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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_19話

Last-modified: 2014-08-31 (日) 10:48:03

シンは自分のベッドに横たわり、手にしている写真を眺めていた。
その中には、幸せそうな笑顔があふれている。父が、母が、妹が、そして自分が。
オーブが戦場になる前にしたキャンプの時に撮った写真。あの時は本当に楽しかった、幸せだった。
今、ミネルバはオーブに入港し、搭乗員の大半に上陸許可が与えられた。つい先ほども、ルナマリアが何度もシンのことを誘いにやってきた。
彼女は彼女なりにシンのことを思い、誘いに来た。部屋に籠っても気分など晴れはしない、外へ行こうと。
だが、今の彼としてはそれが疎ましかった。

 

色々ありすぎた…………新型MS強奪からはじまった、今回の騒動。
初めての実戦、カガリ・ユラ・アスハとの出会い、ユニウスセブンの落下阻止。
特に彼の心を掻き乱し、複雑な思いにさせたカガリの存在は、シンに大きな衝撃を与えた。
シンは瞳を閉じ、あの出来事を思い返し始めた。

 
 

「そう--つまり、未確認MSらしき物体がいたということね」
「はい、そうです」

 

シンは、先ほどの作戦の際、地球に降下していく未確認の物体について報告していた。
インパルスに残されていた画像データをタリアに提出する。いくら画像処理をかけたところで、鮮明に
なることの無いそれは、おそらくMSだろうとしかいえなかった。
報告を受けたタリアは、疲れたようにイスに体を預け、瞳のあたりを軽く押さえる。
度重なる戦闘による緊張感に、彼女もまた疲れ果てていた。やや間が空きようやく考えがまとまったのか、おもむろにタリアが口を開いた。

 

「この件は、私が預かります。他言しないこと、いいわね?」
「はい」
「それと、先ほどの戦闘の際、何故帰還信号を守れなかったの?」

 

敬礼をし、頷いたシンに一瞬タリアは顔を綻ばせかけたが、すぐに厳しい口調で問い詰める。
ひやりとシンの背筋に冷たい汗が流れる。艦長のタリアはこういったことには非常に厳しい。
ブリッジにいるメイリンから、よく愚痴を聞かされているシンとしては、思わず身構えてしまう。

 

「あの、作戦に協力してくれたアレックス・ディノが、最後のメテオブレイカーを作動させようとしていたのでそれを支援しました。
その際、敵の奇襲を受け帰還することができなくなりました」
「…………」

 

一気に報告し終えたシンは、思わず生唾を飲み込む。タリアの沈黙と冷ややかな視線が痛い。
彼女が重たいため息をひとつつき、おもむろに口を開いた。

 

「いいこと、パイロットの判断ミスや命令無視が、艦を危険に晒すということを理解しなさい」
「は、はい!」
「シン……あなたの状況はある程度理解しているわ。私は便宜を図りたいとも思っている。
だからこそ、ちゃんとこちらの指示に従いなさい。命を守るためにも。いいわね?」
「はい、艦長」

 

思わぬ言葉に、シンは言葉に詰まった。
上官とは、指示をまわす側の人間とは、自分たちのことを消耗品程度にしか思っていないのでないか。
事実、アカデミー在籍の時には非効率的でパイロットの命を軽んじている指示に対し、シンは怒りと憤りを感じよく反抗的な態度が目立っていた。
背負っているもの、守らなければならないもの。そんなものがある人間に対し、死んでこいという命令を出す人間をシンは受け入れられなかった。
故に、シンは反抗的なヤツというレッテルが貼られてしまっていた。
何度も心配し、力を貸してくれていたルナマリアやレイに諌められたが、ついに直ることは無かった。
タリアの瞳に、慈愛を色を見たシンは何故、と思った。
何故、この人はパイロットでしかない自分に対し、こんなことを言ってくれるのだろうか。
彼女の言葉には嘘偽りが見えなかった。本当に、自分のことを心配していてくれると感じる。
このとき、シンは知らなかった。彼女には幼い息子がおり、シンやレイ、ルナマリアたち若いパイロットに対し、わが子の面影を重ね、守らねばならないと思っていることを。

 

「報告は以上?」
「はい!」
「そう。休んでいいわよ」
「し、失礼します」

 
 

動悸の治まらぬシンは、外の風に当たろうと甲板へ向かう。
そこには幾人かの先着者たちがいた。
「太平洋って海に降りたんだろ?あのすんげーデカイ!!」「何暢気なこと言ってんだよ、お前」
ツナギのあちこちを機械油で汚したヴィーノやヨウランたちが話していた。
元々楽天的なヴィーノが楽しそうにしているのに対し、ヨウランガ小言を言っている。
シンが視線をめぐらせると、ルナたちの姿を捉える。すぐ傍らには、あのアスハやアレックスたちがいる。
シンがいることに気が付いたルナマリアが手招きしている。疲れたように嘆息し、シンが近づくとカガリの声が聞こえてきた。
今回の事件に対して何か言っているのだろうか?

 

「本当にとんでもないことになってしまった……だが、プラントが、ザフトが懸命に事に当たってくれた。
本当に感謝している、ありがとう」

 

結果はどうあれ、懸命に戦ってくれたプラントに対しカガリは感謝していた。
素直に感謝することのできるのはカガリの美徳であった。だが、シンはそれが癪に障った。
やわらかく微笑んでいるカガリを、シンは素直に受け入れることができなかった。

 

「そのことは、地球の人たちもきっと分かって……」
「やめろよ!!」

 

奇麗事に聞こえたカガリの言葉を、シンがさえぎる。
怒りに任せたその声に、カガリは驚き瞳を瞬かせた。

 

「アンタだって、分かってるだろ!ユニウスセブンを落とそうとしたのが誰かって!コーディネイターだよ!
あそこで家族を殺された人たちが、恨みを晴らそうとしてたんだってこと!!?」
「一部のものたちがやったこととはいえ、俺たちコーディネイターがやったことにかわり無い」
アスランがシンの言葉をつなぐようにつぶやく。そうだ、コーディネイターの仕業だといわれる。
「それに、やつらのリーダーが言ってたんだ。パトリック・ザラのとった道こそが唯一正しいものだって!」

 

シンの心はぐちゃぐちゃになった。戦うことで、争うことで出来ることなんて何も無い。
命を奪い、建物を壊し、無くしていくばかり。でも、軍人であり続けなければ、マユの命を守ることが出来ない。
アスランもまた、鬱々しい表情で俯いていた。父の言葉に囚われ、再び地球とプラントの対立を煽った者たちがいる。ようやく手に入れた平和。
だが、それもかりそめに過ぎなかったのだと、思い知らされる。
二人が負の思いに囚われているとき、カガリが話し出した。

 

「そうか、そうだったのか」
「そうかってなんだよ!そんな他人事みたいに!」
「待ってくれ。まだ言いたいことはある。確かに、今回の事件で一部のコーディネイターが起こしたこと、これは事実だ。認めなければならない」

 

カガリの言葉を受け、アレックスが悔しげに拳を握る。
やはり、ナチュラルとコーディネイターは憎み続けなければ、争い続けならないのか。
悲しみが彼の心の中で満たされていく。だが、カガリの続けた言葉に、彼は一筋の光を見出した。
「ザフトが地球を救おうとしてくれたことも事実だ。私は知っている、イザークやミネルバが戦ってくれた。
きっと地球とプラント、手を取り合えるはずだと私は信じている」

 

カガリのゆるぎない姿に、シンは素直に認められなかった。
家族を奪う原因を作ったオーブのトップ。もっと憎しみを抱いていたはずなのに……それが揺らいでいく。
許せない……何を?オーブが?アスハが?連合が?
分からない。シンは本当に分からなくなっていた。
唇をかみ締める。認めたくない。自分の気持ちを、そしてカガリ・ユラ・アスハを。

 
 

シンが物思いに耽っていると、レイが部屋に入ってきた。
ロッカーを開き着替えを始める。先ほどまで整備の手伝いでもしていたのか、所々汚れたツナギを脱ぎ軍服に着替える。
黙々と着替える音だけがする穏やかな沈黙が、部屋を満たす。
レイといるときはいつもこうだ。話していたりしなくても苦にはならない。アカデミー時代に激しくぶつかったのが遠い昔のように思えるから不思議だ。
そんなことを思っていると、不意にレイが話しかけた。

 

「いいのか?」
「いい、ってなにが?」

 

着替えている途中の手が止まり、レイの口元に小さな笑みが浮かぶ。
自分の言葉が足りなかった、彼の笑みにはそんな意味が見受けられた。レイはシンに背を向けたまま続ける。

 

「もう、2度とオーブへ来れないかもしれない。気持ちの整理が付いていないとしても、祈りに行かなくていいのか?」
「……ッ!」

 

シンも思うことは多々あった。亡くなった父と母に対して、祈りをささげたいという気持ちもあった。
行きたくないという思いもあった。両親の死を受け入れられない想いが、行動に歯止めを掛けていた。
レイは着替えを終えるとロッカーを閉め、シンのほうに振り返る。

 

「行って来い、シン。誰のためでもない、お前自身のために行ったほうがいい」
「レイ……」
レイの言葉を受け、シンは頷いた。行こう……父さんたちが死んだ、あの場所に。

 
 

「ここが、オーブ?」
「思っていたよりも、にぎやかな国だな」

 

あらかじめ用意しておいたパスポートを使い、二人は無事にオーブに入国していた。
目の前には賑やかな通りが広がっていた。人が雑多に行き交いしている。
ある人はテラスのある喫茶店に入っていき、ある人たちは大きなデパートへと入っていく。
平和な国……マリナの目指しているのは、こんな国なのだろうか?争うことなく、飢えることなく、人と人が当たり前に過ごせる、そんな国。
刹那が瞳を細めて目の前の光景を見守っていると、不意にフェルトが声を掛けてきた。

 

「刹那。部品とかの売り買いをしているジャンク屋の店が、あっちの方に集まっているみたい」
「そうか。まずはパーツを売ってから、今日の寝床の確保などしよう」
「あ……・う、うん、そうだね」

 

先程までと違い、フェルトが頬を赤らめ口ごもりながら刹那の言葉に返事をする。
宿泊先が同じ部屋になるのではないかと想像し、彼女は思わず上がってしまったのだった。
そんな彼女の気持ちなど知る由も無い刹那は、荷物を持って先を歩いている。
ふいに彼の足が止まる。視線の先には、このあたりの観光案内をしている市街マップがあった。
何か気になることでもあったのかな?ようやく落ち着くことの出来たフェルトが、そっと刹那に声を掛ける。

 

「どこか、気になるところでもあった?」
「……ああ」
「あとで行こうか、刹那」

 

小さく頷き同意する刹那を見ていると、フェルトは何故だかおかしくなった。
少し前までイノベイターとしての力に思い悩み、孤独になっていた刹那が、こんなに身近に感じられる。
ただ、そのことが嬉しかった。フェルトの表情が朗らかな微笑みで満ち溢れる。
どこまでも真っ直ぐで柔らかな愛が、刹那に向けられていた。刹那の少し後を歩き、フェルトが付いていく。

 
 

シンの足取りは決して軽くは無かった。
目指す場所に近づけば近づくほどに、複雑な思いが去来する。
唐突に発令された非難指示により、戦火の中を駆けていたあの日の想いが蘇る。
母がマユの手を引きひた走る後を、荷物を抱えたシンが追いかける。
父が先頭に立って、必死に自分たちのことを鼓舞していてくれた光景が、目の前に浮かぶ。

 

あの日、爆撃を受けた軍港はすっかり様変わりしていた。
アスファルトで覆われていた足元は、石畳のおしゃれな遊歩道に変っている。
レンガで作られた花壇に花が植えられ、あちこちに咲き乱れている。まるで公園のようだ。
少し先にはあの日、両親が無残に死にマユが壊れてしまったあの坂がある。
心地いいはずの潮風が吹いているのに、シンの心は怒りと憎しみで支配されていた。
グラグラと湧き上がる負の感情を抑えきれず、地面を殴りつける。
溢れ出す涙を抑えることが出来ない。忘れようとしているのだ、ここであったあの凄惨な出来事を。
まるで休日に憩いに訪れるような公園に様変わりさせることで、すべて無かったことにしようとしている。
薄れ掛けていた怒りと憎しみが、再びシンの心に宿る。やっぱりアスハは、この国の偉いヤツらは奇麗事だけじゃないか!

 

ここで蹲っていても仕方ない。シンはノロノロと起き上がると、少し先にある慰霊碑に向かう。
そこで祈りをささげて戻ろう、ミネルバへ。
両親の死を少しでも整理しようとして訪れたはずなのに、シンの心はさらに混沌とした。
戦うことで出来るこは壊すことばかりで、故郷はあの日あったことを忘れようとしている。
シンがもっと大人であれば、もしかしたら受け入れられたかもしれない。
生きるということは、時に辛い出来事を忘れなければ、前を向くことが出来ないのだということを。
純粋な少年にそれを求めるには、あまりに早すぎた。

 

日が沈みかけている。オレンジ色の光があたりをやわらかく包む。
海空をミャーミャーとウミネコの鳴き声が聞こえる。
海辺に小さく作られた慰霊碑があった。本当にこじんまりとしたものだ。
シンは息を呑んだ。人がいたのだ……ただ一心に祈りをささげ続けているその姿に見入った。
夕日に照らされながら、純粋に祈り続けているその姿を、シンは美しいと思わずにいられなかった。

 
 

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