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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_10話

Last-modified: 2013-08-25 (日) 06:34:50
 

ダブルオークアンタのコックピット。CBの戦況オペレーター、フェルト・グレイスはそこに居た。
ヴェーダの小型ターミナルユニットを取り外し、開いたスペースに簡易座席を取り付け、
人一人がなんとか同乗できるだけの状態が確保されていた。
それだけではない。今回のミッションの一環に、現地貨幣を入手する予定がある。
このときのために集めていたCEのMSの部品の数々。
それらを搭載した小さなコンテナがクアンタのあちこちに備え付けていた。
生きるために、この世界を知るために、現地貨幣は必要不可欠である。
イアンを中心に、CBの仲間たちが出撃までの短い時間の間に準備してくれた。
彼女のすぐ傍、パイロットシートに腰掛ける刹那が抑揚の小さな声で、言葉を掛ける。

 

「大丈夫か、フェルト。MSで出撃するのは初めてのはずだ」
「うん…………そう、だね」

 

フェルトの返事が硬い。しかし、それもしかたないことであった。
彼女はオペレーターであり、トレミーのブリッジから戦場を見渡し、情報を伝達するのが仕事である。
武力介入初期の頃はガンダムマイスターたちのバックアップのため、地球に降りオペレートしたこともある。
その時にしても、命懸けの戦場を駆る刹那たちとは違い、王留美の用意した安全な別荘からだ。
生死をかけた泥沼の戦場にこれから先赴くと思えば、か弱く震えるのも仕方ないことであった。
脳量子派を使わずとも刹那には理解できた。
彼女、フェルト・グレイスは戦地に赴くような人間ではない。
だが、彼女は刹那の予想を裏切る。そう、フェルトは----

 

「でも、大丈夫。信じているから。イアンさんの作り上げた、クアンタのこと。
 そして刹那、あなたのことを」

 

優しく小さな微笑を浮かべ、ささやくように告げるフェルト。
未だ彼女の細い体は小刻みに震えている。恐怖を感じながらも、刹那のことを慮っての柔らかな表情。
こんな時でも刹那を思いやるフェルト。彼女の心の強さはCB一かもしれない。
フェルトの一途な想い。胸のうちで宿る小さな想いを言葉にし、刹那は呟いた。

 

「ありがとう、フェルト」

 

自分自身に言い聞かせる小さな声は、フェルトに届くことなく消える。
『ピッ』と小さな電子音を鳴らし、コックピットのモニターの一部にスメラギの顔が映る。
どうやら出撃直前に何か伝えたいことがあるらしい。

 

『刹那。分かっていると思うけれど、無用の戦闘は避けて頂戴。もし戦闘状況を回避できない場合は…』
「出来ないときは?」
『ソードビット、およびトランザムの使用を禁じます』

 

切実な願い。
連合、ザフト両軍でも未だ地上で使用出来る操作可能なビット兵器は存在しない。
どうしても地球の重力に逆らうことが出来ず、宇宙空間でしか扱うことの出来ない兵器に留まっている。
そんな中、CBのガンダム各機が装備している地上でも使用可能なビット兵器…………その存在が
明るみになれば、CEの世界がどのような反応を示すか。スメラギはそれを危惧していた。

また、高濃度GN粒子開放システム『トランザム』使用による圧倒的な戦闘能力。
CBのガンダムの力を見せつけたとき、この世界がどのように反応をするか。
スメラギの危惧している状況を理解した刹那は小さく頷く。フェルトもまた背筋に伝う冷たい汗を感じた。

 

「了解した」
『信じているわ、刹那。それとフェルト、刹那のバックアップ頑張ってね』
「え、えっと……はい」

 

刹那は生真面目に頷き、フェルトは頬を赤らめながら頷く。
彼と違い、フェルトはスメラギが含みをこめて言っているように聞こえたためだ。
『これを機会に刹那にアタックなさい』
スメラギの表情に浮かぶ微笑が意地悪気にそう言ってる気がした。

 

伝えたい注意事項を終えるとスメラギは他のメンバーに通信を代わる。
はじめに変わったのは、ロックオン。彼はいつもの飄々とした雰囲気で話し始めた。

 

『土産にアイルランド産のスコッチとタバコ、あと…………フェルト』
「どうしたの、ロックオン」

 

瞳を細めてフェルトに語りかけるロックオン。その瞳はどこか哀愁を秘めていて、悲しげだ。
彼の雰囲気を感じ取り、フェルトは柔らかく問い返した。いったいロックオンは何を頼みたいのだろう?
彼女の疑問はすぐに晴れた。ロックオンが口元に笑みを浮かべ、頼んだからだ。

 

『女物の香水を頼む。落ち着いた感じの女がつけるような奴な』
「…………わかった、なにか良いのがないか探しておくわね」

 

亡き恋人、アニュー・リターナーを想っての頼み。
ロックオンの願いを受け止め、フェルトは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
気遣って微笑みかけてくれるフェルトを見ると、ロックオンは思った。

 

(本当にいい女になったな。まあ、あいつほどじゃないけどな)

 

ロックオンが苦い笑みを浮かべながら思い出にふけっていると、仲間たちが次々と刹那たちに土産を頼む。

 

『俺は筋トレグッズな』
『ミレイナはスィーツが良いです!』
『わしは機械工具一式かな、リンダは何を頼むんだ?』
『私はレシピ集かしら。スィーツと料理の両方。マリーさんは?』
『あの、私もそれ見ても良いですか?』
『もちろん、いいわよ。一緒にいろいろ作りましょうね』
『は、はい。ぜひ、お願いします!アレルヤは何か頼みたいものあった?』
『僕はそうだね、野菜の種をお願いしようかな』
『私もお酒頼もうかしら』
『スメラギさん、禁酒したんじゃなかったのかよ』
『たしなむ程度よ。ティエリアは何を頼むの?』
『僕はこんな体だからな…………二人が無事帰ってくるのが何よりの土産だ』

 

温かく送り出してくれる仲間たち。胸のうちに暖かなものが宿り、フェルトは嬉しそうに表情を緩めた。
刹那もきっと同じ思いのはずだ。表情こそ変わらぬが、醸し出している雰囲気が柔らかい。

 

「了解した。ダブルオークアンタ、出撃する。ミレイナ、発進シークエンスを頼む」
『はいです!リニアボルテージ上昇、730を突破。射出タイミングをセイエイさんに譲渡するです』
「ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ」

 

ちらりと刹那がフェルトに視線を送る。彼女は小さく頷き、刹那の言わんとしたことを言葉にする。

 

「フェルト・グレイス」
「出撃する!」

 

GN粒子を広げるように放出し、宇宙に飛び立つダブルオークアンタ。
ユニウスセブン破壊ミッションに向かう白い機体。それは死者の眠りを妨げるような行為かもしれない。
それでも刹那は…………CB全員の想いはただひとつであった。
救える命を、一人でも多く救いたい。
光る粒子を放ちながら突き進む刹那たちに願いを、想いを託す。

 

どうか、争いなど----戦争など起こらないでくれと。

 
 

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