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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第76話

Last-modified: 2012-09-12 (水) 22:39:43
 

『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!』
無線越しにイザークの悲鳴が響いた瞬間、
ニコルはアークエンジェルに向かってブリッツを奔らせていた。
『あっおい!』
ディアッカの制止の声も聞こえたが無視する。
イザークが危ない、それだけで自分が動くには十分な理由だった。
アークエンジェルの対空砲火を躱して接近すると、
デュエルに馬乗りになったストライクが視認出来る。
ひたすらガトリング砲でデュエルを嬲っている様は、戦場にあっても異常な光景だった。
「でもこれなら・・・!」
ストライクはデュエルに夢中で、ブリッツの接近に気付いていない。
今ならイザークを助けられる。しかしこれ以上接近すれば流石に気付かれるだろうし、
接近する間にイザークがやられる可能性がある。
一か八か、ニコルが意を決して飛び込もうとした瞬間、
後方からの狙撃がアークエンジェルのミサイル発射管に撃ち込まれ爆発、
アークエンジェルが傾いだ。ストライクも体勢を崩す。
バスターの長射程狙撃ライフルである。
『たくっ、世話の焼ける』
「イザーク、後方にグゥルがあります、一旦後退して下さい!」
『・・・・スマン!』
ディアッカの絶妙な援護に礼を言う間も惜しんで、
ニコルはイザークに後退する様に言うと、
これ以上接近したら流石に気付かれるという
ギリギリの位置でミラージュコロイドを起動、グゥルから飛び出した。
入れ替わる様にデュエルが後方に飛ぶ。
ストライクが榴弾で追撃しようとするが、もう遅い。
『ニコル!?』
「すいませんアスラン、ここは僕が!」
ジンオーガーと交戦ミラージュコロイドを解除すると、直ぐ様PS装甲を起動。
シールドで榴弾を防ぐと、その勢いのままストライクに斬りかかった。
ストライクは突然現れたブリッツに面食らったのか、尻餅を着いたまま無防備だ。
それでもビームサーベルが届く直前に僅かに反応してみせ、
コクピットを狙った一撃は左腕を切り飛ばすに留まった。
「よし!」
敵艦に着地しても、ニコルは冷静だった。
絶好のチャンスに仕留めきれなかったストライクを、深追いはせずに距離を取る。
イザークが格闘戦で敵わない相手だ、左腕を破壊したといっても、勝てる自信は無い。
それにブリッツにはもっと他に出来る仕事がある。
ニコルは再びミラージュコロイドを起動しようとすると、
体勢を立て直しながらストライクがガトリング砲で射撃してきた。
「くそ・・・!」
正確な射撃に、ブリッツは防御を余儀無くされる。
ガトリング砲は実弾な為、PS装甲に対して致命傷は与えられない。
しかしその弾丸の嵐の反動は凄まじく、MSの動きを容易く止める威力を有していた。
加えて、ミラージュコロイドはPS装甲と同時展開が出来ない。
長時間足止めを食えば、敵から集中攻撃される事になる。
そうなれば、敵艦に取付いたというのに海に逃げるしか無くなるだろう。
しかし、その衝撃はすぐに終わりを迎えた。
機体が自由になった瞬間、ミラージュコロイドを起動する。
ブリッツを移動させながら横目で確認すると、空しく回転するガトリング砲が目に入った。
「弾切れか」
あれだけデュエルに向かって撃ち込んでいれば当然の結果だった。
ニコルはこれ幸いとストライクを無視し、
イージスやディンを攻撃するイーゲルシュテルン排除を開始した。

 
 

丁度その頃ブリッジは、左舷のミサイル発射管に被弾した
アークエンジェルの姿勢を立て直すのにてんやわんやになっていた。
「第6、第7隔壁閉鎖!パワーサプライを左舷の高度維持に回せ!
ストライクは何をやっている!」
「キラ、応答して、キラ!ブリッツに取付かれたわ!」
「イーゲルシュテルン、11、12番被弾!」
ストライクがおかしな動きをしているのは、ブリッジでも把握していた。
現在はブリッツの奇襲を受けた為か、動きが鈍っている。
その間にも、ブリッツがイーゲルシュテルンを潰して回っていた。
怒号飛び交う中、新たな情報がナタルの耳に飛び込んできた。
「レーダーに感!2時の方向に新たな艦影を捕捉!」
「敵の増援ですか!?」
「いや、あれは」
トノムラの報告に、カズィが情けない声を上げる。
現状でも手一杯の状態なのだから無理も無い。
しかしナタルはその報告に若干眉を顰めただけでカズィの言葉を否定した。
間を置かず、艦に通信が入る。
『こちらはオーブ艦隊、繰り返す、こちらはオーブ艦隊』
艦隊司令の事務的な声がブリッジに響く。
それは、学生組には慣れ親しんだ祖国であるオーブの艦隊であった。
「助けに来てくれたんだ!」
カズィの声が先程から一転して明るい物に変わる。
しかしそれも束の間、続く艦隊司令の言葉は、カズィの希望を粉々に打ち砕いた。
『接近中の地球軍艦艇、及び、ザフト軍に通告する。
貴官等はオーブ連合首長国の領域に接近中である。速やかに進路を変更されたい。
我が国は武装した船舶、及び、航空機、モビルスーツ等の、
事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!』
「そっそんな」
「やはりか。取り舵15度、領海線から離れろ!」
「・・・了解!」
オーブはこの戦争の中にあって中立を掲げる国である。
連合でもザフトでも無い国であり、
本国の領海線となればヘリオポリスとは比べ物にならない警備が敷かれている。
目視出来る艦隊の規模も装備も、世界有数の物だ。
アークエンジェルとザラ隊が交戦している海域は、オーブの領海線に近い位置にあった。
傾いた艦を進路変更させるのは、船体にかなりの負担を掛ける事になるが
ザフトとオーブ艦隊に挟み撃ちにされるよりはマシだ。
カガリがブリッジに押しかけて来たのは、
ナタルが少ない次の策を模索しているその時だった。

『繰り返す。速やかに進路を変更せよ!』
「オーブか・・・!」
オーブ艦隊からの通信は、ザラ隊にも届いていた。
オーブ領海線の近くだという事は分かっていたが、思ったより展開が早い。
ヘリオポリス崩壊を受けて敏感になっていたのか。
『この警告は最後通達である。本艦隊は転進が認められない場合、
貴官等に対して発砲する権限を有している』
オーブ艦隊からの通信の内容がいよいよ物騒な物になっていく。
撤退の選択肢が脳裏に浮かんだ直後、先日聞いたばかりの声が、
オープンチャンネルから響き始めた。
『お前この状況を見て、良くそんな事が言えるな!』
(カガリ・・・!?)
艦隊司令に食って掛かる声は、間違い無く先日無人島であった少女の物だった。
危うく声に出しそうになるのを寸での所で思い留まった。
『貴様、何者だ!』
『お前こそなんだ!第二護衛艦軍の司令官が、
そんな事務的な物言いしか出来ないではオーブ軍も危ないなティリング提督!』
『なっ・・・』
不意に自分の名前を出された艦隊司令、もといティリングは言葉に詰まった。
艦隊はオーブ所属という事しか身元を明らかにしていない。
にも関わらず、その所属を当て、あまつさえ司令官の名前、階級も言ってのけたのだ。
「・・・オーブの関係者か・・・?」
しかも提督に向かってこの態度は、かなり高い地位である事を臭わせる。
これはもしかすると、何か重要な事が起こるかもしれない。
アスランはアークエンジェルから若干距離を取り、彼らの会話に耳を傾けた。

 
 

「これからアークエンジェルはオーブ領海内に突っ込む。だが攻撃はするな!
お前では判断出来んだろうから行政府、ウズミ・ナラ・アスハに繋げ!
どうせ円卓の会議室から、この状況を見ているんだろう!」
『いや、それは・・・』
アークエンジェルのブリッジで、
ナタルから無線機を引ったくり艦隊司令を圧倒するカガリの剣幕に、
周りのクルーの目が彼女に集中した。
「こっちの状況は逼迫しているんだ!
言う通りにしないなら、通信半径を広げて
ウズミ・ナラ・アスハに関する機密を有りっ丈叫ぶぞ!」
『何者かも分からぬ者の言葉なんぞ、誰も信じぬさ!』
ここまで言っても折れないティリングに、カガリは苛立たしげに頭を掻き、
息を大きく吸って今までで一番大きな声で怒鳴った。
「私はオーブの獅子の子、カガリ・ユラ・アスハだ!さっさと父に繋げ!」
その言葉に、無線の向こうにざわめきが起こるのが分かった。
黙って聞いていたキサカも、やってしまったと言わんばかりに顔を押さえる。
「アスハって・・・」
「代表首長の?」
アスハといえば、学生組には馴染みの深いオーブのトップであるアスハ家である。
オーブは代々、五大氏族という所謂貴族達によって維持されており、
その中でも特に大きな力を持つのが、
現代表首長を務めるウズミの家でもあるアスハ家である。
カガリはまだ世間にお披露目される前の身であり、
学生組が彼女の顔を知らないのもその為だった。
『何を言うかと思えば、連合所属の艦に、オーブの氏族が乗っている訳があるか!』
「父に確認すれば分かる!いいから行政府に繋げ!」
『仮に真実であったとしても、何の確証も無しにそんな言葉に従えるものではない!』
「あっ、待て・・・うあっ!?」
一歩も退かないカガリを相手にするのに嫌気が指したのか、
ティリングはその言葉を最後に通信を切ってしまう。
直後、アークエンジェルを大きな衝撃が襲った。

 
 

長射程狙撃ライフルから発射されたビームが、
アークエンジェル後方から伸びる翼の片方を吹き飛ばす。
アークエンジェルにとっては大ダメージとなる攻撃だったが、
エンジンを狙ったディアッカは不機嫌そうに舌打ちを打った。
「ご心配なくってね!領海になんて入れないさ、その前に決める!」
バスターは長射程狙撃ライフルの連結を解除、
対装甲散弾砲に切り替え、アークエンジェルに接近する。
既にアークエンジェルの周りは混戦状態で、バスターへのマークは薄い。
ならば接近して、確実にエンジンを破壊しようとディアッカは判断したのだ。
『ディアッカ、射線に注意しろ!オーブ艦に掠らせでもしたら国際問題だぞ!』
「はいはい。まっ、今更だと思うけどな。―――ニコル、離脱準備をしておけ!」
アークエンジェルの艦上にいるニコルに警告すると、
一発でエンジン全基を破壊出来る位置にバスターをつかせる。
「へっ、今までの借り、返させて貰うぜ!」
対装甲散弾砲を構え、狙いを定めたディアッカが引き金を引こうとする。
その直前、榴弾がバスターを直撃し、衝撃で機体が激しく振動した。
「うっお、またアイツか!アスラン、しっかり抑えて―――」
『ディアッカ!』
またしても良い所を邪魔された。愚痴りながら再び射撃体勢を取ろうとすると、
今度は無線からミゲルの警告が響く。
気が付くと、正面からスカイグラスパーが突き進んでくるのが見えた。
咄嗟に回避行動を取ると、直前までバスターがいた位置をビームの閃光が通り過ぎる。
「ちぃっ・・・!」
視線を甲板上に向けると、
先程榴弾を撃ち込んできたジンオーガーのモノアイがこちらを睨んでいるのが見えた。
このままではこの位置に陣取っている事すら危うい。
若干照準は甘いが、対装甲散弾砲なら多少のズレは誤差の範囲だ。
そう判断したディアッカは、急かされる様に引き金を引いた。
発射された徹甲弾の雨がアークエンジェルのメインエンジンを貫く。
「よし!」
『いや不味い!』
ガッツポーズを取るディアッカだったが、アスランが即座にそれを否定した。
照準がズレた対装甲散弾砲が貫いたのは、メインエンジンの右半分。
それも火と煙を吹いただけで爆発するどころか未だに空に浮いている。
「なんて艦だよ・・・」
そのダメージコントロール性能、姿勢制御性能は驚嘆に値する。
しかしアスランが不味いといったのは別の理由からだった。
いくらアークエンジェルの性能が破格であっても、
メインエンジンを半分失ってそのまま飛行していられる筈も無い。
アークエンジェルの巨体が、ゆっくりとオーブ艦隊の方に傾き始めていた。

アークエンジェルのブリッジが、これまでで最大の激震に襲われる。
艦長席の隣に立っていたカガリが激震に耐えられず倒れ込むのを、
後ろに控えていたキサカが受け止めた。
「1番2番エンジン被弾!48から55ブロックまで隔壁閉鎖!」
「推力が落ちます!高度、維持できません!」
モニターには船体の半分程が赤く表示されたアークエンジェルの断面図が映っていた。
2基のエンジンを失ったアークエンジェルが、ゆっくりとオーブ艦隊の方へ傾く。
残された推力では、最早進路変更も出来ない。領海侵犯は時間の問題だった。
領海に入ればザフトは追ってこれない。
しかし、代わりにオーブ艦隊の総攻撃が傷付いたアークエンジェルを沈めるだろう。
死刑執行人が代わっただけだ。
「くっ、このままでは・・・!」
ナタルの中で諦念が頭をもたげたその時、
彼女が座る艦長席の背もたれに大きな手が置かれた。
「これでは、領海に落ちても仕方あるまい」
「しかし・・・」
顔を覗かせたのは、カガリを脇に抱えたままのキサカだった。
不安を隠しきれないナタルに、彼は静かに頷いてみせる。
「心配は要らん。第二護衛艦軍の砲手は優秀だ。上手くやるさ」
言外に、オーブにとってもアークエンジェルは沈まれて困る艦だと
臭わせるキサカの口調は、今までの寡黙なゲリラの物では無く、歴戦の軍人のそれだった。
「・・・了解した。准尉、話は聞いていたな。操艦は任せる」
「了解・・・!」
ナタルの声に応え、ノイマンがハンドルを握り直す。
白亜の船体が、目に見えぬ領海線を破りオーブ艦隊の真横に着水した。

 
 

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