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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第37話

Last-modified: 2011-10-31 (月) 04:04:57
 

フレイが目覚め、どうやら記憶喪失らしいという話は
すぐに刹那やその他のキラ達と親交のある者達の知る所となった。

 

「記憶の戻る可能性は無いの?」
「分からないらしい。中尉の話だとふとした切っ掛けで戻る事もあるし、
 ずっと戻らない事もあるんだとか」
「・・・記憶喪失か」

 

最低限の明かり以外を落としたハンガーで、マリューとムウ、
栄養ドリンク片手の刹那がパイプ椅子に腰かけその事について話していた。
周囲にはイスや床で睡眠を取る整備士達が転がっている。
罰と称して刹那をジンの調整の為缶詰にしたのは良かったが、
機体に施す改造を実際に行うのは整備士達だ。
やる気満々のマリューに彼らが付き合った結果が、今の惨状だった。
「キラ達には影響が無い・・・訳が無いか」
「そりゃそうだろうよ。あの仲良し組が平静でいられる訳がねぇ」
「もう少しで第八艦隊と合流出来るのに、困ったわね」
3人揃って溜息と共にガックリと項垂れた。
マリューの筆頭に整備士達が頑張ってくれたお蔭でジンVer3(仮)は
ほぼ形となっていて、肥大化した脚部を揃え直立していた。
メビウス0もストライクも整備は万端である。
先遣艦隊の時と同様、合流直前の気が緩む時こそ攻撃される可能性は高いからこその備えであった。
ナタルも合流前にもう一戦あると考えている様で、
定期ミーティングでクルーに気を引き締める様に発破をかけていた。
そんな時に、この事態である。一難去ってまた一難、
泣きっ面に蜂という諺がここまで似合う艦も無いのではないだろうか。

 

「で、どうなんだ、ジンの調子は。急造の機体でも使えるか?」
「急造とは失礼ですね。計算では、イージスと
 エールパックのストライク以外と互角の機動性を持っています」
我が子の如きMSを急造品呼ばわりしたムウに向かって、マリューは大きな胸を張った。
「どうせ照準がパイロット任せとか、操作性がピーキーなんだろ?どうなんだ、Mr.色黒」
「確かに、操作性は今までで1番ピーキーだ」
「ちょ、曹長!」
ムウの揶揄に対して素直に頷いた刹那を見、マリューがパイプ椅子から立ち上がった。
まさかの裏切りに顔が赤い。
「最後まで聞いてくれ。操作性は酷いが、
 その分接近戦に持ち込みやすいのだから利点としては十分だ」
言い切る刹那にムウはヒューと口笛を吹いた。
メビウスのスラスターが装備されたジンの足は、まさしくノズルの塊と言える外見である。
それを吹かせば確かに爆発的な推力を得られる。
しかし、元々のジンにそんな数のスラスターを扱うOSは搭載されていない。
その為、追加されたスラスター群は細かい操作が出来ない仕様であった。
オンオフぐらいは出来るが、後はAMBACによる足の向きで操作するしかないのが現状だ。
おまけに速度を出し過ぎると空中分解もあり得るという、
普通の神経を持ったパイロットならまず間違いなく搭乗を拒否するだろう改造である。
それを涼しい顔で利点言い切るのだから、刹那自身がどう考えていようが
第三者からは凄まじい自信に見えた。
パイロット思いのマリューが改造したのだから、刹那なら扱えるだろうという
信頼があっての物ではあったが。

 

「だが、やはりストライクの存在は不可欠だ。3機の保有戦力の中で、
 あれは唯一攻撃を受けられる機体だ。アークエンジェル防衛の要と言える」
「でも坊主がなぁ・・・」
刹那からストライクの話が出ると、ムウは天井を仰いで頭を掻いた。
フレイが記憶喪失になったのは、キラにとっても相当なショックな筈だ。
その直後に、戦力として当てに出来るとは考え難いというのが、ムウの考えだった。
「あの子には・・・色んな事が起こり過ぎよ。普通ならとっくに参ってるわ」
マリューがやんわりとキラは出撃させるべきでないと進言する。
確かに、この一か月にも満たない間でキラは多くの問題にぶつかってきた。
戦争に巻き込まれて友と戦い、人を殺す事への困惑、人種の壁、
敵側の人間との対話、そして今回、身近な者の記憶喪失である。
到底16の少年が抱え切れる事柄では無い。
だが――
「心配無い。キラは戦える」
「なんで分かる?」
言い切る刹那にムウが疑問を呈す。
戦場では、精神的に追い詰められた者は戦力として使い物にならない。
どんな屈強な戦士といえども、心に枷がある状態では動きが鈍るものだ。
心身共に未成熟なキラであれば尚更だろう。

 

「キラには、自分の信じたモノの為なら逃げない強さがある。
 ラクス・クラインの時もそうだった」
「だから今回も大丈夫だと?」
ムウの半信半疑な問いに刹那は頷いき続ける。
「今までも守る為に戦ってきたんだ。
 フレイの事に責任を感じている今、キラの戦いへの姿勢が揺らぐ筈が無い」
「それは・・・」
刹那の言い分は即ち、友達を守ろうとする純粋な気持ちを
戦いに利用しようと言っている様な物だった。
人情に篤いマリューにとっていい顔の出来る話では無い。
「酷い話なのは分かっている。しかし、ここを凌ぐにはそれしか無いのも事実だ。
 死んでは何の意味も無い」
「その通りだな」
最後の一言にはムウも同意した。
こういう時にはパイロット同士でしか共有出来ない物があるらしく、
その度にマリューは軽い疎外感を味わうのであった。

 

マリューが溜息を吐いた直後、設定していたアラームが鳴り響き、
眠っていた整備士達がノロノロと起き上がり始める。休憩終了である。
「じゃあ今後の事も考えて、さっさとジンの最終調整済ませちゃいましょう」
「了解だ」
思い切り伸びをしたマリューが刹那に作業再開を指示した。
「おい俺は?」
前後逆に座ったパイプ椅子の背もたれに寄りかかり、
手持無沙汰に揺らすフラガはまるで子供の様だ。
実際、メビウス0の整備はもう完璧なので、この場で彼にやれる事は無い。
「フラガ大尉は・・・そうね。曹長と調整の手伝いでも頼もうかしら」
「えー、俺MS乗りじゃないんだぜ?」
MSとMAでは使用しているOSが全く異なる。
ムウが調整に参加しても意味があるかは怪しいだろう。
「あら、あのジンの三分の一はメビウスよ?
 スラスターの癖とかは貴方の方が熟知してるでしょう?」
「まぁそりゃあな」
「俺からも頼む」
刹那も頭を下げた。若年の時分頭を下げるという事をしてこなかった刹那だが、
外宇宙から帰ってからというもの、この行為が案外便利な物と認識し重宝している。
「しょうがねぇ、やるか!」
戦友にまで頼まれては仕方ない。ムウは膝を叩いて立ち上がると、
パイプ椅子を片付けに行った。

 
 
 

ローラシア級ガモフは、二度単艦での脚付き追撃の任に就いていた。
ヴェサリウスは近くにいるザフト艦にラクスを引き渡す為、後から合流する手筈となっていた。
「仕掛けるんですか?ヴェサリウスもイージスもいない状況で」
「ヴェサリウスと合流を待っていたら先に艦隊と合流されるぜ?
 そしたら前の艦隊と比べ物にならない大規模な艦隊とぶつかる事になる」
ディアッカに言われ、ニコルは口籠った。
「だが意外だったな。あのゼルマン艦長がこんな強気な作戦に打って出るとは」
「大艦隊とやり合うくらいなら、脚付きとサシで勝負する方がリスクは低いって判断だろうな」
腕を組んで踏ん反り返るイザークと壁に寄りかかっているミゲルがそれぞれに意見を言う。
ミゲルは隊を分ける際に乗機と共にガモフに移っていた。
本当ならアスランも来てくれた方が戦力的には安心出来たのだが、
万一という護衛という事と、ラクス引き渡しの際に婚約者である
アスランがいないのでは示しが付かないという事でヴェサリウスに残ったのだった。
「兎に角、作戦時間は10分だ。それ以上は敵艦隊と衝突する可能性がある」
「10分・・・」
「なんだビビッてるのか?」
「ふん、怖いならお前は出なくていいんだぞ?」
アスランに代わって部隊長を務めるミゲルの説明に、ニコルが不安げに呟く。
すると、ディアッカとイザークが揃ってそれを弄った。
「お前らガキじゃねぇんだから・・・」
しかしディアッカはそれを意に介さずミゲルに言い寄る。
「でも今回の作戦は奇襲だぜ?臆病者が隊にいちゃ、成功する作戦も成功しない」
臆病者と名指しされニコルがディアッカを睨む。
「ああっ?じゃあその臆病者にお前ら模擬戦で何度助けられた?
 勝手にどんどん突っ込んできて、ニコルが撤退の判断してなきゃ全滅してた事もあったよな」
「うっ」
「ニコルのは臆病とは言わない。慎重って言うのさ。一歩引いて物事考えられる奴の事だ」
「・・・・・・」
ミゲルの言に、イザークもディアッカも黙ってしまう。
いくら素行が悪いと言っても、正論に噛み付く程愚かでは無い。
「よし、じゃあ解散だ。別命あるまで待機」
ミゲルが手を叩くと、イザークとディアッカは逸早く
面白くなさそうな顔でパイロット待機室を出て行った。

 

「ミゲル、有難う御座いました」
「別に礼を言われる事じゃない。事実さ」
「でも僕は・・・」
まだイザークとディアッカの言った事を気にしているらしいニコルに、
ミゲルは溜息を吐いて付け加える。
「ニコルはそれで良いんだ。1人はお前みたいな奴がいないと、馬鹿が突出して隊は全滅だ」
「そう、でしょうか?」
「そりゃそうよ。普通は隊長がそういう役割なんだがな、アスランみたいな。
 残念ながら俺は馬鹿の方だからよ」
ミゲルは決して隊のトップに向いた気質では無い。
どちらかと言えば束縛されずに動き、敵の要を貫く遊撃手であった。
皮肉めいた笑顔を作る先輩に、ニコルは頭に浮かんだ心当たりを言葉にした。
「・・・やっぱりあの蒼い奴、気になりますか?」
「当ったり前だろ?俺は今までであんなにコケにされた経験はねぇな。
 同じ青い奴にも出し抜かれた事はあるけどよ、あれとはまた別格だ」
ニコルにも、ミゲルがここまで圧倒されるのを見るのは初めての経験だった。
隊長のクルーゼや彼自身が憧れているハイネ・ヴェステンフルスなどには劣るものの、
ミゲル自身「黄昏の魔弾」の異名を取るエースパイロットである。
その実力はザフト内でも間違い無くトップレベルであった。
それを性能の劣る機体で幾度と無く苦渋を飲ませる蒼い奴とは、一体何者なのだろうか。
「という事だ。俺達の管理はお前に任せるぜ」
「分かりました」
後輩の中でも飛び切り小さい少年は、真剣な表情でミゲルに頷いて見せた。
「よし、お前も休んどけ。神経使う作戦だからな」
「はい」
今度こそは脚付きを仕留める。ミゲルとニコルだけでは無く、
イザークとディアッカもその意思は同じであった。

 
 
 

先遣艦隊から託された第八艦隊との合流予定座標まで後少しという距離まで来たアークエンジェル。
多くの民間人は喜びの表情を浮かべていたが、その居住区の一角には重々しい空気が広がっていた。
「サイ、フレイの様子は?」
「眠ったよ。一通りの事は説明した。ヘリオポリスが壊れた事、
 俺達が安全な場所へ行く為に地球連合軍の手伝いをしている事」
部屋の外で待っていたキラがドアから顔を出すサイに問い掛けた。
サイは、ヘリオポリスが襲撃された日からの記憶を失っていたフレイへの説明役を買って出ていた。
フレイには事前に中尉から説明はされていたが、もう一度身近な者からも説明した方が
情緒も安定するという配慮だった。
「・・・お父さんの事は?」
「言える訳無いだろう?中尉にも止められてる」
俯きながら聞くキラにサイは首を振った。
フレイの記憶喪失は父親を失った事が原因の1つとして考えられていたし、
強いショックを与える様な事は言わないというのが中尉との約束であった。
アークエンジェルでは本格的なカウンセリングなどの治療は出来ないのだ。
「だからこそ、フレイを無事に安全な場所に帰さなきゃならないんだよね」
「・・・あんまり気負うなよ」
「でも、これは僕の責任だから」
そう、フレイを平穏な世界に帰す為にも、アークエンジェルは守らなければならないのだ。
サイはまた1人で背負い込む気かと口を開き掛けたが、
何時にも増して暗い覚悟の色を湛えたキラに言葉が引っ込んでしまう。

 

「心配してくれて有難う。サイの方が大変なのに・・・」
「いっいや、一番辛いのはやっぱりフレイだから、俺はアイツの許婚だし」
「そっか、サイは強いね」
「あ、ああ・・・」
いきなり笑顔を向けてきたキラに、サイは背筋が凍る様な違和感を覚えた。
笑顔自体は今まで見て来たそれと変わらないのに、素直に受け取る事の出来ない違和感。
何かキラに起こっているのかと問い掛けようとして、艦内放送が通路に響き渡った。
『後方にザフト艦を確認、各員第一戦闘配備、繰り返す・・・』
聞き慣れてしまった放送、サイはキラに声をかけようと横を見たが、
彼は既にハンガーに向かって走り出していた。

 

アークエンジェルのハンガーでは刹那とムウの出撃準備が完了していた。
『ふふ、曹長の勘が当たった様ですよ』
『というと?』
『キラ君来ました。何だか凄いやる気ですよ』
ジンのコクピットに響いた報告は喜ぶべきを含んだ物だった。
モニターを見ると、青いパイロットスーツがストライクに走っていくのが確認出来る。
「来たか」
『守る女が出来ると強くなるってか?』
『フラガ大尉、不謹慎です』
無線越しにやり取りをするムウとマリューを思考の外にし、刹那はキラの姿を追った。
キラがストライクのコクピットに収まると同時に通信が入る。
『遅れました。出撃順は、僕とカマルさん、続いてムウさんですよね』
「そうだ」
『了解しました』
出撃順を確認するや否や、キラはハッチを閉じながらカタパルトへ移動する。
まるで戦場に行きたくて堪らないという感じである。

 

「やる気が凄いというのは本当の様だな。だが・・・なんだ?」
そんなキラに違和感を感じる刹那だったが、それが何なのか具体的に分からない彼は
思考をザフト迎撃に切り替えた。
スラスターの増加で重くなった足を引き摺る様にして、ジンを出撃位置まで動かす。
改造して肥大化したジンの脚部はカタパルトに接続出来ないので、
直接スラスターを吹かしての出撃となる。
『システムオールグリーン、ジン出撃どうぞ』
「了解。ジン、カマル・マジリフ出る」
刹那の声に合わせて、足1ずつにメビウス1機分の推力を得た脚部が光に包まれる。
以前までとは比べ物にならない振動がコクピットを揺らした。
続いて刹那が操縦桿を前に倒したのを合図に、抑え込まれていた爆発的な推力が解放される。
体がシートにめり込む程のGを刹那に与えながら、
ジン<Ver3>もといジンメビウスが無重力空間に解き放たれた。

 
 

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