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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第78話

Last-modified: 2012-09-12 (水) 22:49:48
 

ナタル、マリュー、ムウの士官3人は、アークエンジェルのあるオノゴロ島を離れ、
オーブ本島にある行政府に来ていた。
落ち着いた調度品で飾られた長い廊下を案内され、やっと目的の部屋へと辿り着いた。
「間も無くウズミ・ナラ・アスハ前代表が参ります。少々お待ちください」
ここまで3人を案内してきた秘書官は、それだけ言うと一礼して去って行った。
「しかし、しょっぱなこんな大物と面会する事になるとはねぇ」
廊下に比べても高級と分かる調度品の並んだ客間。
腰掛けるソファーは、今まで座ったどの椅子よりも座り心地が良い。
持って帰ってベットにしたいくらいだ。
「フラガ大尉、何時もの調子で話されては困りますよ?」
「分かってる分かってる。だからこそ一番上まで留めてるんでしょ」
マリューの指摘に、ムウは自分の胸元を指差して軍服を正しく着ている事を示す。
ナタルからすればそんな事当たり前の事なのだが。
「無駄話はそこまででお願いします。来ますよ」
ナタルがコホンと咳をして2人を制してから一拍、
自分達が入ってきたドアからフラガの言う大物が現れる。
軍人であるムウから見ても立派に見える体格の上に厳格そうな顔を乗せたその人物は、
アークエンジェルをオーブに招き入れた張本人であるウズミ・ナラ・アスハであった。
立ち上がった3人の前に来ると、顔つきに反しない静かで話し始める。
「オーブ連合首長国前代表、ウズミ・ナラ・アスハだ。
客人を待たせた非礼を許して欲しい」
「地球連合軍第八艦隊所属、アークエンジェル艦長ナタル・バジルール少尉です」
「同じく、ムウ・ラ・フラガ大尉」
「マリュー・ラミアス技術大尉です」
返礼した3人に席に着く様に促し、その場の全員が席ソファーに腰掛けた。
「まず前提の確認をしておこう。
諸君の艦は我が国の艦隊から砲撃を受け、既にオーブ領海から離脱した事になっている」
「はい」
「だが見ての通り、君達も艦もオーブに留まっている。
そして我が国は中立だ。そこから見出される答えは?」
ウズミの問う様な言葉に、一瞬客間に沈黙が降りる。
下手な事は言えない、と誰もが尻込みしそうな問いに、口を開いたのはナタルだった。
「オーブに利となる事があると?」
「技術提供・・・例えば戦闘データ・・・」
アークエンジェルを匿う事でオーブが得る利益といえば、それしか考えられない。
勿論、ヘリオポリスが襲撃される以前のMS開発技術などはとうに得ているだろう。
そうなれば、残るは戦闘データだ。
「ご明察だ、流石は技術士官殿だな。しかしそれだけでは無い」
含みを持たせたウズミの言葉に、マリューは顔に出さないものの内心困惑する。
戦闘データ以上の物とは。
「単刀直入に言おう。
ストライクパイロット、キラ・ヤマト少尉にモルゲンレーテへの技術協力をして頂きたい。
そうすれば、相応の見返りを、諸君と諸君の艦に約束しよう」
「そっそれは・・・」
「問題かね?彼は元々、オーブの民だ」
何故思い付かなかったのか。戦闘データ以外にも、オーブが求める物がある。
ヘリオポリス崩壊前まで、全く実用の目途が立っていなかったOS関係の技術だ。
ストライクのOSは、殆どキラのオリジナルと言っても良い。
つまりキラは、マリューは勿論、モルゲンレーテの誰よりも
ストライクとそのOSに精通している事になる。
「・・・少し時間が必要かな?」
「申し訳ありません」
「よい。私は別室にいる。決まったら呼んでくれ」
ウズミはそう言うと、あっさりと客間から出て行ってしまった。

 
 

「随分余裕だな、あのおっさん。もう少し脅されると思ったが」
また部屋の中が3人に戻り、初めに口を開いたのはムウだった。
彼の言う通り、ウズミは政治家でありがちな言葉での圧力は殆ど掛けてきていない。
事実を並べて提示してきただけだ。友好国でもない軍人3人相手に護衛も連れず、
こうしてこちらだけで話す時間も作っている。
「我々に選択肢が無い事を分かっているんです。だから必要以上の圧力をかけてこない」
「じゃあ・・・」
「仕方ないでしょう。今我々には、何の力も無い」
ナタルは無念そうな様子で、ウズミの要求を受け入れようと言う。
「だが、それは全部軍事機密だぜ?
アラスカに着いた時、この事が問題になったら責任を押し付けられるのはアンタだ」
「領海の外ではザフトの部隊が待ち伏せしている事でしょう。
要求を拒否して手負いのまま放り出されては、当のアラスカに辿り着けるかも危うい。
この状況になった時点で、艦長である私は押し付けられるだけのミスを犯しているのです」
「そう気負うな。アンタは十分上手くやってるだろ」
ムウがフォローを入れるものの、現状はナタルの言う通りだった。
飛行さえ儘ならない今のアークエンジェルでは、
後1回の襲撃を防ぐ事さえ至難の業と言える。
今までの道のりを考えれば後少しと言える距離でも、
手負いのまま渡るには危険過ぎる橋だ。
「ラミアス大尉は、どう思う?」
「・・・私、ですか?」
話しに加わってこないマリューに、ムウが意見を求めた。
要求が技術的な物である以上、技術士官の彼女の意見は重要であった。
「オーブは元々技術力の高い国です。
我々が技術を提供してもしなくても、近い内に求める技術水準へ達するでしょう」
「では、ラミアス大尉は賛成という事で?」
「ええ・・・でも」
「でも?」
言っている事とは裏腹に、マリューの表情は晴れない。
情報を漏らす事への躊躇いでは無い事はムウにもナタルにも分かった。
「キラ君に、技術提供をさせるというのはどうも・・・彼、疲れている様ですし。
私が代わりという訳にはいかないのかしら」
「いかないんだろうな。いいんだよ、そんな気使わなくて。あの馬鹿には丁度良い薬だろ」
「・・・・・・」
マリューの感情論に、ムウは若干意地の悪い事を言う。
今の所、戦闘中のキラの行為への罰はまだ決まっていない。
罰則として特別業務を課すのは悪くない方法だ。
それがアークエンジェルの修復に繋がるなら尚更だ。
「そう沈んだ顔するなよ。アイツは賢い奴さ。今回の事だって、自分の非は解ってるんだ。
ただ、それを感情が上回っちまってるだけで。
そんな時大人に出来る事は、内にある罪悪感が膨らまない様に、
清算出来る場を与える事ぐらいだ」
ムウに殴られた時、キラは感情でこそ反抗していたが、
その行動は殴られる為に取っているとしか思えない物だった。
これは、数多くの新兵を教育してきたムウだから分かる事と言えるだろう。
「フラガ大尉はヤマト少尉を信頼し過ぎる。優れたパイロットですが、所詮は子供です。
今回の件は大目に見ますが、今度少尉が勝手な行動を起こしたら
ストライクから降ろします」
「分かってるよ。で、ラミアス大尉?」
言外に直接の上司なのだからしっかりしてくれと言われ、
ムウは誤魔化す様にマリューへ再度話を振る。
「分かりました。大尉を信じます」
「では、ウズミ氏に連絡を入れます」
「ええ」
客間の電話を取りながら確認を取ったナタルに、マリューが頷いた。

 
 

「という事だ」
「・・・何故それをキラに言う前に俺に話す?」
アークエンジェルのハンガー。オーブとの取引について、ムウが刹那に説明していた。
キラは最近日課になっている訓練の為、
シミュレーター室に籠っているので聞かれる心配は無い。
「そりゃお前・・・俺がアイツにそんな命令、出したいと思うか?」
「つまりキラの所に付いて来て欲しい、という訳か」
ムウとしても、キラにオーブへの技術提供をさせる命令を言い渡すのは
気が退けるのが実際の所だった。刹那にズバリ図星を突かれて、両者の間に沈黙が流れる。
「・・・・・・悪いか」
「いや、行こう」
そう言うと、刹那はキラのいるシミュレーター室へと歩き出す。
気の進まないムウも仕方なくといった様子でその後に続いた。

 
 

シミュレーター室に刹那とムウが入ると、キラは丁度休憩中だった。
肩からタオルを下げ、水分補給する彼にムウが命令を説明する。
「それで、僕はモルゲンレーテに出向すればいいって事ですか?」
「そういう事だ。暫く掛かるかもしれないから、用意はちゃんとして行けよ」
「はい」
ムウの説明に、キラは意外にもアッサリ従った。
それを怪訝そうに見ていた刹那が口を挟んだ。
「・・・不満は無いのか?」
「不満ですか?・・・無いですよ」
にべも無い、取付く島も無い返答。
しかしキラは、言ってしまってから考える様な素振りを見せて、再び口を開いた。
「すいません、ありました。モルゲンレーテではシミュレーターが出来ません」
「たまには操縦桿を握らない日も必要だろう」
「・・・・・・」
キラが刹那を睨み、刹那もキラを見返す。
一触即発な雰囲気に、ムウが口を挟もうとしたその時、それより先にキラが口を開いた。
「僕と模擬戦をしませんか?この前の様に実機を動かす訳にいきませんけど、
シミュレーターを使えばフル装備で戦えます」
「おいキラ・・・!」
「分かった。やろう」
「おいおい」
キラの挑戦状を刹那はあっさり受け取った。
予想外の展開に、ムウはやれやれと首を振る。
「だが一戦だけだ。それ以上の我が儘には付き合えない」
「・・・・・・!」
刹那の一言にプライドを傷付けられたキラは、
ギロリと彼を睨んでシミュレーターに乗り込んだ。
「おいおい大丈夫かよ。艦長と決めた予定時間まで余裕無いぜ?」
「大丈夫だ・・・」
「?」
「すぐ終わらせる」
時間を気にするムウにそれだけ言って、刹那もシミュレーターの中に消えていった。
「ひゅ~、アイツでも怒るんだな」
シミュレーターの中に入る直前の刹那の表情には、
僅かではあるがハッキリと怒りの念が刻まれていた。これからどういう展開になるのか。
大体予想出来たムウだが、休憩スペースに設けられた観戦モニターの電源を入れた。

 
 

ナタル達との取引を終えたウズミは、
自分の執務室でアークエンジェルクルーの名簿と睨み合いながら思案に暮れていた。
「・・・これも運命か。キラ・ヤマト・・・」
連合の軍服を身に纏ったキラの写真を眺め、静かに唸る。
オーブ国民が非常事態とはいえ連合に入隊する事になった事は非常に遺憾であったが、
彼らの置かれた状況を鑑みれば責める事は出来ない。
彼らから要望があれば、家族との面会も許可しよう。
それだけの責任は、ウズミも感じている。
しかし、キラの処遇に関しては、妥協する事は許されなかった。
「許せ」
自分の罪から目を逸らす様に、
ウズミの目線はキラの写真の横に映っている男の顔へと向いた。
「カマル・マジリフ・・・登録はナチュラル、職業は修理工か・・・」
浅黒い肌を持ったその男の経歴には、一見して怪しい点は無い。
1年前にユーラシア連邦から移住しオーブ国籍を取得している。移住に関する記録は完璧だ。
だが、ウズミの嗅覚が彼は普通の移民で無い事を知らせていた。
大体、ナチュラルがジンを操り、コーディネーターの操る新型と
互角以上に渡り合っている時点で胡散臭いと思うべきだろう。
詳細に調べさせる必要があるかもしれない。
「もしかすると、彼にも協力して貰う必要があるかもしれんな」
名簿をデスクに置き、厳しい表情でウズミは呟いた。

 
 

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