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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第88話

Last-modified: 2013-03-25 (月) 22:09:02
 

光が炸裂する。そうとしか形容出来ない衝撃が刹那を襲った。
「・・・っ、邪魔だ!」
しつこく纏わり付いてきていたディンの隙を突いて翼を切り裂く。
片羽を失ったディンが墜落していくのを最後まで見届ける間も無く、
刹那はキラのいる岩礁へジンオーガーを促した。
モニターには身動きの取れないイージスと、
ブリッツの爆発により吹き飛ばされて転がるストライクが映る。
「キラ、応答しろキラ!」
呼び掛けても応答は無い。代わりに酷く乱れた、辛い脳量子波が頭を突く。
立ち上る爆炎を風圧で吹き飛ばしながら、ジンオーガーがストライクに接近する。
その丁度同じタイミングで、海面からMSが投射された。
太陽を背に跳び上がり、岩礁に着地したのは初めに海へ墜ちたデュエルだ。
瞬時に状況を理解したのか、怒りの感情と共に、
直ぐ様ビームライフルをストライクに向ける。
「ちっ!」
それでも全く身動きしないストライクへ、ビームが発射される。
間一髪の所で刹那がシールドで割り込んだ。
構わず二射目を放とうとしたデュエルに、今度は上空からミサイルが叩き込まれた。
『キラ、何してる!』
ムウの援護に遅れて、バスターもイージスの下へ降下した。
『ヤマト少尉、深追いするなと言った筈だ!・・・聞こえているのか!』
次々にキラを叱咤する声が上がるが、キラの脳量子波は全く反応を示さない。
気絶している訳では無い。脳量子波に乗って伝わってくる何もかもが滅茶苦茶で、
戦闘など出来る状態では無かった。
「艦長、岩礁へ艦砲射撃を。敵はそれで撤退する」
『駄目だ。その位置では貴官達を巻き込む』
「それはこちらで何とかする。このままではストライクを失うぞ」
『・・・・・・分かった。バリアント、射撃準備!』
躊躇したナタルだったが、最終的には刹那への信頼が勝った様だ。
バリアントの砲身が、岩礁に向けて照準する。
「キラ、離脱するぞ。立てるな」
『カマ、ル・・・さん』
刹那の呼びかけにキラが反応を示す。普通に呼びかけた訳では無い。
刹那の脳量子波をぶつけて、キラを揺さぶったのだ。それでもキラの意識は乱れたままだ。
モニターに映る彼の表情は、受けた衝撃が大きすぎて無表情になってしまっていた。
ヨロヨロと立ち上がるストライクをグゥルに乗せ、刹那は離脱の準備に入る。
しかしそれを黙って見ているザラ隊では無い。
デュエルとバスターが、この後に及んで交戦の意思を見せる。
刹那もそれに応じる様にジンオーガーを前に出した。
「貴様らに構ってる暇は・・・無い!」
ジンオーガーに組み込まれた、アストレイの遺伝子が本領を発揮する。
デュエルのビームライフルをバク転で躱すと、
着地する寸前にアーマーシュナイダーを投擲。
着地の隙を狙っていたバスターの散弾砲を破壊する。
バク転の勢いで後ろに持って行かれる機体をそのまま、
間髪入れずに追撃して来たデュエルの突きに合わせてグランドスラムを振るい、
掬い上げる様に振るわれた剣先がデュエルの手首を斬り飛ばした。
「離脱する!」
空を舞った手首が地面に落ちると同時に、ジンオーガーがグゥルに飛び乗った。
刹那の合図の直後、アークエンジェルのバリアントが火を吹いた。
超音速の弾丸は、岩礁を木端微塵に破壊し、
尚も追撃しようとしていたデュエルや他のザラ隊を海に放り込んだ。

 
 

潜水母艦に帰投したアスランを待っていたのは、イザークの悲鳴にも似た怒声だった。
「くそっ!くそくそくそくそくそっ!!」
パイロット待機室。
叫びながら殴るロッカーのドアは潰れ、拉げ、既にドアの役割を果たさなくなっていた。
それを殴るイザークの拳も、赤く腫れ上がり、所々切れて血が滲んでいた。
「おい、イザーク止めろ!」
尚も拳を振るうイザークをディアッカが止めた。
これ以上手に傷を負ったら、MSの操縦にも支障をきたす。
しかし伸びた腕はにべも無く振り払われてしまった。
向けられたのは、今にも泣き出しそうな男の顔だった。
「どうしてアイツが死ななきゃならない!?よりによってアイツが!」
それは隊員全員の言葉だったかも知れない。
戦争の終わった世界を誰より望んでいたニコルが、何故?
その言葉にその場にいた全員が黙ってしまった。
その沈黙に耐え切れなかった男が、口を開いてしまう。
「・・・・・・俺が、俺が死ねば良かった」
普段なら掻き消えてしまいそうな小さな呟きも、
物音一つしないこの場で聞き逃す者はいなかった。
やっと静まったと思ったイザークが、殺意すら感じる勢いでアスランに掴みかかる。
「貴様、もう一度言ってみろ・・・!」
襟首を掴まれ、ロッカーに叩き付けられたアスランが低く呻いた。
それにも構わず、イザークは怒りに任せてアスランを締め上げる。
「アイツは、お前を助ける為に死んだんだぞ!?分かってるのか、ああっ!?」
止める者はいない。ミゲルもディアッカも、
イザークが掴みかからねば自分がそうしていただろう。
それ程に、先程の一言は禁句だった。
「分かってる・・・分かってるさ・・・!」
上擦った声で、アスランは続けた。
「だがどうしたらいい?アイツを失って、俺は・・・!」
「貴様、そんな情けない事を!」
『アスラン、逃げて・・・』
アスランの頭の中で、ニコルの最期の通信が甦る。
ニコルは、ストライクに捕まっても尚、アスランの身を案じていた。
自分は、そんな献身を受ける様な人間では無いのだ。
ニコルの残した十字架はあまりにも重く、アスランを苦しめる。
彼の泣き言とも取れる発言に、イザークは手に力を込めた。その手をミゲルが止める。
「ミゲル」
「ニコルに悪いと思うなら、戦えアスラン」
戦友を失ったばかりの少年に、それは酷な発言だった。しかしミゲルは構わず続ける。
「お前とイージスの指揮、用兵能力はこの部隊に必要不可欠だ。
ニコルもそう考えたからこそ、ああいう行動に出たんだ」
決して、ニコルの行動は感情論だけでは無い。
アスランとイージスを失えば、ザラ隊は脚付き追撃を断念せざるを得なくなる。
戦場で味方の死はざらにある。必然と言っても良い。
それを上手くバネにして、折れない様に導くのは先達の役目だ。
ミゲルの言葉も、アスランに新たな戦いの理由を与える物だった。
「だからこそ、ニコルの死に報いるには脚付きを討つしか無いんだよ。アスラン」
「・・・・・・」
イザークに降ろされても、アスランは俯いたままロッカーに凭れて口を開かない。
他の三人も辛抱強く彼を待った。その沈黙は暫く続くかと思われたが、
ミゲルが予想していたよりも随分早く、アスランの口が開いた。
「・・・脚付きが連合の勢力圏に入るまでの時間は?」
「それは、艦長に繋げば分かるが・・・」
「発令室へ行く」
アスランの行動は早かった。
顔を上げたかと思うと、制服を羽織って足早に発令室へと向かう。
他の三人の反応が遅れる程だ。
「決心はついたのか?アスラン」
「・・・俺は元々復讐者だと、思い出しただけです」
ミゲルに問われたアスランの表情は誰よりも静かだった。
―――そうだ。母を殺した者への復讐の為に、戦ってきた自分だ。
戦友の仇を討つ為に親友を殺すなんて、実に皮肉が効いた話じゃないか。
アスランの暗い、自嘲的な笑みは誰の目に触れる事も無く、
彼の背中は発令室の中へと消えて行った。

 
 

ザフトを撃退したアークエンジェルは、何時もに増して活気に包まれていた。
それもその筈だ、今まで何度も交戦してきたザラ隊の内の一機を遂に撃墜したからだ。
ハンガーでは整備士達が明るい顔で戦勝ムードに浸っている。
しかしその中には、ブリッツを撃墜した張本人であるキラは含まれていなかった。
「曹長、トール、キラを見たか?」
「いや」
「オレも見てません」
帰投早々整備士達に揉みくちゃにされたムウ達パイロット組は、
やっとその中から抜け出した所だった。その為、憔悴していたキラと会っていない。
「ラミアス大尉に聞くのが一番だろう。彼女はストライクのハンガー付近にいた筈だ」
刹那の提案で一向はまた整備士達の中を掻き分ける羽目になった。
彼らとは対照的に、パイロット達は別段敵機撃墜を喜ぶ素振りは見せない。
ムウは手負いの部隊の怖さを知っている為、次の攻撃に備えて浮かれてはいられない。
刹那はブリッツ撃墜の際に炸裂した光が、キラにどんな影響を与えたのか気になっていた。
トールはというと、初出撃の緊張が途切れたのか足がふら付いてそれ所では無かった。
「キラ君?彼なら揉みくちゃにされるのが億劫そうだったから、更衣室に逃がしたわ。
なんだか辛そうだったけど、訳も教えてくれなくて・・・」
「ナイス対応だな。流石女神様だ」
「やっ止めて下さいその呼び方」
「いや、マリューは俺達の女神であってだな・・・」
「・・・いくぞトール」
「え、あ、はい」
面倒臭い流れになりそうなのを察した刹那は、ムウを置いて更衣室に向かった。

 

更衣室のドアを開くと、部屋の中は真っ暗だった。
通路の明かりが四角く部屋を照らし、ベンチに座る少年を映し出す。
「キラ」
トールが呼び掛けると、キラはやっと気付いたかの様に
タオルを被った頭をこちらに向けた。
「・・・トール、お疲れ様」
初出撃で仕事をキッチリこなしたトールを労いつつ笑顔を作るキラ。
しかしどこか心ここに有らずといった様子で、視線は虚ろに漂っている。
「・・・ブリッツの事か」
電気を点けながら、刹那は単刀直入に切り出した。キラは僅かに顔を曇らせて首を振る。
「分からないんです。凄く嬉しい筈なのに、凄く悲しくて・・・」
「悲しいって?」
キラの意外な言葉にトールは首を傾げた。
敵を倒したというのに、何が悲しいのか。
トールの不可解という顔を見て、キラはまた首を振った。
「いや、違う・・・かな。
もっと喜べる状況で、実際もっと喜ぶ予定だったのに、何も・・・何も無いんだ」
表情の無いキラの顔は、何も無い彼の状況を言葉以上に雄弁に語っていた。
「ブリッツを斬った瞬間、視界がバッと明るくなって・・・でもそれはすぐに消えて・・・」
俯き、自分の両手を凝視するキラの姿は、病的に見えた。
「何か、取り返しの付かない事をしてしまった様な・・・心が、痛いんです」
それを最後に、キラは胸を押さえて動かなくなってしまった。
泣いている訳ではない、悲しみに暮れている訳でもない。
ただ、自分の予想外の反応に戸惑っている、混乱しているといった所か。
最近はずっとザフトを、コーディネーターを倒す事に執着していたキラである。
ブリッツを撃破して喜べない自分が、他の何より不可解なのだ。
「今は休め。お前がそんな状態では、他の者が心配する」
「カマルさん」
次の攻撃が来る可能性がある、トールはムウにそう聞いていた。
だからパイロットは第一種警戒態勢で待機が命じられている。
名を呼ばれた意図を刹那も理解していたが、
脳量子波も乱れに乱れている今のキラでは戦闘は不可能だ。
「フラガ大尉には俺の方から言っておく」
「・・・・・・」
「キラ?」
「・・・・・・」
声を掛けても、キラはピクリとも動かない。
「たくっ、仕様が無いな」
「トール?」
業を煮やしたトールが、キラを無理矢理負ぶる。
流石のキラもこれには驚いた様で、困惑した表情をトールに向けた。
「自室でいいよな?・・・しっかしお前軽いなぁ」
「・・・ごめん」
断る事も億劫なキラは、そのまま彼の背中に負ぶられて自室に向かった。
「俺には出来ないな」
その背中を見送った刹那は、彼の行動が
自分では到底出来そうにないなと溜息を吐くのだった。

 
 

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