Top > 機動戦士ガンダム00 C.E.71_第82話
HTML convert time to 0.012 sec.


機動戦士ガンダム00 C.E.71_第82話

Last-modified: 2012-10-18 (木) 04:50:05
 

『ああっ・・・凄い!』
『一体どうやってるの!?』
『これが経験の差って奴?』
コクピットの中に三者三様の黄色い声が響く。
アストレイを初起動させた次の日、刹那は早くもアストレイに乗り込み、
ドーム状の演習場にいた。
『セッ、センサーの探知速度を再設定したわ。もう一度動いてみて』
エリカの声に頷き、刹那は乗機であるアストレイ4号機を再び操り始める。
動き自体は、キラがアストレイを初めて見た時と同じ、武道の型の様な動きだ。
ただしその速度と精度は、彼女達のそれの倍は優れていた。
先程動いた時には、センサーを精度重視で反応速度を落として設定
していた為動きに追い付けなかった。
しかしそれでも、戦場で役に立つかは微妙なラインだ。
刹那的に言えば、例の新型相手には対処出来ない。
だが刹那はアストレイの性能には良い意味で驚いていた。
『どう?我が社のアストレイは』
「悪くない。OSは別として、この機体構造は良く出来ている」
『お褒めに預かり光栄ね』
OSが酷い事を抜きにすれば、C.EのMSでこれ以上馴染む機体は
刹那にとって無いと言えるレベルだった。
『元々は兵器云々抜きの技術試験機だったのよ。
だから限り無く人間に近い動きが出来るわ。
その代わり余分な物を積載出来るペイロードが少ないけれど』
刹那が気に入ったのは、その機動性と運動性、特に各関節の柔軟性だった。
エリカの言う通り、纏える装甲は薄く、装備も重武装には向かない。
だが逆にいえば機体の総重量を抑える事が出来る為、
その運動性能をより生かす事が出来る。
「だが問題は、やはりOSだな」
挙げられたアストレイの長所は、全てOSの出来に掛かっていると言って良い。
一級の運動性も機動性も、碌に動けないのでは宝の持ち腐れだ。
『分かってます。その為に、僕がいるんですから』
刹那の呟きに不機嫌そうに答えたのは、
エリカと共にモニター室で演習場をモニターしているキラだった。
「ああ、任せる」
『・・・・・・はい』
刹那の応答にも歯切れが悪い。
今朝アストレイに乗り込む刹那を見ただけで、キラは大変に不機嫌になった。
正確には、不機嫌になったというよりショックを受けたという方が近いか。
彼にとって、キラの存在はそれだけ大きかった。
今は時間が経った事である程度収まった様で、
不機嫌ながら自分の仕事を淡々とこなしていた。

 
 

演習終了後、アストレイのテストパイロットである
アサギ、ジュリ、マユラの3人娘との話もそこそこに、刹那はキラの所に直行した。
というのも、ナタルから気になる話を聞いたからだ。
通路を歩いている彼を発見して、声を掛ける。
「キラ、家族との面談、断ったそうだな」
「なんですか急に」
ノートPCを脇に抱えたキラは、露骨に話したくないという雰囲気を出しながら一応答える。
それにも構わず、刹那は何時も調子で話を進めた。
「何故断った。直接連絡も取らなかったそうだな」
「メールは送りましたよ。それに今僕は・・・軍人、ですし」
軍人。ただの職業でしか無いその言葉は、今のキラには途轍もない重荷だった。
刹那もそれを十分分かっていたが、それでも敢えて言葉を重ねる。
「そんな事は関係ないだろう。
軍人であれ何であれ、お前がお前である事に代わりは無い筈だ」
「カマルさんはいいですよ。確固たる自分を持っているんですから」
俯き、自嘲気味に言うキラの顔は、この歳の少年がするには重すぎる表情を浮かべていた。
「キラ・・・」
「それに今会ったら、多分言っちゃうと思うんです」
「何をだ?」
「・・・・・・何で僕を、コーディネーターにしたのか、って」
その言葉を最後に、両者の間に沈黙が降りた。刹那はその問いに答える術を知らない。
生まれを呪った事はあったが、キラの抱える闇はそれとは全くの別物だ。
「カマルさ~ん!」
その沈黙を破ったのは、刹那の後ろから現れたアストレイテストパイロットの3人娘だ。
操縦技術やMS乗りの心構えなどこの年頃の女性は兎に角話が長い。
その為刹那は半ば無理矢理話を切り上げて来た訳だが、どうやら追ってきた様だ。
「じゃあ僕は、もう少しOSを練ってみますから」
どさくさに紛れてキラはそう言うと、
刹那が呼び止める間も無く宛がわれた自分の個室へ戻って行ってしまった。
その後刹那は、追ってきた3人の長話に付き合わされる羽目になったのであった。

 
 

そして次の日。キラが徹夜で完成させたナチュラル用OSが、日の目を見る事になった。
どうやって許可を取ったのか、ムウもいる前で4機のアストレイが起動する。
「とりあえず試作1号の実験といきましょう」
「いえ・・・」
エリカの合図に合わせて、演習のプログラムに沿って
動き出したアストレイを見ながら、キラは首を振った。
「これで完成の筈です」
虚勢でも、自信に満ちたものでも無い。
徹夜明けの疲労が滲んだ少年の顔は、淡々と事実だけを語っていた。
「そんな訳無いわ。私達がどれだけ試行錯誤して・・・」
勿論、プロの技術者として物作りの厳しさを知っているエリカが、キラを窘めようとする。
しかし続く言葉は、アストレイと繋がったスピーカーからの歓声で遮られた。
『ああっ・・・・凄い!』
エリカが見たのは、今まででは有り得ない程スムーズな動きをするアストレイの姿だった。
3人娘の機体が戦闘機動を取り、刹那の機体に至っては
跳躍を織り交ぜた曲芸じみた動きを見せている。
「・・・一体この短期間でどうやって」
呆気に取られたエリカは、それだけ呟くのが精一杯だった。
「新しい量子サブルーチンを構築して、シナプス融合の代謝速度を40%向上させました。
後、一般的なナチュラルの神経接合に適合するよう、
イオンポンプの分子構造を書き換えました」
「・・・・・・門外漢の俺にはよく分からないんだが、凄いのか?」
空いている座席に寄り掛かっていたムウが、
キラの説明にクエッションマークを浮かべながらエリカに問う。
彼女は驚いた表情のまま頷いた。
「もう殆どキラ君のオリジナルね」
「ええ、まぁ」
キラには、資料として今までエリカ達が開発していたOSのコピーを渡していたのだが、
キラの説明からするとそれはどうやらあまり役には立たなかった様だ。
「へぇ、スゲェじゃんキラ。要は俺が乗ってもあれぐらい動かせる訳だろ?」
「理論的にはそうです。・・・ただカマルさんの様に動かすのは難しいと思います」
刹那の機体を指差すムウに、キラは曖昧に答える。
演習場を壊すのではないかと思えるくらい、
空間を一杯に使った曲芸を見せる刹那の操縦を指差されては、
誰も「はい」とは断言出来ないだろう。
「データは十分取れたわ。4人とも上がって」
エリカが手を叩き、モニター室が興奮に包まれたままその日の演習は終了になった。

 
 

夕暮れのオノゴロ島。
フェンスで区切られたモルゲンレーテ社の工場に隣接する場所に、
5人の男達が集まっていた。
他に人気は無く、男達はフェンスに集まって何か作業をしている。
作業をしている1人を隠す様に他の人間が囲っている様は、
どこか犯罪の臭いを醸し出していた。
「全く、軍需企業とはいえ民間の施設が軍港より警戒が厳しいとはな」
「どうだアスラン」
「何重にもなっていて、下手をしたら連合のプロテクトより固いな。時間が掛かりそうだ」
真ん中で作業している1人――アスランは難しそうな顔で答える。
「まさに、羊の皮を被った狼ですね。通れる人を捕まえた方が早いかも知れませんね」
ザラ隊一行は、アスラン達は情報収集の成果から、
軍施設よりもモルゲンレーテが怪しいと睨んでいた。
フェンスの修理業者を装って、内部に入る為に
セキュリティをハッキングしている所だったのだが、これが中々の曲者だ。
携帯用のハッキングツールしか持っていない現状では、突破を困難かもしれない。
『トリィ』
「なんだありゃ」
「あっ、ロボット鳥ですね」
鳥の鳴き声を模した電子音を響かせ、彼らの頭上を飛んでいくのは
ロボット鳥という割りとポピュラーなペットロボだ。
自身もロボット鳥を飼っているニコルだったが、
今飛んでいるそれは今まで見た事の無い型だった。
「トリィ!」
「あの人のでしょうか?」
「ハッ、ナヨそうな奴だな。丁度良い、アイツに開けさせるかセキュリティ」
ロボット鳥の後を追って、フェンスの向こうから少年が駆けてくる。
その声に、今までハッキングに集中していたアスランがビクリと肩を浮かせた。
「どうしたアスラン」
顔を上げ、少年の姿を認めたアスランはそのまま硬直してしまった。
ミゲルが声を掛けても反応せず少年を凝視したまま固まっていた。
アスランが固まってしまったのは、駆けてきた少年が見覚えのある、
敵になってしまった親友である事もあるが、
それ以上にこちらに気付いたキラから放たれる異様な殺気のせいだった。
こちらに気付いた少年――キラは歩みを緩め、右手を腰の後ろに回す。
ゆっくり間合いを詰める様に歩いてくるその動きは、まるで今から戦闘を始めるかの様だ。
アスラン以外はモルゲンレーテ社の社員という先入観と、イザークの言っていた様に、
初めにロボット鳥を追ってきた華奢な少年の第一印象のせいで気付かない。
アスランの緊張を感じ取ったかの様に、トリィが彼の肩に留まる。
元々トリィは幼少時のアスランがキラにプレゼントした物だ。
トリィがアスランを記録していても、何らおかしな所は無い。
「それ、僕のです。返して、貰えませんか?」
アスランの動揺を余所に、キラはそう言いながら尚を近付いてくる。
相変わらず右手は背中に回したままだ。
「・・・・・・」
「なんだコイツ」
キラの殺気を隠した表情に、ミゲルが勘付く。アスランも上着の中に右手を入れた。
しかしその警戒より早く、キラが背中に回した右手を引き抜こうとする。
「・・・・・・!」
直後、何時の間にか現れた浅黒い肌の青年がキラの後ろに立っていた。
キラの右手は背中に回されたまま、エビ反りの様な不自然な体勢で固まっている。
「それは彼の大切な物だ。返して貰えるか?」
「はっはぁ・・・」
殺伐とした雰囲気の中で、落ち着いた優しさを感じる声で青年はアスランを促した。
アスランもそれに毒気を抜かれたのか、拍子抜けする程簡単に、トリィをキラに返した。
「じゃあ、俺達はこれで」
「ああ、有難う」
アスランは青年に頭を下げると、そのまま踵を返してしまう。
他の隊員達も慌ててその後に続いた。
「おいおい、今の奴にセキュリティ通して貰うんじゃないのか?」
「そうだ。鳥を返した礼にとかで・・・」
ディアッカとイザークの言に、アスランは首を振った。
「そんな危険を冒す必要は無い」
「確かに、結構近い距離で見られましたからね」
「なんかちょっと危なそうな奴だったしな」
ニコルとミゲルの言にも、再びアスランは首を振った。
「そういう事じゃない。脚付きはここにいる、確実にな」
「どっどういう事だ!」
アスランの突然の発言にイザークが噛み付くが、アスランがそれを制す。
「聞かれたら不味い。日も暮れる。説明はクストーに戻ってからだ」
「・・・了解した」
今まで見た事が無い程険しいアスランの表情に、イザークも引き下がる他無かった。

 
 

作業服の5人組が去っていく。
彼らの背中が見えなくなるまで待って、青年――刹那はキラの腕を離した。
キラは掴まれていた右手を乱暴に振り解くと、
不機嫌を露わに刹那を睨み付けて声を荒げた。
キラの肩に留まっていたトリィが再び飛び立ってしまう。
「何で止めたんですか!あれは・・・!?」
言葉を言い終える前に、キラの口が止まる。
「それより、これは何だ?」
何時の間にか、キラが腰に隠し持っていた拳銃が刹那の手の中に納まっていた。
さっきまで右手で握っていた筈なのに何時の間に取ったのか。
聞こうとして、キラはそれを飲み込んだ。
彼はMSパイロットとしてと同様に、生身での戦闘技術も高い。
遂この間まで一塊の学生だった自分から銃を抜き取るなど造作も無いだろう。
「最低限の自衛手段ですよ。悪いですか?」
「いや」
刹那もそれは否定しない。ここはオーブで、自分達は地球連合の軍人だ。
万一の事を考えればおかしくは無い。
「だがそれとこれとは話が別だ。何故あそこで銃を抜こうとした」
「あれはザフトの工作員だった!当然じゃないですか!」
「それはモルゲンレーテの警備の仕事だ。
あそこで発砲していたら、それこそいらぬ嫌疑が掛かるぞ」
「・・・・・・」
出向中の連合軍人が、オーブのモルゲンレーテ社の敷地内でいきなり発砲したとなったら、
どんな理由であれ問題になるのは避けられない。
そんな事が分からないキラでは無い筈なのだが。
「いたのが、ヘリオポリスを襲った奴らでもですか」
「・・・そうだ」
キラと相対していた作業服の男達は、心の中を覗けば
確かにヘリオポリスからずっと追い駆けっこを続けている部隊の隊員だった。
「自衛手段なら自衛の時にだけ使え」
そう言って、キラに銃を返した。あっさりと返された銃を見詰めるキラ。
護身用で隠し持てる程小さなその銃は、それでも人の命を簡単に奪ってしまう。
刹那の脳裏に、作業服の一団の真ん中で、
信じられないという表情でキラを見詰めていた少年の姿が思い出された。
「銃は、何でも簡単に解決する。いや、終わらせるといった方が適切か。
だから、あまり自分から使うな」
「カマルさんみたいに使い慣れてる人に言われても、説得力無いですよ」
「確かに・・・そうかも知れないな」
キラが素直に頷くのが癪で言った言葉に、刹那は弱々しい笑顔で応えた。
「・・・・!失礼します」
何か言ってはいけない事を口にしてしまった気がしたキラは、逃げる様にその場を後にした。

 
 

【前】 【戻る】 【次】