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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第55話

Last-modified: 2012-03-25 (日) 04:50:34
 

刹那とマリューがアークエンジェルのハンガーへジンオーカーを収容し終えると、
マリューは勢いのまま出てきてしまった会談に戻る事になった。
付いて行こうとする刹那だったが
「折角MSが手に入ったんです。本業の方をしっかりお願いします」
と突き放されてしまった。
マリューがいなくてもやれる様な事は、今の内に終わらせておけという事らしい。
装備や改造の要望があったら書き込む様にとデータパットも渡された。
お役御免になった刹那は、とりあえずジンメビウスからジンオーカーへ戦闘用OSを移植する事を考えた。
ジンメビウスの戦闘用OSは空間戦闘用だが、それでも1からOSを組むよりは楽だ。
何より、ジンメビウスの戦闘用OSは刹那の微妙な癖に対応させてある。
マードックに断りを入れようと彼に近付くと、ストライクのコクピットに
明かりが灯っているのが目に付いた。
「キラか?」
「起きて直ぐこっち来てな。戦闘中に弄った接地圧をしっかり設定し直しているらしい」
ストライクは砂漠戦を想定してないからなぁ、
と呟いたマードックに相槌を打ちつつ刹那はストライクのキャットウォークを昇っていく。

 

開け放たれたストライクのコクピットを覗き込むと、黙々とOSを弄っているキラがいた。
モニターの光に浮かび上がったその顔は青白く、まだ本調子という風には見えない。
「キラ」
何時までも刹那の存在に気付かないキラに声を掛けると、
彼はビクッと体を反応させてから刹那に顔を向けた。
「なん・・・ですか?」
「体調はどうだ?」
「大丈夫ですよ。コーディネーターですから」
コーディネーターの部分を強調して、キラは再び作業に戻った。
「・・・・・・」
「・・・・・・なんですか」
質問は終わったかと思いきや、刹那はコクピットの入り口から動かずキラを眺めている。
視線が気になるのか、キラは嫌そうな顔で再度問うた。しかしそれでも刹那は黙っている。
「・・・ストライクは僕の機体です。
 いくらカマルさんでも、乗機が無いからって譲りませんよ」
キラの言葉は僅かに語尾が震え、恐れと緊張が見て取れた。
そんな彼に刹那は親指で背後を指してみせる。
キラが示された方に視線を向けると、
収容されたばかりのジンオーカーがハンガーに収まっているのが見えた。
「あれは・・・?」
「俺の機体だ」
それを聞いたキラは心底安心した様だった。緊張が緩み、座席にもたれ掛る。
全身から疲れが滲み出ているのが分かった。
「お前も適当な所で切り上げろ。
 明けの砂漠との同盟が成れば、戦闘が増える可能性もある」
「了解しました。これを終わらせたら休みます」
そう言って作業に戻ったキラを見届け、
刹那もキャットウォークを降りて自分の機体に向かった。

 
 

明けの砂漠との会談を終えたナタル達は、アークエンジェルに着くと休む暇無く
ブリッジで会議を開く事になった。
明けの砂漠から提供された情報や意見を取り入れ、アラスカまでの進路を考えねばならない。
「とは言っても、実際取れる進路は少ないと思うけどね」
と言うのは、配られた書類を団扇代わりに使うムウである。
アークエンジェルは元々航宙艦である。
いくら高速艦と言ってもそれは2次元機動での話であって、
3次元的、つまり本業の航空機の様に高度を取る事は出来ないのだ。
「やはり彼らの言う通り、海に出るしかないと私は思うけれど・・・」
「しかしそれでは補給が」
山脈を越える事が出来れば楽なのだが、前述の理由でそれは出来無い。
だからといって間に関所の様に立ち塞がる、ザフト地上軍最大の拠点である
ジブラルタルを正面から突破するなど自殺行為も甚だしい。
かなり遠回りではあるが、紅海へ抜けてインド洋から太平洋へ出るのが最も現実的な進路となる。
しかしそれにも補給の問題が付いて回った。
このコースはかなりの距離がある上、ザフトの勢力圏の関係で間に連合の基地は無い。
第八艦隊のお蔭で多くの物資が補給出来たといっても限度があった。

 

「まぁ、そんな事考える前に目先の問題だな」
「砂漠の虎、ですか」
もし紅海へ進路を取るとしても、その為には敵勢力下の砂漠を横断しなければならない。
アークエンジェルは色彩といい大きさといい兎に角目立つ為、交戦は避けられないだろう。
それも考慮に入れた上で、明けの砂漠と同盟を結んだ訳だが。
「ジブラルタルを相手取るのと比べれば、砂漠の虎の方がまだやり様はあるか」
「お、艦長やる気あるねぇ」
「当たり前です。それ以外に・・・道は無い」
どちらにせよ、門番となる砂漠の虎は正面から打ち倒さねばならない様だ。
茶化すムウにピシャリと言い放つと、今ある情報ではこれ以上の議論は意味が無いとし
会議は終了しようとした。
しかしその時、CICに座っていたトノムラから報告が入った。
「艦長、レジスタンス・・・いや、明けの砂漠の連中の様子がおかしいです。
 通信が騒がしい」
「なんと言っている?」
「待って下さい。誰彼構わず喋っている様で・・・」
軍の無線と違う雑然とした通信にトノムラは顔を顰めた。
邪魔をしない様に、ブリッジの全員が押し黙って状況を見守っていると、
やっと状況を把握出来たらしいトノムラが更に報告を重ねる。
「どうやら、彼らの町にザフトが来ている様です。バクゥもいるみたいで・・・」
「どういう事だ」
「ただ戦闘は起きていない様です。何なんでしょう?」
何なんでしょう?と聞かれても、ナタルに答えられる筈が無い。情報が足りない。
しかし明けの砂漠と同盟を組んだ以上、動かない訳にもいかない。
「フラガ大尉、現場に飛んで貰いたい」
「え、俺?」
「アークエンジェルは迂闊に動かない方が得策でしょう。
 それに、スカイグラスパーが1番早いです」
「はぁ、了解」
女性陣2人に言われ、ムウは渋々といった表情でブリッジを出て行った。

 
 

スカイグラスパーで発進したムウは、眼下に見える明けの砂漠の
車両群を追う事で迷う事無く目的地である都市タッシルに辿り着く事が出来た。
「どういうこった・・・こりゃ」
空からタッシルを一回りしたムウは、その不可解な光景に首を傾げた。
町は何処にも損害らしい損害が見当たらない。
崩れた建物も無ければ、火の手の1つも上がっていないのだ。
ムウは明けの砂漠の車両が止まった場所から適当に離してスカイグラスパーを着陸させる。
キャノピーを開き、砂混じりの風に眉を顰めたムウは、何やら人だかりになっている場所に足を向けた。
するとその中にサイーブを発見し声を掛ける。
「どうしたんだ?騒ぎになっているみたいだが」
「ああ、アンタか。実はついさっきまでここに砂漠の虎がいたっていうんだよ」
「どういう事だ?」
事情を聴くと、どうやらバルトフェルドは町で騒ぎを起こしたザフト兵を引き取りにきたらしい。
ザフト兵が騒ぎを起こして引き渡す、なんて事は日常茶飯事だが
砂漠の虎が護衛のバクゥ3機を引き連れての登場は異例だった。
引き渡し自体は滞り無く終わったものの、住人の動揺は計り知れない。
不安げな表情で女子供、年寄が集まっていた。
「で、最後に奴さんは言ったそうだ。
 覗き見野郎がこの辺りにいるから気を付けろ・・・と。言ってくれるぜ」
「脅迫か・・・」
「ああ、アフメドの盗撮がバレていたらしい。
 俺達は何時でも町を焼けるぞ、そう言ってきたのさ」
砂漠の中に町が点在しているここ一帯にとって、町を焼かれる事はそのまま死に直結する。
脅迫としてはこれ以上無い程効果的だった。

 

「で、今は何を揉めてんだ?」
「・・・虎の奴がここを出てまだそう経ってない。
 若い連中が追撃したいと言い出したのさ」
「それは・・・」
見れば、そこかしこで小銃を振り上げた男達が興奮した様子で何やら話し合っている。
「そう、自殺行為だ。俺達の武装じゃバクゥの装甲は抜けない。だから止めてるんだが・・・」
明けの砂漠が重ねていた勝利は、MSが起動する前や出払っている間の奇襲で成り立っている健気な物だ。
間違っても正面から相手が出来る相手では無い。
「ちょっと艦長達と相談してくる。早まるなよ!」
兎に角この状況をアークエンジェルに伝えなければならない。
ムウはサイーブに踏み止まる様に言い含めるとスカイグラスパーに踵を返した。

 
 

ムウの報告を聞いたナタルは顎を撫でた。これは好機かもしれない。
「最悪の事態を想定して動くべきです。明けの砂漠が追撃に出たと仮定して、
 同盟を結んでいるこちらには彼らを援護する義務があります」
『じゃあどうする?流石に俺だけじゃ、慣れない機体でバクゥ3機相手は厳しいぜ』
「カマル曹長のジンオーカーはまだ実戦に耐えない。
 ヤマト少尉を行かせます。エール装備なら間に合う筈です」
「・・・了解した」
上手く行けば、大軍を相手にせずに砂漠の虎を打ち取れるかもしれない。
そうすれば砂漠を横断出来る可能性が飛躍的に高まる。
もし罠だったとしても、今のストライクとスカイグラスパーなら即時撤退も容易だろう。
キラが不安定になっているのが不安要素だが、彼は既に軍人だ、やってもらうしかない。
ナタルはハンガーのマリューにストライクの発進を指示し、
スカイグラスパーの位置が表示されているモニターを見やった。
自分が出来る事は全てやった。どう転ぶかは現場次第である。

 

パイロットスーツを着込んだキラがストライクに乗り込むと、
直ぐにミリアリアから通信が入った。
『フラガ大尉から連絡が入りました。明けの砂漠はバルトフェルド追撃に出た様です』
「じゃあ」
『はい、ストライク発進して下さい』
「了解」
キラは素早く機器をチェックするとコクピットハッチを閉じた。
それに気付いたのか、ハンガー内を表示したモニターに映る刹那が、無線機を手にこちらを向いた。
『話は聞いた。俺は出れないが、フラガ大尉と上手く連携して戦ってくれ』
「この前も1人で出来ました、やってみせます」
バクゥ3機ならこの前の戦闘で撃破出来た。
今度はムウのスカイグラスパーと、戦力としては当てにならないが明けの砂漠もいる。
刹那抜きでも十分やれる筈だ。
『・・・無理はするな』
「・・・了解」
ぶっきら棒に応えて、話はこれまでだと言わんばかりにストライクを起動させた。
足をカタパルトに載せたストライクに、何時もと同じく装備が装着されていく。
速度重視の為、ガンランチャーは装着しない。純粋なエール装備である。
「ストライク、出ます!」
灰色のストライクが、カタパルトの勢いを借りて空へ舞いあがる。
高機動型のエールだが、大気圏内での飛行能力は無い。
ストライクは砂の上に着地すると、しっかりと砂を掴み、エールの推力を借りて再び跳躍した。
接地圧を調整した成果がしっかりと出ている証拠であった。だが、まだ遅い。
「まだだ。もっと、もっと!」
キラはキーボードを引出し、更に無駄を減らそうとキーをタッチする。
数値を微調整すると、1度の着地ごとに無駄が省かれ、コンマ単位で接地時間は短くなっていく。
「早く・・・早く!」
ストライクの動きは跳躍を繰り返すごとに、 まるでハードル走のアスリートの如く洗練されていく。
加速度的に動きが滑らかになっていくストライクを技術者が見たら、その進化の仕方に頭を抱えるだろう。
砂丘をモノともせず、まるでここが整備されたトラックの様に動くストライクは、
文字通り飛ぶ様に暁の砂漠を駆けていった。

 
 

砂漠に日が昇る。
ダコスタが運転する車両の助手席で、バルトフェルドは眠そうに欠伸をした。
後部座席では酔っぱらったザフト兵数名が豪快なイビキをかいて眠っている。
戻ったらたっぷりと罰を与えられるというのに、何とも呑気なものである。
車両を中心にV字隊形を維持するバクゥ3機も何処か退屈そうに見えた。
「隊長、いいんですか?」
「ん?」
惚ける隊長にダコスタは溜息を吐いた。
「こんな速度じゃ追撃されますよ」
「君なら分かってるんだろう?この作戦の意図を」
「・・・・・・」
ダコスタは根が真面目で青い、有効な手段を思い付いても思考がそれを邪魔してしまう。
能力的には隊長として十分通用する彼が、副官の地位に甘んじているのはその為だった。
「あの程度で黙ってくれる連中なら、我々が直接手を下さなくても自然に空中分解するさ。
 だがここで刃向ってくる様な根性があるなら、後々面倒になる前に踏み潰させて貰う」

 

明けの砂漠による被害は、重要度の低い補給基地やら散発的なザフト兵の殺害が主だ。
初めは気にも留めていなかったが、塵も積もれば山となるとはよく言ったもので
そろそろケジメを付けなければならない時期に来ていた。
追撃に来なくとも、この件で必ず組織は抗戦派と穏健派に別れて空中分解する。
どちらにせよ、明けの砂漠は終わりだ。
「向こうは自走砲が精々ですよ?バクゥ相手に刃向ってくるなんて思えませんが・・・」
「その為に、僕がこうやって出張った訳だよ」
「怖い人ですね、全く」
目標を達する為に、有効なら自分の身さえ晒せるのがバルトフェルドという男であった。
そんな彼を信頼しているからこそ、ダコスタは彼の作戦に、本当の意味では反論しない。
今回も作戦は砂漠の虎の思惑通りになるだろう。
「死んだ方がマシなんて台詞は三流創作にはありがちだが、
本当にそんな思考あるのかね?」
「そうですねぇ・・・」
バルトフェルドは自身を知性に支配された人間だと自負している為、そんな思考は想像も出来ない。
ダコスタもどちらかといえばバルトフェルド側の人間なのか、分からないという風に首を傾げた。
それとほぼ同時に、後方を併走していたバクゥが後方へ首を動かす。
『隊長、後方に動体反応。車両が6・・・いや8!』
「こちらでも確認した」
無線で報告してきたパイロットにダコスタが返す。
バックミラーには砂丘から飛び出してくる数台の車両が確認出来る。
「はぁ、どうやら死んだ方がマシという思考は本当にあるらしいな。
 三流創作も馬鹿に出来ん」
「では?」
「決まっている」
バルトフェルドは頭を掻くと、バクゥ全機に迎撃命令を出した。

 
 

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