達の一部に有る極端な優越思想の弊害は事実だとは言えると思う。そして、それは政治にとっても――ひいてはコーディネーター自身の為にもマイナスにしかならないと言う、議長のお言葉は正しいでしょう」

 

 しかし…と、ハサウェイは続けて別な視点も口にする。

 

「客観的に見れば、コーディネーターの側がそうなるのも仕方がない部分はあるとも言える」
「そう、言って頂けますか?」

 

 ハサウェイ達は揃って頷く。

 

「前大戦の、またそこに至るまでコーディネーター側の歩んだ歴史を見れば、判る事です。
 確かに、パトリック・ザラを一つの頂点とするコーディネーターの側にも、非とされる者達の行動はあった。ただそれは、言うなれば「窮鼠猫を噛む」と言う類のものでしょう。
 その〝噛み付き返した〟事を非道だと非難するのならば、一方で〝そこまで追い込んだ猫の側の責任〟はそれ以上に非難されなければ、これはフェアではない」

 

 淡々と、だが明確にそう言い切るハサウェイ。
異世界人だと言う事は認識していつつも、流石に驚きを感じながら尋ねるデュランダル。

 

「〝ナチュラル〟であるあなた方の口から、それ程までに我々コーディネーターに対しての理解をもっての好意的な見解を頂けると言うのは……本当にありがたくは感じつつも、何故そこまで?と言う疑問も流石に抱きもしてしまいますが?」

 

 デュランダルの問いに、やはり躊躇いなくハサウェイは答えた。

 

「〝Iwasborn〟…」
「うん?」

 

「人は皆、〝生まれさせられる〟。自分の意志ではない……」
「…………」

 

 まだ真意をはかりかね、黙って聞きに回っていた議長達は、続くハサウェイの言葉に衝撃を受ける。

 

「〝自らの意志〟でもってそうなる事を選択して生まれて来たコーディネーターが、ただの一人でも存在するのですか?」
(ッ!!)

 

 一様に息を呑むプラント側。

 
 

 そこでイラムが続きを引き取って、あえて素に近い口調で彼らの〝気分〟と言うものを示してみせた。

 

「もしも……もしもの話だが、本当にコーディネーターと言う存在が罪深く、許されざるものであるとしよう。ならば、それを生み出した者達の責任はどこだ?
 自分達の勝手で生み出しておきながら、後になって手のひらを返して今度は排除しようとする。
 自らのエゴは棚に上げ、自分の意志でもなしにそんな運命を〝背負わされた〟当事者達にだけ、ありもしない「責任」を取って死に絶えろだと?そんな馬鹿な話が何故まかり通る?」

 

 まるでナチスではないか!

 

 イラムでなくとも、それは「マフティー」の面々がごく自然と抱いた思いだった。
だが、そんな彼らの〝常識的感覚〟が相対しているこの世界の人間達に与えたインパクトは、彼らの想像以上のものがあった――特に、議長とレイの二人には。
 再びハサウェイが口を開いて言う。

 

「無論個々の事情は有るだろうが、俯瞰的に見ればコーディネーターの側が、混在する事により呼び起こしてしまう軋轢を避けようと自分達の方が身を引き、スペースコロニーと言うフロンティアに進出して行った……と言うのが、こちらの世界の歴史の構図でしょう。
 つまり、〝余計なものを勝手に背負わされた犠牲者達〟であるとも言えるコーディネーターの側が、筋論から言えばする責任も義務も無い様な譲歩をして、どうにか棲み分けて共生する道を探る為の努力はしていた筈だと思う。
 ところが、それでも納得しない狂信者達は、「お前達が存在する事さえ許されない」と、〝種族浄化〟を図って来る。妥協を知らない――また、図りようもない手合いを相手に、自らの基本的な生存権を守る為に戦う事の、何が不当なのか?」

 

 ハサウェイの言葉を聞き終えて、議長はふっと小さく息を吐き出し、それから明らかに苦笑の表情を浮かべながら言う。

 

「……参りました。と、言うしかない様な気分ですな、これは…。あなた方の持つ〝力〟や、その事による政治的な思惑は抜きにして、そんなあなた方に対して、どうか力を貸して頂きたいと願わずにはいられなくなりました……」

 

 もはや政治家としての顔はしていなかった。立ち上がり、ハサウェイに向かって手を差し出して来る議長。

 

「我々がこの世界に来てしまった意味は判らない。だが、現に今こうしてこの世界にいる以上は、その世界をよりマシにする為に、我々も微力を尽くしましょう」

 

 応じて立ち上がり、議長の手を握るハサウェイ。

 

 かくして、この世界の歴史を大きく動かし始める〝小さな一歩〟はひそやかに、だがしっかりと刻まれたのであった……。