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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第59話

Last-modified: 2012-04-04 (水) 04:42:52
 

3人が車上の人となって十数分、
この辺りでは珍しい、緑生い茂る中からバルトフェルドの根城が姿を現した。
10階程の建物が4棟で構成されたそれは、大きさは兎も角、意外にも飾り気はあまりなかった。
元はバナディーヤの中枢を司っていたのだろうその建物は、
如何にも役人が務めていたという雰囲気を放っている。
しかしその周りに配備されたザフトのMS―――ジンオーカーや装甲車、軍人達が、
ここが敵の本拠地である事を教えていた。
「さぁ着いたぞ、案内しよう」
バルトフェルドは友人に自宅を紹介する様な気軽さで、3人を建物の中へと案内した。
中も特別豪華な内装な訳ではなく、迎える客に失礼の無い程度の落ち着きを持っていた。

 

「この子ですの?アンディ」
「ああ、アイシャここにいたのか。彼女を何とかしてくれ。
 ソースを頭から被ってしまってね」
警備が並ぶ廊下の角から、腰まで伸ばした黒髪にオレンジ色のメッシュを入れたアジア系の女性が現れた。
アイシャと呼ばれた女性はカガリを無遠慮に眺めてから、呆れた様な笑顔を作る。
「ケバブね?そんなに好きならここにケバブ職人でも雇えば良いのに」
「馬鹿を言え。ケバブは外で食べるから美味いんだ」
「はいはい」
警備が物々しい雰囲気を醸し出している室内で、バルトフェルドに気安く話し掛ける女性。
バルトフェルドも気にせずに対応している。ザフトの兵士には見えないが、
バルトフェルドと個人的に関係がある人物なのかもしれない。
「それと、彼女は僕の命の恩人だ。くれぐれも丁重にな」
「あら、なら念入りに綺麗にしないとね」
「カガリ!」
バルトフェルドはそう言うと、アイシャが出てきた角の部屋へ歩いて行く。
アイシャもカガリの肩に手を置き、向かい側の部屋へ誘導しようとする。
目の届かない場所へ連れて行かれようとするカガリに、
キラは強い不安を感じたのか必死な形相で彼女を呼んだ。
その様子に、アイシャは少し困った顔をしてからキラに一言告げる。
「そんなに心配しないの。女は綺麗になる過程を男に見られたくないものよ?
 ほら、アンディの方へ、彼待ってるわ」
「・・・・・・」
黙って頷いた刹那が、心配そうにカガリを見るキラをバルトフェルドの待つ部屋へ促した。

 

刹那とキラがドアの前に立つのを見計らって、バルトフェルドが2人を迎え入れる。
部屋は元々応接間だったらしく、廊下の内装より幾分豪華な調度品が並んでいた。
バルトフェルドは隅にあるテーブルでコーヒーを淹れている。
「コーヒーには些か煩くてね。軍の支給品じゃ我慢できなくて、色々試しているのさ。
 幸いここなら、豆の調達には事足らないからね」
「・・・銃は取り上げないのか?」
バルトフェルドの根城に足を踏み入れた刹那達だったが、
ボディチェックはあったのに銃はそれぞれの腰に刺さったままだ。
仮にも高級軍人であるというのに、不用心にも程がある。
刹那の指摘はもっともだったが、バルトフェルドはやれやれと言った様子で首を振った。
「何を言い出すかと思えば・・・。君達は客人だ。
 客人には身を守る権利というモノがあるだろう?そういう事だ」
「有難う・・・御座います」
そう言いながら渡された芳醇な香り漂うカップを受け取り、刹那とキラは口を付ける。
次の瞬間、キラは若干首を傾げ、刹那は一見仏頂面ながらも見知った人間なら分かる程度に顔を顰めた。
「あら、微妙だったかな?・・・・ああ、こりゃ失敗だな」
彼らの反応にバルトフェルドも口を付け、自分でも配合を間違えたと認めた。
「うーんいけると思ったんだがなぁ。モカマタリを更に5%減らしてみたんだが」
「まず、コーヒーの配合を%で調整するのが間違いだろう」
「おお、言うねぇ。じゃあどんな感じが良いかアドバイスを頂きたいな」
「じゃあまず豆を見せてくれ」
コーヒーの事について話始めたバルトフェルドと刹那。
その無論キラにはよく分からない話だ。
敵の中枢に潜り込んで嗜好品の話とは、一体刹那は何を考えているのか。
そう、敵の中枢にいるという事実がキラを焦らせていた。

 

キラは何時に無く饒舌になっている彼の背中を見、その向こうにある、
テーブルの上に置かれた化石らしき置物に視線を移した。
見覚えのあるそれはエヴィデンス01、地球外生命体の存在を示す手掛かりとして、
ジョージ・グレンによってもたらされたものだ。
「それが気になるかい?」
「あっ、いえ」
キラが手持無沙汰にそれを眺めていると、コーヒー談義が一段落着いたのか、
バルトフェルドが話し掛けてきた。どうやら淹れ直したコーヒーを渡しにきたらしい。
内心心臓が飛び出る程驚いたキラだが、何とか平静を装ってコーヒーを受け取った。
「信仰しているのか?」
エヴィデンス01はその存在の特異性の為、一部の人間からは信仰の対象になっていた。
ワザワザここにそれのレプリカを置いているという事は、
バルトフェルドもその1人なのかと刹那は尋ねたのだ。
しかしバルトフェルドは大した感慨も見せずに首を振る。
「まさか。でもコイツは、プラントからしたら希望の象徴でね。
 コーディネーターはまだまだ先に行けるっていう物的証拠さ。
 まぁ、これを置くのが指揮官のステータスみたいなものなんだ」
「・・・貴方はそう思っていないと?」
「ん~そうだねぇ」
淹れ直したコーヒーに口を付け、バルトフェルドは慎重に言葉を選んでいる様だった。

 

「広告心理学者として言わせて貰えば、
 プラントで大々的に言っている様な進歩は・・・まぁ無理だろうな」
プラントでは、コーディネーターはまだまだ進歩し続けるとして
大々的なプロパガンダが日夜流れている。
本業を広告心理学者としているバルトフェルドからすれば、鼻に付く話であった。
「例えばパトリック・ザラが言う様な数学的能力の向上や運動能力の向上は、
 それこそ脳が2つとか四足歩行でもしない限り無理だ。
 今の技術でもそれは叶うかもしれんが、それはもう人間じゃないだろう?」
「だが、プラントはそれを目指している」
「それがこの戦争の根っこさ。可能性に取り残されたと感じたナチュラルと、
 ナチュラルに対抗する為、アイデンティティを守る為に
 可能性をより先鋭化せざるを得なかったコーディネーター、
 その対立が今日の殺し合いの発端さ」
「では・・・」
淡々と話すバルトフェルドに刹那が更に問おうとした丁度その時、
部屋のドアが開き、特徴的なオレンジ色のメッシュが顔を覗かせた。
「アンディ。ほら、恥ずかしがらないの」
「おやおや」
「えっ・・・」
「・・・・・・」
アイシャに続いて部屋に入ってきたのは、エメラルド色のドレスを着た少女だった。
ブロンドの髪は綺麗に纏められ、歩を進める度白いハイヒールが音を立てる。

 

「・・・カガ、リ?」
「誰だと思ったんだ誰だと!」
確認する様なキラの口調に、今まで下を向いていたカガリは
何時もの男勝りな調子で噛み付いた。
股を開き腕を突き出すその姿勢は、到底ドレスを着てする物では無い。

 

「いや、何があったのかと思って・・・」
「何かなきゃこういう格好しちゃいけないのか!」
「そういう訳じゃ・・・」
その剣幕に、キラは半歩下がりながら弁解する。
しかしそれは逆効果に終わった様で、カガリは怒りの表情のまま大股でキラへ迫っていく。
追い詰められていくキラに、思わぬ所から援護射撃が加わった。
「ドレスもよく似合うねぇ。と言うか、そういう姿も実に板に付いてる感じだ」
「そうね。着慣れていない子じゃ、ここまで動けないもの」
「・・・勝手に言ってろ」
確かに、ハイヒールに慣れていなければあんな大股で迫力のある歩き方は出来ないし、
アグレッシブに腕を動かしているのにドレスも全く着崩れていない。
バルトフェルドとアイシャの意味深な言葉に気が削がれたのか、
カガリはフンッとキラから視線を外すと今度はバルトフェルドに噛み付いた。
「そう言うお前こそ、ほんとに砂漠の虎か?何で人にこんなドレスを着せたりする?
 これも毎度のお遊びの1つか!」
「ドレスを選んだのはアイシャだ。
 ご覧の通りここは男所帯でね、人の服のコーディネートなんて中々出来ないのさ」
今まで大人しくしていて溜まった鬱憤が爆発した感じだった。
キラが一瞬ヒヤリとしたカガリの問いにも、バルトフェルドは気にしない様子で返した。
アイシャも笑って頷く。
「しかし毎度?僕と君は初対面の筈だが」
キラがホッとした次の一瞬、鋭くなった虎の眼がカガリを射る。
カガリはそれに負けじと声を張り上げた。
「変装してヘラヘラ街で遊んでみたり、MSで住人を脅したり、ってことだ!」
「カガリ」
刹那がカガリを制した時には遅かった。
バルトフェルドは、今までの飄々とした風を脱ぎ去り、
砂漠の虎と畏れられるザフトの司令官としての顔が現れる。

 

「・・・君も死んだ方がマシな口かな?」
「何だと・・・!」
静かな、しかし明確な警告の言葉がキラ達に向けられた。

 

「そっちの、君達はどう思ってんのかな?」
「えっ?」
暴発寸前のカガリに興味を失ったのか、バルトフェルドはキラと刹那に問いを投げた。
突然向けられた矛先に、キラは何を言って良いのか分からない。
「さっきコーヒー好きな彼との問答の発展系さ。
 どうなったらこの戦争は終わると思う?モビルスーツのパイロットとしては」
「なっ!」
「お前、何でそれを!」
キラがMSパイロットである事をあっさり看破したバルトフェルドに驚くキラとカガリ。
「なに、簡単な推理さ。ここに来れば誰もが緊張するが、
 君らの緊張の仕方は敵地に乗り込んだ兵士の物だ。
 そしてMSハンガー特有の臭い、もう少ししっかりシャワーは浴びるべきだな。
 そんな臭いをさせている者で、そんな綺麗な指をしているのはパイロットぐらいだ」
「・・・・・・」
バルトフェルドの的確な推理に、キラはぐうの音も出ない。
彼の話の通りなら、車両に乗っている間に既に正体を気取られていたという事だ。
己の未熟さに唇を噛まずにはいられなかった。
「話を戻そう。戦争には制限時間も得点もない。
 スポーツの試合のようなねぇ。ならどうやって勝ち負けを決める?」
「それは・・・停戦条約とか・・・」
「そうなら良いのだがね」
キラの模範的な返答にバルトフェルドは苦笑いする。
「これは民族闘争なんだよ少年。もっと大袈裟に言えば、種の生存を賭けた闘争だ。
 形としての戦争が終わった所で、互いの憎しみは止まらない。民族闘争は終わらないのさ」
「そんなの、答えなんて無いじゃないか!」
バルトフェルドの問いは、初めから答えの無い、意地悪な謎掛けの様にカガリには映った。
「残念ながら、あるんだよねぇ、これが」
「じゃあ言ってみ・・・!」
溜息を吐きながら言うバルトフェルドにカガリが噛み付こうとするが、
途中で言葉に詰まってしまう。その視線の先には、虎の構える黒々とした銃口があった。
「答えは・・・敵である者を全て殺す、だ」
しかしバルトフェルドは発砲しない。
彼が銃を抜くのと同時に、もう1つの銃口がバルトフェルドに狙いを定めていたからだ。

 

「撃たないのかね?このままでは彼女のドレスが赤く染まる事になるぞ」
「・・・貴方は引き金を引かない」
「ほう」
断言する刹那を見、バルトフェルドは続きを促した。
「敵である者を全て殺す・・・それは貴方の答えでは無い、ただの諦念だ。
 諦念で引き金は引けない」
「諦念、か。なら君はどうするのかな?二分されたこの世界で」
「分からない」
「質問の答えになっていないな!」
若干の苛立ちを含んだ声と共に、バルトフェルドの銃口が刹那に向いた。
緊迫した空気が更にその重みを増す中、両者が銃口を突き付けあう。
誰も不用意には動く事が許されない空間。その中で、先に銃を降ろしたのは刹那だった。
「どういうつもりかな?」
刹那の行動に怪訝な目を向けるバルトフェルド。キラとカガリも目を丸くする。
何時撃たれてもおかしく無い状態で、刹那はゆっくりと口を開いた。
「分からない。分からないが・・・
 少なくとも、今貴方と撃ち合う様な事はせずに済む筈だ」
「・・・成程」
緊迫した空気に似合わぬ優しい声色の言葉に、
バルトフェルドも毒気を抜かれたのかあっさりと銃を逸らした。
肩を竦ませ、やれやれといった様子である。

 

一触即発の事態を免れたかに見えた両者だが、響いた鉄の音に再び緊張が走る。
銃を降ろしたバルトフェルドに、更に別方向から銃口が向けられたのだ。
「キラ!」
「アンディ!」
震える手で構えられた銃が、バルトフェルドに向けられた。
刹那が制止の声を発するが、構えたキラの視線は銃口同様バルトフェルドから動かない。
刹那の銃がバルトフェルドを狙った時にも動じなかったアイシャが、彼を庇う様に銃口の前に立った。
再び銃を向けられる形となったバルトフェルドだったが、
アイシャをそっと退けて銃口の前に身を晒す。
キラと視線が合い、銃を向けられた者とは思えぬ冷静さで口を開いた。
「止めた方が良いな。
 見知らぬテロリストを撃てぬ君が、話をした僕を撃てる道理は無いよ」
「うっ、撃てます!」
「僕を撃てば、君の仲間はここで死ぬ事になるぞ。
 ここにいるのは全員、君と同じコーディネーターなのだからな」
「何故・・・それを・・・」
震える手のままキラは意気込んで見せるが、静かに述べられる事実に目を見開いた。
「君のMS戦を見たよ。1度は手合せもした。
 瞬時にOSを書き換えるなんて、並みのコーディネーターでは出来ない離れ業だ。
 そんな事を出来る奴がナチュラルだと思う程、僕は節穴じゃあ無い」
クルーゼ隊の齎したデータによれば、連合はまだナチュラル用OSの開発に成功していない。
「不思議なモノだ。あんなに凶暴にバクゥを屠る君が、人を撃つのに躊躇する」
「それは・・・!」
「バーサーカー、とでも言うのかね」
「バーサーカー・・・」
突然出てきた単語をカガリが反芻する。
「まぁそんな事はどうでも良い。
 君がどういう経緯で同胞と道を違える事になったかは知らないが、
 そうして銃を向ける以上、君と僕は敵だという事だ」
「・・・・・・!」
そう言ってキラを睨むバルトフェルドの目は、何の含みも無い、
抜き身の敵意をキラに向ける。
キラは既に、引き金を引きたくても引けない状態になっていた。
「・・・青年。これでもまだ、闘争は平和的に終わると思うのかね?」
「・・・・・・」
沈黙する刹那。しかしその瞳は、銃を向け合った時と何ら遜色の無い光を放っていた。
「まったく頑固だねぇ。理想家なのか夢想家なのか・・・。
 まぁ良い。今回は君達に借りがある」
バルトフェルドは部屋を見渡す様に首を回しながら続ける。
「帰りたまえ。話せて楽しかったよ。また、戦場でな」

 

また戦場で―――。キラにとっては、助け合った仲が、
唐突に敵同士に変わる戦争の恐ろしさをまざまざと見せ付ける言葉だった。

 

結局その言葉を最後に、刹那達は警備兵に連れられバルトフェルドの根城を後にしたのだった。

 
 

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