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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第57話

Last-modified: 2012-03-25 (日) 05:26:12
 

明けの砂漠のキャンプでは、何時もなら聞く事の無い子供達の遊び声が響いていた。
砂漠の虎追撃から2日、ザフト兵を引き渡した町の住人の中には
町にいる事を不安がる人々もいて、明けの砂漠は彼らを保護していた。
「大丈夫なのかねぇ坊主」
「マジリフ曹長に考えがあるんじゃないかしら」
「まぁ気分転換って意味もあるんだろうが・・・」
アークエンジェルのハンガーでは、手持無沙汰にパイプ椅子をガタガタと揺らすムウと、
部下の作業を見守るマリューが前日決まった取引の件を話していた。
多数の死傷者を出したこの前の戦闘で戦意を削がれたと思っていた明けの砂漠だが、
サイーブはすぐに行動に出た。
それが砂漠の虎の本拠地と化している都市バナディーヤで地元の権力者として君臨する、
アル・ジャイリーとの取引だった。取引といっても勿論真っ当な物では無い。
アルは武器商人であり、今回の件も、惨敗を喫して武装の強化を迫られた上での物だった。
惨敗に動揺が走っている組織で、リーダーまで何も出来ないのでは組織は瓦解する。
こんな時だからこそ、迅速な対応で信頼を集めなければいけないのがサイーブの立場であった。

 

取引には、明けの砂漠からサイーブとキサカ、
アークエンジェルからはナタルとトノムラが出向く事になっていた。
同時に、取引中に町を見張り異変が起きたら伝える役も必要だ。
街中に紛れる事を要求されるその役には、堅気には見えない明けの砂漠メンバーの中で
唯一まともなカガリが選ばれた。
ただ彼女だけでは有事の際に不安があった為護衛を加える事になったのだが、
それに選ばれたのが刹那だった。
指名の理由は一見すると戦闘員には見えないから、らしい。
当初はその2人で見張り役をする事になっていたのだが、
刹那が突然キラも護衛として同行させたいと言い出したのだ。
「ナタルは顔を顰めてたわね」
その時のナタルの顔を思い出して苦笑いする。
パイロットが2人も艦を離れる事になるのだ。艦長からすれば快く許可出来る話では無い。
結局、キラに息抜きをさせたいという刹那の説得でナタルも許可を出した。
「なに、スカイグラスパーも完璧に調整済ませたし、敵襲があったって俺1人で何とかするさ」
「ふふ、期待してるわ」
ストライクからデータを貰った事で照準の調整は完璧だ。
腕捲りをして意気込んで見せるムウに、マリューは笑いながら相槌を打つ。
「しかしなんだ、また曹長の奴はすげぇ注文を出したのか?装甲全部外すなんて大事だぜ」
「ええまぁ・・・でもジンメビウスに比べたら要求技術は低いわ」
ムウが視線を前方に向けると、茶色い装甲を剥がされて
フレームが剥き出しのジンオーカーが直立していた。
そこに整備士総出で取り付いている光景は、知らない者が見れば中々大事の様にムウからは見える。
実際は、整備士達の技術向上を図った勉強会も兼ねている為そう見えるのだった。
今整備士達に直接指示を出しているのは、整備班の副官的存在であるマードックである。
「ザフトのMSをこんなに完全な状態で見られる機会はあまり無いし、
 宇宙にいた頃はそんな暇は無かったから・・・。勿論難しい作業の時は私も参加するわ」
「部下が多いと大変だねぇ」
「貴方の部下も、一癖二癖あって大変そうだけど?」
「その通りだな」
マリューに言われ、ムウも苦笑いを浮かべた。
預かる人員が多いのと、問題児を預かるのでは苦労の種類が違うが、
それでも人を預かる大変さは互いに理解している。
そうなると、2人の会話は自然と、両方の苦労を背負っている人物の話に移っていった。

 

「ナタルは大丈夫なのかしら。最近寝てないと聞いたけど」
「艦長候補生とはいえ、いきなり指揮する事になったのがこの艦だもんな。
 まぁでも大丈夫みたいよ」
「何故?」
不思議そうな顔をするマリューに、ムウは分からない?と焦らしてみせる、が。
「分かりません」
「もう少しリアクションくれよ寂しいなぁ」
返事の速さとあまりの淡白さにムウは頭をがっくりと下げ、少し経ってから漸く口を開いた。
「ノイマンがいるだろ?あいつ世話好きだから大丈夫って意味だったの。
 今回も自分が同行するって聞かなかったからな。
 結局、操舵手がいないともしもの時に困るってんで残ったが」
「それはそうでしょう。彼、ナタルの事好きだもの」
「えっ」
マリューの口から出た情報に固まるムウ。
「あら、知らなかったの?」
「・・・知らなかった」
何時もハンガーで機械と部下しか相手をしていないし興味が無いと思っていたマリューが、
まさかそんな色事の情報を持っていたとは。暫し2人の間に沈黙が降りる。
「でもまぁ、こんな状況じゃそんな事してられる余裕無いものね。さっ、仕事仕事」
「お、おう」
それだけ言うと、マリューはスパナを持った腕をグルングルンと回し部下達の中に混ざっていった。
「・・・・・・」
残されたムウは待機中で仕事も無く、一人寂しく飲料チューブを吸うのだった。

 
 

久しぶりに私服を身に着けたキラは、強い日差しの中、着いた町を見回して首を傾げた。
「・・・本当にここが虎の本拠地?随分と平和そうな・・・」
目の前では子供達が遊び、通りでは市場に人が屯している。
サイーブ達取引を行うチームと別れたキラは、
目の前に広がる賑やかで活気に溢れた都市バナディーヤと、
砂漠の虎の本拠地だと聞いていた都市バナディーヤとにギャップを感じていた。
「フン、こっちに来てみろ」
不思議そうに辺りを見渡すキラにぶっきら棒に言って、カガリは通りから外れた路地へと刹那達を案内する。
建物が密集しているかと思いきや、大して歩かない内に突然視界が開けた。
キラは唖然とし、刹那は眉を顰める。
その開けた空間の正体は、どう見ても艦砲による砲撃の後だ。
バラバラになって拉げた残骸を見ると元は建物があったのだろうが、
今見る空間に何が建っていたのかを想像するのは難しい。そしてその向こうには、
辺りの建物の高さを優に越える戦艦レセップスがその巨体を覗かせていた。
「見せしめさ。ブルーコスモスが根城にしてるって噂が立っただけで、
 ここにあった店は跡形も無く吹っ飛ばされたんだ」
「・・・・・・」
「虎は、部下が勝手にやった事で当事者は厳重に処罰したなんて言っているが、どうせ嘘っぱちだ」
武装も持たない植民地と化した町を睨む巨大戦艦。
余りにも分かり易い強者と弱者の関係に、流石のキラもこれには何も言えず、
黙って俯くしか無かった。
「行こう。合流は4時間後だ」
「分かっている」
何時までもこの光景を見ていても始まらない。
促す刹那に、カガリは鼻息を一つついて路地を引き返す。
「キラ、お前もだ」
「・・・分かってます」
刹那に背を向けたまま動かないキラは、口ではそう言うものの砲撃跡から動こうとしない。
刹那は罪に喘ぐその背中に言葉を重ねた。
「・・・分かっていると思うが、これをやったのがコーディネーターだからといって、
 お前とは関係の無い話だ。だから・・・」
「分かってます!」
言葉を遮って、キラはカガリと同じ様に路地を引き返していく。
刹那も砲撃跡を目に焼き付ける様に見詰めてから後に続いた。

 

取引を行うチームは、アル・ジャイリーの屋敷で取引内容を確認した後、
ファクトリーと呼ばれる倉庫に足を踏み入れていた。
中には所狭しと荷が積み重ねられ、巨大な外見の割に内部では歩くスペースが限られている。
彼が武器商人という事を考えれば荷の中身は容易に想像出来たが、
これだけの規模となるとこの一帯でも相当大きな勢力を誇るのだろう。
「おい、例の物を」
手には宝石類、首には金のネックレスという
典型的な成金趣味の中年男性であるアル・ジャイリーが手を叩く。
すると従業員達が台車に乗せた荷をサイーブ達の前に集め始めた。
「お待たせしました」
アルは禿げ上がった頭を光らせ、慇懃無礼な態度でそう言うと従業員に荷を開けさせる。
中から顔を出したのは、物々しい弾薬や機器の類だ。
「水と食料、燃料等は既に用意させてあります。あとは、問題の品の方ですが・・・。
 75mmAP弾、モルゲンレーテ社製EQ177磁場遮断ユニット、
 マーク500レーダーアイ、希望された品は全て揃います」
「げっ、これ純正品じゃないか」
「横流し品か」
機器に詳しいトノムラが中身を改めると、新品の軍用モジュールが顔を出す。
ナタルも呆れた様に溜息を吐いた。
「ふっ、この商売をするなら、独自の地下水脈を1つや2つは持っているものですよ」
「そんな事は分かっている。で、どうなんだ?それでいいか」
「ああ、問題無い」
ここにある荷の大半はナタル達が発注した物だ。長旅の備えである。
サイーブの問いにナタルが首を立てに振ると、アルはいやらしい顔を笑顔に歪めた。
「では・・・」
「分かっている、見せろ」
サイーブはアルの手にあった明細を半ば奪う様に受け取った。
トノムラも横からそれを覗き見る。並んだ数字に、彼の顔は先程以上の驚愕に歪んだ。
「なんだ、この額・・・!?」
1番下に表示された数字は、桁を1つ2つ間違えているのではないかという巨額であった。
その中でも、特に水は法外な値段と言わざるを得ない。
発注した弾薬、機器類と殆ど変らない額だ。
トノムラの狼狽えぶりに、アルは嘲笑する様に口を開く。
「貴方方の土地とは違って、ここでの水は命を繋ぐ何よりも代え難い物です。
 それなりの額を致し方無いとご承知下さい」
「・・・で、支払いはアースダラーで良いのか?」
「結構です」
サイーブがあっさりとその額を払うと聞いて、トノムラはもう声も出ない。
多少大きいだけのレジスタンス組織の、一体どこにそんな資金があるのか。
「なんなんですかね。俺もう付いて行けないですよ」
明細にサインするサイーブを見ながらトノムラがナタルに耳打ちする。
終始平静を保つナタルだったが、これは確かにおかしな光景だ。
明けの砂漠には何やら大きなスポンサーが付いているらしい。
だが同盟といっても一時的な関係でしか無い彼らに、
そこまで詮索する必要も無いとも思う。下手に詮索して、関係を崩すのは面白く無い。
「荷は何時もの場所に送らせろ」
「分かっておりますよ」
「引き上げるぞ、あんたらも」
サインが入った明細を受け取り、商人らしくヘコヘコと頭を下げる
アルを一瞥する事も無く、サイーブは倉庫の出口へと歩を進める。
少しでもアルの顔は見ていたくないといった様子であった。
ナタルとトノムラも、彼の後を追って倉庫を後にした。

 
 

キラ達もナタル達が取引を行っている間、何もしていない訳では無い。
個人が要望する様な細かい品は、町の市場が1番揃うのだ。
買い物はカガリが行い、キラは護衛兼荷物持ち、
刹那は彼らの周辺を見張る為、遠目から他人のふりをして見守る。
買い物も終盤、これと言って怪しい人影は無い。
刹那は新聞に目を通すふりをしながらキラとカガリを目で追った。
出発前はムウが2人の仲を心配していた様だが、案外上手くいっている様だ。
といっても、買い物のリストを見ながらあーだこーだ言っているカガリに
キラが黙って付いて行っているだけなのだが。
2人はいい加減歩き疲れたのか、オープンカフェの一角に腰を下ろした。
刹那も離れた場所に席を確保し、やってきたウェイターにホットドッグを注文して様子を見る事にした。

 

キラはやっと重い荷物を降ろせると、自分の隣の席にドサリと荷物を降ろした。
大き目のリュックから溢れんばかりに詰まっていたパンやらハムやらが、
反動で落ちそうになる。
「おいもっと丁寧に扱えよ。割れ物もあるんだからな」
「・・・ごめん」
カガリは、疲れているせいなのか覇気の無いキラと向かい合う位置に座った。
「なんだ、私を殴った時の威勢はどこいったんだ?」
「なっ、あれは・・・」
「ただのお返しだよ」
気にすんなと笑って見せるカガリ。殴ったのはやり過ぎたと反省していたキラだったが、
カガリ本人は思ったより気にしていないらしい。
アフメドといったか、彼がこの前の戦闘で命を落とし、
その亡骸を抱いて泣いていた少女とは別人の様だった。
何時までも仲間の死を引き摺っていてはレジスタンスは務まらないという事か。
ウェイターを捕まえて注文するカガリを眺めながら何ともなしにそう考える。
それに気付いたのか、注文を終えたカガリがズイッと顔を近付けてきた。
「人の顔ジッと眺めてなんだ」
「い、いや別に」
「ならリュック取ってくれ」
カガリに言われた通り荷物をカガリに渡すと、
彼女は買い物リストを見ながら暫くリュックの中身を確認していく。
「まぁ大体は揃ったな。だがこれ、フレイとか言う奴の注文には無理があるぞ」
そう言って寄越された買い物リストには、買っている事を表すチェックマークが無い物がいくつかあり、
どれも化粧品関係だ。
男のキラにはそれがどう無理なのかよく分からない。
ここなら正規不正規問わなければ何でもありそうなものだが。
「エリザリオの商品なんてここにある訳無い。あんな高級品、ウチにでも帰らないと・・・」
「えっカガリは持ってるの?」
キラの問いに、カガリはギクリと肩を上下させた。
「そっそんな訳無いだろう!?あんな高級品、広告でしか見た事無い!ほら、メシも来たぞ!」
明らかに怪しい慌て方だったが、それを追及するにはキラの腹は空き過ぎていた。
ウェイターが持って来た料理が目の前で良い匂いを放っている。
直ぐにでもありつきたい気分であったが、
しかしキラはその見た事の無い料理を見て固まってしまった。
「もしかしてお前、ドネルケバブ知らないのか?」
「ドネル・・・ケバブ?」
広がったままのクレープの様な料理の名前を聞き、キラは首を傾げた。
カレッジの学食にはそれなりに豊富なメニューが並んでいたが、
こんな料理は聞いた事も無い。
「仕方ないなぁ。ほら、見てろよ」
カガリは面倒臭そうに、僅かに得意気に、ドネルケバブと一緒に運ばれて来た
白と赤のソースの内の赤い方を取ると、料理の上にかけようとする。

 

「ちょっと待ったぁ!」
「ああ?」

 

横からよく通った声が響き、2人揃って声の方に顔を向ける。
すると、何時の間にやってきたのか、テーブルの前にイカレたアロハ姿の男が立っていた。

 
 

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