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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第69話

Last-modified: 2012-06-18 (月) 01:03:12
 
 

  殺してやる、全部だ――――。

 

頭の中でチリチリと何かが燃え上がるのを感じたキラは、ストライクをハッチから身を乗り出させた。
水中でビームは使えない為、武器はバズーカとコンボウェポンポッド。
被弾を前提にする戦場の為、エネルギータンクとして優秀なランチャーストライカーをアグニ抜きで装備。
決して有利な条件での戦いとは言えなかったが、それでも、キラに負けるつもりは毛頭無い。
囮に徹して、刹那に獲物を奪われる気も無かった。
「キラ・ヤマト、ストライク出ます!」
殺意と憎悪を秘め、キラは敵の潜む海中に身を投じた。
「敵は・・・どこだ!」
突然夜になったかの様に暗くなった海中で敵機を探す。
ストライクは宇宙での運用に重きを置いた汎用機であって、水中用の索敵装備など無い。
こう暗くては目視による索敵も頼りない。
友軍からの情報が1番だが、そんな事をチンタラ待っているキラでは無かった。
「どうせ囮が仕事なんだ。派手に暴れてやる!」
腹を決めたキラは、周りの岩礁をイーゲルシュテルンとバルカン砲で破壊し始めた。
くぐもった鈍い音が海中に響き渡り、崩れた石や砂が舞う。

 

『キラ、四時の方向だ!』
刹那の声が耳を叩いた直後、キラの脳量子波も敵意を孕んだ思惟を捉えた。
先に刹那が反応した事に内心悔しく思いながら、ぴったり四時の方向から迫る機影に目を向ける。
キラから見て砲弾を潰した様な形のそれは、水の抵抗を受け難い、
水中戦用の機体というに相応しい形状であった。
敵機もこちらに気付いている様で、2機とも真っ直ぐ向かってくる。
「そこだっ!」
十分に引き付けて、バズーカとガンランチャーを発射する。
ほぼ同時に、グーンからも魚雷が発射された。
海水を切り裂いて進む魚雷と、通常弾頭の為に弾速の落ちた砲弾が交差する。
迫る魚雷を回避しようとストライクを操作しようとするが、水が枷となった機体の反応は限り無く鈍い。
魚雷は本当にあっさりと、全弾がストライクに命中した。
「ちっ!」
被弾の衝撃に顔を歪めながらも、敵機から目は離さない。
砲弾を悠々と躱したグーンは、1機はアークエンジェルを狙いに海上へ、
もう1機はストライクを攻撃する為回り込んでくる。
「アークエンジェル、1機そっちに行きました!」
『了解、対潜迎撃開始!』
ナタルの号令で、海面が一気に騒がしくなる。
イーゲルシュテルンによる迎撃が始まったのだ。
しかし、何時もの対空砲火の厚さに比べると、それは些か威圧感に欠けていた。
足止め出来ていない自分に苛立つキラを、再度衝撃が襲う。
魚雷の被弾で生まれた気泡を振り払い、自機を狙うグーンにバズーカを放つが、またも回避された。
「くそっ!」
せめてこの1機だけでも何とかしなければならない。
予想以上に不自由な水中で、今までに無い不利な状況での戦闘が幕を上げた。

 

上空では早くも2機のディンがアークエンジェルに取付き、
スカイグラスパーと激しい戦闘を繰り広げていた。
とは言っても、アークエンジェルに積極的な攻撃はしてこない。
水中から目を逸らさせる事が目的か。前部甲板を陣取ったジンオーガーだったが、
肝心の水中の敵がアークエンジェルの真下に潜り込んでしまっている為ここからでは射角が取れない。
「しくじったな」
本当なら真下に潜られる前に狙撃したかったのだが、出撃が間に合わなかった様だ。
ストライクがグーンを誘い出してくれれば、こちらから援護も可能なのだが。
『僕1人でやれます!カマルさんはムウさんの援護を!』
まるで刹那の思考を読んだかの様な声が鼓膜を揺らす。
だが、上空の援護はアークエンジェルの対空砲火で間に合っている様だった。
今危機に瀕しているのは、間違い無くキラだ。
やはり海中の敵を相手にしなければならない。

 

「一か八か・・・か」
『カマル曹長、何をするつもりだ!』
ジンオーガーの不審な動きを、ブリッジで真上から見下しているナタルが見逃す筈が無かった。
アークエンジェルの進行方向に背を向け、今にも飛び降りようとしているジンオーガーの姿に
嫌な物を感じたのだろう。
『ラミアス大尉から報告があったぞ。貴官は海に入るな!』
どうやらマリューが事前に手を回していたらしい。つくづく信用されていない。
イアンにも同じ様な扱いを受けていたのを思い出して苦笑いする。
「安心してくれ。海には降りない」
『あっおい!?』
ナタルから許可を貰う前に、刹那はジンオーガーに甲板を蹴らせた。
直ぐ様、足場から離れた機体が落下を開始する。
刹那は事前にチャージを始めていた大型スラスターを点火、
丁度アークエンジェルの脚の間を抜ける形で爆発的な加速を発揮した。
この大型スラスターなら、ある程度の時間機体を滑空させる事が出来る。
アークエンジェルの底部を駆けるのに1秒掛かるかどうか、
攻撃を仕掛けられるタイミングは文字通り刹那に等しい。
それを逃せば、警戒したグーンを仕留めるのが難しくなる。刹那は僅かな時間に賭けた。
海面からアークエンジェルに攻撃を仕掛けているグーンの位置を、脳量子波で感じ取る。
「そこか・・・!」
グーンは海面に丁度頭を出した瞬間、蒼い稲妻を見ただろう。
タイミングを計って放たれた榴弾は、グーンの右腕を直撃し、機体に大きなダメージを与えた。
「ちっ!」
攻撃のタイミングはもう無い。射撃を終えて直ぐに、アークエンジェル底部にある、
スラスターが並んで半楕円を描いている足場へ着地を試みる。
各部小型スラスターを駆使して急制動をかける。
しかしそれだけでは勢いは殺せず、両肘のスラスターを動員してやっと止まった。
「ハァハァ・・・」
急加速に次いでの急制動は、流石の刹那も体への負担が大きい。
息を整えながら海面を見やった。先程のグーンの姿は無い。
大破はさせられなかったものの、戦闘不能には追い込めた様だ。
『曹長!』
一息吐く暇も無く、ナタルの怒声が鼓膜を破らんとでもする様に耳へ飛び込んできた。
『無茶をするなと、フラガ大尉に散々言われていただろう!
 ノイマンが顔を青くしているぞ!』
「済まない。後で謝る」
どうやらノイマンが刹那を落としてしまったと勘違いしたらしい。
それだけ言って、刹那は海面に意識を戻した。
油断無くバズーカを向けるが、先程のグーンも、もう1機のグーンも海面に上がってくる様子は無い。
脳量子波で探ると、どうやら中破したグーンは既に後退を始めていた。
「後はキラ、か・・・」
この戦闘は相手も本腰を入れたモノでは無い。偵察を兼ねた小手調べだ。
それを考えればあまり深追いする必要は無いが、キラのあの様子ではそんな事を気にする余裕は無い。

 
 

「このっ!」
懸命に敵機を捉えようとトリガーを引くキラだったが、先程から1発も掠る気配すらない。
逆にグーンからの攻撃は当たり放題で、PS装甲の通用しないフォトンメーザーは
辛うじてシールドで防いでいる状態だった。
「くそ、こっちにも水中用の装備があれば―――ぐっ!」
再び魚雷が命中し、コクピットに激震が走った。
そろそろバズーカの弾薬が少なくなって来た。
大容量バッテリーを背負っていたストライクであったが、今やそれも僅かになっている。
焦りを募らせるキラの真上で、一際大きな爆発が起こった。
「なんだっ!?」
見上げれば海面に大きな波紋が広がり、
そこからアークエンジェルを攻撃していたグーンがヨロヨロと離れて行くのが確認出来た。
シルエットでしか分からなかったが、どうやら被弾している様だ。
本当なら追撃を掛けたい所だが、この距離ではそれも厳しい。

 

「カマルさんがやったのか。僕も―――」
負けていられない。
攪乱されて散漫になっていた集中力が、刹那への対抗心によって高まって行く。
集中は閃きを生み、キラの脳内に突破口を示した。まだ手は残っている。
後方から飛んできた魚雷をシールドで防ぎ、機体をグーンへ相対させた。
ストライクが立っている場所は先程周りの岩礁を破壊したせいで視界が開けており、
高機動の相手と戦うには不利だ。キラはそう判断すると、
ストライクをまだ破壊されていない岩礁が集まる位置へ移動させる。
「ここだ」
キラが選んだ場所は、周りに大小の岩礁がひしめき視界の利かない位置であった。
グーンが付いて来るのを確認して、残り少ないバズーカとガンランチャーを一斉射。
ノロノロと進む榴弾に対して、グーンは直進を選んだ。至近距離まで近付いて、
確実にフォトンメーザーを命中させようという魂胆だ。
どうやら敵も僚機を失って焦っている。それも、キラの思惑通りだった。
グーンが3発の榴弾の間を通る直前、右肩のバルカン砲が火を噴いた。
しかし狙いはグーンでは無い。
水中でもある程度推進力を保つ120ミリ弾は、寸分違わず榴弾を撃ち抜いて見せた。
爆発した榴弾が辺りの岩礁を破壊し、初めと同じ様に砂を巻き上げ、煙幕を張る。
「貰った!」
バズーカを捨てアーマーシュナイダーを抜いたストライクがグーンも巻き込まれた砂煙に飛び込んだ。
射撃が躱されるなら、至近距離で確実に撃破する。
視界の利かない砂煙の中なら、相手の思考を読める自分に分がある。
ここまで思惑通り進んだ攻勢。しかしそれは、視界に捉えたグーンによって砕かれた。
グーンが既にこちらを補足しており、フォトンメーザーの砲身をストライクに向けていたのだ。
「なっ!?」
水中戦では、目視よりもソナーによる索敵の方が重要視される。
つまり、水中戦用のグーンにはソナーを使う事で、
視界の利かない状況でもストライクを正確に補足していたのだ。
それを失念していたキラに、発光し始めた砲門が突き付けられる。
アーマーシュナイダーが届くより一瞬早く、フォトンメーザーがコクピットを貫く。
脳裏に焼き尽くされる自分が過ったその時、グーンの真横を、榴弾が至近距離で通過した。
発生した波動でグーンが僅かに傾ぎ、コクピットに直撃する筈だったフォトンメーザーは
ストライクの腰を掠るに留まった。
「おおおおおっ!」
思いも寄らぬ奇襲に僅かな隙を見せるグーン。怯む事無く更にペダルを踏み込んだキラに応え、
アーマーシュナイダーの間合いに飛び込んだストライクは、グーンの頭を鷲掴みにする。

 

「捕まえたぁっ!」

 

流れ込んでくる恐怖の感情にキラは歓喜する。
まるで自分の腕でそうする様に、渾身の力を込めてアーマーシュナイダーをコクピットに突き刺した。

 
 

海面に大きな水柱が上がる。その大きさは、間違い無くMSの爆発を示す物だった。
ストライクの信号は健在。
アークエンジェル底部からそれを見下していた刹那は、ホッと胸を撫で下ろす。
間一髪の所で放った援護射撃が外れた時はどうなる事かと思ったが、何とかなった様だ。
「アークエンジェル、上空の戦況は?」
『あっはい。―――フラガ大尉がディンを1機撃破、
 残りの敵機は後退の動きを見せています』
『追撃はしない。2分後、敵の動きに変化が無ければストライクの回収作業に入る』
どうやら上空も問題無く終わった様だ。
「了解。キラ、聞こえたか?」
『・・・・・・聞こえてます』
ナタルの指示に頷いて、海中にいるキラへ回線を繋げる。
返ってきたのは、何かを抑え込んでいる様な、沈んだ声だった。
刹那は首を傾げながら、ジンオーガーの回収は面倒そうだと考えても仕方ない事を考えていた。

 
 

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