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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第33話

Last-modified: 2011-10-03 (月) 01:32:28
 

アークエンジェルの後部展望室、新鋭艦らしくクルーのストレスを解消する為に設けられた場所である。
そうは言っても、航行中は見飽きた宇宙空間しか見えない為殆どクルーは寄り付かない。
しかし、物珍しさからヘリオポリスの住人達がやってきて、それなりの賑わいを見せていた。
ただ、今は民間人に設定された生活時間でいう所の深夜、就寝時間に当たる。
その為人影は皆無と言って良かった。
しかし、そんな光源も乏しい寂しい場所に、1人の少年の姿があった。

 

「・・・・・・」

 

高速航行中だというのに星々の流れはゆっくりで、時間の感覚を忘れさせてくれる。
それでも、キラの動揺は、混乱は消えない。
大人と子供の境界を彷徨う彼にとって、先の戦闘では多くの事が起こり過ぎた。
自分の中にあった人への殺意、アスランに向けられた本物の怒りと憎悪、
ラクスを人質に取ったフレイやアークエンジェルの人々への疑心。
どれも、普通ならば1つずつ分けて訪れ、解決するべき問題であった。
それらを考えると、自然と動悸が激しくなり、キラは思わず胸を押さえた。
酸素を求めて肩で息をするがそれも叶わず、堪らず膝を着いた。
壁に取り付けられた手すりに体を預けうずくまる。

 

どうして、自分だけこんなにも辛い思いをしなくてはならないのか。
ヘリオポリスで、戦争を外から傍観していた罰か?
それとも、コーディネーターでありながら連合に組している罰なのか?

 

自分の意思とは無関係に頬を涙が伝い、床を静かに叩いた。
このままでは、前の時とは違う形で心が壊れてしまう。そう脳が判断したのだろう。
キラは周りも確認せずに大声で泣いた。
理性の制御を解き放ち、肺の酸素を限界まで使った泣き声は、幸いにも誰にも聞かれずに済んだ様だ。
ただ1人を除いては。

 

「どうしました?」
「・・・・・・!?」
「あら、キラさん?」
「あっいや、その、あの!」
廊下からひょっこり顔を出した愛らしい顔に、キラは心臓が口から出そうになった。
まさか、今のを聞かれるとは。よりにもよって、一番聞かれたく無い相手に。
頭から冷水をぶっ掛けられた様になったキラは慌てるあまり、
壊れたラジオの様に意味不明な言葉を発した

 

「落ち着いて下さい。大丈夫です。この事は、誰にも言いません」
「・・・・・・本当に?」
尻餅を着いたキラを立たせながら、優しく言う彼女の顔を見る事が出来ず、
涙で赤くなった目元を隠す様にしながらなんとかそれだけ言えた。
「ええ、殿方の恥を言い触らす程、私は野暮ではありませんわ」
「・・・有難う御座います」
安心した反面、はっきりと恥と言われてしまった事で顔を赤くしたキラだったが、
状況の異常さに気付いて直ぐに顔を上げた。
「なっなんでラクスさんがここにいるんですか!?」
「いえ、それが・・・」
ハロ、ラクスゲンキ!オマエゲンキカ!
今まで気付かなかったのが不思議なくらいの勢いで飛び跳ねるピンクちゃんが、
キラに向かって体当たりをかました。
「うっ」
「ピンクちゃんは、何かあると鍵を開け様としますの。何時もは気を付けていたのですけれど・・・。
 それでドアが開いてしまって、閉め様とドアに近付いたら、貴方の声が聞こえたもので」
半分は嘘だった。ピンクちゃんがドアを開けたのは間違い無いが、
その後の行動は、キラの発する強烈な負の感情をラクスが感じ取ったからだ。
「でもいけないですよ。勝手に外に出たら。部屋に送ります」
「待って」
ラクスを連れて後部展望室から出ようとすると、
切迫した声と共にキラの手にラクスのしなやかな手が重なった。
ドキリとしたキラがラクスを見やると、自分を心配する目がキラを見詰めていた。
「無理をしないで下さい」
「そんな事は・・・」と否定しようとしたキラの言葉を遮って、ラクスが小さい頭を左右に振った。
「話して下さい、この前より沢山。時間はあるのでしょう?」

 

確かに時間はあった。パイロットは有事の時以外は他の部署より暇だ。
ナタルによれば、敵は当分仕掛けてはこないらしい。
「ラクスさんは、連合に人質として利用されたんですよ?
 そこに所属している僕が、憎くは無いんですか?」
「・・・分かりませんわ。あの方にブリッジまで連れて行かれて、殺すと言われて・・・。
 憎しみだけで表現するには、複雑過ぎます」
伏し目がちに言うラクスは僅かに震えていた。純粋に怖かったのだろう。
ラクスの言うあの方とはフレイの事だ。
気絶して医務室に運ばれたと聞いて直ぐに向かったが、彼女が目を覚ます事は無かった。
今もまだ目覚める様子も無く、今後もサイが細目に様子を見に行くという。
正直、気絶していてくれて助かったのかもしれない。
フレイの父を守れなかった自分が、彼女にどんな顔をして向き合えば良いか分からなかった。
「でも・・・」
「えっ」
「でも私は、貴方を知っています。まだ少しですが・・・私が知っているのは、
 連合に所属している貴方ではなく、貴方自身です」
力強く言うラクスに両手を握られ、キラはラクスの目を正面から見詰めた。
愛らしい雰囲気とはギャップのある、真剣そのものの声で彼女は続けた。
「だから、話して下さい。キラさんの悩みを。1人より、2人の方が、解決出来る事も増える筈ですわ」
「そう・・・だね」
「そうですわ」
若干引き気味に答えたキラに、ラクスは微笑みを返した。

 

2人並んで窓に広がった宇宙空間を見詰めながら、キラが重々しく口を開く。
「何を先に話せば良いのか・・・月にいた時に、親友がいた事は話したよね?」
「ええ」
「・・・ヘリオポリスからずっと戦っているザフトの部隊、そこに彼が、アスランがいるんだ」
遣り切れない気持ちに俯くキラだったが、予想以上に驚いた顔になるラクスに気付いて顔を上げた。
「もしかしてそれは、アスラン・ザラではありませんか?」
「えっ、何で君が?」
自分以外から親友のフルネームを聞いた事が予想外で、キラもラクス同様驚きの表情を作った。
「アスランは、私がいずれ結婚する方です」
「許・・・嫁?」
「はい。とても優しい、でも無口な方。・・・あと女心に鈍感ですわね。
 このピンクちゃんは彼が作ってくれた物です。出来も凄く良くて嬉しかったのですけど、
 流石に同じ物ばかりでは飽きてしまいますわ」
テイヤンデ!テイヤンデ!
「変わってないのか、アスラン」
楽しげにアスランの事を語るラクスに、キラも笑みを溢した。
そういえば、月で別れてからのアスランを聞いたのは初めての事だった。
しかしラクスの話すアスランは、昔と何ら変わりは無かった。
優しく無口、そして女の子の思考に疎い。きっと、相変わらず優秀で責任感も強いままなのだろう。
「でも悲しいですわね。貴方も優しい方ですのに、互いに戦わねばならないなんて」
「・・・うん」
ラクスの言葉が胸に沁みて、涙腺を刺激する。親友同士で戦わなければならない悲劇。
単純にそれを悲しんでくれるだけで、今のキラは救われた気分だった。
「お二人が戦わずに済むのが、1番なのですが・・・」
「うん」

 
 

2人が話す後部展望室、実はこの場所にはもう1人来客がいた。
出入り口付近で、物陰に隠れる人物。
(・・・・・・)
その人物が踵を返して部屋から出て行こうとすると、ドアの前にいた別の人物に止められた。
「かっカマルさん」
物陰で聞き耳を立てていた人物―――カズイが気まずい表情で
目の前の別の人物である刹那の偽名を口にした。
「盗み聞きは良い趣味とは言えないな」
「えっと、これは・・・」
カズイがこの場所に居合わせたのは、本当に偶然だった。
ブリッジでの当直が終わり、これから寝ようとしていただけの事だった。
無論、彼が嘘を付いていない事は刹那にも分かっていた。
「いや、咎めようというんじゃない。ただ、今聞いた事をあまり他言するな。
 人づてに話が広がっては、キラも傷つく」
「わっ分かりました」
頭を下げたカズイが、刹那の脇を抜け逃げる様にその場を後にした。

 

「・・・何か拙い事を言ったか?」
怯えさせる様な事をしただろうかと首を傾げたが、
ここに来た理由を思い出して出入口からキラの様子を伺った。
元々ここに来たのは、キラの叫びを脳量子波が探知した為だ。
しかしいざ覗いてみると、キラはラクスと会話する事で大分気が楽になった様に見える。
(・・・ここは任せた方が良いか?)
場の空気を読むという能力に欠ける刹那であったが、
キラとラクスの空間を壊すのは宜しくない、という事は何となく分かる。
出て行くのが得策では無いと判断した刹那は音を立てぬ様にその場を後にした。

 
 
 

その頃ハンガーでは、損傷を負った機体の修理に人手が足りず大忙しな状態だった。
というのも、先の戦闘でのブリッツによる攻撃で、
火器の多くが損害を受けた為その修理に駆り出されているのだ。
「全く、こんな時にあの無口な旦那は何処ほっつき歩いてるんですかねぇ」
「ホントにねぇ・・・」
ハンガーに収まる蒼いジンを見上げてマリューは深い溜息を吐いた。
ストライクは機体その物は無傷と言って良いし、メビウス0も喪失したガンバレルの取り付けで事足りる。
問題は刹那のジンだ。
機体の消耗が激しいのは何時もの事だが、今回は珍しく大きな被弾があった。
ガトリング砲の斉射を受けた右足がボロボロなのだ。
ボロ切れの様にズタズタにされた外観も痛々しいが、被害は装甲だけでは無い。
フレーム自体は奇跡的に無事なものの、バーニア関係が滅茶苦茶だ。
交換パーツ無しでは修理のしようが無い。そのパーツも無いのだが。
だからといってMSにとって脚部のバーニアは運動能力の要だ。
そのままにしておく訳にはいかない。
マリューが眉間に皺を寄せている間にハンガーに当の刹那が入ってきた。
「おっ、噂をすれば影だ。ラミアス大尉、来ましたよ」
「全く・・・」
マードックが指差す方に刹那の姿を認めたマリューは、
盛大に溜息を吐いてから刹那に向かって手招きした。
何故かは分からないが、彼はどんなに遠くにいても手招きすれば気付いてくれる。

 

「機体の事か?」
「それ以外に無いわ」
ジンを見上げて呟く刹那に、同じくジンを見上げたマリューが言う。
これまで騙し騙し機体を扱ってきて、問題が起こる度に解決案を提示する刹那だが、
これをどう解決するのか。整備士として非常に興味があった。
「膝から下を丸々換装してくれ」
「損傷した方の?」
「いや、両足だ」
機体バランスを考えれば、両足は同じ物である事が望ましい。
しかし、換装するにしても代わりとなるパーツは無い。
「でも、そんなパーツは無いわ」
「メビウスのパーツは沢山あるだろう?膝から下にメビウスのメインスラスターを履かせてくれ」
刹那の突拍子の無い案に、マリューはおろかマードックや他の整備士達も目を点にした。

 

「・・・?今回追加してくれた装備は非常に良く出来ている。
 だが、機体重量が増した影響で機動力が落ちている。このままではダメで・・・」
周りの反応に内心首を傾げながら説明する刹那だったが、
返ってこない反応に段々と声が小さくなる。
「だっ駄目です!」
逸早く我に帰り反論したのはマリューだった。
「メビウスのメインスラスターを2機も搭載したら、稼働時のGで貴方の体が保たないわ!」
マリューの意見は至極真っ当だ。マードックも同意する様に頷いた。
仕様上のG対策しかされていないジンでは、メビウスのメインスラスター2基の加速Gに
パイロットの体が耐えられない。
パイロットがブラックアウトするか、機体が制御不能になるか。
「そこは上手く制御する。それに、俺の体は少し特殊なんだ」
「特殊?」
「・・・いや、何でも無い」
刹那の言葉尻を不思議に思ったマリューだったが、
そのままジンに乗り込もうとキャットウォークに歩いて行く刹那から答えは聞けなかった。

 
 

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