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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第67話

Last-modified: 2012-05-28 (月) 01:53:19
 

青い水面の上を、白い船体が滑る様に進んでいく。
太陽の光に反射して輝く船体は、大天使の名に恥じぬ美しさであった。
砂漠の虎を打ち倒し、明けの砂漠と別れを告げた一行は、
周囲のザフトが集まってくる前に紅海へ脱出したのだった。

 

その艦内、戦闘が終わって慌ただしさも一段落したハンガーで、
ジンオーガーから降りた刹那は真っ先にストライクの下に向かった。
先に収容されていたストライクはラゴゥの爆発を間近で受け所々破損して、
既に整備士達が張り付き、戦闘で機体各所に入り込んだ砂の除去作業を開始していた。
「キラ」
ストライクの足元に降り立った少年を見つけ声を掛ける。
戦闘中の様子からして、相当に憔悴していると考えていた刹那にとって、
早々にストライクから降りている彼は意外だった。
「あっカマルさん」
「・・・・・・?」
振り返った少年は、今まで戦闘の後にあった暗い雰囲気を感じさせない自然さで、刹那の名を呼ぶ。
戦闘中に放っていた凶暴な脳量子波とのギャップに、刹那は怪訝そうにキラの顔を見やった。

 

「・・・僕に何か付いてますか?」
「いや」
脳量子波にはこれといって不自然な所は無い。
だが、今までの彼なら、戦闘後はもっと沈み込んで、グラグラと不安定な脳量子波を出しているのだが。
「ああ、通信ログでカマルさんの指示聞きました。
 その時僕集中してたみたいで、聞いてなくてスイマセン」
どうやらキラは、自分が刹那の指示に従わなかった事を怒っていると思ったらしい。
階級でいえばキラの方が上で、刹那の指示に従う義務は無い。
それでも律儀に頭を下げる姿は、何時もの礼儀正しい少年のそれだ。
「・・・覚えていないのか?」
「スイマセン、目の前の敵に集中していて」
「その事では・・・いや、良い」
「?」
考え込む刹那に首を傾げるキラ。何か自分が悪い事をしたのだろうか?
と、本当に心当たりが無いといった様子だ。
「もう行って良いですか?なんだか汗が凄くて、お腹も空いちゃって」
よく見ると、キラの頭はバケツを引っくり返した様にグショグショだった。
髪は濡れぼそっており、今も額から汗が滴り落ちている。
余程パイロットスーツが気持ち悪いのか、珍しく腹の辺りまでチャックを開けていた。
「―――ああ、もうパイロットは平常配備に戻っている。好きにすると良い」
刹那のOKが出たキラは、再度頭を下げると足早にハンガーを出て行った。

 

一方、戦闘機乗り組の方では一悶着起きていた。
客観的に見ると、腕を組んだ屈強な男が少女を見下しているという、些か犯罪臭のする構図である。
その屈強な男、ムウは、何時もの飄々とした風がどこへやら、
への字に曲がった口が彼の不機嫌さを表していた。
「で、カガリだったか。何で無断で出撃なんてした」
「この艦が敵艦の砲撃を受けてて、その・・・居ても立ってもいられなかったんだ」
ムウに叱られたカガリがバツの悪そうな顔で弁解する。
どうやら悪い事をしたという自覚はある様だ。
しかし事は命に係わる話であり、ムウもそう簡単には彼女を解放しない。
「あれは俺用に調整した機体だ。
 あんなフラフラ飛びやがって、曹長がいなけりゃ死んでた所だ!」
ムウが怒るのも無理は無い。
刹那がジンオーガーに乗る事が決まって、ムウの予備機として再調整したスカイグラスパーは
非常にピーキーな操作性になっているからだ。
新兵をよく見て来たムウにとって、今回のカガリの行動は自殺行為以外の何者でも無い。
「だっだが、私が出撃しなかったらこの艦が・・・!」
「んなもんは結果論だ。そんな調子でいたらお前・・・早死にするぞ?」
「・・・・・・っ」
ムウの最後の一言にカガリは沈黙して俯いてしまった。
戦死した明けの砂漠の面々を思い出したのかもしれない。

 

「大尉、もう良いだろう。彼女も反省している」
「曹長」
「お前は・・・」
ムウの後ろから現れたのは、ヘルメットを脇に抱えた刹那だった。
突然の登場に振り向くムウ。カガリも、本当にこの青年が
ジンオーガーのパイロットだったのだと再認識して、目を瞬かせる。
「今回は緊急事態だった。幸い彼女に怪我は無いし、後は艦内の適当な仕事でも・・・」
「何言ってるんだ。コイツから降りるなんて、私は言って無いぞ」
「はっ?」
カガリもアークエンジェルに乗艦する以上、何かしら仕事をして貰わなければならない。
刹那としては、軍人では無いカガリにも触らせられる様な、機密性の低い仕事を勧めるつもりだったのだが。
「戦力が足りないんだろう?見た所交代要員もいないみたいだし」
「それは、そうだけどなぁ・・・お前人の話聞いてたか?」
「訓練はしっかりする!だから、この機体は私が使う。良いだろう?」
何故か自信満々に言ってのけるカガリに圧され、ムウは困った様な顔で刹那を見た。
先の戦闘で見せた適正が良い分、ムウも無碍には扱えないといった様子か。
確かに、交代要員がいないのはカガリの言う通りだ。
戦闘機パイロットがムウしかいない現状では、周囲の偵察もどうしてもムウに任せ気味になる。
それを任せられる人員が1人増えるだけで、彼への負担も大分軽くなる筈だ。
刹那は困り顔のムウに、カガリの容認を示す様頷いてみせた。
「仕方ねぇな・・・」と頭を掻いたムウが、改めてカガリに向き直る。
「艦長に聞いてみなきゃ分からんが・・・まぁいいだろう」
「ホントか!」
「ただし、あくまで緊急時の要員としてだ。戦闘時の出撃は、差し迫った状況に限定する」
「えー!」
「えー、じゃない」
不満の声を上げるカガリを、ムウは父親さながらに戒めた。
彼としては、キラに続いて彼女まで本格的な兵士としたくないという思いがあった。
キラが生きてこられたのも、ストライクの性能と、彼自身のズバ抜けた才能があったからに他ならない。
他の者には到底真似しようが無い話だろう。
目の前の少女に、そんな末路を辿っては欲しく無い。

 

「そういえば、キラはどうしたんだ?調子悪くなってないか?」
「いや、問題無い様子だった。さっさとシャワーを浴びにいってしまったが」
「やっと克服って所か?」
「・・・そうだと良いが」
ムウの言う所の、兵士としての割り切りがキラに出来る様になったのなら、
その程度が分からないとはいえ概ね歓迎すべき事である。
何せ、戦闘の度に調子を悪くしていたのでは、到底体がもたない。
もしその割り切りで日常に問題が起きたとしても、ムウと自分でフォロー出来る。
しかし、本当にそうだろうか。キラに起こっている事態が、そんな単純な話なら問題無い。
だが、もっと重大な、取り返しの付かない事が起こっていると、刹那の直感が告げていた。

 

刹那が考えている間に、ムウはカガリに、自分が訓練を付ける旨を伝えて去って行った。
気付くと、彼女がこちらへ何か話したそうな視線を向けていた。
「・・・なんだ?」
「あっいや・・・お前やっぱりヘリオポリスで私を助けてくれた人だよな」
「ああ、こちらも何故君がこんな所にいたのか気になっていた」
「う゛っ・・・」
逆に聞き返され、言葉に詰まるカガリ。言い難そうに視線を右往左往させ―――
「そっそれは大した問題じゃないんだ。
 お前の事、本当は砂漠で初めて会った時に気付いたんだけど、
 色々あったからちゃんと礼を言う暇もなくて・・・」
はぐらかされた。どうやら聞いて欲しく無い事柄らしい。
嘘の下手そうな彼女を、深く追求するのも可哀想だろう。
刹那はとりあえず湧いてきた疑問を呑み込んで、目の前で言葉を続ける少女の言葉に耳を傾ける。
「とっ兎に角だな・・・・・・あの時は助かった!有難うっ!」
余程歯痒かったのか、最後の辺りを投げやりに叫んだカガリは、
そのまま駆けて行ってしまった。

 

ポツンと残された刹那に周りの整備士からの視線が集中する。
「どうしたの曹長?」
「いや、なんでも無い。駆逐艦を沈めた件で礼を言われたんだが、何故か怒らせてしまった」
声を聞いてマリューがやって来て、何時もの仏頂面で言う刹那の話に溜息を吐いた。
「そりゃあ、人の話をずっとその顔で聞いてたら、慣れない子は怒るでしょ」
「・・・そういうものか?」
アークエンジェルのクルー、特に刹那と繋がりの多いハンガーのクルー達は、
もう彼の動かない表情には慣れている。
ムウやキラは、その仏頂面から微妙な感情の変化を見分けられる様にもなっているが、
慣れない人間からすれば1人で喋っている気分になるのも仕方ない話だった。
「特にああいう思春期の女の子は、相手の反応を気にするものなのよ」
「・・・気を付ける」
「まぁそんなに気にする事じゃないわ。
 それより今回は、デュエル奪還の絶好の機会だったのに・・・惜しかったわね」
女性特有のサバサバした様子でマリューが話題を変える。
先の戦闘で、ストライクが中破させたデュエル。
身動きの取れない様になっていたそれを、アークエンジェルに運んでしまうには絶好のチャンスだった。
「あの状況では仕方ない。時間を掛ける訳にもいかなかったからな」
「そうねぇ・・・」

 

バルトフェルド撃破後、ストライクがラゴゥの爆風を受けて身動きが取れない間に、
刹那はデュエルを回収しようとした。
その瞬間、撤退していたレセップスの艦上からバスターの超遠距離狙撃を受けたのだ。
艦砲の射程外というとんでもない距離の狙撃だった為、命中する事は無かったものの、
身動きの取れないストライクを狙われては拙い。
周囲のザフトが援軍に向かってきているという情報もあって、その場は諦めて帰投する他無かった。
「過ぎた事何時まで言ってても始まらないわね。
 各機砂の除去作業があるから、曹長も休んで下さい」
「感謝する」
「ああ、ジンオーガーの初実戦凄かったわ。初実戦で10機なんて聞いた事も無い。
 報告書に纏めて今日中にお願いしますね」
興奮気味にそう言うと、手をブンブン振ってマリューはマードックの方へ去って行った。

 
 

民間人がいなくなって静かになっていた食堂は、久方ぶりの喧噪に包まれていた。
その原因は、非番で食事に来ていたクルーに囲まれた少年だった。
「・・・お前、そんなに食べるキャラだったっけ?」
「ああいや、何か口に入れたくて」
「食糧だって無限じゃないんだ。あんま食べてくれるなよ?」
周りに空になったトレーを積み重ねているキラは、
ジト目で呆れた声を出すトールに返事をしながら、唐揚げを口に放り込んだ。
隣で面白そうにそれを眺めていたムウも、一皮剥けた後輩を笑顔で労った。
「それはそうですけど・・・もっと体力を付けないと、アークエンジェルを守り切れませんし」
「その意気だ!艦長から甲板の使用許可が出てるし、後で非番の連中全員で基礎訓練でもするか」
ムウの提案に周りのクルーから不満の声が上がるが、
ムウはそんな事気にせずケバブを頬張った。しかし、それを見たキラの手が止まる。
「どうした。お前も嫌か?」
「いえ・・・虎もケバブが好きだったなぁと思って」
「ああ―――」
キラの出した名前に、ムウを含めた周りの全員が静まり返ってしまった。

 

キラはバルトフェルドと直接会っており、且つ撃破した張本人でもある。
気遣う様な雰囲気に気付いたキラは、食事を再開しながら明るく喋り始める。
「気にしないで下さい。彼は僕達の敵だったし、相手も本気でしたから」
「それが戦争さ。個人の考えで何とかなるモンじゃないのさ」
「キラ・・・大人になったんだなぁ」
やっと戦争に対応出来る様になったキラにムウは神妙そうに頷き、
トールは友人の成長に目を丸くした。再び盛り上がり始めた食堂。
キラが食事を終える頃、仏頂面な男が食堂に顔を覗かせた。
「おっ曹長、これから甲板に行こうと思うけど、お前もどうよ?」
「ああ付き合おう。その前に、キラを借りて良いか」
ムウが刹那に気付き、他のクルー達の視線が集中する中、
特に表情を変える事も無くキラを指名した。
ムウがキラの背中を叩き、刹那の方へ行く様指で指す。
「何ですか?」
「いや、先の戦闘の事で少し、な」
「何だ?俺も付いて行った方が良い?」
「MSの事だ」
「それを先に言えよ」
戦闘の話でも、MSの事となるとムウは完全に埒外になってしまう。
ムウは仲間外れにされたのが気に食わなかったのか、シッシと追い払う仕草をした。
しかし、トレイを片付けたキラが食堂を出ようとすると再び顔を向けて言った。
「俺達は先に甲板に行ってる。後部甲板だ、忘れず来いよ」
「了解しました」
最後までにこやかな表情で、キラは食堂を後にした。

 
 

「それで、話って何ですか?何か僕の操縦におかしい所が?」
「いや」
シミュレーター室に着いて直ぐ、キラが焦れた様に切り出した。
ここに来るまで刹那が一言も発しなかったのだから無理も無い。
「二、三質問がある。そんなに構えなくて良い」
シミュレーターが並んでいる横の休憩用のベンチに腰掛ける刹那。
彼の言葉に気を楽にしたのか、キラもその隣に腰を下ろした。
「今回も例のトランス状態になったと感じたが、何か変わった事は?」
「いきなり重いですね・・・」
「そうか?」
前置きの言葉とは裏腹に鋭く問題について聞いてきた刹那を、キラはジト目で見返した。
それでも答えようとしている顔に、苦悩の色は見えない。
以前なら相当な心労を強いる問いな筈だが。

 

「そう、ですね―――。
 頭の中で何かが潰れる様な衝撃があって、なんだか世界が変わった様な・・・」
そこで言葉を切り、腕を組んで黙り込む。次の言葉に迷っている様子だ。
暫くして、「表現が難しいんですけど・・・」と前置きをして口を開いた。
「なんて言うのか、多分目の前の敵以外の存在が曖昧になる様な感じです。
 その癖他から向けられる敵意には凄く敏感に反応出来て。
 気持ち悪い例えですけど、神経が剥き出しになっている感覚が1番近いのかなぁ。
 あっ、以前みたいに自分の体じゃないみたいって事は無いです。吐く事も無いですし」
刹那程でなくとも、キラも自分自身の事を積極的に話すタイプでは無い。
何時に無く饒舌なキラへ、刹那は更に質問した。
「・・・戦闘中に何があった?途中までは普通に戦闘していた筈だな?」
その問いに、今まで明るかったキラの表情が途端に暗くなる。
俯いて、両手の指を絡ませる姿は、以前に増して暗い雰囲気を纏っていた。
「・・・・・・分かったんです」
聞き取れない程の声で発せられた言葉は、言い様の無い負の感情に満ちていた。

 

「やっぱり、コーディネーターはコーディネーターで、別の生き物なんだって」
「・・・何を、言っているんだ」
それは刹那にとって、最も聞きたくない言葉だった。

 

茫然とする刹那に、顔を上げたキラが畳み掛ける様に言葉を継ぐ。
「だってそうでしょう?僕は人を殺す度に、心が引き裂かれそうな痛みを感じて来た。
 なのに奴らは、それを嬉々として語るんだ」
そこで一旦言葉を切り、再び俯く。
「そんなの・・・同じ人間な訳無いじゃないですか」
「違う」
振り絞る様に言ったキラの言葉を、刹那は有無を言わせぬ口調で否定した。
バッサリ斬られた形になったキラは、ゆっくりと刹那を見上げた。
「じゃあ何なんですか?動物だって、同じ種類の生き物を殺して喜んだりはしない」
「・・・人は未完成な生き物だ。解り合うには、まだまだ学ばなければならない事がある」
「そんな抽象的な話をしてるんじゃないんですよ。僕は、怖かったんです。
 目の前に、人の死を何とも思わない奴がいる。殺される前に、殺さないと」

 

怖い、という割には、それを語る彼の声はまるで感情が無くなってしまったかの様に平坦だった。
表情も、若干目を細めてはいるものの無表情のそれだ。
「今まで悩んでいたのが馬鹿みたいですよ。あんな連中は死んで当然なんだ」
「キラ・・・」
「でもその分、今は凄く気分が良いんです。色々な物から解放されて、体も心も軽い」
にこやかに言ってのけるキラに、刹那は言葉を紡げなかった。
「ムウさんが甲板で待ってますから僕は行きますね。
 カマルさんもムウさんとの約束、忘れないで下さい」
そんな刹那を感情の感じられない瞳で一瞥したキラは、
ベンチを立ち上がると出入り口へと歩を進める。しかしその歩みを、刹那の声が止める。
「キラ、俺達はアークエンジェルを守る為に戦っているんだぞ?」
「分かってます。その為に、ザフトは、コーディネーターは殺さないといけない。
 もう誰にも、フレイは傷付けさせません」
振り返ったキラの瞳には、何よりも冷たい決意が滲んでいた。
その言葉を最後に、プシュッという音と共にドアが閉まりキラは出て行ってしまった。

 

「―――その決意の先に、お前はどうなるんだ?キラ・・・」

 

彼の去ったドアを見詰め、刹那は力無く呟いた。

 
 

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