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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_16話

Last-modified: 2014-06-01 (日) 12:27:29
 

閉じられていた瞳が見開かれる。
刹那はユニウスセブンに残っていた三つの気配のうち、二つが離れ一つが途切れたことを認識した。
この瞬間を逃すわけには行かない。すぐさまダブルオークアンタのトランザムシステムを起動させる。
トリガーを引き絞る。銃口から光が迸り、巨大な粒子ビームサーベルを形成した。
惑星規模程あったELSを切り裂こうとしたライザーソードが、降下していたユニウスセブンを破壊していく。
エネルギーの奔流が、ユニウスセブンの残骸を徐々に削り取っていく。
地球に住む者たちを救うには、この手段しかなかった。躊躇う必要などない。
スメラギのミッションプランどおりに刹那たちは行動する。
だが、刹那は痛みに苦しんでいた。微かに残っている脳量子派の残滓が、彼の頭に響く。

 

『私たちは、ただ静かに営みを重ねていただけ』
『連合軍による核ミサイルによる攻撃』
『どうして?』
『穏やかに暮らすだけで罪だというの?』

 

(すまない……)
刹那が心のうちで、死者に対し哀悼の意とともに謝罪する。
黒く、苦い想いが刹那の心を蝕む。脳量子派による、高い相互理解能力。
それが仇となり、彼を苦しめていた。

 

「刹那、大丈夫?」

 

心配そうに顔を曇らせたフェルトが、やわらかく彼に声をかける。
刹那は脳量子派が告げる痛みを、心の奥底で殺し堪えていた。
表情にも態度にもその想いを出していない。だが、刹那の様子がおかしいのをフェルトは気付いた。
何故だろうか……フェルトが刹那の異変に気が付いたことに対して、微かに疑問が頭によぎる。
だが、それよりも彼らには優先すべきことがあった。

 

「フェルト、大気圏を抜けそうな破片がないか調べてくれ」
「了解……シミュレートしてみたけど、今のところ都市部に落下しそうな破片はないわ。
大気圏で燃え尽きるか、海に落下するはずです」

 

フェルトの出してくれた答えに、刹那の顔に微かに安堵の色が浮かぶ。
機体の向きを地球に向ける。ミッションは完遂した、後は予定通り地球に降下するだけだ。

 

「このまま地球に降下する、しっかり掴まっていろ」
「----うん」

 

ユニウスセブンがトランザムライザーにより破壊出来たのを見届け、トレミーに任務完了の報告をする。
フェルトがトレミーに暗号通信を送り、刹那が機体制御をする。
機体前面にGN粒子を展開し、大気圏の層を抜けていく。
MS単体で大気圏降下していると思えないほど静かな状況で、フェルトがあることに気が付いた。
地球に降下する瞬間、モニターの片隅にMSの姿が映った。映像を拡大して、そのMSの姿を確認する。

 

「これは……ガンダム?」

 

鮮明に映し出されたそれは、確かにガンダムに見受けられた。
トリコロールカラーにガンダムフェイス。バックパックに飛行ユニットらしき大きなスラスターを背負った
それを見て、フェルトが刹那にその映像を見せる。
どうする?フェルトは言葉にしなかったが、視線で刹那に問いかける。

 

「このまま降下しよう」
「いいの?」
「……ああ」

 

フェルトたちが話している間にも。インパルスとダブルオークアンタの距離がグングンと離れる。
おそらく、未確認MSを見つけたという程度になるはずだ。何も刹那は高をくくったわけではない。
クアンタだからこそ、鮮明な画像でインパルスの姿を確認することが出来た。
インパルスのコックピットの中からこちらを視認していたとしても、未確認MSがいると判断されるはず。
同時に刹那のイノベイターとしての感が告げていた。あのMSに対し何かを感じていた、言葉に出来ない強い何かを。

 
 

「突入角度調整、廃熱システムオールグリーン。自動姿勢制御システムオン、BCSニュートラル」

 

シンは地球の重力に掴まったインパルスの機体制御を必死に行っていた。
キーボードを素早くタッチし、機体に細やかな指示を送り続ける。
MS単体による大気圏突入を可能としているセカンドステージとはいえ、大気圏の摩擦熱と空気の層に
より、インパルスのコックピット内は強い振動と高温に支配されていた。
左腕に装備されているシールドを機体前面にかざし、インパルスは安定した突入姿勢をとる。
突入準備が整ったためか、コックピットの温度が少しだが下がった。
シンは安堵したように表情を緩めたが、すぐに険しい顔でモニターを忙しなく見回す。

 

「あの人は……?」

 

今回の破砕作業に協力した民間人、アレックス・ディノの乗るザクを探す。
スペック上、ザクも大気圏を突入することは可能だが、彼の乗る機体は万全とは程遠かった。
大気圏の高熱により、計器類が当てにならない。シンはスクリーンのどこかに彼のザクが居ないか
懸命に探す。そのときだ、視界の片隅にシンは違和感を覚えた。

 

はじめは、大気圏を抜けようとしているユニウスセブンの破片だと思った。
ややピンク色に近い赤色の物体が地球に向け降下している。額に浮いた汗が見開いていた瞳に落ちる。
唐突に訪れた痛みにシンは何度か瞬きをした次の瞬間、それは赤から青っぽい色に変わっていた。
モニターの画像解析を最大に引き上げる。米粒のように小さかったものが少しだけ大きくなる。
シンは瞳を細めて懸命にそれを見る。やや拡大されたそれは、かろうじてMSのように見受けられる。
未確認MSの周辺には輝く何かが漂っているように見えた。目の錯覚か?
シンは己の瞳を軽くこすりたい衝動に駆られる。

 

「なんだ……あれ」

 

湧き上がる疑問を口にして、シンは頭の中を整理しようとした。
だが、考え込もうとしていた瞬間、アレックスの乗るザクがモニターに映った。
視界に映っていた未確認MSなど二の次になった。
彼の乗る機体はやや離れた位地にあった。インパルスの下方を落下している。
先ほどの戦闘で右肘から先を失い、ユニウスセブンの爆発に巻き込まれたのか左脚部も失っていた。
左肩に装備されているシールドを機体前面に押し出し、何とか降下姿勢を保っていた。
パイロットの腕により、なんとか大気圏を突破しようとしていた。

 

だが、問題はこの後だ。激しい損傷をしており、何よりザクには大気圏飛行能力はない。
このまま減速することなく降下すれば、水面に叩きつけられ彼の乗るザクはバラバラに粉砕される。

 

「アレックス!アレックス・ディノ!」

 
 

シンは必死に呼びかけながら、インパルスを彼のザクへと寄せる。
フォースシルエットの推力なら、何とか着水するくらいは出来るはずだ。
そう判断をすると、彼のザクを支えようとした。機体と機体が接触し、彼からの通信回線が開かれる。

 

『シン、君か?』
「このまま着水します」
『よせ!いくらインパルスの推力でも、二機分の落下エネルギーを相殺は出来ないだろう!』

 

アレックス・ディノが生きていることに安堵したと同時に、微かな苛立ちに心が粟立った。
このまま何もしないでいれば、確実に彼は死ぬというのに。

 

「助けられる命を見捨てられるかッ!!」
『シン?』

 

悲哀に満ちた彼の表情を見て、アレックスはそれ以上何も言えずにいた。
だが、このままでは下手すれば二人とも水面に叩きつけられ、最悪死ぬ。
それを思うと、シンだけでも助かったほうがいいのでは……。先ほどの父の言葉に囚われたテロリストの
存在が澱みとなり、アレックスを負の思考に導いていた。
そのときだ、シンの通信が耳に響く。

 
 

「艦長、空力制御が可能になりました!」
「主翼展開!操艦、あわてるな」
「主翼展開します。大気圏内推力へ!」

 

ミネルバの両翼が開き、その翼に風をつかむ。艦が姿勢制御に成功し、ゆっくりと減速する。
操舵主のマリクが初の大気圏突入を成功させてくれた。艦長のタリアをはじめ、ブリッジにいるクルー
全員が安堵していた。アーモリーワンでのMS強奪事件にはじまり、まさか地球に降下することになるとは
誰も思わなかっただろう。
気を抜きそうになる自分を叱咤し、タリアは矢継ぎ早にメイリンに指示を飛ばす。

 

「メイリン、センサーの状況は?」
「ダメです、まだシステムが回復しておらず、電波状況が……」

 

気を抜きかけていたメイリンは、あわててコンソール類に視線を落とし艦長に答える。
返ってきた答えに、タリアは歯噛みする。度重なる戦闘と、大気圏突入による高温によるダメージにより
ミネルバのシステムの一部が使用不能に陥っていた。

 

「レーザーでも熱センサーでもいい!インパルスとザクを捜しなさい!」
タリアの出した指示に副長のアーサーが驚き、その言葉にカガリが飛びつく。

 

「彼らも無事に降下していると?」
「あの謎の高エネルギー体による攻撃に巻き込まれている可能性もあります。ですが、信じたい……」

 

タリアの感は告げていた。二人はまだ生きているのではないか?
VPS装甲を装備しているインパルスはもとより、前大戦を生き抜いたほどのものならばきっとこの最悪の
状況を切り抜けているはず。あの二人はそれだけの実力と運を兼ね備えている。
それに、あの高エネルギー体に対してもタリアは思うところがあった。
何故あのタイミングで打ってきたのか?もっと早く打てば、テロ組織もザフトのMS隊も殲滅できるはず。
ワザとギリギリまで撃たなかったのではないだろうか?
タリアが頭の中で思案していると、メイリンが嬉しそうな声をあげる。

 

「艦長!熱センサーに反応が」
「何処にあるの!」
「七時の方向、距離400。これは----インパルス?でも、それにしては大きい……」
「映像をまわしなさい」
「は、はい!」

 

せわしなくたずね、指示を飛ばすタリアの要求にこたえるべく、メイリンは素早くコンソールを叩く。
モニターに指示された映像が浮かんだ瞬間、ブリッジに歓声が沸いた。モニターに映し出されたのは
手足を失ったザクを抱えて飛ぶインパルスの姿が映し出されたからだ。
タリアは安堵して力を抜いてしまう前に強く指示を飛ばす。

 

「アーサー、帰還信号をあげなさい。マリク、艦を寄せて。あのままでは二機とも海面に落ちるわ」
「ハッチ開け!インパルス、ザク、着艦するぞ!」

 

指示を受けたアーサーとマリクが素早く、そして確実に行動を起こす。
ようやくほっとすることが出来たタリアは、誰にも気が付かれぬようキャプテンシートに身を預けため息を付く。
『艦長も楽じゃないわね』
タリアは独りごちながら小さく笑みを浮かべた。

 
 

「ミネルバが来てくれた」

 

ミネルバがインパルスを追うように降下してくる。これで自分もアレックスも助かる。
安堵したシンは、ようやく肩の力を抜いた。そういえば、さっき何か見たんだっけ、未確認MSらしきもの。
ボーっとして思考の定まらない頭でシンはいた。
ゆっくりだが、確実にミネルバの艦体がインパルスに寄せてくる。シンもまたミネルバへと機体を向けた。

 
 

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