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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第86話

Last-modified: 2013-03-25 (月) 22:08:02
 

アークエンジェルが出港する頃、補給を済ませたザラ隊はオーブ艦隊の動きを捉えていた。
「演習ですか?」
知らせを受け発令所を訪れたアスランは、卓上の海図に表示された艦隊を見て呟く。
「あの騒ぎの後だからな。
他国に自軍の精強さを示し、自国民を安心させる事が目的と考えれば自然だが・・・。
しかし事前の予定に含まない理由が無い」
艦長も何かあると踏んでいる様で、クルーに艦の特定を指示する。
海図に示された艦隊は北東、つまりはザラ隊が網を張っている海域に向かってきている。
それを確認して、アスランも動いた。
「出撃準備に入ります。艦の特定が済み次第、報告をお願いします」
必ず脚付きが、キラが来る。
アスランは半ば確信を持ってMSハンガーへと上がって行った。

 

すっかり愛機となったデュエルに乗り込んだイザークは、
何時もに増して不機嫌そうに眉を寄せていた。
それもその筈で、当直でなかった彼は睡眠中に第一種警戒態勢発令、
つまりMS内待機の艦内放送で叩き起こされる羽目になったからだ。
しかも不確定情報が発令の理由とあって、
その背中には整備士も迂闊に声を掛けられない程の怒気が籠っていた。
「アスラン!この退屈な任務中の睡眠を邪魔したんだ、
必ず脚付きは出てくるんだろうな!」
イージスへ通信を繋げると開口一番文句を炸裂させる。
MSパイロットに当直などあってない様なものなのだが、今の彼にそんな事は関係無かった。
『心配するな。奴は必ず現れる』
モニターの向こうで自分の態度に全く動じていないアスランに余計に腹が立ち、
もう一つ文句をいってやろうと口を開こうとするイザーク。
その直前、発令所から緊急通信が入った。
『艦隊より離脱艦あり。艦種特定―――脚付きです!』
オペレーターの報告に、イザークは開き掛けた口を閉じざるを得なかった。
代わりにディアッカが口笛を吹く。
『当たりましたねアスラン』
『流石はウチの隊長だな』
『第一目標脚付き、第二目標ストライクだ。ザラ隊、出撃する!』
ニコルとミゲルの言葉にも眉一つ動かさず、アスランが出撃命令を下す。
潜水母艦のMS射出管が開き、ザラ隊のMSが上空に投射された。
続けてグゥルが飛び出し、ミゲルのディン以外のMSの足場となる。
『今日こそ脚付きを墜とすぞ!』
何時に無いアスランの強い号令と共に、ザラ隊が進撃を開始した。

 
 

「艦長、レーダーに感!数は4、いや5」

 

領海付近まで同行していたオーブ艦隊と別れ、
アラスカへと舵を取るアークエンジェルに早くも緊張が走った。
「機種特定、イージス、バスター、ブリッツ、デュエル、ディン」
「っ、網を張っていたのか」
「しつこい奴らだ!」
モニターに映る機影は、間違い無く例のクルーゼ隊の面子だ。
まさかオーブに寄る切欠になった部隊がまだ潜んでいたとは。
その執念深さにナタルとノイマンが呻く。しかし戸惑ってばかりはいられない。
ナタルは素早く状況を把握し、命令を下した。
「逃げ切れれば良い!第一種戦闘態勢発令、敵が後500接近したらスモークを発射しろ。
フラガ隊にも深追いせぬ様に通達」

 

突然の第一種戦闘体勢にも刹那達は冷静だった。
クルーゼ隊と肉迫し、その執念深さを誰よりも知る彼らである。
オーブを出たら戦闘になるのは分かっていた。
「ジンはもう出れるのか」
「ええ、提供されたフレームゥはもう移植済みよ。
重量の軽減、運動性も大幅に上がっているけど、過負荷には弱くなってるから気を付けて」
「了解」
エリカから提供されたアストレイのフレームゥを一部移植したジンオーガーは、
見た目の上では大した変化は無い。
移植された箇所を判別し易い様に、関節部などに白いラインが入っている程度だ。
実際、小型化したフレームに合う様に機体を最適化するには時間が足りず、
急場凌ぎに関節部の装甲を厚くしている。
機動戦を主とし被弾しない刹那の機体としてはあまり合理的な対処とはいえず、
マリューも内心不満だったが時間が無いのだから仕方が無かった。

 

真新しいパイロットスーツを着たトールは、
初めて座る本物のシートで忙しなく計器をチェックしていた。
シミュレーターで何度もやった出撃前の手順だが、
緊張している今ではそれもおぼつかない。
『おいルーキー』
「むっムゥさん!?」
ムゥからの通信にも素っ頓狂な声を上げてしまう。
そんなトールを励ます様に、画面の中のベテランは落ち着いた口調で言った。
『そう緊張すんな。ストライクの援護だけ考えてればいい、友達を守るんだろ?』
「・・・!はっはい!」
為すべき事を再確認し視界が定まったトールが頷いた。
『よし、良いツラだ』
画面上のムゥが付き出した拳から親指を立て、その言葉を最後に画面から消える。
たまに寒いギャグを言ったり少しオヤジ臭い所があるが、良い人だと思う。
彼と共に飛ぶなら、何の心配もいらないと思えるくらいには。
トールは落ち着いて出撃前のチェックをやり終え、
少し躊躇ってから通信スイッチを押した。開いたのは、ストライクとの通信だ。
モニターに、シートに座ったキラが映る。
モニターの向こうの彼は項垂れ、表情が見えない。
「キラ、大丈夫か?」
『・・・トール』
返事をする声は弱々しいのに、持ち上がった顔に灯った二つの目は爛々と光り、
敵への殺意を滾らせている。出撃直前のキラを見た事の無いトールだったが、
そのチグハグな様は歪で、トールの不安を煽った。
「さっきは喧嘩みたいになっちゃったけど、戦場での援護は任せろよ」
『・・・うん。今回はあんまり前に出る必要も無いみたいだから、
トールもアークエンジェルから離れ過ぎない様にね』
それだけ言うと、キラはまた俯いてしまった。
トールはそれ以上掛ける言葉が見つからず、
その後お互い一言も発せずに出撃の時となった。

 
 

放たれる弾幕を潜りつつ、ザラ隊はアークエンジェルに取付こうとグゥルを奔らせる。
『ちっ、前も思ったがこいつは航宙艦だろ。なんで地上でこんなに足が速いんだ?』
『俺に聞くな、馬鹿者!』
全力で逃げるアークエンジェルと中々縮まらない距離にディアッカが愚痴る。
彼は乗機であるバスターの狙撃を警戒されてか、
一番弾幕を浴びているのだから仕方が無い。
「間も無くミゲルが取り付く。そうすれば足を止められる筈だ」
アスランの言う通り、ミゲルのディンが弾幕を最低限の動きで避けながら
アークエンジェルに接近していく。
隊の中で唯一空戦仕様に乗るミゲルは、この隊の一番槍だった。
『しかし妙ですね。未だにMSが展開されないのは』
ニコルの言う通りだ。初めの間はクルーが不慣れな為か、
アークエンジェルの機動部隊展開は非常に遅い物だった。
しかし戦闘を重ねる毎にそれは早くなり、最近の対応速度は熟練部隊のそれである。
それが今回に限って、未だに戦闘機に一機も出てこないのは不自然だった。
「防衛ラインが近いからな。ギリギリまで逃げるつもりか・・・。ミゲル、注意を」
『分かってる!んっ?』
通信の直後、アークエンジェルの各部ミサイル発射管から
スモークディスチャージャーが投射される。
次々に展開される白煙に、ミゲルは思わず侵攻速度を緩めた。
『煙幕だと、小細工を!』
「イザーク!」
他の機体が速度を落とす中、唯一機体の速度を緩めなかったのはイザークだった。

 

アスランの制止を無視して、煙幕に怯む事無く先行する。
突発的な事態にも対処してビームサーベルを抜いている所を見ると、
全くの無警戒という訳では無さそうだった。
しかし、その突発的な事態は、誰も予想せぬ形で起こった。
煙幕の中にデュエルが飛び込もうとした直前、
その前面の白煙が大きく歪んだと思うと、爆発したかの様に爆ぜる。
そこから躍り出たのは、因縁の蒼い機体だった。
「蒼い奴か!」
『ちぃっ!』
驚くべき事に、蒼いジンは煙幕で見えない筈のデュエルとピッタリ高度を合わせて、
アークエンジェルからグゥルに飛び移って来たのだ。
背中の大型スラスターを用いた離れ業はしかし、これだけに終わらない。
狭いグゥルの上に二機のMSが立てば、両者はほぼ密着した状態にならざるを得ない。
信じられない奇襲にも反応してみせたイザークは、
グゥルに着地したばかりで膝を曲げているジンにイーゲルシュテルンを撃ち込んだ。
不安定な足場で反射的にビームサーベルを振るわなかったのは、
イザークが気性とは裏腹に冷静な判断が出来ている証拠である。
しかしジンは、それを予測していたかの様にデュエルの脇をすり抜けた。
『なっなにっ!?』
あっという間に背後を取られたデュエルは、
足を払われ体勢を崩した瞬間にアーマーシュナイダーの追撃を受けて海に落ちていった。
「くっ、艦長、デュエルの回収を!」
『なっなんですか今の動き!?』
素っ頓狂な声を上げたのはニコルだ。
蒼いジンを駆るパイロットが凄腕なのは身に染みて知っているニコルだったが、
デュエルを叩き落とすまでの一連の動きはそれだけでは説明がつかない。
ジンは手足の付いた戦闘機という意味合いの強い機体で、
柔軟なフレームを必要とする様な今の動きは出来ない筈である。
「オーブで何かしらの改造を受けたか」
『だからどうした、グゥルを破壊して海に叩き落としてやる!』
逸早く攻撃に転じたミゲルが、ミサイルとマシンガンでジンが乗っ取ったグゥルを狙う。
しかしジンはそのまま攻撃をする訳でもなく、弾幕を躱すと煙幕の中に消えて行った。
『アスラン!』
「全機、煙幕を抜けるぞ!」
蒼い奴を前に急くミゲルに、アスランは全機に前進を指示する。
固まって入れば、先程の様な奇襲は出来ない。
警戒を密にしながら、ザラ隊は煙幕の中に突入した。

 
 

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