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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第60話

Last-modified: 2012-04-10 (火) 05:43:57
 

プラントに戻っていたクルーゼ隊は、
表向きラクス・クライン救出の英雄としてアプリリウスワンに迎えられた。
隊員達は暫しの休暇で、思い思いに過ごしている。
しかし実際は、脚付き討伐に失敗、司令部からの指示無しでの艦隊形成などの問題行動から、
隊の機能を一時的に停止させられたと言って良い。
隊長であるクルーゼ自身は、あまり大っぴらに外出出来ない状態と言える。
だが、パトリック・ザラが彼らを必要とすれば、そんな処置も直ぐに解除されるだろう。
「オペレーション:スピリットブレイク・・・か」
光源の少ない部屋で、椅子に腰かけたクルーゼが誰にとも無く呟いた。

 

オペレーション:スピリットブレイク。
クルーゼが目を通す書類はその作戦概要が記されており、パトリックから極秘に寄越された物だった。

 

現在ザフトは、地上のマスドライバーの殆どを手中に収めている。
連合に残るマスドライバーは、パナマ基地と呼ばれる宇宙港にある物で最後だ。
オペレーション:スピリットブレイクの目的は、その最後のマスドライバーを
連合から奪う事で、連合の地上軍と宇宙軍を寸断する事である。
前々から検討されてきた作戦であったが、穏健派の議員の抵抗のせいで可決出来ずにいた。
というのも、地上と宇宙の繋がりを完全に断つ事は数少ない連合の宇宙軍への
補給線を断つ事であり、人道的な問題を抱えている、と穏健派は主張しているからだ。
しかしそれも、中立オーブの裏切りや、ラクス嬢拉致事件が起こった今となっては意味の無い論理だ。
この機にパトリックは一気に可決まで持っていくだろう。
しかしクルーゼにはこの作戦について引っかかる点があった。
作戦が立案されてから長い時間が経っているのに加えて、
最重要機密に属する作戦である割には情報統制が甘い。
この作戦には何か裏がある、そうクルーゼが考えた瞬間、体を何時もの発作が襲った。
背を丸め、激しく咳き込むクルーゼは、横のテーブルに置いてあった
錠剤の入ったケースを取ると、乱暴に薬を取り出して口に押し込む。
「ハァハァ・・・」
服用して数分、やっと動悸も収まったと思うと、
今度は備え付けのテレビ電話がけたたましい音を立ててクルーゼを呼んだ。
クルーゼはまだ震えの収まり切らない手で仮面を装着すると、平静を装って受話器を取る。
『私だ』
「これはザラ委員長閣下。この時間ではまだ評議会の最中では?」
モニターに映った気難しそうな男の顔に、クルーゼは何時もの鉄仮面で応じた。

 

『こちらの案件は通った。まだ2、3あるが。
 終わったら、夜にでも君と細かい話がしたい。どうかね?』
「分かりました。お伺い致します」
パトリックのプロパガンダの成果もあって、プラント中に徹底抗戦の機運が上がっているのだ。
流石のシーゲル・クラインも可決を阻止出来なかったと見える。
通った案件、話したい事とは、十中八九オペレーション:スピリットブレイクの事だろう。
『これでナチュラル共も少しは理解するだろう。コーディネーターの力をな』
憎しみに満ちた言葉を最後に、パトリックはモニターから消えた。
これからクルーゼ隊も忙しくなるだろう。
「ふっ、その憎しみを糧に、精々励んでくれよ・・・パトリック・ザラ・・・」
発作の疲れが残る体を椅子に寄りかからせ、クルーゼは裂ける様な笑みを浮かべた。

 
 

「全く・・・貴官がいながら心配させるな」
「バルトフェルドとの遭遇は予想外でした」
アークエンジェル艦長室。バルトフェルドの根城から帰還した刹那は、
休む間も無くナタルから出頭命令を受けていた。
「君達は兎も角、カガリ・ユラを危険に晒すとなれば明けの砂漠との同盟関係にも響く。
 以後、注意する様に」
「了解」
「今回罰則は無しだ。今そんな事をしても始まらないからな。以上だ・・・ああ、後」
「?」
思い出したかの様に顔を上げたナタルの声に、踵を返そうとした刹那が振り返った。
「ラミアス大尉が呼んでいたぞ。曹長が提案していたジンオーカーの改造案、
 とりあえず形になったそうだ。MSハンガーに顔を出して来い」
「了解」
ナタルからの報告に頷いた刹那は、今度こそ艦長室を後にした。

 

MSハンガーに佇む茶色の巨人は初めに見た時と同じに見えたが、
細部をよく見れば装甲の間に隙間が設けられ、そこに小型の物体が張り付いていた。
それも1つだけでは無く、腕や脚、胴体などいたる所に張り付いている。
「あれは何ですか?」
「ああ、あれはジンメビウスの小型スラスターを埋め込んであるのよ。
 20箇所以上あるから苦労したわ」
物体を指差したキラにマリューは自信あり気に胸を張った。
話によれば、これから更に武装その他を追加するそうだ。
ジンオーカーは、以前の実験用で消耗したジンより遥かにフレームが頑丈に出来ている様で、
多少無茶な改造にも耐えられるらしい。
「マリューさん、楽しそうですね」
「まぁ、そうね。ザフトの機体の研究にもなるし、
 整備班全体の技術引き上げにもなるし・・・それより貴方は大丈夫なの?」
「・・・何がですか?」
キラがバルトフェルドと出会った事は報告で知っていた。
ただでさえ精神的に不安定な彼が敵の将に出会ったのだ、何も変化が無い訳が無い。
平気そうな顔をしているからこその心配だったのだが、
目の前の少年は顔に暗い影を落とす。

 

「僕は大丈夫です。何時だって出撃して敵を倒せます・・・倒せるんです」
「・・・・・・キラ君?」
「ストライクを見てきます」
自分の手に目を落とし拳を作ってみせる様は、まるで自分に言い聞かせている様で。
マリューが心配して顔を覗き込むが、彼女が次の言葉を継ぐ前にキラは踵を返してしまった。
「どうした?」
宙ぶらりんになってしまったマリューの下に、ナタルから報告を聞いた刹那が到着した。
「曹長・・・。その、キラ君が心配で」
「・・・・・・」
刹那が振り返ると、既にキラはキャットウォークからストライクのコクピットに乗り込む所だった。
「今回の一件が、自分で握る銃の意味を考えるキッカケになれば良いんだが・・・」
「キラ君の能力がいくら高くても、まだ子供よ?
 そんな難しい事、大人でも理解しているか・・・」
「大人が皆それを理解してたら、戦争なんて起こらねぇよ」
「フラガ大尉」
何時の間にやって来たのか、ムウが刹那の首に後ろから腕を回しながら話に割り込んできた。
「アイツの事は時間を掛けなきゃならない話さ。
 それより、我らが女神の自信作を拝ませて貰おうぜ」
「そっ、その呼び方は止めて下さい」
「ラミアス大尉、俺からも頼む」
ムウの呼び方に頬を赤くしたマリューは、
刹那の念押しに「分かりました」と咳払いをしながら答えた。
2人に紙面のデータを渡し、キャットウォークに案内する。

 

「要望通り、装甲に隙間を作ってスラスターを増設しました。
 重量バランスの関係で、装甲を幾分か犠牲にしましたが」
「問題無い」
「でもよ、これ姿勢制御の為にしちゃ出力デカくないか?」
紙面に載っている数字にムウは首を傾げた。
地上で使う姿勢制御スラスターは、宇宙用のそれより出力が大きい。
しかしジンオーカーの姿勢制御スラスターは、それの更に3割増し程の出力だ。
特に目立つのが肘に装着されたスラスターで、こちらはジンのメインスラスターに迫る出力を誇り、
見た目も他より幾分大きく肘から張り出している。
「ええ、これは姿勢制御スラスターではないの」
「というと?」
ムウが説明を求める様に刹那の方を見ると、刹那は静かに頷いてマリューの言葉を継いだ。
「ジンオーカーは通常のジンより頑丈な分、運動性に欠ける。
 このスラスターは、接近戦でそれをカバーする為の物だ」
「なんとまぁ強引な・・・」
ジンオーカーを眺めながら溜息を吐くムウ。

 

彼の言う通り、これは改造の中でも力技の部類に入る。
なにせ精密な操作を要求される接近戦で、
さらに四肢の細かなスラスター操作も並行して行わなければならなくなるからだ。
マリューもそれは承知の様だが、刹那の腕なら何とかなると踏んだ様だ。
彼の乗機の無茶な改造は、その理由だけで大抵片が付く。
そこでムウが、この機体の致命的な欠点に気付いた。
「でもここは砂漠だぜ?このスラスターじゃ距離を詰める前に袋叩きに遭わないか?」
「そこは心配無用です」
砂漠は平坦で障害物が少ない。障害物を使った距離の詰め方が出来ない地形では、
出力が高くとも瞬間的にしか吹かせない小型スラスターでは、
敵機に対して距離を詰めるには足りない。
もっともらしいムウの指摘だったが、マリューは胸を張ってそれを否定した。
「まだ完成してませんが、これに大出力のメインスラスターを装着します」
「大出力って、機体は大丈夫なのかよ」
「数字の上では、ギリギリ大丈夫です」
通常のジンと違い、ジンオーカーはバックパックが小型でスラスターが装着されていない。
今はまだ手付かずだが、そこにスラスターを増設するらしい。
マリューは大丈夫だと言うが、そんな「ギリギリ」の部分を
強調した言葉では大丈夫の度合いも高が知れている。
ジンメビウス同様、スラスターの塊になりつつある機体に、ムウは同情的な視線を向けた。

 

「もう動かせるのか?」
「ええ、一応ジンメビウスのデータを参考に調整してあるわ」
「了解した。2人は降りてくれ、動きをテストしたい」
「おお、やる気あるねぇ」
刹那はコクピットに乗り込むと、ハッチを閉じながらムウとマリューに退避を促した。
OSを起動し、調整具合を確かめる。
ジンメビウスのデータを参考にしたそれは、しっかり地上用に微調整されている。
「このままでも実戦に出れるな」
マリューの仕事に感謝しつつ、2人の退避を確認してジンオーカーを起動させた。
『動作の確認なら、合わせて武器の具合も確かめて下さい』
「武器?」
無線から聞こえるマリューの声が、何処となく弾んでいるのは気のせいか。
刹那が視点を動かすと、横にして置いてある長大な実体剣が目に入った。
『グランドスラムです。ストライク用の装備ですが、
 キラ君はシュベルトゲベールを使うそうなので』
グランドスラムは、第八艦隊からの補給品の中にあった新装備だ。
ストライクがエネルギー切れを起こした際の緊急用装備には、アーマーシュナイダーが既に存在する。
しかしアーマーシュナイダーでは武器として心許無い。
そこで開発されたのがエネルギーを必要とせず、敵機を両断出来る武器であった。
しかし、緊急時の為だけに重量の嵩む大型の実体剣を装備するのはあまり合理的では無い。
大型の斬撃武器ならシュベルトゲベールで十分だとキラも考えた様だ。
形としては、大振りのコンバットナイフをそのまま巨大化させた様な見た目で、
柄の部分には円形の補助グリップが取り付けられている。
『ジンオーカーの装備候補の中では最重量になります。
 それを振り回せるなら、私としても安心出来ます』
「了解した」
ジンオーカーにグランドスラムを持ち上げさせてみると、
確かに腕部にかなり負担がかかる装備の様だ。
とりあえずそれを肩に担がせると、
アークエンジェルのハッチから明けの砂漠の演習場へと向かった。

 

「うは~凄い音だな!」
「消音性は考えませんでしたからね!」

 

ムウとマリューが半ば怒鳴り合う様な声量で会話する。
それというのも、目の前で演習中のジンオーカーが辺りに騒音を撒き散らしているからだ。
各部スラスターの制御を早くもマスターした刹那が自由自在にジンオーカーを動かし、
グランドスラムを振るう。
初めの起動実験の時の動きとは雲泥の違いだったが、消音性を考慮していないスラスター、
特に肘の大型スラスターは吹かす度に凄まじい唸り声を上げていた。
キャンプにいた明けの砂漠メンバーもその騒音を聞き付けガヤガヤと集まってきている。
「なんだ、この騒ぎは!」
サイーブが片耳を塞ぎながら、人だかりをかき分けてマリュー達に問うた。
演習場を使うとだけ聞いていた彼は、まるでライブ会場の様な演習場の有様に不機嫌そうな顔を作る。
「ジンオーカーの起動実験です!」
「じゃあ乗ってるのはあのムッツリか!」
サイーブのムッツリ呼ばわりにムウが噴き出す。しかしそんな事はお構い無しに、
目の前のジンオーカーを見上げ、サイーブは唖然としているようだった。
彼が刹那の操縦を見るのはこれが初めてになる。
幾多のMSと生身で戦ってきたからこそ、ジンオーカーの鋭角で素早い動きに衝撃を受けるのだろう。

 

ジンオーカーの殺陣の如き動きに観衆が見入る事数分、
静かに巨人が動きを止め、マリュー達に向き直った。
「具合はどうですか?」
『ああ、良い感じだ。膝裏にあるスラスターの出力を後少し上げれば問題無い』
無線越しに交わされる改良点をマリューがメモる。
『・・・だがやはり、相手がいないと感覚を掴むのは難しいな』
「相手、ですか?」
素振りだけの演習ではどうしても実戦的では無い。
相手がいてこそ、実戦的な長所短所が分かるというものだ。
「相手って言っても、俺じゃMSには乗れないしなぁ」
刹那の零した言葉にマリューとムウは顔を見合わせ、互いに困った様な表情を作った。

 

眼下で困った様に頭を掻いたムウを見、刹那は口に出した事を悔いた。
今の状況では演習相手など望むべくも無く、実戦を経て調整していくしかない。
刹那はアークエンジェルに帰還しようと、再び無線のスイッチを押そうとした。
しかしその寸前に響いた接近警報に、刹那はレーダーに目を走らせた。
Nジャマーの濃度が低いこの辺りでは、MS搭載のレーダーでもハッキリ表示される。
近付いてくる緑色の点は、IFFからストライクと表示されていた。
『相手が欲しいなら、僕が引き受けますよ』
刹那達の通ってきた道から灰色のストライクが顔を出した。
肩にはシュベルトゲベールを担ぎ、デュアルアイを爛々と輝かせる。
『キラ君、貴方は・・・』
『艦長に出撃許可は取りました』
『そういう意味じゃ・・・』
マリューが心配げに無線を繋ぐが、それを邪魔だと言わんばかりにキラは跳ね除けた。
「・・・キラ、本気か?」
『ええ、僕は戦えます。引き金を引けない、臆病者じゃ無い』
刹那の問い掛けに、キラはストライクにシュベルトゲベールを構えさせる事で応えた。
眼下の観衆はとばっちりを受けぬ様に後ろへ退がった。

 

『なんで構えないんですか?僕を馬鹿にしているんですか!』
何時までも構えない刹那に、苛立ったキラが吠えた。しかし刹那は至って冷静だ。
「・・・キラ、PS装甲を起動しろ」
『その機体には、PS装甲が無いでしょう。それに、演習でその実体剣が折れたら困ります』
灰色のままのストライクに、刹那が忠告した。
しかしキラは聞く耳を持たず、ストライクは更に前傾姿勢を取り
何時向かってきてもおかしく無い状態だ。
「・・・仕方ない」
キラは今、自分に疑念を持っている。
バルトフェルドを撃てなかったのが相当堪えているのだろう。
自分は戦える、これは彼にとって、その意思を示し実感する為のものなのだ。
どちらにせよ、今は戦わなければ生き残れない状況だ。
ならば下手に言葉で制止したり諭すより、キラの剣を真っ向から受けて応えるのが最善だろう。
刹那はジンオーカーを低く構えさせた。グランドスラムの切っ先が静かに地面と触れる。

 

『行きます!』

 

キラの声と共にストライクのデュアルアイが強い光を発した。
こうして、一対一の激しい模擬戦の火蓋が切って落とされた。

 
 

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