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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_1話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 20:40:51
 

ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
規則正しい電子音が、白い部屋を満たしていた。
小さく可憐な手を柔らかく握り、一人の少年が祈りを捧げるように傍らにあるベッドで
眠る少女に寄り添っている。
ベッドには小さな女の子が眠り続けている。体中のあちこちに電子コードをつなぎ、
けれどその寝顔は安らかに眠っているように見える。
だが、この少女はもう2年近くもこの病室で眠り続けていた。
今日も少年はささやくように少女に語りかける。

 

「ごめんな、マユ。お兄ちゃん、今度お仕事で遠くに行かなくちゃいけなくなったんだ」

 

今にも泣きたそうな顔をしながら、少年は語る。
もう、二年も続けている行為。兄として、そしてたった一人の守るべき家族として
少年は強くあろうとする。

 

「でも大丈夫。休みをもらえたら、すぐこうしてマユのところに帰ってくるよ。
だから、待っててくれよな――――マユ」

 

泣きたい想いを飲み込み、やわらかく微笑みかけながら少年は語った。

 
 

ピピピピピッ。
少年の懐からアラームの音が鳴り響く。
もう時間か……少年は億劫な思いになりながら少女の手をそっとベッドの中に戻し、
立ち上がる。去り際にもう一度だけ、少女に『行ってきます、マユ』と別れを告げた。

 

長い廊下を少年は足早に歩く。
鼻につく消毒液のにおいのする病院。だが少年はもう慣れていた、そのにおいに。
何度も何度も病室で眠り続ける妹、マユ・アスカのために見舞いに来ていたことが分かる。

 

「あっ」

 

廊下の先で、少年の見知った顔の女性が目に付いた。
柔らかな金髪をした女性看護士は、手を小さく振って彼に挨拶をしている。
職場へ向かうため毅然としていた表情を彼は、少しだけ表情を緩め彼女のほうへ向かった。
女性は少年を出迎え、ふわりとした微笑をうかべていた。

 

「今日も来ていたのね、シン君」
「お世話になっています、レミさん。マユに会えるのが、これから難しくなりますから」

 

困ったように表情をゆるませ、彼シン・アスカは零した。
戦災によりオーブから焼きだされて以来、眠り続ける幼い妹の命。
年頃の少年が背負うにはあまりにも重過ぎるそれに、女性看護士は少しでも彼が癒される
よう優しく微笑みかけ、ふわりと少年の一見華奢に見える体を柔らかく抱きしめた。
鼻腔に女性看護士の爽やかな香りがし、気恥ずかしげに少年は頬を赤らめる。
初心な少年のしぐさに好感を抱きながらも、彼女は毅然とした表情で彼の瞳を見つめた。
そっと少年の頬を包むように、彼女は白く細い手で触れる。

 

彼の真紅の瞳に、女性看護士の美しい顔が映る。

 

「いいこと、シン君。どんなときでも決して諦めたりしては駄目よ。
あの子にはあなたが。あなたにはあの子が必要なの。だから……」

 

彼女の唇からその先は語れなかった。その言葉を口にした瞬間、実際に起こってしまい
そうで恐ろしいから。『決して死を願ったりしてはダメよ』という一言が。
戦場など知らぬ彼女だが、自らの命に諦める人を数多く見てきた。だからこそ思う、
戦場などという狂った場所で、この少年が死を望んでしまわぬことを。

 

これより、彼の所属する最新鋭艦・ミネルバは月軌道周辺にて防衛部隊の一部となる。
戦時中で無いとはいえ、地球連合軍及びナチュラルとの緊張感は続いており、何が火種で
戦端が始まるといえない状況が未だ続いている。
生きるため、妹を守るためとはいえ、兵士になるしかなかった幼さの抜けぬ少年のことを
思うと、彼女の胸に熱い想いがこみ上げえてくる。

 

『何故、こんなにも世界は争いに満ちているの』

 

日々命を守るために奮闘している彼女からしてみれば戦争など――――争いなどこの世で
最も馬鹿げているものだ。
命など些細なことで失われてしまう。だからこそ、尊く守らねばならないものなのに。
歯がゆい思いに駆られ、可憐な唇をキュッとかみ締め彼女はうめく。
女性の曇る表情から想いが伝わったのか、力強い意思を赤き瞳に宿し、少年は決然とした
表情で彼女に語る。

 

「大丈夫です、レミさん。俺、マユが目を覚ましてくれるって信じています。
あいつが目を覚ましたとき、俺はそばにいてあげたい。だから必ず帰ってきます」

 

年下の弟のように思っていた幼い少年がこんなにも凛々しい表情をするのか。
フワッと胸が浮きそうになる心を落ち着かせながら、彼女は頷き微笑む。

 

「いってらっしゃい、シン・アスカ。あなたの大切なものは私たちがきちんと守ってあげる
から心配するな!!」

 

ハキハキとした活力に満ちた声で彼女はシン・アスカを送り出す。

 

「はい、行ってきますレミさん!」

 

アカデミーで最初に教わった敬礼を決め、少年は別れの挨拶を結ぶ。
次第に遠く小さくなっていく背中を、彼女は見送り続けるのであった。

 
 

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