Top > 機動戦士ガンダム00 C.E.71_第95話
HTML convert time to 0.009 sec.


機動戦士ガンダム00 C.E.71_第95話

Last-modified: 2013-06-05 (水) 20:12:04

カガリは荒れる海を越え、アークエンジェルとザラ隊のあった小島へとやってきていた。
アークエンジェルからの人命救助の申し出があったのは数時間前、
オーブは初め断る方向で話が進められていたが、話を聞き付けたカガリが介入、
小規模ながら人命救助に出向いたという訳だ。
仕方なく承諾した父の渋い顔が思い出されたのも束の間、
小島に降り立った彼女はそのあまりの惨状に言葉を失った。
「こんな、こんな事・・・」
目の前に広がっていたのは、夥しい数の死骸だった。
死骸といっても有機物のそれではない。
破壊された機動兵器の残骸が辺りに散乱しているのだ。
最期の最期まで戦い抜いたであろうそれらは、まさに死骸と呼べる生々しさがあった。
初めに目に付いたのは、自分も搭乗した事のある戦闘機、スカイグラスパーの残骸だった。
「これ、まさかあの・・・」
スカイグラスパーときて、すぐに飄々とした
アークエンジェルの機動部隊隊長の顔が思い出された。
しかし、あの手練れがそうそうやられるとは思えない。
「カガリ様、迂闊に近付いては!」
「火は消えている。大丈夫だ」
降り続いた雨で、戦闘の火気は既に消えていた。
カガリはスカイグラスパーの残骸に近付くと、煤で汚れている装甲の一部を手で擦った。
すると煤が取れた所から白い装甲が覗き、更に横へ擦ると黒で印字された識別票が現れる。
そこには、スカイグラスパー二番機と書かれていた。
「私の乗っていた機体か。大尉は確か一番機に乗っていた筈」
見知った人間が乗っていたのではない事を確認し、胸を撫で下ろす。
しかしこの残骸は機体自体割と残っているものの、
機首、コクピットにあたる部分がごっそりと無くなっていた。
パイロットの生存は絶望的な事を悟り、背筋に冷たい物を感じる。
消失したコクピットから視線を逸らす様に頭を動かすと、
そこにはまた更に別の残骸があった。
岩場に寄り掛かる様にして擱座しているそれは、一見するとザフトの戦力であるジンだが、
カガリにはすぐ浅黒い肌をした青年の愛機だと分かった。
あの抜ける空の様な蒼い機体を忘れられる訳が無い。
だが、ある意味最も撃破される事が想像出来なかったモノの発見に、
カガリは衝撃を受ける。
「アイツがやられたのか?」
口にしてから、首を振る。改めて見ると、ジンオーガーは殆ど被弾していない。
特徴的だった背部大型スラスターの消失、左足が破壊されている事以外は殆ど無傷だ。
少し離れた所には、巨大な実体剣グランドスラムが突き刺さったディンが転がっている。
そして良く見ると、コクピットが開いているのが確認出来た。
「おい、パイロットはいたのか?」
「いえ、確認出来ていませんが、機体の状況からして脱出したものかと」
「そうか!」
隊員の報告によると、ジンオーガーは
バッテリーが切れた事で放棄された可能性が高いという事だった。
生存者がいる。カガリの顔に明るい色が戻った。
「おい、向こうにもMSだ!」
隊員の1人が、岩陰の向こうを指差しながら大声を上げた。
再び嫌な予感が頭を過ったカガリは、すぐにそちらへ向かう。
「・・・・ストライク!」
そこにいたのは、ジンオーガー同様岩場に寄り掛かる様に擱座している灰色のMSだった。
しかし機体の状況はジンオーガーのそれとは大きく異なる。
右腕以外の四肢は尽く損失し、残った右腕も振り上げられた状態で肘から先が無い。
頭部もカメラやV字アンテナが破壊された状態で拉げている。
唯一形を保っている胴体も、所々装甲が破損していた。
そして殆どダルマ同然の機体の周辺に、大小の破片が飛び散っている。
「キラ、キラは・・・!」
「カガリ様!」
暫く茫然としていたカガリが、堰を切った様に走り出す。
先程スカイグラスパーに近付いていった時とは訳が違う。
全力疾走でストライクへ向かった。
「キラ!・・・・キラ?」
コクピットハッチを開いて顔を突っ込む。しかし、探している当人の姿はどこにも無い。
「から・・・?」
コクピット内部は文字通りもぬけのからだった。死体すら無い。
非常用の赤い明かりが主を失った座席を静かに照らしている。
PS装甲で防ぎ切れない程の攻撃を受けた事は、機体の状況から明らかだ。
パイロットが自力で脱出出来たとは思えない。
「あ・・・」
カガリの表情が強張る。赤い明かりで気付かなかったが、座席には夥しい血が付いていた。
シートを押せば滲み出てきそうな量だ。
「この出血量じゃ・・・」
そこまで言って、口を噤む。そんな筈は無い。キラは無事な筈だ。
「だってここにいないんだから」
そう自分に言い聞かせた。でなければ、ここに来た意味が無い。
あの優しい、けれど危なっかしい少年を救えなければ―――。
「生存者がいるぞ!」
隊員の声に、カガリは顔を上げた。振り返ると、
遠くでよく見えないが隊員の一人が人を担ぎ上げている。シルエットは少年のそれだった。
カガリはいてもたってもいられず少年の下へ駆けだした。

腕に走る鈍痛で、アスランは意識を取り戻した。
目を開くと、見慣れぬ天井が自分を出迎える。
「ここは・・・」
体は鉛の様に重く、首を回す事すら億劫だ。
未だはっきりしない意識で、やっとそれだけ口にする。
「目、覚めたか?」
「っ!」
最近聞いた声に反応して、反射的に声がする方へ顔を向ける。
鞭打ちになっていた首が突然の反応に悲鳴を上げた。
「ここはオーブの飛行艇の中だ。
我々は救助要請を受け、戦闘のあった小島で貴官を回収した」
見知った声は以前とは違い酷く冷めていて、それでいて隠し切れない悲しみを湛えている。
「・・・オーブ?中立のオーブが俺に何の用だ?それとも、今は地球軍か?」
「・・・・・・」
アスランの皮肉にもカガリは答えず、医療機器に目を走らせた。
「バイタルにも問題は無いようだな」
「何が言いたい」
他国の軍人を収容しているというのに武装した要員も、医者もいない。
意図的に人払いをしたという事か。この娘が。
「聞きたい事がある」
「なに?」
「個人的な内容だ。答えたくなければ、答えなくていい」
壁に寄り掛かっていたカガリがアスランへ近付き、顔を覗き込む様にして問い質した。
「ストライクをやったのは・・・お前か?」
「・・・っ!・・・そうだ」
他人に言われて、事実を再認識する。そうだ、俺はキラを・・・。
「パイロットはどうした。お前の様に脱出したのか?」
「・・・・・・」
冷静な声に、段々と怒気が籠る。黙っているアスランに焦れたのか、
カガリは拳を握りしめて再度問い質そうとすると、それより早くアスランの口が開いた。
「ストライクのパイロットは・・・キラは俺が殺した」
「っ!」
「機体をしっかり捕らえてたからな。脱出出来たとは思えない」
三本の鉤爪で捕らえたストライクに、物理的に脱出出来る手段は無い。
他人事の様に淡々と、アスランは続けた。
「アイツは強くなり過ぎた。倒すには、あれしかなかった」
「お前っ!」
感情の堰が切れたのか、カガリはアスランの襟を掴み、強引に組み伏せた。
憎悪よりも悲しみを宿した目が、アスランを睨み付ける。
「キラはなっ!危なっかしくて、でも必死で、優しい奴だったんだぞ!」
「・・・・知ってるさ。アイツの事は、よく」
「えっ」
予想外の反応に、襟を掴む手が緩んだ。
「昔からそうだ。自分の事にはてんで無関心な癖に、他人の事になると必死で・・・」
「お前・・・」
「俺よりずっと優秀な癖に、そのせいで何時も損ばかりしていた。その癖泣き虫でね」
懐かしむ様な、どこか遠くを見る様な視線は、今は亡き親友に向けられているのか。
それを聞いて、緩んだ拘束が、再び強くなった。
「どうして!キラの事知ってるんだ!?」
「友達だったんだ。コペルニクスで・・・もうずっと昔の事なのに。
俺、友達が少ないから」
「ふっふざけるな!」
カガリの拳に力が入り、アスランをベットに押し付ける。折れた腕が痛んだ。
「お前がキラと友達な筈ないだろう!友達なら、友達ならどうして殺し合うんだ!」
「・・・・・・!」
酷く純粋な言葉だった。当たり前の、けれど長いあいだ忘れていた言葉。
思わず同意してしまいそうになって、アスランは首を横に振った。
「アイツは敵だ。プラントに、ザフトに、コーディネーターに背を向けた愚か者だ」
自分に言い聞かせる様に、ワザと無機質な辛い言葉を選ぶ。
しかし、カガリにそんな言葉は通じなかった。
「そんな馬鹿な話があるか!どんな事があったって、友達を殺していい道理なんて無い!」
カガリの純粋な言葉は、今のアスランには鈍器で殴られるよりも堪えた。
それに対抗する様に、彼の口調も激しさを増していく。
「アイツは、アイツはニコルを殺した!」
「―――だから殺したのか?」
「そうだ!ニコルは良い奴だった。仲間思いで、ピアノが好きで・・・」
「キラだって、友人を死なせない為に必死だった!自分がコーディネーターな事で苦しんで・・・それでももがいて、それで・・・」
カガリの目から涙が溢れる。先程までの冷静だった彼女の面影はどこにもなかった。
「それでなんでお前に殺されなきゃならないんだ!友達のお前に!」
「俺は復讐の為に戦ってるんだ!それの何が悪い!」
言ってしまって、ハッとした時には頬に強い衝撃が走っていた。
「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのかよ!」
アスランを殴った拳を震わせて叫ぶ少女。
―――俺は何を言っているんだ。アスランは自分の言葉に茫然としていた。
会って二度目で、大して親しくもない相手に、何故こんなにも饒舌になっているのか。
自分で自分が分からなかった。ただ、自分に馬乗りになっている少女の、
その悲しみを湛えた瞳を前に、アスランは二の句が継げなかった。

 
 

】【戻る】【