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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第68話

Last-modified: 2012-06-18 (月) 00:44:48
 

オペレーション:スピリットブレイクが最高評議会で可決された事で、
ザフト軍内部は水面下で慌ただしさを増していた。
本作戦では、その規模と重要度から部隊の特色関係無く、多くの部隊が召集されている。
クルーゼ隊もその例に漏れず、休暇もそこそこに地球への降下命令が下っていた。

 

「アスラン、この前は有難う御座いました」
「ニコルか。俺も行けて良かった。演奏、凄く良かったぞ」
アプリリウスワンのザフト基地。廊下で久しぶりに会ったニコルがアスランに礼を言った。
ニコルは、こう見えてピアノを得意としており、既に中規模の演奏会を開けるだけの実力があった。
アスランはそのチケットを受け取っており、休暇中の演奏会に顔を出したのだ。
「ミゲル、寝てましたよね」
「え、ああ―――そういえば・・・。良く分かったな」
「舞台から客席って、案外良く見えるんですよ」
演奏会にはミゲルも来ていたのだが、バンド系の音楽が好きな彼にクラシックは退屈だったらしい。
イビキこそ掻かなかったものの、横で堂々と寝始める先輩に、アスランは内心顔面蒼白だった。
しかもニコルがそれに気付いていたというのだから、何だか居心地が悪い。
アスランも論文の発表で数回舞台に上がった事はあったが、生憎人を探した事は無かった。
申し訳無さげな顔をするアスランに、ニコルの悪戯っぽい笑顔に笑い返す。
しかしその彼の顔も直ぐに曇ってしまった。
「本当は、もっとちゃんとしたのをしたいんですけどね」
「今は仕方ないさ。今回の作戦が良い結果で終われば、情勢も変わる」
ニコルには、それこそピアノ一本でやっていけるだけの実力がある。
しかし彼は志願兵である。それだけに打ち込んでいる訳にもいかない。
それに戦時下の今では、地球で生まれた名曲の多くが敵性文化として演奏出来ないのだ。
音楽に限らず、表現は戦争で大きな制限を受けてしまうのが現実だった。
アスランの励ましにニコルは深く頷いて、召集されていたブリーフィングルームに足を踏み入れる。

 

「認識番号285002、アスラン・ザラ出頭しました」
「認識番号285014、ニコル・アイマン出頭し・・・」
入室と同時に敬礼した2人は、先にいたクルーゼが
モニターを使って誰かと話しているのを見て慌てて口を噤んだ。
「それでは・・・。君達か、少し早いが、まぁ遅いよりは良い」
「通信中だとは知らず、失礼しました」
モニターを切って振り返った仮面の隊長に、再び敬礼し直した。
「そう畏まらなくて良い。正式な通達の類では無いからな」
「我々に何か関係がある事ですか?」
ニコルが興味本位に聞くと、クルーゼはゆっくりと頷いた。
「休暇明けで知らぬと思うが、脚付きが砂漠の虎を撃破した。
 追撃に就く新しい部隊の隊長に、挨拶をと思ってな」
「あの砂漠の虎を・・・!?」
砂漠の虎はザフト内で知らぬ者のいない英雄である。
宇宙に比べアドバンテージの低い地上でMSを運用し、巧みな戦術を用いてアフリカ一帯を制圧している。
その彼がたった一隻の戦艦に撃破されたとあっては、アスランも目を見開く他無い。
「くっ、キラ・・・」
友軍が撃破されたというのに、脚付きを守る親友の方が先に気になってしまう。
未だに私情から抜けきる事の出来ない自分を恥じたアスランは、拳をキツく握りしめた。

 
 
 

晴天の下、潮風が吹くアークエンジェルの後部甲板では、ムウの言った通り基礎的な訓練が行われていた。
キラもそれに加わっており、先頭のムウに続いてランニングを行っている。
「キラ、ペースを落とせ!まだ3周残ってるんだぜ?」
「ハァハァ、で、も・・・!」
必死で食らい付いてくる部下にムウが言う。
コーディネーターといえども、ブートキャンプに入った事の無いキラが、
ムウと同じペースで走るのは無理がある。
息も絶え絶えで今にも転びそうなキラだったが、ムウの忠告でもペースを緩める気は無さそうだった。
「まぁ、しょうがねぇか」
キラの直ぐ後ろには、軽く息を弾ませる程度で付いて来ているカガリがいる。
彼が少しでも気を緩めれば抜きに来る算段だろう。
過酷な環境下でレジスタンスをしていただけあって、基礎体力ではキラより数段上だ。
それでも、女子には抜かれたくないのが男子たる者の矜持という物だ。
「はい終了~。少し休憩を入れるぞぉ」
残り3周が終わり、ムウがペースを緩めながらゆっくりと止まる。
後続のクルー達もそれぞれ息を切らして膝に手を着いたり、水分を取ったりし始めた。
遂に二番手を守り切れなかったキラも、終了と同時に尻餅を着いてしまった。
顎は完全に天を向き、激しく肩で息をする度に全身から汗が零れ落ちる。
そんな彼に、額に汗を浮かべたカガリが手を差し伸べる。
「中々やるじゃないか。見直したぞ」
「・・・・・」
しかし当のキラは、差し伸べられた手を取らずに立ち上がり、隅の方へ行ってしまう。
「なんだアイツ」
「まぁ許してやれよ。思春期って奴だ」
その後ろ姿を不満そうに眺めるカガリ。
余程爽やかな奴でない限り、手を取ってにこやかになどしないと思うのだが。
やれやれと膨れ面の少女を眺めていたムウは、甲板出入口に見知った人影を認めて声をかけた。

 

「おっ、やっと来たか。もうランニングは終わっちまったぞ!」
「すまない」
甲板に現れた刹那は、静かに答えて上着を脱ぎ、運動の準備を始めた。
その沈んだ雰囲気を感じ取ったムウが首を傾げる。
「・・・どうかしたか?」
「いや、皆は何周したんだ?」
「10周だが―――っておい!」
ムウが止めるより早く刹那は走り出してしまった。何かを振り切るかの様な疾走である。
「キラと何かあったのか?あんなにイラつきやがって」
首を捻っている間に小さくなった彼の後姿を見、溜息を1つ。
手を叩き、気持ちを切り替える様に声を張る。
「休憩終わり!ほれ、海が珍しいのは分かるがそんな乗り出して落ちるなよケーニッヒ!」
注意された拍子に本当に落ちそうになるトールを、サイが捕まえた。
ヘリオポリス出身の学生組は、海自体見るのが初めてだ。
この時代では、日差しと潮風を感じながら見る海は地球に降りなければ感じる事の出来ない
ある種の贅沢品だった。
「じゃあ軍隊格闘術の説明をするぞ。
 船乗りだからって、疎かにして良いもんじゃないからな」
学生組向けに、説明から入るムウ。
仁王立ちするその姿は、まさにどこぞの鬼軍曹の様であった。

 

そんな暑苦しい後部甲板とは反対にクルーが減って静かになったブリッジは、
敵影も無いという事で小休憩の緩い雰囲気が漂っていた。
「アルスター二等兵、仲間は皆海に行ったが君はいいのか?」
コーヒーを啜りながら言うナタルに、
オペレーター席に座るフレイは不機嫌を張り付けた顔で首を振った。
「嫌です、肌が焼けちゃいますから。ただでさえお肌のケアが出来ないのに・・・」
「何言ってるのよ、まだ若いでしょう?」
「でも・・・」
後半をブツブツと独り言の様に言うフレイの気持ちは、
生来女性として生きていないナタルにとってはよく分からない類の物であった。
それでも、元が良い彼女はその性格も相まって
マリューとは別の層の男性クルーから密かに人気があるのだが。
代わりに、戦闘後の処理が一段落付き、報告しに来ていたマリューがフレイの相手をする。
「肌汚かったら、サイに嫌われるし・・・」
「成程ねぇ~彼氏の為かー良い子ね~」
マリューが凄く嬉しそうにフレイに絡んでいる。
普段の職場が周りに男しかいないので、この手の話に飢えているのだろう。
やたらと食付きの良いマリューに、当のフレイは困った様な顔をしているが。
勿論、ナタルもマリューも彼女の病状については把握している。
オペレーター業もフレイが自分から言い出した事で、
彼女がやりたいと思った事は出来るだけやらせて欲しいという軍医からの要望と、
ブリッジクルーの交代要員はいくらいても悪い事は無いという運用面での需要が一致した結果だった。

 

そんな女性の恋愛談義に入れないトノムラは、1人アル・ジャイリーから入手したソナー機器
―――アークエンジェルは元来航宙艦な為ソナーの装備が無かった―――と格闘していた。
「准尉は良いよなぁ。ハンドル握ってれば満足なんだから・・・」
当番を理由にムウのシゴキを回避した彼だったが、男にとってこの空気は居づらい。
一方、相変わらず操舵席でハンドルを握っているノイマンは、
艦を動かす事自体が趣味な為そんな空気は御構い無しだ。
鼻歌を歌いながら楽しそうに流れる風景を眺めている。
逃げ場は無く、完全に1人な事に溜息を吐いたトノムラだったが、
突如耳に飛び込んできた探知音に飛び上がりそうになった。

 

「かっ艦長、ソナーに感!」
「機種は!民間機では無いのか?」
「これは・・・」
どんなに気が緩んでいても、ナタルの反応は早い。
トノムラは慣れない手付きで機種を特定する為の操作を行い、
音を良く聞く為に聞き耳を立てた。
「攪乱酷く、機種は特定出来ませんが・・・この速度、民間機ではありません!」
「総員、第二種戦闘配備。機種特定急げ!」
ブリッジの空気が一変する。ナタルは軍帽を被り直し、マリューはハンガーへ走って行く。
「アルスター二等兵!」
「あっあっ、はい!」
初めて体験する緊迫した空気に思考が停止していたフレイを、
ナタルの声が現実に引き戻す。自分の役割を思い出した彼女の声が、艦内に響いた。

 

第二種戦闘配備を伝える艦内放送は、後部甲板で訓練中のムウ達の耳にも入った。
「訓練中止!持ち場に戻れ。曹長とキラはハンガーに行け!」
「ザフトはいないんじゃなかったのかよ!?」
トールが周囲を見渡すが、まだ敵機と判別出来る様な物は見えない。
紅海はザフトの勢力圏ではあるものの、その広大さと連合の勢力圏と接していない点で、
防衛の目は限りなく薄い。こうも早く発見されるのは、
クルーの誰しにとっても予想外だった。
「文句は後だ、早く行け!」
ムウに促され、学生組も持ち場であるブリッジに走って行く。
後部甲板に人が残っていない事を確認して、ムウもハンガーへ駆けて行った。

 
 

「遅いわよ!もう準備は出来てるわ」
「サンキュー!」
パイロットスーツを着た4人をハンガーで出迎えたのは、
すっかり仕事モードに切り替わったマリューだった。
「敵機はディンが2、グーンが2!」
「水中と空中の二段構えか。フラガ大尉、ディンは任せられるか」
「ああ、空中ならアークエンジェルの対空援護もあるからな」
慣れた手付きで乗機に乗り込みながら、情報を交換する。
『私は?』
『お前は待機だ。非常要員だって言ったろ』
『・・・分かった』
カガリは不満そうな顔をしながらも、それ以上言わずに引き下がった。
『問題は水中だな。アークエンジェルは船体底部の火器が少ない』
アークエンジェルは元々航宙艦な為、対潜武装は無いに等しい。
クルーも対潜迎撃の訓練など受けていないので、
空中の敵よりも厳しい戦いになるのは明白だった。
「俺が水中に入って囮になる。そうすれば敵の動きにも規則性が・・・」
『駄目です!』
刹那の提案は、マリューによって一蹴された。
『砂漠と水中では勝手が違うんですよ?
 推力を強化したといっても、重量が増えたジンオーガーでは良い的です。
 今回ばかりは貴方の無茶も承認出来ないわ』
『そうだぞ自重しろ自重』
「だがそれでは・・・」
水中で無軌道に動く敵を水上から狙うなど、どんな射撃の名手でも至難の業だ。
刹那の案はそれを打開する為の物だったのだが、
水中での運用など一切考えられていない重い機体では
その仕事はこなせないのが現実だった。

 

『僕がやります』
「キラ・・・」
『やってくれる?』
名乗り出たキラに、刹那は息を呑む。モニターに映る彼は、静かな憎悪に燃えていた。
事情を知らない者には、闘志を燃やしている様に見えるだろう。
『はい。ストライクは人に近い構造ですから、水中でもそれなりに動ける筈です。
 PS装甲なら、多少の攻撃なら耐えられると思いますし』
「だが・・・」
『よし、決まりだな。曹長は水上からグーンの狙撃だ』
ムウの声は、作戦が決まった事を示していた。
刹那もそれ以上は踏み込まず「了解」と頷く。
各機はそれぞれ装備を整え、出撃準備に入った。
今回のジンオーガーは、デュエルのバズーカを装備し、
近接武器が不要の為重いグランドスラムの代わり追加弾倉を右肩に吊っている。
「ジンオーガー、出る」
役割が甲板からの狙撃の為、カタパルトを使わずハッチから直接飛び上がる。
開けた視界には、どこまでも青い空間が広がっていた。

 
 

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